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第74話 配置

康太は1週間後退院した 退院する康太に久遠は 「定期検査に毎月必ず来い!」と念を押した 榊原が「都合をつけて通います」と約束して、退院した 康太の弱った内臓は低体温療法で眠らせ、機能をほぼ止めた状態で3日過ごさせた 体温を上げて少しずつ食事を再開した 胃に負担にならない汁状の食事から始まり 退院前にはお粥まで食べれる様になっていた 退院後は慎一に食事療法を伝えて、康太に食べさせると約束した 何とか無理しなきゃ日々の食事療法で良いだろうと判断されたのだ 瑛太が家族には根回ししたから家族は誰も康太が入院してた事を知らなかった 退院当日 瑛太は会社には遅刻すると伝えて、康太の退院に付き添った 退院の検査を済ませて病室に戻って来ると、瑛太が康太を待ち構えていた 「瑛兄…仕事は?」 「兄は仕事よりお前が大切なのです……」 「……瑛兄…」 「君を飛鳥井に送り届けたら会社に行きます」 「瑛兄、オレ、飛鳥井には還らねぇぜ?」 「………え?……何故……」 「三木の本家に行くんだよ! それが片付くまで留守にする でねぇと果てが歪むかんな! それだけは阻止しねぇと……な 総仕上げは、オレが出て決めねぇとな!」 「………無理だけはしないで下さい……」 「大丈夫だ瑛兄 遠くへ行く時は会社に顔を出すかんな!」 「約束して下さいね」 「おう!少し立て込むと想う…… 無視して通れねぇ事があるかんな でもオレは必ず還る!」 瑛太は康太を抱き締めた 「………約束…ですよ?」 「オレは約束を破った事はねぇだろ?」 「………どうですかね…… 100点宣告したのに……悲しい点数だった時がありました……」 小学校3年の時、ゲーム欲しさに瑛太と約束した 『次のテスト100点取って来るかんな! だからゲーム買ってくれよ!』………と。 その時のテストは惨敗…… 約束は果たされなかった 康太は真っ赤な顔をして 「………瑛兄……それは禁句だかんな!」 と瑛太の胸を叩いた 瑛太は笑って康太を撫でた 「還って来て下さい……」 瑛太は康太の顔を引き寄せて……言った 「必ず還るに決まってるやんか!」 「約束……ですよ?」 「おう!瑛兄との約束だかんな!」 絶対に守ると康太は約束した 精算が終わると瑛太と共に駐車場まで向かった 瑛太とは駐車場で別れた 車に乗り込むと榊原は康太に問い掛けた 「何処へ行けば良いですか?」 「三木の本家…」 康太はそう言いナビに打ち込んだ ナビを起動させると榊原は車を走らせた 康太は車に乗り込むと携帯を取りだした 「よぉ!オレが出れる状況かよ?」 『準備万端!何時でも良いぞ! 一族集めて美緒が仕切ってる あ、お前の弁護士も到着してる!』 「そうか、なら三木の本家にこれから行く」 『待ってる』 兵藤はそう言い電話を切った 康太は電話を切った後に皮肉に嗤い唇の端を吊り上げた 「狸の化かし合いに付き合う暇なんてねぇからな…… さっきから……ガブリエルが様子を伺ってやがる!」 康太がボヤくと榊原は 「……あまり体に良い覇道ではありませんからね…」 と皮肉った 魔界の者にとって天界の覇道は浄化されすぎて……気持ちの良いものではなかった 榊原の言いぐさに康太は笑った 「伊織、オレは天使の様に清らかだかんな ガブリエルごときの覇道はなんて事はねぇぞ!」 康太が言うと一生は 「おめぇの何処が天使の様に清らかよ?」とボヤいた 「一生、おめぇには見えねぇか? 総て【無】に返す浄化の焔なら負けねぇぞ!」 「んとによぉ! お前が天使なら俺らの傍にはいねぇじゃねぇかよ! 俺は……傍にいられる……おめぇが良い…」 「オレに惚れるなよ一生」 「大丈夫だ!康太! お前への想いは遙か昔から変わらねぇ!」 一生はそう言い笑った 慎一は、それは笑えないわ……と苦笑した 榊原は何も言わず康太の手を握り締めた 互いのぬくもりがある それだけで乗り越えて逝ける…… 康太は天を仰いだ 「ガブリエル、もう少し待て…… 崑崙山に逝かせてるスワンがあと少しで戻る そしたら……お前の望む答えを持って来る」 『………私の望む答え……?』 天空から声が響いた 優しい……羽根で撫でられた様な声だった 「………スワンに逢えば解る スワンはほぼ……天界にいた頃の状態になってる」 『………え?……それは無理でしょう?』 「素戔嗚尊の力は軽んじられるモノではない 叔父貴の剣は主の意のまま……それ以上の事を成し遂げる……」 『………なれば……』 ガブリエルは言葉を濁した ルシファーが存在するなら…… 「オレは本来の姿を現したスワンと共に天界に逝く…… 偽物は本物にはなれねぇんだよガブリエル」 『…………それは……創造神の想いなのですか?……』 「オレが生かされてる理由は一つだろ? 暴走するなら息の根を止める 仕えるなら使う……… オレは生かされて明日への礎になれと言われてる だからオレは仕事をする……それだけだ」 『………貴方は……誰よりも神に愛された……愛しき子……』 ガブリエルが何か言おうとするのを康太は遮った 「ガブリエル、オレは神の駒だ!」 『…………そう言う事に……しておきましょう……』 「てめぇの言いたい事は解る だが、オレは違う! それより……懲りねぇ奴らがオリンポスの神々の復活を望んでる…… そんな懲りねぇ奴らを見逃してるからルシファーなんて名乗られるんだ! そのうちアポロンでも現れたらどうするよ? まぁオリンポスの神々の復活…… それは無理だろうけどな!」 康太はガブリエルを睨み付け皮肉に嗤った 『………何故?』 「存在しねぇからだよ!」 『………言い切れるのですか?』 「古来の神々は……」 康太は何か言おうとして口をつぐんだ 「ガブリエル、スワンが還ったら迎えに来い!」 そう言い……会話を遮断した 『誠……興味深い会話であった』 とガブリエルの声が掻き消され弥勒の声が響いた 「弥勒、スワンは?」 『今宵、還る』 「なら三木の家の件を片付けねぇとな」 『体調はどうだ? 八仙の薬湯は飲んでおるか?』 「あぁ、毎日飲まされてるよ……」 康太は苦いと言う顔をした 弥勒は楽しそうに笑った……… そして……『康太……』と名を呼んだ 「………スワンの力か?」 『……あぁ……総て開放して本体になられた…… その力……天使の頃より遙かに強い…… ガブリエルなど比ではない……位に……』 「………それ程の力があったから…… スワンは地に墜とされた……」 神を凌ぐ力 生まれ持って備えた力 全開で解放したら…… それは驚異にしかならない ルシファーの力が驚異だったのか? それは解らない だが……何も持たない……孤独な天使は…… 何も要らなかった 何にも囚われず…… その瞳には何も映さず…… 言われる使命の為だけに生きていた 主や仲間を持たぬ孤独な天使と、慎一は何処か似ていた 榊原はナビ通りに車を走らせた 退院と同時に三木の家に行くのは決まっていた だから榊原は康太にスーツを着せた 同行する慎一と一生もスーツを着ていた 「康太……三木の本家に着きました」 駐車場に車を停めると兵藤が待ち構えていた 「お疲れ!皆待たせてある」 康太が車から下りると兵藤は声掛けてきた 「翁は?」 「古狸?いるぜ!」 「古狸はしぶてぇかんな……火炙りが相応しいかんな!」 「………だな……」 「オレの愛人はいるのかよ?」 「………お前……それ洒落にならねぇってば……」 「そうか?まぁオレのモンには変わりねぇかんな!」 「………繁雄の癖に……」 兵藤はボソッとボヤいた 兵藤が本家の中に康太達を連れて行く 人を寄せ付けぬ集団を遠巻きに見ていた 大広間の扉を開けると兵藤は美緒に 「飛鳥井家 真贋 をお連れしました!」 と伝えた 康太はニィッと嗤った 美緒は康太の前に行くと、深々と頭を下げた 「三木の家の要件でお呼び立てして申し訳御座いませんでした」 「美緒、三木敦夫の子と名乗るのは何処におるよ?」 美緒は本家の翁の横に座る男を……瞳で知らせた 「………あちらに御座います」 「美緒」 「はい!」 「一応、名乗っとくか?」 「必要御座いません!」 美緒はそう言い嫣然と嗤った 「そうか」 「はい!本当でしたら貴方を此処にお呼び立てしする必要もなかった筈だ!」 康太は翁の前に立った 「久しぶりだな翁」 翁は床に頭を付けて「お久しぶりです」と挨拶した 「翁、おめぇは……三木敦夫の弟…… 三木の家を解体した時にオレが家督に据えた」 「はい!そうです」 「………おめぇは兄の敦夫が隠し子なるモノを作ったと想ってるのか? しかも繁雄より年上……兄だと名乗るのか?」 「DNA鑑定書を持っております 敦夫の愛人との写真に書付を持っております」 「それが?」 康太は興味なさそうに返事した 翁は言葉を失った 「三木敦夫は自分の死後の総てを飛鳥井康太に託した オレは三木敦夫の意志通り処理をした だから隠し子なんて出る筈ねぇんだよ!」 「………敦夫の処理を……貴方が?」 敦夫が他界した時、飛鳥井康太は小学生だった 「オレは飛鳥井家 真贋 オレの処理はあの世に逝ったとしても未来永劫、完璧だ!」 「……では……この者は……」 「おめぇが一番よく知ってるだろ? 自分の愛人の子だかんな!」 康太は意図も簡単に言い捨てた 翁は顔色をなくした 「………何の事か……計り知れます……」 「裁判でとことんやるか?」 康太にギロッと睨まれて翁は……青褪めた 「繁雄より年上だから家督の総てを握っても当たり前? 三木の家は本当にクソしかいねぇな! だからオレは考えた 三木の家をやんよ! 繁雄は三木の家と関わりなき者にする!」 康太はそう宣言した 翁はニャッと笑った 「飛鳥井家 真贋は今後一切、三木の家とは関わりのなき者になる! それで良いか?翁?」 「………何故………」 「三木敦夫の財産は嫡子の三木繁雄のモノ 三木敦夫の子はこの世で一人! 三木繁雄だけだ! 三木の家の財産は殆どが敦夫の名義のモノ 三木の本家と関わりなくなったとしても困らねぇかんな!」 康太の意図が解ると……翁は震えた 「三木の家のモノは繁雄の兄のモノ」 「繁雄には兄弟はいねぇ! どうしてもと言うなら飛鳥井綺麗の研究所で公開DNAをするつもりだ ネットで公開でDNAの結果を配信する 三木敦夫は変わった血液型をしていた それを継いでるのは繁雄だけ! それで良いなら受けて立つが?」 完敗だった 「敦夫は自分の死後……ハイエナが繁雄の財産も盗むのを知っていた 三木敦夫が遺した財産は、敦夫が築いた財産だ 三木本家のモノではない 土地もビルも会社も……総て、繁雄のモノだ 今後、三木繁雄の個人のモノとする!」 「そんの身勝手な言い草! 通るはずなどないわ!」 翁は叫んだ 「翁、敦夫が他界した時から総ての名義は繁雄に変えてある 三木敦夫 個人の財産だから当たり前だよな? 本家の財産なんてのはねぇんだよ! オレが解体した時、三木本家は莫大な借金しかなかった その借金を土地や家財を売っ払って精算した 今 三木本家は繁雄の財産で成り立っている だから本家なんて切っちまえば、せいせいするってもんだ!」 康太はそう言い嗤った 康太は繁雄の傍まで行き、顎を掴んで顔を上げた 「三木敦夫の子供は、未来永劫、おめぇだけだ!」 「………康太……」 「政治家 三木敦夫の後を継ぐのも、おめぇだけだ!」 三木は何も言えず康太を見ていた 「本家は解体する!」 康太は宣誓した 「本家なるモノはなくなった この家は三木繁雄の所有財産だ! 近いうちに処分する! 早く出て行け!」 え………と、翁は顔色をなくし康太を見ていた 「欲に溺れたな古狸 繁雄の存在が煙たい反対派の古狸に踊らされたか?」 「……古市代議士は……」 そう言い翁は口を押さえた 「古市は体調を崩して静養に入るそうだぜ 三木の家になんて構ってる暇なんてねぇと思うぜ!」 康太はそう言い鼻で嗤った ガクッと翁は畳に手を着き崩れ落ちた 康太は翁の横に座っている男に目をやった 静かな男は……総て諦めた瞳をしていた 「柊 英二」 康太は名を呼んだ 静かな瞳が康太を見た 「おめぇはどうしたい?」 「………父は……そんなに長くはない…… なので……愛人の子の俺を不憫に思って今回の事を思い付いたのだと想います 俺は何一つ欲しくない…… なので……これで良かったと想います」 三木繁雄は四十代後半だった 三木の兄と名乗った男は五十代中盤……と言った感じだった 「……村松康三……」 「………え?……どうして……その名を……」 「………そっか……おめぇと……繋がってたか……」 康太はそう言い子供のような笑顔を男に向けた 男は、訳の解らない顔をした 「オレを本家に導いたのは…… この出逢いの為だったか……」 康太は呟いた 男は康太に「………俺は貴方を知りません……」と困った顔で訴えた 「映画監督だろ?」 「……ええ……」 「熱き想い……撮るのはおめぇだ…」 「………野坂知輝の作品の?」 「脚本は我が伴侶 榊原伊織がやる 伴侶の悲願だ……こんな繋がりがあったのか…」 「………そんな話……まだ出てもいません……」 「果ては変わらねぇんだよ お前は……変わりのない存在だ」 「…………俺は……どうしたら良い?」 「どうしたい? おめぇの望むとおりにしてやんよ!」 「………父を………許して下さい……」 「良いぞ!然るべき病院に入れてやろう! お前は最期を看取れ!」 「………俺は……今の父の子供として……生きて行きます それが我が子と変わりなく育ててくれた父への恩返しですから……」 「親孝行してやれ!」 「…………はい!」 「だが、お前の中には……この男の血も流れてるのを時々……思い出してやれ」 「想い出して良いのですか? 俺は……こうして……此処に座ってるのも嫌だった 俺は……両親の子供として生きて来たから……」 「血は濃いんだぜ! おめぇが否定しても親子の縁は繋がってる おめぇの中に三木の家の血も流れてるんだ おめぇは三木繁雄の叔父になる それは嫌か?」 「……嫌……とかじゃなく…… テレビで見てる議員先生の叔父だと言われても……信じられない」 「なら繋げて付き合って行けば良い 否定ばかりしてると視野が狭くなって行くぜ!おめぇが最近思い通りのモノが撮れねぇのは…… そう言う戒めが瞳を曇らせてるんだ 義理の父への想いを裏切ると戒めている心を解放してやれよ 人の縁は否定してたら誰とも繋げられねぇぞ 人の縁を結わえて、縁(えにし)を繋げていかねぇとな いざという時……おめぇの為に動いてくれる存在はいなくなるぜ!」 孤立した自分の痛い所をズバッと言い当てられ……男は胸を押さえた 「村松康三、おめぇとの付き合いは始まったばかりだ! その付き合いは長いモノになる…… おめぇは運命の歯車に嵌まった もう変わりはいねぇ……」 赤く光る光が男を射抜き……果てを…総てを視る 男は康太に総てを見させる為に…… 心を解放した 康太の目を見れば抗えない 総て視て欲しいとさえ思った 「康三、おめぇが使いたい配役が手に入らねぇ時は想いだぜ! 飛鳥井康太の縁を手繰り寄せろ! そしたら相賀和成、須賀直人、神野晟雅が必ず力を貸してくれるだろう 繋がって損のない人材だ! そうして……近い将来……熱き想い……を撮ってくれ……」 「…勿体ない言葉……」 男は深々と頭を下げた 「こんな繋がりがあって…呼ばれたとはな 繁雄、解決した!」 康太は三木の方を見て笑った 「良かったです……今後は……どうしたら良いですか?」 「三木の家は今度こそ解体する 遺しておいてもロクな事がねぇ…… 繁雄、おめぇは悩まなくても良い! おめぇを揺るがすモノが現れようとも、飛鳥井康太が命を賭して護ってやるかんな! それが今際の際の三木敦夫の言葉だ! 何があろうともお前は護る! そして歩かしてやんよ! だから脇目も逸れずに歩いていけ! 躓きそうになったら、ちゃんと助けてやるからな! だから前だけ見て歩いていけ!」 三木は何度も頷いた 康太は三木を抱き寄せたまま、村松も引き寄せた 「繁雄、おめぇの叔父だ 康三、おめぇの甥っ子だ! 従兄弟だと公言して繋がって先を逝け」 康太は繁雄の手を取ると、村松の手を握らせた 三木は村松の手を握り締め 「繁雄とお呼びください」と言った 村松は繁雄の握り返し 「俺の事は好きに呼んでくれて構わない」と言った 二人を余所に康太は美緒を見て笑った 「美緒、総てカタ着いたわ」 「誠、見事な采配に御座います 翁は私が病院の手筈を致します」 「最期の時まで面倒見てやれ…」 「承知致しました 貴方の想いのままに……」 「三木は解体した もう三木の本家も分家も名乗らせはしねぇ!」 「貴方に逆らうモノなどおりません」 「なら帰るか美緒!」 「はい!」 美緒は一族の者を解き放った 三木の家に縋ろうと言う輩が美緒に近寄ろうとしたが、慎一と一生が警護に辺り誰も近づけなかった 康太は兵藤の胸を叩いた 「………貴史……ありがとう」 「何改まってるんだよ!」 「オレは何時も礼の言葉は述べてたぜ?」 「………何かあるのか?」 「何があるって言うんだよ?」 康太は笑った 「伊織、帰ろうぜ!」 「帰りにプリン買って行きますか?」 「お!それ良いな ならな、貴史!オレ、帰るわ」 「近いうちに遊びに行く」 兵藤の言葉に康太は榊原を見た 榊原はニコッと笑って 「康太は静養に出掛けます 白馬で少しの間過ごします」と誤魔化した 「白馬か」 兵藤は考えて身震いした 冬の白馬は……スキー場の稼ぎ時 寒いのだ 「なら帰ったら連絡くれ!」 「ええ。直ぐに連絡入れます では失礼します!」 榊原は康太を抱えて帰宅の途に着こうとした 康太と榊原が歩くと、一生と慎一が護る様に後ろを歩いた 本家を後にして、康太と榊原は車に乗り込んだ 一生と慎一もベンツに乗り込んだ 「康太、飛鳥井の家に帰りますか?」 「だな、飛鳥井に帰って……行くとする」 榊原は飛鳥井に向けて車を走らせた 飛鳥井の地下駐車場に車を停め、自分達の部屋へと帰って行った 一生と慎一もリビングへと着いて入った 一生は心配そうに康太を見て 「……聡一郎は……総て終わっても何故帰って来ないんだ?」 と問い掛けた 「今夜には還って来る」 「聡一郎に何かやらせてる?」 「古市の狸親父の息の根、止めに動いてる」 「俺も、聡一郎と合流しようか?」 「一生は子ども達の傍にいてやってくれ…」 「解った!」 「聡一郎が尻尾を掴んだら、貴史と共に動いてくれ! 総ての指示は貴史がする!」 「貴史……噛んでたのか?」 「正義と一緒に動いてる」 「そう言う事ね…… 了解、何か言って来たらサポートに回る」 一生はそう言いリビングを出て行った 慎一も「何かあれば呼んでください」と言いリビングを出て行った 榊原と二人きりになった康太は天を仰いだ 「弥勒、スワンと共に此処に来い!」 『承知した!』 待ってました……とばかりに弥勒はスワンと共に姿を現した 康太は天空を眺めて嗤った 「ガブリエル、役者は揃ったぜ!」 康太が言うとガブリエルは姿を現した 「用意は良いですか?」 「おう!何時でも良いぜ」 「炎帝は……体調を崩してるので私が抱き締めて時空の負担を掛けさせない様にします」 「オレに触るなガブリエル オレの命が尽きたら……それまでの奴だと言うだけだ…」 ガブリエルは顔色を変えた 「……貴方の変わりは存在などしない……」 「オレの変わりなんてゴロゴロいるさ」 康太はそう言い嗤った 「何かあったら言って下さい 天界の者に指一本触れさせは致しません」 「牙を剥くなら今度はトドメを刺す! だから心配無用だガブリエル オレはそんなに甘くはねぇかんな! やられたら倍返し、それを何時も心掛けてるかんな!」 ガブリエルは言葉もなかった 「それでは天界の門を開きます!」 懐に入れて天界に行けないのなら…… 炎帝の体に負担を掛けない最後の手段を提示した 康太は意外な顔をしてガブリエルを見た 天界の門……? 最高位の天使でさえ容易に開ける事は出来ないのは康太でも知っていた 「………天界の門を……開くと言うのか?」 「貴方をお迎えするのですから、天界の門位開いて見せます!」 そう言いガブリエルは艶然と笑った とても美しい笑顔だった ガブリエルは炎帝の手を取ると、跪き手の甲に口吻を落とした 「貴方に未来永劫、変わる事のない忠誠を誓います」 ガブリエルは炎帝に未来永劫の忠誠を誓った そして立ち上がるとスワンの前に来た 「………完全体になられたか…… 凄い力だ………天界の誰一人……君の様な清廉なオーラを放つ者はいない……」 改めて……ガブリエルは想う 親友の……凄さを スワンは優しく笑みを零した 「僕は炎帝のスワン それ以外になる気はない」 「炎帝のスワン……私と未来永劫変わる事ない…… 友情を結びませんか?」 ルシファーと出逢った瞬間、ガブリエルが放った言葉だった 最高位の天使の任命式に遅刻して現れたルシファーにガブリエルは興味を持ち、何かにつけてに付きまとった 傍にいれば、誰もが見えなかったルシファーの孤独が手に取る様に解った そんなルシファーの友になりたかった だからルシファーに友にしてくれと願い出た その時と同じ台詞を吐かれてスワンは懐かしそうにガブリエルを見た 「………僕は炎帝のスワン 炎帝が消える時、僕も……消える それで良いなら……」 スワンはそう言い手を差し出した ガブリエルはその手を取り…… 手の甲に口吻を落とした 「共に……君の友でいさせて下さい」 「……ガブリエル……」 「時々……逢いに行きます その時は酒を飲みましょう!」 「お前は底なしだからな……」 「気にしない、気にしない!」 ガブリエルは本当に嬉しそうに笑った スワンの顔を真摯な瞳で射抜きガブリエルは訴えた 「私には未来永劫誓った友がいました 友は……この世から消えました ですが私はまた巡り会えたとしたら…… 友に言いたかった 今度は……一人で逝かないで下さい……と。 君がいなくなったから……私は……一人になった 君以外の友など要らない…… お願いですから………次は共に連れて行って下さい……」 ガブリエルの苦しい胸の内を聞かされて…… スワンは涙を堪えた 「世の中には腐れ縁と言うモノがあります 炎帝の友の朱雀とか転輪聖王とか…… 赤龍や黒龍や他にも沢山の方がいます 炎帝といると嫌と言う程に見て来ました 絶対に切れない腐れ縁…… 君となるのも良いものですね 私と腐れ縁になって下さい」 ガブリエルの言い草にスワンは笑った 「受けて立ちます!」 スワンの言葉を貰い、ガブリエルは楽しそうに笑うと炎帝に向かい直った 「お待たせしました! それでは逝きましょうか?」 ガブリエルはそう言うと…… 天界へと続く扉を開いた 「この階段を上がれば……天界へ逝けます なぁに、少し階段の多さに辟易するかも知れませんが…… 炎帝には負担のない選択だと想います! さぁ、逝きますよ!」 ガブリエルはそう言い炎帝を扉の中に迎え入れた 青龍が慌てて炎帝の後を追い、転輪聖王とスワンも炎帝を追った ガブリエルは全員が扉の中に入ると、扉を閉じた そして優雅に階段を駆け上がり始めた 天空へ伸びる…… 銀色の螺線階段…… その先は雲に隠れていた 皆 覚悟を決めて…… 天界の階段を上り始めた

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