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第71話 女神の力昇華の儀 ①
戸浪亜沙美との約束の日
康太と榊原は朝早くから支度をしてホテルニューグランドに来ていた
「伊織、黒龍が来るからなスーツをどうしよう?」
「兄黒龍は僕というよりも義兄さんの方が体格が近いので義兄さんのスーツを借りて持って来てます」
「………そっか……スーツ作りに行かなきゃ駄目だと想ってた
一生のスーツは慎一が持って来たんだよな?」
「はい!総て準備万端ですね!
健は?何時頃来てくれますか?」
「出勤時間に合わせてホテルに来てくれる手筈になってる」
榊原は時計を見て
「なら、もうすぐですね」と呟いた
康太の携帯が着信を告げると康太は電話に出た
「天帝か?どうした?」
『………あの……一人増えても大丈夫でしょうか?』
「大丈夫だ!
昇華が終わった後、お前には話もあるかんな!」
『………では、直ぐにお伺いします
もうホテルの下にいます』
健が電話を切って暫くすると、フロントから
「円城寺 健様が到着なさりました」と連絡が入った
榊原は「ご案内お願いします」と頼んだ
するとベルボーイに連れられて健が、もう一人連れてやって来た
「炎帝、お久しぶりに御座います」
健は深々と頭を下げた
「女神が来るまで寛いでてくれ」
康太に言われ健はもう一人とソファーに座った
「………天帝、西園寺は別室に行ってて貰うが良いか?」
「……はい……構いません」
二人とも白のスーツに身を包み、死に装束に見えた
二人の覚悟の程が垣間見えた
康太は携帯を取り出すと
「慎一か?西園寺一臣を連れに来て欲しい」
『解りました、今そちらに行きます』
慎一は電話を切ると康太の部屋へと急いだ
聡一郎が取った部屋は4階のフラットな値段の部屋だった
康太が取った部屋はセレブリティな部屋だった
慎一は康太の部屋の前に着くとドアをノックした
榊原がドアを開けた
「慎一、忙しくさせましたね」
「構いません!
俺は主の為にいる存在ですから!」
榊原は慎一を部屋に招いた
康太は慎一を見るとニコッと笑った
「慎一、作家の西園寺一臣先生だ
健が仕事を終えるまで別室に連れて行ってくれ」
「解りました!
では、西園寺先生、俺と一緒に来て下さい」
真一が言うと西園寺は立ち上がった
康太は西園寺に
「総て終わったら呼ぶ
その時、お前に話してやろうと想う事がある」と告げた
物凄い威圧感と、圧倒的な力を見せられた感じだった
飛鳥井康太の噂は聞いていたが…
実際に目にすると……足が竦む
西園寺は慎一と元に別室に向かった
康太は健を視ていた
「健、覚悟を決めて来たか?
オレは鬼じゃねぇと言わなかったか?」
「………炎帝……オレは……オレの役務を終える
その為だけに人の世に墜ちたのです……」
「健、難しく考えるな
一緒にいたいのなら……いれば良い
オレはお前達を引き離す気は皆無だ」
「………炎帝……」
「その話をな、総て終えた時にしようぜ
西園寺を交えて、話そうぜ」
「………はい……」
健は下を向いた
「伊織……黒龍と銘を呼び出してくれ…」
「はい。解りました
………君は苦しまなくても良い……」
「総て終わるまで……寝室で待ってて貰ってくれ……」
「………解りました」
榊原はそう言うと寝室に消えた
戸浪亜沙美がホテルに訪ねて来たとフロントから連絡が入った
榊原は黒龍達を呼び出すと、康太の傍に近寄った
「黒龍と銘が来ました
二人には寝室で待ってて貰ってます」
「そうか……天帝が女神の力を昇華した後、逢わせるつもりだ……」
榊原は何も言わず康太を抱き締めた
暫くするとドアがノックされた
榊原はドアを開けに行った
ドアを開けると戸浪亜沙美が立っていた
榊原は「どうぞ!」と部屋に招き入れた
ドアを閉めると亜沙美をエスコートしてソファーに座らせた
亜沙美はソファーに座る男を視た
ナリは小さいが、その体躯から底知れぬ力を秘めていた
「亜沙美、天帝だ!
お前の力を昇華する為に人の世にいる」
亜沙美は深々と頭を下げた
「宜しくお願いします」
亜沙美は覚悟を決めていた
「………始めても良いのですか?」
「はい……始めて下さい」
「痛みはありません
記憶は消える事はありません
閻魔との約束ですので、記憶は残しておきます」
「ありがとうございます……」
「では女神の力を昇華致します」
健はスーツの上着を脱いだ
そして精神統一した
健の体躯が白い純白のオーラで包まれた時、手には神楽鈴の着いた棒が握られていた
「我が名は 天帝
再生を司る神なり!」
天帝は我が名を呼び上げた
「女神、貴方の力を昇華致します」
天帝は神楽鈴の着いた棒を高く掲げて呪文を唱えた
天帝の髪は見事な銀髪になり、足首まで伸びて、風に靡いていた
呪文を唱え、天帝は舞った
とても美しい光景だった
真っ白なオーラが女神を包む
天帝の瞳が真っ赤に光った時、閃光が走った
閃光は女神を包み……貫いた
女神はガクッと蹲った
銀髪を風に靡かせ、赤い目をした天帝が菩薩の様に微笑んだ
「総ては閻魔大魔王の望みのままに昇華致しました
貴方は女神の力はなくなりました
記憶はそのまま……奪ってはおりません」
女神は泣き崩れ……
「ありがとうございました」と礼を言った
榊原は天帝の体躯を支えるとソファーに座らせた
「伊織、黒龍を呼んでくれ」
「解りました」
康太は慎一に電話を掛けた
「慎一、部屋に来てくれ
その時……コートか何か持って来てくれ」
「解りました」
慎一への電話を切ると天帝に向き直った
「天帝、ご苦労だったな」
「閻魔大魔王様からご依頼された依頼は、完遂致しました!」
天帝は深々と頭を下げた
「天帝……いや、健、少し待っててくれ」
「はい。」
榊原が寝室から黒龍を連れて来た
その横には銘が白いワンピースに身を包み立っていた
こうして見ると銘は女神によく似ていた
人の世で……流生がお腹にいる時に一生に逢いに来た戸浪亜沙美に似ていた
康太は銘を見て微笑んだ
「銘は母親似なんだな」
そう呟いた
黒龍が銘を女神の横に座らせた
そして康太の横に座った
「天帝、久しぶりやん」
黒龍は天帝に挨拶した
黒龍と天帝は飲み仲間だった
「黒龍、久しぶり……」
黒龍はニカッと笑った
康太は銘に話し掛けた
「銘」
「何ですか?炎帝」
「お前の母だ……」
銘は亜沙美を見た
よく似てる……
こんなにも自分はこの人に似てたんだ
今更ながらに想う
逢いたかった……
意地を張っても心の中では……逢いたかった
「……銘……」
亜沙美は手放しだ子供の名を呼んだ
「………母様……」
銘は涙で揺れる視界で亜沙美を見た
「………御免なさいね……」
「………いいえ……母様に逢えて良かった……」
「私は人の世を終えると炎帝に昇華して貰います
生きて貴方に逢えるのは……これで最期です」
銘は首をふった
「………嫌です……最期だなんて……嫌です」
「………御免なさいね……
もう決めたのです……
最期に貴方に逢えて良かった
母は何時も……貴方の幸せを祈ってます
幸せにね銘……
青龍の弟と夫婦になったとか……
幸せにして貰いなさい……」
亜沙美は優しく銘を抱き締めた
母の腕だった
夢にまで見た……母の胸の中だった
「………恨んでも……罵られても仕方のない事をしました……
私は愛した人の愛を貫きたかったのです
その為に……貴方を哀しませ苦しめました
炎帝に貴方の事を頼みました
炎帝は私の望みを聞いて下さり……
貴方を護ってくれました
何もしてやれず……ゴメンね……」
「………母様……母様………」
銘は母親を抱き締めた
「恨んでなどおりません
私の傍には何時も炎帝がいてくれ、護ってくれました
閻魔もいてくれました……
私は護られて……生きて来ました……
愛したのは唯一人……だけど愛した人は……他の人を愛してました
母様……私は今なら貴方の気持ちが解ります」
銘の苦しい胸の内が伝わってきた
銘は炎帝を愛していたのだ
唯一無二の存在として銘は炎帝を愛した
「………母様に逢えて良かった……」
銘は炎帝に頭を下げた
康太は笑っていた
「銘、1年に1回……毎年逢わせてやる
夏に白馬に来い……亜沙美が生きてる限り逢わせてやる
オレが死しても約束は守られる……」
「………良いのですか?炎帝……」
「親子の縁は切れねぇんだよ
時も時間も距離も関係ねぇかんな
亜沙美、毎年夏になったら白馬に逢いに来い!」
亜沙美は深々と頭を下げた
「………本当に……ありがとう……」
「銘、おめぇには流生と言う弟がいる
血の繋がった弟だ!
次代の赤龍となる弟だ!
今夜魔界に還る前に逢わせてやる」
「………炎帝……ありがとう……」
「銘、母親と二人きりになるか?
抱き締めて貰うと良い」
康太は立ち上がった
亜沙美は涙を堪えて康太を見た
「銘、話が終わる頃に慎一を迎えに行かせる、この部屋で待ってろ」
康太は静かに部屋の中に来た慎一に手を差し出した
すると慎一は康太にコートを渡した
康太は健にコートを被せた
「慎一、健を背負ってくれ」
「解りました」
慎一は健に背を差し出した
健はコートを被ったまま、慎一の背中に張り付いた
「じゃあな、亜沙美
銘と語らって母の愛を教えてやってくれ」
康太は榊原、黒龍と慎一と共に部屋を出て行った
部屋を出ると康太は慎一に問い掛けた
「聡一郎はどこに部屋を取ったよ?」
「4階です、お連れします」
慎一は健を背負ったまま、エレベーターに乗り、4階で下りた
そして聡一郎が借りた部屋の前に行くとノックした
ドアを開けたのは聡一郎だった
康太は聡一郎の顔を見て笑った
「拾ったのはいるのかよ?」
「ええ。います
慎一がスーツを持ってきたので着てます」
「そっか……」
康太は部屋の中に入ると一生の傍まで行った
そして向かい側のソファーに座った
康太の左右に榊原と黒龍が座った
一生は黒龍を見て
「………何で黒龍がいるんだよ……」と呟いた
黒龍は笑った
「炎帝が呼んだんだよ」
と言い康太の首に抱き着いた
「………何でスーツ着てるんだよ」
一生はブツブツと呟いた
「人間に紛れるなら服くらいはな」
「………それ着てナンパでもする気かよ」
「赤龍じゃあるまいし……」
と黒龍は呆れた顔をした
慎一は康太に
「お腹減ってませんか?」と問い掛けた
「減ったな……でも食いに行く訳にはいかねぇかんな……あ、近くにいるやん」
康太は携帯を取り出すと電話を掛けた
「繁雄、一時間位暇ある?」
『康太!何時還って来たんですか!』
三木が叫ぶから康太は受話器から離れた
「繁雄、腹減った」
『何人いるんですか?』
「8人」
『何処へ行けば良いですか?』
「ホテルニューグランド 」ホテル名を告げて部屋版を告げた
『………物凄く近いのは偶然ですか?』
「違う!お前が近くにいるのが解ってるから、お前にたかった」
康太は笑いながら三木に甘えた
『解りました!何が所望ですか?』
「腹が膨れれば何でも」
『取り敢えずチョイス出来るのを持って行きます!20分下さい!』
三木はそう言い電話を切った
康太は電話を切ると
「うし!食事ゲットだな」と笑った
康太は一生と話をする気はないみたいだった
「慎一、飲み物を運ばせろ
そしてオレには……」
「スィーツですね!解ってます」
慎一はそう言い注文をしに向かった
「黒龍、取り敢えず腹を満たそうぜ!」
「………電話一本で来る男って……お前の何?」
「愛人」
康太が言うと榊原が康太を抱き寄せた
「黒龍がまともにしたら、どうするんですか?」
「オレは青龍一筋だぜ、愛人なんて信じねぇだろ?」
「………電話一本で来る存在なんて……黒龍には解らないじゃないですか……」
「……繁雄はオレの血を分けし存在
今世のアイツはオレの手足になるべき存在
オレは繁雄には貢がれてるかんなパトロンみてぇなもんじゃねぇかよ!」
益々解らなくて黒龍は目を白黒した
「………パトロン……」
「肉体関係はねぇぜ?
オレが青龍以外と犯るかよ!」
康太は冗談じゃない……と叫んだ
20分キッカリに三木は部屋のドアをノックした
康太は自ら部屋を開けに行った
「繁雄、悪かったな」
料理を運び込んで、ついでに飲み物とスィーツを運び込む給仕を部屋に入れた
三木はそれらをスタッフに任せて、康太に抱き着いた
「康太……日本にいなかったじゃないですか!
逢いたくて……探し回りました……
堂嶋を連れてくなら私を何故連れて行ってくれなかったのですか?」
「繁雄、堂嶋は飛行機で一緒になっただけだ!
連れて行った訳じゃねぇ……」
「………それ、堂嶋も言ってました
でも狡い……一ヶ月以上も逢えなかったんですよ!」
「近いうちに空けとくかんな飯を食いに連れてってくれよ!」
「絶対ですよ!」
「おう!美味いの食わしてくれ!」
「はい!ご一緒しょう
料理、10人分運び込ませました!」
給仕が用意して、康太達はテーブルに着いた
康太は相当腹が減ってたのかガツガツ食べていた
「繁雄、めちゃくそうめぇぞ!」
「でしょ!康太に食べさせたかったんです」
「繁雄、解ってるじゃん!」
「私も忙しくて、ちゃんとしたの食べてなかったので良かったです」
「…………繁雄……揉め事か?」
「………そんなんじゃない……
唯……ピンチなのは変わりません……」
康太は三木をじっと視ていた
「…………身内にハメられたか?」
「………君に逢えば……視てしまうのは解ってました……
父 敦夫の負の遺産を利用した者の手により……遺産争いの真っ只中です……」
「DNA鑑定は出てるのかよ?」
「………正式なものだそうです」
「そうか……東青を貸してやんよ
そして正当な鑑定か調べてやんよ
まぁ、少し待ってろ繁雄」
「………康太……」
「美佐代に飛鳥井康太が出ると言うのは言うな」
美佐代とは三木の母親の名前だった
「…母は……長くはない…」
「……知ってる…
だから知らせるな…と言ったんだ
幸せな余生を頼むと敦夫に頼まれてるんだ!
心配事なんて聞かせてたら、敦夫に文句謂われるじゃねぇかよ!」
「………え?……」
「敦夫の処理ならオレがしてやった
敦夫の遺言だったからな!
妻と子供を頼む
私の事で苦しめたくはない……だから護って下さい……と頼まれてる
敦夫は自分の死後、家族を苦しめたくはない……と清算してくれと頼んだ
飛鳥井康太の仕事がズサンな筈などないだろ?
だとしたら、これは巧妙に張られた罠だな
三木の家を乗っ取る工作だ
三木の一族を好きに使いたい奴の狙いはそこにあるのかもな……」
「………康太……」
「お前は何も気にするな
そして妻と子供は……隠せ!
今すぐだ!
お前は妻と子供を綺麗のいる研究所に連絡をして預かって貰え
飛鳥井康太の依頼だと言えば直ぐに動く」
「解りました
では私は動きます
康太……今度食事に付き合って下さい」
「あぁ、美味いの食わせろ」
「解ってます
では、また」
三木は慌ただしく出て行った
「………少しまずいな……」
康太は呟いた
そして携帯を取り出すと電話を掛けた
「勝也……頼みがある」
『康太!逢いたかったです!
今度お時間を作って下さい』
「解ってる」
『ではお聞き致しましょう』
「今すぐ三木繁雄の家族を保護してくれ
そして三木繁雄も保護してくれ」
『今すぐですか?』
「……あぁ、頼めるか?」
『解りました!直ぐに人を動かします』
安曇は電話を切った
康太は果てを見ながら思案していた
「西園寺、待たせるな
少し待っててくれ」
「構いません」
西園寺は健の手を強く握り締めた
健の髪はまだ戻っていなかった
目は黒く戻っていたが……部屋に入った時は明らかに赤かった
西園寺に何も考えさせない為に、康太は人を呼んだのだろう……
まさか余計な問題が増えるとは想わなかっただろうけど……
暫くすると康太の携帯が鳴り響いた
「はい!」
『今、三木繁雄の妻と子供、三木繁雄を確保しました』
「そっか、悪かったな」
『……三木、何かありましたか?』
「勝也は三木敦夫、知ってるだろ?」
『知ってます!
安曇の父の懐刀の男でした』
「お家騒動らしい……
無理矢理……跡継ぎを作ってる」
『……偽造のDNAでも提示して来ましたか?』
「そうだ!三木敦夫の死後の処理は飛鳥井康太が手掛けた
敦夫の遺言通り、死後に遺産争いなどさせぬ様に処理した
それが今更出る筈などない」
『君が処理したのならあの世に探しに逝っても無理ですね
総ての禍根は断つ!
完璧に熟す君が間違いなどない!
愚かな奴だとしか言えません』
「………まぁオレが処理したのは知らねぇのかもな……
なんたってオレはその頃小学生だったかんな!」
『君なら幼稚園児だってやるでしょ?』
安曇はそう言い笑った
『人を貸しましょうか?』
「頼めるか?」
『三木繁雄は遺しておいてこそ価値は発揮される
君の手と足となり総てを掻き回す逸材
なくしてなるものですか!』
「アレは貴史が政界に入る時の後ろ盾にしなきゃならねぇかんな!
まだ逝かれたら困るんだよ!」
『なれば、私は護りましょう!
最後は君が出てケリは付けねばなりませんが、その下拵えは出来る』
「………勝也、頼むな」
『解ってます
総ては君の描く未来の為、国の為』
安曇はそう言い電話を切った
康太は息を吐き出した
「一生、オレと一緒に来い!
健、此処で待っててくれ!
少し仕事して来るわ」
康太が言うと健は頷いた
「ほれ、一生来いよ!」
一生は康太の横に行った
康太は一生の手を掴むと、榊原と共に部屋を出て行った
健は息を吐き出した
「………青龍がいると緊張します……」
弱音を吐くと聡一郎は笑った
「お主は昔から青龍が苦手でしたね」
金色の髪を持つ司命と
銀色の髪を持つ天帝は、金銀と言われて仲間内では揶揄されていた
「………司命……言うな……
彼の持つ空気が好きだと言うのは炎帝位なものです」
「それは言えてる
でも、慣れだ……僕は気になりません」
「………慣れですか?」
「髪の毛……戻してあげましょうか?」
「……戻れなきゃ還れないからな……」
聡一郎は立ち上がると健の後ろに立った
そして髪の毛を一房手に取ると呪文を唱えた
健の髪の毛は何時もの黒髪に戻った
「閻魔の呪文で黒くしてるんですよね?
でなきゃ君も僕と同じ銀髪のままでしかいられない……」
「そう。閻魔様が人の世でも紛う事なき髪になれ……と術を施してくれました」
「君の仕事は完遂したのですか?」
「………はい。」
「そうですか……だから話があるですね」
「……だと思う」
「炎帝は恋人の仲を裂く無粋な真似はしない……」
「………それは君が仲間だから……」
「僕は炎帝に仕える者
司命 司禄は炎帝の者ですが……
彼はそんな物差しで者を見たりはしない
我が主は愛する者と共に人の世に堕とされた
愛する者と離れたくない想いは誰よりも強い……」
健は言葉をなくした……そして部屋の中にいる慎一と、仕事を終えて来た一条隼人に目を向けた
「………こんな話……彼らの前でして良いのですか?」
「この男、緑川慎一は康太に仕える為に百年の時を超えて来た人間です
彼は炎帝が魔界に還った後も彼に仕えるのです
そして日本中の奴が知ってるであろうこの男、一条隼人は九曜神の孫です
お前も解るでしょ?
この男の力は……炎帝が封印してます
それでも……隠し切れてないでしょ?」
なる程……只者ではないから気にするな……と言う事なのか……
西園寺は何が起こってるのか……
全く理解出来ず不安だった
「西園寺一臣さんですね!」
聡一郎は声を掛けた
「うちの隼人が演じられる様な作品を書いて下さい!
どうです?うちの隼人
創作意欲を掻き立てませんか?」
聡一郎はそう言い笑った
「………俺は……俳優とかあまり知らないから……」
「なら知って下さい!
知ろうと見ないと、人は何も知れませんよ?」
確かに…
西園寺は隼人を見た
不思議な空気を纏う男だった
テレビではCMとかで目にしない日はない
だが、テレビで見るのとでは違っていた
「………テレビではピカピカに光っていた…」
西園寺は呟いた
「今は光ってないのか?オレ様は?」
隼人は呟いた
西園寺は慌てた
「……それが素ですか?」
「素か?聞かれたら素だな
友や親の前で装うつもりはないのだ」
「………親?」
友なら解るが、親なんていたっけ?
西園寺は首をひねった
「オレ様は飛鳥井康太の長男なのだ」
飛鳥井康太の子供だと言うのか?
益々、西園寺は混乱した
聡一郎が隼人の補足分をフォローした
「隼人は幼い頃に母親と引き離され育った
この子は親の愛も常識も何も知らずに育った……
この子を育てのは飛鳥井康太
彼は隼人の親になり、教育して育てた」
一条隼人の記者会見に飛鳥井康太が出てるのを見た事がある
親だから……あぁ、そうなんだ
西園寺は納得した
「迷惑じゃないのなら…隼人、君の事を知りたい」
「なら撮影所に来れば良い
暇な時は誘ってくれればスケジュールが合えば行ける」
「………本当に?」
「友達になるのだ」
友達……
何だか初めての響きだった……
西園寺に初めて出来た友達だった
信じられない想いで一杯だった
一生を連れた康太は自分達の借りた部屋に戻った
部屋に戻ると戸浪亜沙美の姿はなかった
「銘…」
銘に声を掛けると、銘は顔を上げた
「女神は……帰ったか?」
女神と聞いて一生は顔色を変えた
銘は「はい。還られました」と告げた
「銘、ちゃんと話せたか?」
「はい!あの人の想いが……伝わりました
知らずに過ごさなくて本当に良かったです」
「良かったな銘」
康太は銘の頭を優しく撫でた
「………炎帝……ありがとう……」
「銘、おめぇの父親の赤龍だ!」
銘は一生の方を向いた
「………我が夫の兄……」
「違う!おめぇの父親だ!」
「………口に出してはならないのでは?」
「此処は人の世だ
別に隠す必要なんてねぇよ!」
「………炎帝……」
「この機会だからな、父ちゃんとも話せ!」
「………許されるのですか?」
「この世の誰が許さなくてもオレが許す!
だから……おめぇは気に病む事はねぇ
オレが育てた娘だろ?
なれば親の言う事は聞きやがれ!」
「………炎帝……」
「赤龍だ!
おめぇの本当の父親だ」
康太はそう言い一生を銘の横に強引に座らせた
「銘、オレはまだ話し合いが遺ってんだよ!
赤龍と……おめぇの本当の父親と話をしろ!」
「………解りました」
康太は背後から銘を抱き締めた
「素直になれ!解ったな」
「はい!貴方に護られて生きた私です
大丈夫です炎帝」
康太は銘の頭をクシャッと撫でて、榊原と共に部屋を出て行った
部屋に二人きりになった一生と銘は何も話せずにいた
最初に口を開いたのは一生だった
「………やはり似てるな女神に……」
一生は懐かしそうに銘の姿を見ていた
「………出逢った頃のあの人に……似ている」
「………私の事……知ってましたか?」
「………知っていた」
「………実の娘だと?」
「それを知ったのは……今世だった
オレは何も知らす……炎帝に護られて生きていた……」
「……知って……どう思いました?」
「知ったからと言って……何も変わらない
俺は女神を愛していた
許されない仲だと解っていても止められはしなかった……
俺は……弟を誇りに想っている
そしてずっと炎帝を愛してる
駆け落ちした2人を信じられずに、ずっと湖を見ていた
女神の優しさに……心底愛した……
それは嘘じゃない……
俺は女神を愛してる……
だが……俺と女神は結ばれはしない星の下にあるみたいだ……」
「………私の事……我が子として見た事はありますか?」
「………ない!
我が子として見たら閻魔に顔向けは出来ない……
我が子だとは想わないで生きていた……
だが、誰よりも幸せなってくれ……と願っていた
傍にはいてやれないが……誰よりも幸せに……それしか願っていない…
我が弟 地龍の妻になったお前の幸せを…願って止まない
泣かされたら言うと良い
弟を殴り飛ばしてやる位なら出来る……」
「………父さん……と呼んで良いですか?」
一生は首をふった
「………それは駄目だ……
お前を育ててくれた閻魔や炎帝を裏切る事になる……」
「………なれば……私は貴方を父と呼べないのですか?」
「………許してくれ……
俺は許されてはいけないんだ……」
「炎帝が赤龍なら、そう言うと言ってました
だったら誰よりも不幸になると言えば良い……と、言いました
私、貴方を父と呼べぬなら……誰よりも不幸になります」
半ば脅しだった
一生は泣いた
銘を抱き締めて………泣いた
「そんな言い分……されたら断れねぇよ」
「なれば、銘の父親は未来永劫、赤龍で良いです
どの道、地龍と結婚した時に、閻魔の娘は剥奪して戴きました」
「………え?……」
閻魔の娘として嫁ぎたくはない……
閻魔の娘として嫁げば……
何かあった時に閻魔に迷惑が掛かる
だから申し出た
炎帝が銘の望み通りにしてやれ!と言ったから……何もない女になり地龍の所に嫁いだ
「……お前の父と……名乗っても良いのか?」
「良いです!
炎帝が赤龍は誰よりも愛が深い男だと教えてくれました
私は貴方の娘で良かった」
一生は泣いた
涙が止まらなかった……
こんな事………許されて良い筈がない……
「………炎帝がくれたのか?
この愛を……炎帝はくれるのか?」
顔を覆って一生は泣いて呟いた
「さっき、母に逢いました
私は生まれて初めて母の愛を知りました
そして今、父の愛も知りました
炎帝は何時も私に言ってくれました
おめぇは罪の子なんかじゃねぇ!って…
おめぇが罪の子なら……オレはどんだけ重い罪を背負ってんだよ……って言ってくれました……
私はもう自分の事を罪の子だと想うのは辞めます
炎帝のくれた愛です……
炎帝が教えてくれた愛です
私はちゃんと受け取りました
父さん……私は貴方の娘で良かったと想います」
一生は銘を強く……抱き締めた
「………炎帝が教えてくれた愛だ………
銘……俺はお前の父として恥じぬ生き方をする……
お前に誇れる父でいたいと想う……」
「貴方はそのままで構わない
陽気で周りの者を楽しませる事の出来る男
その癖誰よりも炎帝を愛して、彼のためになら命を擲ってでも惜しくないと生きる
私は貴方の娘です
炎帝が魔界に広げてくれると言うので、赤龍の子として生きて逝きます」
「………それで……悔いはないのか?」
「ないです!地龍辺りは兄に怒られる……と想うでしょうが、逆に大切にしてくれそうで良かったです
龍族に認められるのなら……それで良い
私は地龍の妻ですから……」
「地龍がいじめたら言え
俺の娘をいじめるなんて百万年早ぇんだよ
黒龍に頼んどくからな……
俺が還る日まで待っててくれ……」
「父上が無事人の世の役務を終える日をお待ちしております
悔いのない日々をお送りして下さい」
「………銘……」
「銘は気が楽になりました
私は赤龍の子……短気なのは赤龍の血
喧嘩早いのも……赤龍の血で通せます」
「………喧嘩早いのか?」
「世の中、グダグダ腑抜けが多すぎるのです!」
「………それは俺の血と言うより……女神の血だろ?
女神に良く蹴り上げられたからな俺……」
「………やっぱり……」
銘は納得した
「私、弟の流生を見せて貰います」
「……弟……と言うなよ…
アイツは飛鳥井康太の子だ……」
「解ってます
何も言いません
でも赤龍として魔界に還れば……
弟と呼んでも構いませんか?」
「………流生が許せば……呼べば良い……」
「今から楽しみです…」
一生は銘を何も言わず抱き締めていた
銘も父親の胸に顔を埋め……
瞳を閉じていた
2人は……
確かに親子だった……
一生と銘を部屋に遺して、聡一郎の借りた部屋に戻った康太はソファーに座ると榊原の手を握り締めた
「………天帝……」
「……はい!」
「ご苦労だったな、閻魔に変わって礼を言う」
「……勿体なきお言葉……」
「で、本題だ」
「はい!」
「お前、西園寺の事、愛してるだろ?」
え………‥健は康太の顔を見た
「答えろ天帝」
「‥‥愛してます」
「なら今世は人の世にいろよ!
別に女神の力をなくして使命を完遂したからと言って、んなに急いで還らねぇといけねぇ事じゃねぇ!
しかも二人して死ぬ気だったのか?
オレはどんだけひでぇ神なんだよ!」
「……炎帝……役務が……完遂した以上は…」
「なら還るのかよ?」
健は下を向いて黙った
「我が兄 閻魔は、んなにひでぇ奴かよ?」
「……そんな事は想ってもおりません…」
「黒龍、閻魔から預かった手紙、天帝に渡せよ」
黒龍は立ち上がると手に、閻魔からの封書を出した
「この封書は読み終えた時点で消滅する
一度きりだ、頭に叩き込んどけ」
そう言い封書を健に渡した
健は封書を受け取り、封を開けた
そしてルーン語で書かれた文字を読んだ
西園寺が覗き込んだけど、何が書かれてるのか、さっぱり解らなかった
健が総てを読み終えると……封書は跡形もなく消えてなくなった
黒龍は健の前に立つと
「閻魔大魔王は弟の炎帝に甘いんだ
弟からお強請りなんてされたらな……何でも聞いてしまうんだ……
そして炎帝は兄の閻魔を上手く使うのに長けてる
炎帝程に慈悲深く、情け深い神はいない
破壊神と言う奴はいるがな……
今は伴侶と言うストッパーを得て、誰よりも慈悲深いんだ!覚えとけ!」
黒龍の言葉に健は頷いた
康太は黒龍に
「オレんちに来るんだろ?
そしたら流生を逢わせる」と切り出した
「あぁ、親父殿に言われて封印する
俺の手に余るなら我が父を呼び出す」
榊原は黒龍を見ていた
「………流生の力は計り知れません
兄弟や仲間を助けようとした時……
無意識に力が出てしまうでしょう……
それは避けたいのです……」
榊原は我が子を想い……口にした
「人の世に龍の力は不要
キッチリ封印してやる!」
黒龍は弟を抱き締めた
「………兄さん……」
「お前は気に病まなくて良い……」
黒龍は弟を抱き締めた
康太は西園寺…と名を呼んだ
「……はい」
「健と何時までも仲良くな
健の力は人の世では不要
貴正にも伝えといた
唯の人になると良い
お前は唯の人の健を愛せるか?」
「愛せます!」
「なれば、オレが封印してやろう!
神を封印するんだからな……ちとばかし力を使う事にする」
康太が言うと榊原は心配した顔をした
「心配すんな伊織
ちとばかし古き血を呼び起こす」
「……皇帝炎帝になられるつもりか?」
「どれもお前のモノだろ?」
「ええ。どんな君でも愛してます」
榊原はそう言い康太に口吻た
「少し目を瞑れ……伊織…」
「目を瞑ります
その変わり病院には行って下さいね!」
「……解ってる……」
榊原は康太を強く抱き締めた
健は聡一郎に「……炎帝は何処か悪いのか?」と問い掛けた
「君も見れば解るでしょ?
神の力そのままで炎帝は人の世を生きてる
それが人の体に……影響を及ぼしてるんです
康太は……長生きは出来ないでしょう
幾度転生しようとも……炎帝は早死にしてます……」
健は言葉を失った
「………そんな……」
命を削って……力を封印してくれると言うのか……?
健は信じられなかった
康太は健の前に立つと「良いか?」と問い掛けた
「………君の命を削ってしまう……」
「西園寺といてぇんだろ?
なれば不要な力を封印して一緒にいろよ」
「……そんな事したら……君が……」
「気にするな!
総ては定めの上に成り立ってる理だ!」
康太の体躯を真っ赤な炎が包み込んだ
康太の髪が腰近くまで伸び……
炎の様な真っ赤な髪になった
目も炎の様な赤になり……
体躯は燃えたぎる焔で包まれた
「我が名は皇帝炎帝!」
康太の手には……見た事もない真っ赤な剣が握られていた
真っ赤な深紅の衣装に身を包み……
何処から見ても飛鳥井康太ではない存在になっていた
真っ赤な瞳で見られると……
その身がチリチリ焼ける想いがした
「天帝、お前の力を封印してやろう
お前の命が尽きた時、力は解放され元に戻る
暫しの間……人として生きろ天帝……」
健は深々と頭を下げた
皇帝炎帝が呪文を唱えると、健の体躯は焔に包まれた
熱くはない
視界が………真っ赤になった
西園寺は慌てて止めに入ろうとして、黒龍に止められた
「動くな!皇帝炎帝が命を張ってるんだ
お前達の為に……アイツは自分の命を削ってるんだ!」
黒龍に言われ…西園寺はその場に項垂れた
こんな真っ赤な焔に焼かれたら……
健は死んでしまう……
西園寺は泣いていた
皇帝炎帝は優しく微笑むと
「天帝……人の世を全うしろ!」と言い抱き締めた
健はガクッと崩れると……皇帝炎帝は焔を沈めた
「お前の力は封印した
その封印、オレが死んだ程度では解放されねぇかんな……」
「……炎帝……」
「………悪ぃ……力を使いすぎた……」
康太は倒れそうになった
それを榊原が素早く抱き締めた
「………康太……」
「心配するな……オレはまだ逝けねぇ…」
「当たり前です!
魔界に直接入るだけでも力を使ってるというのに……
この体躯で……皇帝炎帝になれば限界は簡単に超えます」
「………少し疲れた……」
康太は榊原に抱き着いた
「眠って構いません……」
「……伊織……愛してるかんな……」
「僕も愛してます
だから眠りなさい
帰りは病院に寄ります」
康太は頷いて……意識を手放した
聡一郎は榊原を心配そうに見た
「………康太は……無茶ばかりします」
聡一郎は悔しそうに呟いた
「………天帝の……神の力を封印しようなんて事……皇帝炎帝にしか出来ません
僕達が逆立ちしても……神の力は封印は出来ませんからね……」
「………それでも!………無茶ばかり……」
聡一郎は泣いていた
榊原は康太を抱き締めたままソファーに座った
真っ赤な長い髪が……力なく床に落ちていた
慎一は康太の体躯にブランケットを掛けると、康太の赤い髪をソファーに乗せた
主の髪一本たりとも床になど置きたくはない
その思いで一杯だった
一生が銘と共に聡一郎の借りた部屋に戻って来た
力なく寝ている康太に、一生は慌てて康太の前に座った
「………何があった?」
康太の真っ赤な髪を、手にして……
一生は口吻た
「………天帝の力を封印したのですよ
神の力を封印できる神など魔界にはいません
康太は自ら……皇帝炎帝となり天帝の力を封印したのです」
一生は悔しそうに康太を抱き締めると……
「………自分の命を削って……進みやがる
見てねぇと……止める事も出来ねぇじゃねぇかよ!」
「……炎帝の愛です……見ていても止められはしません……」
「………それでも!……俺は止める……
無駄と解っていても……俺は止める…」
「……一生……」
榊原は一生の頭を撫でた
「皇帝炎帝まで出したんだからな!
天帝!てめぇ、誰よりも幸せにならなかったら!
俺が殴りに行くかんな!」
一生は健に叫んだ
健は「………幸せになるよ」と約束した
「西園寺一臣!てめぇもだぞ!」
一生に言われて西園寺も約束した
「絶対に幸せにする!約束する!」
と約束した
銘は一生の肩に手をかけ
「泣くな父さん…」と慰めた
「……だって……銘……」
「一番辛いのは青龍だ
愛する者を何時も送り出さねばならぬ青龍が…一番辛い……解ってるか?父さん」
「………解ってんよ……」
「なら泣き止め
炎帝に泣いた顔など見せてはならぬ」
「………銘……父さんに冷たくないか?」
「我は炎帝の幸せしか望んでおらぬ
………許せ父さん……」
「………親子して……それか……」
「……だな、仕方あるまい
我は貴方の娘だからな!」
銘が言うと一生は思いっ切り抱き締めた
黒龍は銘に「……認めたのか?赤龍を父と?」と尋ねた
「はい!この人以外に我が父はおらぬ」
「………そっか……地龍は赤龍が還る日が怖いだろうなぁ…」
黒龍はそう言い笑った
榊原は皆の事を黙って見ていた
総ては……炎帝の想いのままに……
収まって上手く行けば良いと想う
炎帝の想いのままに……
それしか望んでいなかった
「……円城寺 健」
榊原は問い掛けた
「はい!」
「君の逝く道が穏やかな日々で在ります様に……願っております」
健は深々と頭を下げた
「ありがとうございます……」
健は泣いた
こんなに辛い恋人同士と言うモノを見た事はなかった
刹那の時を刻む恋人同士を目にして……
健は恵まれてる自分達を思った
総ては……炎帝に許されて遺された……
炎帝の無償の愛だった
命を削りながら…
それでも炎帝は生きて逝く
それを支えて見守っているのは青龍
気難しい堅いガチガチの石頭だと想っていた
だが……炎帝を愛し
魔界での地位を捨てて炎帝と共に人の世に墜ちた
全身の愛で炎帝を支えて見守っている
刹那の愛を刻んでいる
健は榊原の前に立つと
「………この命、魔界に還った暁には炎帝の為に使いたいと想っております
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