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第70話 選択

一生は康太に女神の事を聞いた後…… 考えさせてくれ…… と言い飛鳥井建設を後にした 考えなんて…… 結論なんて…… 出る筈などない…… 『来世の命など私には不要です 私の魂の球体は赤龍に渡して下さい 姿形はなくなろうとも私は赤龍の傍にいたいのです』 女神はそう言った……と話してくれた 女神……貴方を愛しています…… だけど俺は…… 一生は薬指の指輪を見た 力哉に指輪を贈った翌日、一緒に買いに行って作った指輪だった 力哉を愛しいと想った 抱えきれない闇ごと…… 抱き締めてくれた力哉を大切にしたいと想った 力哉…… あの日……お前に誓った言葉は嘘じゃない…… だけど……心が揺れる 女神…… 貴方を愛している 青龍が人の世に堕ちた しかも炎帝と共に…… 人の世には堕ちた 赤龍は信じられなかった 兄 黒龍に問い掛けた 「……兄者は……炎帝と青龍が付き合ってるのを知ってたのか?」 「……いや……付き合ってなかったと想う 炎帝の長い……長い片想いだった筈だ…」 「……なら……何故!青龍は炎帝と人の世に堕ちたんだ!」 赤龍には信じられなかった 法王となるべく生まれた弟だった 赤龍にとって青龍は誇りだった 好かれていないのは知っていた 赤龍の茶化した物言いが嫌いだと言われた 嫌われていても…… 青龍は赤龍にとっては誇りだった なのに……青龍は人の世に堕ちた 法王としての未来も…… 龍としての……未来も…… 赤龍は青龍の如意宝珠を眺めていた 黒龍の処へ、人に堕ちる瞬間飛ばした 青龍の如意宝珠は黒龍の家のテーブルに飛ばされ……… 主を失った如意宝珠は寂しく蒼く光っていた 「………何で……炎帝なんだよ……」 青龍に相応しくない……と赤龍が呟くと黒龍に殴られた 「炎帝は青龍に相応しくない? 誰が決めたんだ? お前は炎帝を卑下すると言うのか? なれば俺はお前を許しはしない 炎帝を貶す奴は俺は絶対に許さない!」 赤龍は殴られて切れた血を拭いもせず黒龍に掴み掛かった 「……俺の誇りだったんだ…… 龍族の誇りだった筈だ! なのに……炎帝と堕ちて良い存在じゃねぇ筈だ!」 「青龍が選んだ事に口を出すな! 青龍は何も持たぬ男になって人の世に堕ちた それは青龍が何も持たぬ男になり炎帝と共にいると決めた事だと違うか? 我等は口を挟む権利などない!」 黒龍は何時でも……何があろうとも…… 友である炎帝を優先する…… 赤龍は黒龍は炎帝と付き合ってるのだと想っていた 何があっても…… 絶対に、黒龍は炎帝を、優先する なのに………何故青龍なんだ? 考えが纏まらなかった…… 炎帝……掴み所のない我が友よ…… お前は絶対に黒龍にしか本音も弱音も吐かない…… 自分のモノにならぬなら…… 友で良い…… そう想っていた 炎帝……お前……青龍が好きだったのか? それを知るのは……黒龍と閻魔だけだったというのか…… 赤龍は顔を覆って泣いた 「赤龍……青龍の本気が見たいなら…… 女神の泉に出向いて見せて貰え そしたら……炎帝だけを愛している青龍が見られる……」 「………兄者……」 「………俺も……炎帝の片想いだと想っていた 青龍には……妻もいたからな…… なのに何故……人の世に堕ちたのか…… 解らなかった だが……人の世に堕ちた青龍は一人の男だった 炎帝だけを愛して生きている男だった 俺は……青龍のあんな顔は……見た事なかった 知らなかった…… 青龍が愛しい者を見つめて優しい顔をする顔など…… 見た事がなかったから……別人かと想った だけど別人じゃない青龍だ ………青龍は炎帝を愛してたんだよ 何時……そう言う仲になったのは解らない だけど……二人は恋人同士だ……」 赤龍はグッと拳を握り締めた 黒龍に言われて女神の泉に青龍を見に行った 湖に映る青龍は別人に見えた 「………誰だよ……コイツ……」 赤龍は湖を見ながら泣いた そんな時……女神は優しく抱き締めてくれた 「……泣いてはいけません……」 「……これが青龍だと認めたくなんかねぇ…」 「現実です……二人はキスして抱き合い人の世に堕ちて行きました 炎帝は奇跡だと言い泣いてました 青龍は炎帝を抱き締めて…… これより炎帝と同じ時代に転成させなさい と言った 私も信じられませんでした でも抱き合う二人は誰よりも強い絆で結ばれていました 私は青龍の言うとおりに炎帝と同じ時代に転生させました 未来永劫……離れる気はないと青龍は言った 二人は愛し合ってるのです」 「………認めたくなんかねぇ……」 「貴方が認めようが認めまいが…… 二人は人の世で恋人同士として生きてます 例え……恋人同士だと名乗らずとも…… 認められずとも……二人は互いを信じ互いを求め合い生きてます」 「………青龍は俺の誇りだった……」 「今は違うのですか? 貴方の弟への想いは、その程度なのですね この二人を見て……その台詞が吐けるなら… 貴方もその程度の人なのですね」 「何を!解った口聞くな!」 「誰かを愛した事などないのでしょ?」 「……うるさい!」 「愛と自由を司る神の癖に……」 「黙れ!」 赤龍は女神に掴みかかろうとした その時、バランスを崩し赤龍は女神の上に倒れた 瞳と瞳が重なり合い…… 自然と唇が合わさった 赤龍は何も考えられずに女神を抱いた 女神が欲しくて……狂いそうだった だが冷静になれば…… 女神は……閻魔の妻なのを思い出した 愛し合った女神と力の継承をしてしまった これは本来……夫婦になる者が継承されるモノだった 「………貴方を……愛してる……」 「……私も愛してます」 体躯を重ね…… 愛し合った 夢中になっていた 女神しか考えられなくなった…… 赤龍は女神を求めた 女神も赤龍を求めた 「赤龍……未来永劫……貴方を愛します」 最後の日 女神は泣いていた 赤龍には何があったのか……解らなかった 女神は湖から消えた 暫く経って……女神は閻魔の子を出産した そして人の世に堕ちて行った 赤龍には一言も告げる事なく…… 女神は赤龍の前から姿を消した 女神の泉は……女神の娘の銘が継ぐまで不在だった 黒龍は赤龍を殴り付けた 「……何故殴られたか解るか!」 黒龍は泣いていた 「………閻魔の妻を寝取ったから……」 「………お前のせいで……苦しむ奴がいる! 忘れるな!赤龍! お前は罪を作った」 「………黒龍…すまなかった…」 「龍族は取り返しのつかねぇ罪を犯した‥‥ ………閻魔の妻を‥‥奪ったって事で我ら龍族が魔界から抹殺されたとしたら、赤龍‥‥お前に責任が取れたのか?」 それは無理だった そんな事は無理に決まっている話だった だがそんな大罪を‥‥ 赤龍は犯してしまった事を黒龍は告げた 「あの人は‥‥‥どうなった 「それをお前が知る事は出来ぬ」 「お前は罪を作った その真実を知ったなら‥‥お前は正気ではいらないだろう‥‥ だから何も知らないでいろ! それがお前の贖罪だ! その前に‥‥‥殴らせろ! お前は‥‥‥その身で罪を償え!」 黒龍はおもいっきり赤龍を殴った 体躯が壁に飛ばされ 意識が朦朧となった 赤龍は……永遠に消えても良いと願った 女神…… 貴方は俺の愛を貫いたのですか? なれば罪は同罪……… 何故……俺を連れて逝ってくれなかったのですか? 何故!……… 貴方は一人で何処へ逝ったのですか? 赤龍は泣いた 貴方を失ったのは……俺への罪ですか? 愛を教えてくれた人だった それからも赤龍は女神の泉に足を運んだ 青龍と炎帝を何時も見ていた 暫くして泉は女神の娘が継いだ 閻魔の娘として生きる娘は…… 女神に良く似ていた…… あの人を思い出させる…… やるせなくて‥‥赤龍は弟の元へ逝かせてくれと談判した 幾度も転生する青龍と炎帝を見てきた 二人の愛の深さは…… 愛を知った今……痛い程に解った 青龍……お前……愛を貫いたんだな…… 弟の傍に行きたかった 炎帝の傍に行きたかった 赤龍は黒龍に相談した 黒龍は閻魔に顔向けできない現状や…… 赤龍の置かれた立場を……父 金龍を説得した 金龍は龍族が閻魔の逆鱗に触れれば‥‥魔界では住めぬ恐怖を覚えた そんな事もあって金龍は赤龍が人の世に堕ちるのを許可した 黒龍の力添えがあって人の世に堕ちた 今世で……女神に逢うとは想ってもいなかった…… 出逢った瞬間……恋に落ちた 想いは……時間も立場も忘れさせた 一生は亜沙美を求めた 亜沙美も一生を求めた 愛し合った 当然の行為だった だが……またしても……… 亜沙美は人の妻だった 引き裂かれ……別れさせられた 魔界と同じに…… 愛し合っていても結ばれなかった 亜沙美は……… 夫でない子を身ごもり産むと言った 戸浪は激怒して中絶させるつりだった 離婚するのは良い だが……許した相手以外の子を産むのは許せなかった 亜沙美の兄は亜沙美にペナルティーを化した 離婚するのは良い 子供を産まさせてやる だが……生まれた子は…… 里子に出す 母親だと名乗りはさせない それが家庭を壊し…… 愛に走った代償だと言われた 亜沙美は戸浪海里の言う事を聞き 子供を生んだ 飛鳥井康太に貰われて行く子を産んだ 飛鳥井流生 亜沙美と一生の子だった 女神と赤龍との子だった…… 一生は父親と名乗れず…… 流生の傍にいると決めた 康太は何時か親だと名乗れ… と言ってくれた あの日……亜沙美と別れを告げられ 死刑宣告をされた日 康太は我が身を賭して…一生の命を救った…… 無償の愛だった…… 康太と榊原に命を救われて……生きてく 何があっても我が子を守ると決めた 親と名乗れずとも…… 傍で康太の子を守ると決めた そんの一生を支えてくれたのは…… 力哉だ 戸浪から貰われて来た力哉は、一生に恋していた だが、意地らしい程に我慢して…… 一生を諦めようとしていた 力哉の手を取ったのは…… そんな意地らしい力哉を幸せにしたいと想ったから…… 1度は別れた…… だが力哉は自分を殺して……傍にいてくれた 好きだと言う心を殺して…… 愛してるという心を殺して…… 傍にいてくれた 力哉に愛を誓ったのは自分だ 魔界に還る時…… 一緒に逝こう……と決めたのも自分だ なら……何故……揺れる? 力哉と決めたのに…… 何故揺れる??? 何故…… 何故……… 俺はどうしたいんだ…… 康太…… いや炎帝 俺はお前と離れたくない…… この世で一番愛してるのは……お前だ 振り向いて貰えなくても…… 何時も茶化して飲みに誘った 炎帝の逝く所に付いて歩いた 炎帝は黒龍と結婚同然の生活をしてる…… 兄 黒龍に敵うなどないのだ…… そう思って生きて来た…… 炎帝の傍には逝けない…… でも姿を見ていられれば……それで良い…… そう思ってたのに…… こんな近くの場所まで来てしまった 傍に来れば…… もう炎帝から離れられなくなるのは解っていた 炎帝の頼れる奴でいたい 炎帝の前を護れる奴でいたい 炎帝の為に命を擲る奴でいたい…… その思いは深くなる…… 炎帝といたい想い 力哉を愛してる想い 女神を愛してた想い どれも自分の想いだ…… 選べない 選ぶとしたら…… 俺は炎帝の傍が良い 飛鳥井康太の傍が良い……… そうだ……これが俺だ 俺は俺にしかなれない 女神の魂を大切にしよう 力哉を大切にしよう そして………炎帝が皇帝炎帝として冥府に逝く時は…… 無になり……傍にいよう…… 俺は俺にしかなれないのだから…… 俺の心をねじ曲げれば…… それは俺でなくなる 女神…… 俺は貴方の魂を愛すだろう…… 何者にも変えられない程に愛すだろう だが、俺は……力哉と離れたくもないのだ 貴方と力哉 どちらかを選べというなら…… 俺は……何も選ばない 何も選べない 選べないなら…… 俺は総てを抱えて…… お前と共に逝く それこそが願いだ 一生は九十九里浜の浜辺に寝そべり夜空を見ていた 「で、考えはついんですか?」 声がして体躯をおこすと…… 聡一郎が立っていた 「………聡一郎……」 聡一郎の横を見ると隼人も立っていた 「隼人……」 一生が名を呼ぶと隼人が一生に抱き着いた 浜辺に膝をついて一生の首に抱き着いた 「康太が九十九里浜の浜辺に墜ちてるのを拾ってこい…と言ったのだ」 隼人は一生にそう答えた 「………炎帝が……」 炎帝の事を考えてたから……つい炎帝と呼んでいた 「康太が、言ったのだ 拾って連れて来い……って言ったのだ 逢わせたい人がいるそうだ」 「………そっか……」 女神か? 一生はそう思うと聡一郎が 「女神ではありません」 とキッパリ答えた 「なら誰?」 「それは逢えば解る それよりも……何で此処なんですか?」 「四悪童で初めて来た海だからな……」 「さぁ、還りますよ! んとに!手間をかけますね!」 「言うな聡一郎 お前の親だろ?」 「なら少しは大人になりやがれ!」 聡一郎はそう言い隼人ごと一生に抱き着いた 仲間がいる 仲間がいてくれる 何も言わず……手を差し伸べてくれる友がいる 一生は優しい手を感じていた 「一晩中走って還るか?」 一生が言うと聡一郎は 「お前何に乗って来たんだ?」と問い掛けた 「俺は電車に乗ってバスと歩きで此処に来た」 初めて四人で九十九里浜に来た時と同じ交通ルートを使って来たのだ 聡一郎は一生の頭をクシャッと撫でた 「一人で来るな! 此処は4人の約束の地じゃないか!」 「………この浜辺で泣いてたお前が言うな……」 「………還るぞ……康太の傍に…… 康太へと続く場所へ……」 「………あぁ………」 聡一郎は立ち上がると一生に手を差し出した 「掴まれ!」 一生は聡一郎の手を握り締めた グイッと一生を引き起こすと、隼人も起こした 「隼人、還りますよ」 「お腹減ったのだ 撮影から帰って直ぐに付いてきたからペコペコなのだ……」 「一生が奢ってくれます!」 「……え?俺?……良いよ……奢るよ」 「って言うのは嘘です 伊織が一生を見付けたら、と軍資金をくれました!」 「………え?伊織が……」 「ええ。取り敢えず、捕まえたらご飯を食べさせときなさい!って一万円くれた」 聡一郎は一万円札をヒラヒラと見せた 隼人は「早く行くのだ!聡一郎!」と急かした 「……海の海蘊になってなくて良かったのだ」 隼人はボソッと危ないことを言った 「………おい!……」 「土左衛門は……一生かどうか……判断も難しいですからね……」 聡一郎も悪のりした 「おい!人を殺すな!」 「ならいちいち消えるな!」 聡一郎はキツい一撃を与えた 「………すまねぇ……」 聡一郎は一生の首根っこを持つと、引き摺って車まで向かった 「………おい……聡一郎……」 「………康太が倒れたら……てめぇのせいだからな!」 聡一郎は怒っていた 「………康太……何かあった?」 フンッと聡一郎はそっぽを向いた 「………聡一郎……」 「お前の事で康太は魔界に行ってたんだ そして還って来るなり九十九里浜へ逝けと言った お前を見てたんだろ? 魔界に逝くだけでも体躯に負担かけるのに……」 「康太は大丈夫か?」 「僕達が家に着く頃、康太は家にはいません 勿論、僕達も家には帰りません ホテルニューグランドで待機して、呼ばれたら康太にお前を連れて逝く」 「………無理させたな聡一郎……」 「………その台詞は康太に言いなさい!」 「勿論……康太にも言う……」 聡一郎は後部座席に一生を押し込むと、助手席に隼人を乗せた 「隼人、シートベルト!」 「窮屈なのだ……」 「それでもする!」 隼人のシートベルトを掴むと、ガチャッと装着した そして車を走らせた 家に帰る為に…… 車を走らせた 康太へと還る為に…… 一生は瞳を瞑った ごめん……康太…… でも……もう決めたから…… お前から離れないと決めたから…… 聡一郎はファミレスの駐車場に、車を停めると携帯を取りだした 「康太ですか? 九十九里浜で拾って来ました」 『悪かったな聡一郎…… どうしてる?答えは出したみたいか?』 「解りません 本人に聞いて下さい」 聡一郎は携帯を一生に渡した 一生は恐る恐る携帯を受け取った 「………康太?」 『答えは出たのかよ?』 「………幾ら考えても……答えは出なかった…… 俺は俺にしかなれない…… 俺は愛を否定したくない……」 『で、どうするんだ?』 「………選べないなら……在るがまま受け止めるしかねぇって想ってる…… お前は優柔不断って怒るかも知れねぇけど……俺は……選ぶのは無理だ……」 『だと思った…… おめぇは決められないって解ってる 答え出すまで帰らないなんてなったら何十年も還れねぇだろうなって想ってた』 康太はそう言い笑った 「……優柔不断で卑怯なのは解ってる…」 『それで良いやん それがお前なんだろ? 貫けば優柔不断だって言われなくなる だからお前は何も言わず有言実行して逝くしかねぇだろ?』 「………康太……俺は狡い考えしか出来なかった……」 『どっちも大切なんだろ? だったらどっちも大切にして逝くしかねぇだろ? お前が出した答えなら……それで良い お前はそうして生きて逝くしか出来ねぇんだ』 康太の言葉が自分を満たす 空っぽで……寒くて寂しくて…… 心許ない気分が嘘のように満たされていく こんな時……やはり康太の傍を離れたくない……と心が叫ぶ 「………愛してるんだ……お前を……」 『一生』 「………」 『想うまま生きろ!』 康太はそう言い電話を切った 一生は通話の切れた電話を握り締めた 聡一郎は運転席から下りると一生を車から引き摺り下ろした 携帯を一生の手から取り上げて、店内に連れて行く 隼人は一生の背中を押した 「好きなの頼みなさい 一万円超えたら一生の驕りで!」 聡一郎はそう言いメニューを一生に渡した 「隼人は何食べたい?」 「オレ様は取り敢えず空腹を満たせれば良い……本当なら飛鳥井の家のご飯を食べたかったのだ…… オレ様はどんな豪華なフルコースより飛鳥井の家の御飯が好きなのだ」 「僕もそうですよ! でも取り敢えず空腹を満たさないとね! わざわざ九十九里浜まで落とし物の回収に逝かされたんですからね」 隼人は適当に食べたくなったのを注文した 聡一郎は一生の食えそうなのを適当に自分のと一緒に注文した ドリンクバーの飲み物も聡一郎は適当に選びテーブルに運んだ 一生は放心状態だった 「一生、魂が抜けたような顔してるの止めなさい」 「………康太……怒ってるかな?」 「忙しいんですよ 総てはお前のために動いてるのに…… 甘えすぎなんですよ君は…… 無い物ねだりばっかりするんじゃなく、康太の為にウダウダするのは止めなさい」 聡一郎が言うと隼人も 「一生は欲張りなのだ」とキツい一撃を投げ掛けた 「………隼人……」 「オレ様は過去の愛も、これからの愛も受け入れて生きてくつもりだ そうしないと菜々子が可哀相なのだ 愛し合った愛を天秤に掛ける事の方が不実だと想うのだ」 一生はまさか隼人に言われるとは想わなかった 「………隼人……」 愛する人に死なれた…… その忘れ形見が音弥だった 隼人は……自分だけ幸せになったら菜々子が可哀相だ……と死にに逝った それを助けたのは康太だった 隼人…… 一生は隼人の顔を見た 愛し合った愛を天秤に掛ける事の方が不実だ…… 隼人の言葉は重かった 「…………隼人……ごめんな……」 「一生は答えを出せなくて足掻いていたが 答えなんてないとオレ様は想うのだ 愛した心に方程式も答えもないのだ なのに無理矢理、答えを出そうと思考をフル回転させても…… 答えなんて出はしない 答えを出すというのは、どちらかの愛を切り捨てるという事なのだ 切り捨てる為に愛した訳じゃないのなら…… 一生の答えなんて永遠に出はしないのだ」 「………隼人……大人になったな……」 康太が隼人を寄越した意図が解る 「………俺は狡い道を選ぼうとしていた……」 「一生は直感の男だ 頭を使うから答えを間違おうとするのだ だから考えなくても良いのだ どうしても考えたいと言うのなら、理詰めで考えてく聡一郎とかに頼めば良いのだ」 当たってるだけに…… 何も言い返せない 「隼人……ありがとう」 「お礼は倍返しでして貰うつもりだ気にするな!」 「………何をする気だ?」 「その時になったら教えるのだ 今返せと言っても一生は一杯一杯なのだ」 「………隼人……お前……言うようになったな」 「オレ様は康太の長男なのだ 康太に守られてばかりじゃなく親孝行すると誓ったのだ」 「………あぁ……お前は飛鳥井康太の掌中の宝物だ……」 一生は隼人を抱きしめた 相当お腹が空いてたのか隼人はガツガツ食べていた 聡一郎は何時もの様に静かに食べていた 還りたいと想う 心が……君へと続く場所へ還りたい……と願う いたい場所は……一つしかない 君へと続く場所へ行きたいのだ 共に…… それしか願っていない 「一生、サクサク食べるのだ」 隼人に言われて一生はガツガツ食べ始めた 食べれば……お腹が空いているのに気付いた 食事を終えると聡一郎の車で還って逝った 康太は果てを見て微笑んだ 榊原は康太を背後から抱き締めて…… 「一生は還って来ますか?」と尋ねた 「隼人が大人になってて驚いてる」 康太はそう言い笑った 「隼人は愛する人を亡くして……優しく頼れる男になりましたからね 飛鳥井康太の長男として恥じない様に日々努力してます」 「……あぁ……もう無い物ねだりばっかりしてる子供じゃないな…… 欲しいモノを手に入れ護る事を知ってる男だ……」 「………君を愛してるのですよ」 「オレはお前を愛してる」 「僕も愛してます」 「夜が明けたら、黒龍が銘を連れて来てくれる…… 流生の如意宝珠……忘れずに持たせてくれ」 「解ってます ねぇ、こっちを向いて…… キスが出来ません……」 康太は榊原の方に向き直った 「少ししゃがめよ」 康太は笑った 榊原は少ししゃがむと、康太は榊原に口吻た 「未来永劫 愛するのはお前一人だ」 「僕も未来永劫、君しか愛しません」 榊原はそう言い康太に接吻した 「………夜明けだ伊織……」 「ええ。夜が明けますね 赤龍は……どんな顔して我が子を見るんでしょうか……」 「一生だからな、照れ隠しに無愛想になりそうだな」 「………こうして考えてみると……赤龍の下半身はやはりだらしないです…… 子供ばかり作って……」 榊原が言うと康太は爆笑した 「……伊織……お前赤龍が嫌いだろ?」 「………下半身がユルユルの兄は……好きになれませんでした……」 「……桜林の頃の一生は節操なかったぜ」 「………知ってます 教師も一生のお手付きでしたからね 聡一郎と一生が手を出してないのは彦ちゃん位ですよね?」 「聡一郎と一生じゃ彦ちゃんの相手は出来ねぇよ」 康太はそう言い笑った 「………でしょうね」 「…………そうそう!ションベン臭いガキは趣味じゃねぇらしいからな!」 榊原は康太を強く抱き締めた 「伊織…」 「何ですか?」 「脚本を書け……」 「悲願を達成しろと?」 「時は満ちた…… お前は書くだろ?」 「そうですね 榊 清四郎で映画を作る 脚本を書いてた時からの夢ですからね」 「時代を作る映画になる お前が作るんだ……」 「君がいてくれるなら、僕はどんな試練でも乗り越えて見せます 時が満ちたのなら……僕は運命に乗ります」 「伊織……頑張れ 瑛兄にはもう言ってある 副社長の仕事は分散して片付けられる」 「康太、僕は飛鳥井建設 副社長の肩書きを手放すつもりはありません 飛鳥井康太の伴侶です 副社長を続けながらでも出来なくはないです 白馬で君に言われた日から、僕は考えました 脚本は書きます 映画も僕のイメージを通させて貰います 映画を撮るまでの1年は大変かも知れません でも僕は両立します」 「伊織なら言うと想った」 「君の夫です 一筋縄で逝くと想わないで下さい」 「………伊織……」 康太は榊原の胸に顔を埋めた 「黒龍が来るまで…… こうして抱き合っていましょう」 「………ん……」 ベッドに座り抱き合う 互いの熱に満たされ…… 明日へと向かう お前がいるならオレは大丈夫だ…… 康太は瞳を閉じて、榊原を感じていた

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