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第75話 天界にて ①
嫌と言う程に長い螺線階段を上り…
天界にやって来た
たどり着く頃には……息も切れて足はパンパンになっていた
到着するなりへたり込んだ炎帝にガブリエルは近付いた
炎帝の足を持ち上げると、ヒーリングのルーンを唱えた
すると張っていた足は、疲れを忘れた様に癒やされた
ガブリエルはこの調子で、炎帝の躰躯を癒やした
「辛い所はありませんか?」
「………嘘みてぇに……ねぇぞ」
「良かったです
来賓館に到着したら炎帝の服を用意しましたので着替えて下さい
青龍殿と転輪聖王殿にも用意して御座います
そしてスワン………君には天使の法衣を用意しました……
君の家の処分は……私が仰せつかった
君の家にあった法衣や家具……総て私の部屋にある……」
ガブリエルに言われてスワンは唖然とした
「………処分しなかったの?」
「………何故……処分せねばならないのか……
私には理解出来ませんでした……」
「………僕の法衣を着せて……君は何をしたいの?」
「………大天使ルシファーは名乗らせる気はない……
未来永劫、大天使ルシファーの名は誰にも名乗らせはしない!」
スワンはなんと言って良いか解らなくなった
「………神は……天界への扉を開けるのを知っていて何も申されなかった……
大天使ルシファーの法衣を着せたとしても……何も仰らないのでは……と期待してます」
ガブリエルはゆっくりとした歩調で歩き出した
「この先に馬車が用意してあります」
そう言い馬車まで導いた
馬車は2台停まっていた
1台に炎帝と青龍、転輪聖王が乗り込み
もう1台にスワンとガブリエルが乗り込んだ
炎帝は天界を眺めて……
「此処へ来ると何時も想うが……
この気取った空気が嫌いだな……」
とボヤいた
弥勒は「我はお前がいるなら何処でも楽園だ」と真顔で言った
炎帝はそれを聞いて笑った
「なら天界で暮らすかな?」
「………すまぬ……嘘ついた
だから天界で暮らすのは止めてくれ……
我は……お前がいれば何処でも楽園なのは確かだが……
天界で暮らしたくはない……
我は魔界が好きだ……お主がいてくれる魔界は楽園だ」
「天界にオレの居場所はねぇ……
オレは炎帝……閻魔大魔王の弟だぜ?
魔界以外の処では住めねぇよ」
康太はそう言い笑った
たわいもない話をして、天界の景色を眺めていた
もう一台の馬車に乗ったガブリエルとスワンは静かに時を過ごしていた
「……スワン……」
「何ですか?」
「私の寿命もそうは長くはない……
天使は最期に一つだけ願いを叶えて貰えると言う……
私は魔界に……スワンの傍に……堕として貰うつもりだ」
ガブリエルは静かに語った
スワンは驚愕の瞳をガブリエルに向けた
「………それはダメだ……」
「もう決めたのです」
「………何で……そんな事を言う……」
スワンは涙を流した
「私が友と決めたのは唯一人
私は何時も君に言った筈だ
役務を終える年になったら二人で何処かへ行って静かに暮らそう……と。
忘れたのですか?」
「………そんな約束……反故だろ?」
天界から墜ちた時に反故になってて当たり前の話だった
「もう……何者にも邪魔されたくないのです
私は孤独な天使ではない
君という友を得て……共に逝くと決めたのです」
「………お前の立場が……」
「君の前にいるのは悪ガキのガブ!
僕の前にいるのはお説教ルシ!
何一つ変わってなどいない!」
ガブリエルはそう言い声を出して笑った
「魔界に行ったなら……性別を男にして貰おうかな?
それで、炎帝夫妻の様に仲良く暮らしましょう」
「………僕と夫婦になるつもりかい?」
「君が嫌なら夫婦にならなくても良いです
ずっと暮らしていけたら良いのです」
「………嫌とかじゃなく……何か照れる……」
「それまでは天界は護ります!
炎帝が護る魔界に害を及ぼさぬ様に身命掛けて守り通します!」
「………時には人の世においでよ
一緒に飲もうよ…」
「ええ……楽しみですね」
ガブリエルは出逢った頃の様な優しい笑みを浮かべていた
この顔を見られるのはルシファーだけだった
心許したルシファーにだけ見せる笑顔だった
この顔を見れば……
時を超え……
出逢った頃に戻れる錯覚に陥る
だが……今は相容れない存在なのは……
確かだった
ガブリエルから慈愛の光が優しく包み込んでいた
この光は……天界に在るからこそ美しい
ルシファーの誇りだった
輝けるガブリエル
君は僕の唯一無二の誇りだ
ルシファーはその姿を瞳に焼き付ける様に……
何時までも見ていた
来賓館に到着すると、ガブリエルは皆を部屋に案内した
部屋にはそれぞれの召し物が用意してあった
「今宵は晩餐を楽しまれて寛いでお過ごし下さい
明日、評議会法廷でルシファーと名乗る者の評議を致します
その時、君達にも同席お願いします」
ガブリエルが説明すると炎帝は
「解った!
なら着替えたら晩餐会か?」
「はい!晩餐会には私も、上位天使数名も同席致します!
毒を盛るなど……させはしません!」
「天界に魔界のモノは驚異だからな……」
「自分達の保身に走る姿こそ醜く驚異なのに気づかぬ愚か者です
気にする事などありはしません!」
ガブリエルはキッパリと言った
そう言い深々と頭を下げて部屋を出て行った
案内された部屋は炎帝と青龍が一部屋
弥勒とスワンは個室を貰った
炎帝と青龍は部屋に入り着替えた
青龍はそっと炎帝を背後から抱き締めた
「疲れましたか?」
「疲れならガブリエルが取ってくれた」
「僕もヒーリングのルーンを学びたいです
君に触って良いのは僕だけです…」
「………ガブリエルは癒やしの意味だぞ?」
「解ってます……でも妬けるのです
愛する男は嫉妬深いのです……許しなさい」
炎帝は抱き締めてる青龍の手を取ると、優しく口吻た
「オレは青龍だけだ!
未来永劫、オレが愛を誓うのは青龍だけだ
オレは青龍しか瞳には映らねぇ……
お前しか愛せねぇ!」
「僕も君しか愛せません」
青龍は強く……炎帝を抱き締めた
「青龍、腹減った…」
「食べて大丈夫……ですか?」
退院までお粥だったのだ……
晩餐会と言うだけあってご馳走なのだろう
「食えなくなったら止める」
食えなくなるまで……食うと言う事だよな……
と青龍は諦めた
「無理だけは……」
「しねぇよ!」
青龍は炎帝に用意してある服を着せた
閻魔大魔王とは対になった正装
赤地に金の刺繍をしてある閻魔の服に似た燕尾服だった
炎帝は銀糸の刺繍がしてあった
青龍は龍族の正装だった
炎帝を着せて、青龍も着替えた
「何時見ても……素敵だ青龍」
うっとりと呟かれ……
ベッドに押し倒したい衝動に駆り立てられた
そんな青龍の煩悩を知ってか知らずか……
ドアがノックされた
青龍がドアを開けに行こうとすると、炎帝は青龍の手を掴んだ
「空いてる!入れ!」
ドアに向かって声を放った
するとドアが開かれた
そこには……
銃口を炎帝と青龍に向けるミカエルとウリエルが立っていた
炎帝は唇の端を吊り上げてニャッと嗤った
「下級天使のミカエルとウリエルじゃねぇかよ?」
炎帝は敢えて侮蔑の言葉を放った
ミカエルはフンッと鼻で嗤った
「懲りない魔族は再び天界に介入して来る…
お前たちの介入など無用!」
「オリンポスの十二神の復活は無理だ諦めろ」
図星を刺されてミカエルは炎帝に近付いた
「何の話か解りません」
「お前たちが必死に復活を望んでもオリンポスの十二神は復活などしない!」
「聖地アテネで復活されると予言は出ている」
ウリエルはヤケになり叫んだ
ミカエルはウリエルを止めた
「十二神は存在せぬ!」
「………そんな事はない!
大天使ルシファーだって復活なされたのだ!」
「その天使は偽物だ!
ベルゼブブかアスモデウス辺りに踊らせられたか?
ルシファーの復活はない……と思った愚か者の考えらしいな
悪魔にもなれない
天使にもなれない
堕天使貴族と言い張る愚か者の考えだな」
「煩い!黙れ!」
ミカエルは怒鳴りつけた
「冥府の王ハデスはその遺体さえない
オリンポスの十二神も然り!
なのにどうやって復活すると言うんだ?」
「…………復活するのに遺体など必要ない!」
「遺体は必要ないけどさ、核になる部分はどうするんだよ?
核を持ってねぇのなら復活は難しいぞ?」
「ええい!煩い!」
ミカエルは吠えた
そこへガブリエルがスワンと共にやって来た
ガブリエルはミカエルとウリエルを一瞥し
「煩い蠅は叩かれますよ?」と嗤った
蠅……ベルゼブブの事を暗に言っていた
ミカエルとウリエルは何も言わずに引き下がって部屋を出て行った
「……懲りねぇな……」
「仕方ありませんよ……
何故か…天界に力を持ってるみたいなので…」
「天界ごと封印すれば余計なもんは入ってこられねぇぞ?」
「それをやろうとしたら……横槍が入りました……」
「だろうな……」
「………オリンポスの十二神……本当に復活はないのですか?」
「…………ねぇな!」
「何故?何故言い切れるのです?」
「………オリンポスの十二神は神の継承を拒み……在るがままの寿命を謳歌した
継承していれば……オリンポスの十二神は……
未来永劫続いていた
それを拒んだから彼等は滅び消えたと謂われている」
「……現実は……違うのですか?」
「神々の時代が終わった時、オリンポスの十二神も終わる事を選んだ
だが簡単には消えられない
力は遺るからな
遺った力を誰かに悪用されかねないと考えた十二神は力を分散させ飛ばした
十二神の力は選ばれし存在に継承された
十二神の中で血肉と骨を分け与えたのは……冥王ハデスだけだった」
「………ハデスの血肉と骨を分け与えられたのは……誰なのですか?」
「皇帝閻魔……彼一人!
皇帝閻魔はハデスの血肉と力総てを継承した」
ガブリエルは言葉を失った
「冥王ハデスの魂はこの世を去ったが、力は継承され今も親父殿の中で生きている
神々の力は継承されてこそ発揮できる
オリンポスの12神は継承する事を拒み、この世を去った
意味する事は解るよなガブリエル」
そう言い炎帝はフンッと皮肉に嗤った
ガブリエルは炎帝の言葉の意味を噛み締めていた
「皇帝閻魔はその力を半分、我が子に継承した
もし冥府に押し入った誰かに力を奪われたとしたら‥‥ハデスの完全復活に繋がる
それを避ける為に、皇帝閻魔は我が子に力を与えた
化け物を更に化け物にしたって訳だ」
青龍は炎帝を抱きしめた
「僕は君の魂さえ入っていれば……
何者でも構いません!と、言いませんでしたか?
なので、自分の事を化け物と言うのは辞めて下さい」
「解ってんよ青龍……だが聞いててくれ……
冥王ハデスは血肉を遺した
奪いに行こうとしても冥府には簡単には行けねぇ……
それにもし親父殿が殺されたとしても、そいつ等がハデスの血肉を奪うのは皆無だ
親父殿の軀が消滅する時、総ては皇帝炎帝が受け継ぐ事となる
こんな風にカタチがあるのはハデスのみ
後は辿ろうとしても皆無だ
そんな状態で十二神の復活など有り得ない
ベルゼブブ辺りは偽物のオリンポスの十二神でも作って神の座を手にしたいんだろうがな!
目に見えぬ創造神など存在しないも当然と踏んだんだと想う」
「………ベルゼブブが噛んでると…言えるのですか?」
ガブリエルは問い掛けた
「アスモデウスはおめぇがフルボッコにしたんだろ?」
ガブリエルはバツの悪い顔をして
「………フルボッコにはしてません!
天界から追放しただけです」と答えた
「おめぇさ、天界から追放したモノが何処にいるか知ってるか?」
「………堕天使……ですか?」
「そう!そう言う奴等が何処に生息してるか知ってるか?」
「………知りません……
貴方は知ってるのですか?」
「だから天界にいるんだよ!オレは!」
ガブリエルは信じられない‥‥と呟いた
「………ひょっとして……天界にいるのですか?」
「天界の結界、これは絶対だ!
神の啓示だと想え!」
ここ数日天界は慌ただしかった
神の扉が……開いていた
滅多と開かない神の扉が開いていて……
扉の奥から声が聞こえた
【皇帝炎帝を天界に召還せよ】
と言う声だった
皇帝炎帝……
冥府に行かねば逢えぬ存在だった
ガブリエルは崑崙山へと降り立った
『八仙……皇帝炎帝と言う方をご存知ですか?』
『神が呼んだのか?』
『………そうです…』
八人の仙人は口々に口を開いた
『皇帝炎帝は冥府におらぬ…』
『………何処へ行けば逢えますか?』
『天魔戦争の傷も癒えぬ時、天使の攻撃を受ければ魔界は滅ぶ…
そう考えた魔族は神々の力を持ち寄り冥府の破壊神……皇帝炎帝を呼んだ……
魔界にいる炎帝は……皇帝炎帝、その人だ』
『………炎帝が皇帝炎帝なのですか?』
『炎帝は人の世にいる』
ガブリエルは信じられなかった……
信じたくなかった
だが……神の啓示が本当なら天界に炎帝を呼ばねばならなかった
そうして炎帝のいる人の世に下りた
炎帝は総て解っている様にガブリエルの存在を知っていた
ずっと炎帝の傍にいた
切り出せずに遠くから見ていた
炎帝はそんなガブリエルの存在を知っていて、見て見ぬふりをした
そして……この目で……皇帝炎帝になる所を目にした
炎帝はガブリエルの存在を知っていて……
皇帝炎帝になった
信じられないが……
彼が皇帝炎帝であるのは紛れもない事実だった
炎帝……
彼は……神が最も愛すべき……
だと想っていた
違うのか?
何故神は炎帝を特別に……
解らない事ばかりだった
「ガブリエル、神は天界の粛正を望んでんぜ!」
「………どうしろと?」
「オレの傍へ来いよガブリエル」
ガブリエルは炎帝の傍までやって来た
「跪け……」
ガブリエルは炎帝の前で跪いた
炎帝はガブリエルの背後から抱き寄せた
「耳を澄ましてみろよ?」
「………耳を?」
「そう、耳を!」
そう言い炎帝はガブリエルの右耳に噛み付いた
物凄い痛みが……ガブリエルを襲った
「………なっ……」
耳を押さえると血が流れていた……
炎帝はその傷をペロペロと舐めた
すると次の瞬間には……血も痛みも引いていた
「これで聞こえる
聞いてみろよガブリエル
自分の耳で聞けば神の意図は解るはずだ」
耳を澄ませば………
声が聞こえた
“ガブリエル…我の声が聞こえるか?
天界は本来の目的を失って走り出している
炎帝が前回天界に来た頃より悪化しておる
このままでは………
天界は堕天使の傀儡になりかねない
我の声が聞こえるなら正して行けガブリエル
神の子よ
天界に総結界を張り邪悪なモノを封印せよ”
頭に声が響いた
声なのか?
声に聞こえるが……
声を聞いてる気はしない……
「炎帝の力を借りて全力を尽くします!」
ガブリエルは神に跪き忠誠を誓った
ガブリエルは炎帝を見た
「………あれは……神の声……なのですか?」
「お前はどう思うよ?」
ガブリエルは炎帝を射抜いた
「天界を堕天使の傀儡にする気はない!
炎帝、力を貸して下さい」
「なら呼ぶか……」
炎帝はテラスへと出た
ガブリエルや青龍、転輪聖王とスワンもテラスへと出て見守った
天高く両手を掲げると、炎帝は呪文を唱えた
それはガブリエル達天使しか唱えられないルーンの呪文だった
ガブリエルは炎帝を、やはり……と言う瞳で見ていた
天空から甲高く鳴く声が響き渡った
「…………ペガサス……」
ガブリエルは呟いた
まさか……天界にペガサスがいるなんて……
遥か昔にはペガサスも一角獣もいた
長い天魔戦争でペガサスも一角獣も天界を離れて姿を見なくなった
「ペガサスだけじゃねぇぜ!
遙か向こうの大地を見ろよ」
炎帝に言われて遙か向こうの大地を見ると…
駆けてくる姿があった
額に角を生やした一角獣
頭に牛の角を生やしたミノタウロス
頭は人間胴体は馬のケンタウロス
それらが炎帝の近くへと駆け寄って来た
「東西南北 結界を護る聖獣を配置する」
ペガサスが炎帝の横に静かに下り立つと、炎帝はペガサスの躯を撫でた
「よく来てくれたペガサス」
「貴方が呼ぶのなら私は何処へでも逝く…
そう誓った……」
「天界の礎になってくれねぇか?」
「貴方が望むなら……礎になりしょう!」
「ありがとうペガサス
ユニコーン、おめぇもよく来てくれたな」
一角獣は炎帝に擦り寄った
「貴方が呼べば我らは何処へでも逝く」
炎帝はミノタウロスとケンタウロスを撫でた
「お前達を呼んだのは東西南北結界を護る聖獣になって貰う為だ!
東西南北、結界を護る聖獣を配置する
そして天界の門を護る番人にオーディンを呼ぶ」
ガブリエルは初めて耳にする人物に
「………オーディン?」と問い掛けた
「知らねぇか?
北欧神話の主神オーディンを?」
「………知りませぬ……」
「審判の神でもある
彼を呼んで天界の正義を問い質す
天界から勝手に行き来出来ねぇように番人を置く
それによって天界は正しき道に軌道修正される」
「………神は……知っておいでなのですか?」
「さぁな、知ってようが知らなかろうが、やるしか道はねぇんだ!
そこまでやらなきゃ天界は堕天使の傀儡になるしかねぇ!」
「………オーディンは……何処におられるのですか?」
「もう天界に来てんぜ!
腐った天界を見て歩いてるんじゃねぇかな?」
「………解りました……」
「ペガサスや一角獣、ケンタウロスとミノタウロスは来賓館の中庭に放っておく
危害を加えようと言う輩が来たら彼等は攻撃をする
……とだけ言っとく
翌朝……誰かが死んでたら、ソイツは殺しに来たから殺されたんだと想ってくれ」
「解りました
では、遅くなりましたが晩餐をとろうではありませんか」
ガブリエルは炎帝達を晩餐のテーブルに案内した
天界自慢の料理を口にして、炎帝はボヤいた
「………オレはやっぱし井筒屋の沢庵が良いな」……と。
弥勒は康太らしくて笑った
食事を終えると、それぞれの部屋に戻り寝ることにした
その夜、青龍は大人しく眠りについた
青龍曰く
「………最中に襲って来られたら二人して串刺しですね」
「………オレ……おめぇに串刺しにされ
暴漢に串刺しに刺しにされるのは遠慮してぇな」
と炎帝が言ったから大人しく眠ることにした
だが同じベッドに潜り込み抱き合って眠りについた
眠りに落ちる瞬間
「総ては明日だ……
解ってるだろ?」
と呟いた
誰に放った言葉なのか計り知れないうちに……
青龍も眠りに落ちた
翌朝 悲鳴と喧騒とで目が醒めた
寝ぼけた炎帝は目を擦り青龍を見た
「中庭で誰かが死んだか?」
「………多分……そうでしょうね」
「だから言ったのに……
ペガサスはじゃじゃ馬で気に入らねぇと後ろ足で蹴り殺す
一角獣の角には猛毒が塗ってあって刺した瞬間死ぬ
ケンタウロスはペガサス同様……蹴り殺す
ミノタウロスはあの角と力で……殴り殺すか引き裂いて殺す
アイツ等に近付こうなんて奴いるんだな
天界の奴等はチャレンジャーだな!」
炎帝はそう言い笑った
青龍は笑えなかった……
「アイツ等が大人しく触らせるのは誓った相手だけ……」
「君は……彼等と誓ったのですか?」
「オレの場合、ノシて服従させたんだ
だから焼き馬や焼き牛にはしないでやった」
なんという言い草……
青龍は炎帝の礼装を着せた
そして自分も正装すると部屋を後にした
中庭に行くとガブリエルが立っていた
「誰か死んでたのかよ?」
「………はい……無残な骸が倒れておりました」
「仕方ねぇわな?
ソイツ等はコイツ等を襲おうとしたんだからな!」
「……何故?理由は何なんですか?」
「東西南北結界を張られたら困る輩の仕業だろ?」
「………天界は……そこまで腐ってしまわれたか……」
「嘆く暇はねぇぞ!
ルシファーを名乗る輩の正体を暴いて、結界を張る!
それが今回天界に来たオレの使命だ!」
「朝食を取られた後評議会を開きます
後で評議会法廷までお連れ致します」
「おう!そうしてくれ!
オレも暇じゃねぇんだ
まだ人の世でやらねぇとならねぇ事がある」
「解っております」
ガブリエルは炎帝に一礼すると骸を片付けさせた
炎帝は朝食を取りに食卓へと向かった
転輪聖王もスワンも炎帝と青龍と共に朝食を取りに向かった
朝食を食べてるとガブリエルがやって来た
「ガブリエル、煩い蠅は黙らせれば良い
オレが黙らせてやんよ!」
とニィッと嗤った
背筋が凍る程の笑みだった
炎帝はその後は何事もなかった様に朝食を終えた
全員が朝食を終えると、炎帝はガブリエルに
「逝こうぜ!」と催促した
炎帝のその瞳には……
何が映っているのか?
その赤い瞳で何を見ているのか?
果てを見る瞳は妥協は許さない強い光を放っていた
ガブリエルは評議会法廷を開いた
陪審員は置かぬ評議会裁判となった
炎帝は評議会法廷の中心に座っていた
足を組んで、肘置きに肘を付き法廷に来た輩を見ていた
炎帝の左右には青龍と転輪聖王が座っていた
スワンは炎帝の少し後ろに立っていた
評議会法廷に参列させたのは炎帝が名簿から見た人選された者だった
公開法廷とし、その映像は天界中央広間にスクリーンを設置して放送した
ガブリエルは「これより評議会裁判を始めます!」と宣誓した
「大天使ルシファーと名乗る赤ん坊についての評議会法廷です」
会場はざわついた
炎帝はフンッと皮肉に鼻を鳴らすと
「大天使ルシファーなど天界には存在しない!」と言い放った
評議会裁判に出席したのは上級3隊 1位から3位の熾天使 智天使 座天使と
中級3隊 1位から3位 主天使 能天使 力天使達だった
その中にミカエルとウリエルもいた
天使達は「大天使ルシファーなど天界には存在しない」と言われてざわめいた
ミカエルは「なれば証明して下さい!」と炎帝を挑発した
「大天使ルシファーの核は天魔戦争の時、素戔嗚尊の剣よって飛ばされた
ルシファーは総てを捨て去った
だから復活する気はなかった
その核をオレは貰い受けスワンの中に入れた
お前達も見れば解るだろ?
その名は捨てたが、大天使ルシファーだ
本人が此処にいて、どうして大天使ルシファーが復活するのか教えて貰いたい!」
ミカエルは……炎帝の後ろに立つ存在に目をやった
何処から見ても大天使ルシファーだった……
銀色の妖炎を立ちこめて流している姿は……
地に墜ちた天使ではなく……
大天使ルシファーだった
スワンは口を開いた
「天界に大天使ルシファーは不要です
望んでなどいない……存在してはなりません」
本物に言われれば……霞んでしまう……
ミカエルは悔しそうに唇を噛んだ
ガブリエルは立ち上がると
「これから言う事は神の啓示です!
心してお聞きなさい!」
と評議会法廷にいる者に言い放った
ウリエルはガブリエルに食って掛かった
「神の啓示?
その神が至高天の扉から姿を現した事がありますか?
声すら、聞いた者はいない
それなのに神の啓示?
我等は神と名乗る輩に上手く利用されているだけだ!」
そーだ!そーだ!神なんて存在しない!
評議会法廷の天使達は騒いだ
炎帝は皮肉にそれを見て嗤った
天を仰ぎ「あんた……どんだけ存在感ねぇんだよ?」とボヤいた
“聞こうとする者がいないから聞こえぬのだ”
評議会法廷に声が響き渡った
皆、ピタッと押し黙った
「あんたが姿を現せば救われた者もいる筈だ
それを放置して好き勝手やらせすぎたな」
“欲に溺れれば……その目も耳も神の声は聞こえはしなくなる……
何時から……天界は神の存在を信じなくなったのか……”
「閉じたまんまのドアを見りゃあ……
神の不在を想うしかねぇだろ?」
“我は…天界を無にしようかと想った
総てを消し去り……無にして新しく作る方が早い……
そう想っていた……”
「そりゃあ作り替えた方が早ぇわな!
でも何の努力もしずに消されたら、たまったもんじゃねぇわな!」
“愛しき我が子よ……
お前の手で正しておくれ”
「………オレはおめぇの愛しき我が子じゃねぇけどな!
オレはアンタの駒だ!そうだろ?」
“お前の想う通りに配置してくれ
それが適材適所 配置するが役目のお前の仕事……”
「あぁ、仕事はするさ!
天界を傀儡の巣窟にする気はねぇかんな!
正しき道にいない天界は脅威だ
天界に墜ちた影は……
人の世を乱し、魔界に影を掬う脅威となる!
それだけは阻止しねぇとな!」
“総ては皇帝炎帝、お主に託す!
本来の姿になられよ炎帝よ!”
「………オレが死んだら恨んでやるからな…」
“大丈夫だ炎帝よ
此処は天界……本来の姿になったとて人の体躯の負担になどならぬ”
「なら本来の姿になってやんよ!」
言うなり炎帝の体躯を紅蓮の炎が包んだ
真っ赤な髪と真っ赤な瞳をした……
皇帝炎帝が立っていた
「我の名は皇帝炎帝!
神から全件を託された
オレの言葉は神の神託だと想え!」
ガブリエルは皇帝炎帝の前に跪いた
「総て貴方の想いのままに!
我等は貴方の想いのまま動きます」
「オレに仇なす奴は、その場で焼き尽くす!
オレの焔に焼かれれば未来永劫 再生の道はねぇ!
オレの焔は総てを“無”に還す!
それでも良いならオレに逆らえよ?
オレは容赦しねぇぞ!
ましてや伴侶に手を出せば……無になどしねぇ!
一番苦しむやり方で焼き殺してやる
意識を保たせたまま……ジリジリと焼き殺してやる!
覚えとけ!」
ガブリエルは皇帝炎帝の前に跪き
「貴方は神の愛しき子
貴方に逆らうと言う事は神に逆らうも同然
仕方ありません!」
と言い捨てた
「手始めに、ルシファーと名乗る子供をオレの前に連れて来いよ」
皇帝炎帝が言うとガブリエルはニャッと嗤った
配下の者に赤ん坊を連れて来させると皇帝炎帝に渡した
皇帝炎帝は赤ん坊を見ていた
じっと赤ん坊を見て……赤ん坊の顔を覆った
「………次に生まれ変わるなら……
人に利用されねぇ力を持って生まれて来い
………コイツは朱雀に預けるとしよう……」
人の輪廻転生を司る神 朱雀
皇帝炎帝は両手を天高く掲げると
「朱雀、来いよ!」と呼んだ
暫くすると真っ赤に燃える鳳凰より少し小ぶりな火の鳥が姿を現した
天界の者も……
朱雀を目にした者はいなかった
名は知っていた
輪廻転生を司る神と言う認識はあった
「おめぇ、白馬にいるんじゃなかったのかよ?」
朱雀は皇帝炎帝を見て吠えた
清廉な炎が朱雀の身を包んでいた
朱雀はまだ鳥の姿のままだった
「天界から招待されてんで来た」
「………で、俺を呼んだ理由は?」
「この赤ん坊……輪廻の輪に入れ魔界に堕としてくれ!」
「………この赤ん坊は?」
「……利用され……傀儡にされた子だ
この世に生を成して……オレの焔で焼き消されるのは……憐れだ……
次の転生先は炎帝の子として……魔界に生を成させてくれ…」
「………おめぇの子?
誰の腹に下ろす?」
「………腹に下ろさずに……出来ねぇか?」
「無茶言うよ……この子は……」
朱雀は……困った顔をした……
「………なら銘に産ませるか……」
「………止めとけ……おめぇの子を……
産ませれば……余計苦しめる……」
「……なら誰もいねぇじゃねぇか……」
「………仕方ねぇ……閻魔の庭に赤子のまま産み出させ、転生させる
閻魔に回収する様に言っとく……」
「悪ぃな朱雀……」
「おめぇの頼みは何時だって最優先で聞いてやる!
だから!おめぇが還るまで俺も天界に留まる
それでチャラにしてやんよ!」
「助かるわ!
天界の総結界に役立つわ」
皇帝炎帝はそう言い笑った
その顔は愛して止まない……炎帝の顔だった
そんな顔で笑われれば……
言う事を聞かない訳にはいかなかった
「………クソッ……手伝ってやんよ!
では、この子はおめぇの子として魔界に堕とすぞ!」
「頼む……このまま生を終わらせるのは憐れだ…」
朱雀は赤ん坊を口に咥えると呪文を唱えた
天高く燃える鳥が飛び立ち……消えた
暫くして、真っ赤な鳥が炎帝の横に下り立った
「総てはお前の想いのままだ!」
朱雀はそう言い人のカタチになった
「ありがとう朱雀……」
朱雀は皇帝炎帝をそっと抱き寄せた
「この髪……どうしたよ?
体躯は……大丈夫なのかよ?」
「……此処は天界だから……本来の姿になれと言われた」
朱雀は……誰に?……とは聞かず
「………そっか……無茶すんじゃねぇぞ」と言い皇帝炎帝を離した
「ガブリエル、朱雀が簡単に天界に来たのが不思議か?」
皇帝炎帝が呼んだとしても……
こんな風に意図も簡単に来られるとは……
想ってもいなかった
「………はい……」
「朱雀は魔界に属するが、その役割や存在は天使に近い……
朱雀を拒むモノなど存在はせぬ」
「………鳳凰を……初めて目にしました……」
「朱雀だガブリエル
この男の前で鳳凰謂うのは止めといてやれ!
輪廻転生……人の生き様を司るのは朱雀のみ
それは天使だって領域侵犯出来ぬ存在だかんな!」
「………それだけ……ではありませんよね?」
「朱雀はオレの声なら何処にいたって聞こえるし、飛んでくるだけだ!気にするな」
それだけの絆があるというのか?
ガブリエルには解らなかった
その時……スワンが言った言葉を思い出した
『世の中には腐れ縁と言うモノがあります
炎帝の友の朱雀とか……』
だから腐れ縁になってあげます……とスワンは言った
スワン……君は……こんな素敵な腐れ縁を身近で見て来たのですね……
ガブリエルは胸が熱くなった
「んじゃぁガブリエル
天界に結界を張るか!
東西南北結界を張り巡らして魔獣を配置する
あ、そうそう、オーディンを呼ばねぇとな」
皇帝炎帝は呪文を唱えた
すると評議会法廷のテーブルの真ん中に……
神の装束をした男が立っていた
真っ白な布を身に纏い男は残酷に嗤った
「あまりにも腐った場所にいすぎて腐敗臭で体躯が穢れたわい……」
男は面倒臭そうに、そう言い放った
「オーディン、そう言ってくれるな」
「我を呼び出して何をさせたいのだ?皇帝炎帝!」
「解ってんだろ?
天界から北欧の地はよく見える
北欧の地を守りつつ、天界の門を護ってくれよ!」
「護るのは容易い……
だが腐った器のまま閉じれば、腐敗は止められぬぞ」
「だから掃除すんだよ?
天界の結界!即ち天界の浄化
オレが昇華して生き残った奴だけ生存させる
欲に抗った輩は消えれば良い!」
「それは一番効率がよいわな!
我は腐った場所に立つのは許せぬ!」
「東西南北、魔獣を配置する
簡単に天界に出入りが出来るとは思うなよ!
堕天使共がいる場所から一切出入りは出来なくなる!
天界は聖なる地!
堕天使共が好き勝手出来る地ではない!」
「なれば、天界の門の番人になってやろう!
創造神とは久方ぶりに語り合うには良い機会かもな!
お主は弛みすぎておる!と説教言ってやる」
「おー!そうしてやってくれ!」
「東西南北、容易に近付けぬ魔獣を配置するなら天界も好き勝手出来なくなる
そしたら……魔界に行くかも知れぬぞ?」
「魔界に来るなら来れば良い
好き勝手出来ねぇ様にオルトロスが待ってるかんな!」
「………ほほう……オルトロスはお主に仕えていたのか?」
「オルトロスだけじゃねぇぜ!
フェンリルとニーズヘッグも放ってある
普段は姿を隠しているが不穏な空気を嗅ぎ取ったら……アイツらは動き出す
まぁ、オレがいねぇ間の保険だ!」
「そりゃ……お主程ではないが、役には立ちそうだな」
「おめぇの愛馬スレイプニルも呼んどいてやったぜ!」
「それは本当か……なれば、腕によりをかけようかのぉ」
「おー!頑張ってくれ!
これよりオレは昇華の焔で天界を焼き尽くす
朱雀は頑張って焔に風を送り焼き尽くす手助けをしてくれるからな!
早く焔は天界を駆け巡るだろう!」
「………朱雀は……お主の焔で……消えたりはせぬのか?」
「朱雀は…オレの焔で消えたりしねぇ……
オレの心臓を狙えるのは……朱雀のみ……
アイツはその思惑で創られし神だ」
………言葉もなかった
炎帝にトドメを刺す為だけに……
創られた神だと言うのか……
「気にすんなオーディン!
オレとアイツはそんな事じゃ切れねぇ絆があんだよ!」
皇帝炎帝はそう言い笑った
「んじゃ、ガブリエル始めっか?」
「はい!天界の為です
多くの犠牲者が出るかも知れませんが……
それは明日へと続く為に必要な犠牲だと想います……
変われないなら変えてみせるしかありませんからね!」
「解ってんじゃんガブリエル」
「………総ては明日の天界の為です」
「んじゃぁ行くぜぇ!」
皇帝炎帝は焔を立ち上らせた
朱雀がその焔を煽り広げて行く
焔に風を送り、焔を挑発させる
挑発された焔は更に威力を増して天界全土を焼き尽くす勢いで燃えて行った
皇帝炎帝は焔を見てガブリエルに
「オレの焔は総て無にする能なしじゃねぇぞ」と笑った
「解っております
コントロール出来る様になられたのですね」
「コントロールと言うより気持ちの問題だ
総て焼き尽くすつもりがねぇかんな!
昔は……総て焼き尽くし“無”にしてやるつもりだった……
今は無にする気はねぇからな……」
なんと言って良いのか……解らなかった
皇帝炎帝は端っから返事など期待していなかった
「ガブリエル、天使というモノは本来、主君には忠実な僕な筈だ」
「………そうですね」
「中身だけ挿げ替えられたとしたら?」
「………え?……その様な事が……」
「お前の忠実な僕のミカエル
あれをお前の手足として創ってやろうか?」
「………忠実な僕……として……ですか?」
「羽根を1枚寄越せ」
「……え?……嫌です痛い……」
「仕方ねぇな……青龍、引っこ抜け!」
妻に言われ青龍はガブリエルの羽根を1枚摘まんだ
「………青龍殿……止め……」
「妻が言ってます
僕は妻の願いは何だって叶えてあげたいのです!」
「………願いを叶えるのは勝手だけ……ギャァー」
青龍はガブリエルの羽根を1枚抜き取った
涙目になったガブリエルをスワンは撫でた
「………酷い……」
しくしく泣くガブリエルは無視して皇帝炎帝は羽根に呪文を投げ掛けた
そして……
「ガブリエル、血!」
と要求した
「……痛いから……」
嫌だと言う手を掴み、皇帝炎帝は指に噛み付いた
「オレの血だと天使は出来ねぇんだよ」
噛み付かれた指からは血が滴っていた
羽根に血を垂らし………再生のルーンを唱えた
ガブリエルクラスの天使でも……難しいルーンだった
やはり……天界のルーンを自在に操る皇帝炎帝に神との結び付きを考えていた
神のみぞ知るルーンを唱え……
天使を再生する皇帝炎帝
彼は一体何者なのか?
ガブリエルの羽根と血とで再生された天使はミカエルと同じ容姿をしていた
目を開いた天使に皇帝炎帝は
「おめぇは大天使ガブリエルに仕える天使だ
名をミカエルと言う!」
と告げた
ミカエルはガブリエルを見つめ、跪いた
「私はガブリエル様の僕ミカエル」
「ガブリエルと共に在れ!」
皇帝炎帝はミカエルの頭に手を乗せた
神の啓示を目の前で見ている様だった
「ガブリエル」
「何ですか?」
「ウリエルと言うルシファーによく似た天使
創ってやろうか?」
「………ルシファーと良く似た?」
「ルシファーの羽根と血で創ってやんよ!
ウリエルの総てはルシファーの一部だと想え
例え一緒の時は過ごせぬとも……
ガブリエルの力になりたい……スワンの願いだ!」
「………スワン……」
ガブリエルはスワンを見た
スワンは皇帝炎帝に羽根を差し出した
「スワン、抜いた後舐めてやるからな!」
そう言い皇帝炎帝はスワンの羽根を1枚抜き取った
抜いた羽根の後を皇帝炎帝はペロペロ舐めた
「痛い想いさせたな……」
「構いません……」
皇帝炎帝はスワンの羽根を手にして、スワンに口吻た
唇を噛み切られ……その唇から鮮血が流れた
皇帝炎帝は羽根に血を垂らすと、スワンの唇を舐めた
そしてルーンを唱えると……ルシファーに似た容姿の天使が姿を現した
皇帝炎帝は天使の前に立つと
「おめぇはウリエル!
大天使ガブリエルに仕える為に生まれた存在だ!」
と伝えた
ウリエルはガブリエルの前に跪くと
「この命、ガブリエル様に捧げます」と誓った
「ガブリエル、おめぇには、いざという時に手足になって働く配下がいなかった
この2人を使って天界を曲がらぬ様に導いて逝け!」
「はい!絶対に曲がらぬ様に逝きます!」
昇華の焔が収まるまで皇帝炎帝は待っていた
青龍と手を繋ぎ、寄り添い合い……
待っていた
「青龍、還ったら子供達を遊園地に連れて行かねぇとな…」
「淋しい想いをさせましたからね…」
「還ったら少し休む
どの道、年末年始は家族で過ごす約束だかんな!」
「……ええ……約束でしたね」
端から見ても恥ずかしい程に……愛し合ったカップルだった
青龍は「………あの子は……どうして君の子にしようと想ったのですか?」と問い掛けた
「生まれながらに力を持って生まれたからな……利用され傀儡にされた……
その力……炎帝程ではねぇが……次代の炎帝をやらせても良いかと想う程だった」
「………そうですか……
君の継ぎはいませんでしたからね」
「オレはいなくても構わなかった
でも閻魔に……愛すべき存在を遺してやるのも良いかと思ってな……」
「次代の炎帝にも僕の様な愛する者が出来ると良いですね」
「青龍はオレだけのだからな!」
「解ってます
君には僕だけです」
青龍はそう言い皇帝炎帝に口吻た
ガブリエルはそれを見て……
恥ずかしいわ……この人達……
と想った
なのに……何故誰も止めない?
転輪聖王もスワンも平気な顔をしていた
朱雀に至っては……
焔を煽り天界総てを焼き尽くす手伝いに躍起になっていた
羨ましい信頼関係だった
皇帝炎帝……いや……炎帝の為に……
命を賭しても動く仲間がいる
自分にはいなかった
ガブリエルの後ろにミカエルとウリエルが控えていた
それだけで心強いと想う
自分はなんと孤独だったのか……
痛恨させられる
朱雀は総てを焼き尽くすのを見届けると皇帝炎帝の横に下り立った
「お疲れ!朱雀」
「……業火の焔に焼かれて数多くの天使が死んだ…」
「欲をかけば焼かれて当然だ
だが大丈夫だ!
魂は天へと上り再生される
無垢な魂を産み出し新しき天界の存在にする
その為に必要な儀式だと想えば無駄な事じゃねぇ」
「………だな」
「やっぱ朱雀の羽根は綺麗だよな
燃えてないのが不思議だな」
「………もうやらねぇぞ!」
「魔界に還れば朱雀の羽根はあるからな
もう抜かねぇよ!」
「綺麗と言えば、魂が天へ上がってく……
あの球体は……再生されるのか?」
「だろ?それはオレの預かり知らぬ所だ
オレは結界を張るために天界にいる
その仕事が終われば人の世に還る
それだけだ……」
「なら結界を張るか!
東西南北、お前の波動を受けて結界を張る
東に青龍、西に朱雀、南にスワン、北に転輪聖王
結界の覇道は炎帝、おめぇが飛ばせ」
「んじゃ東にペガサス、西にケンタウロス、南に一角獣、北にミノタウロスを配置する
一緒に配置についてくれ!」
東西南北、青龍達は散った
そして魔獣も東西南北に散った
皇帝炎帝は天を仰ぎ
「オーディン、天界の門に着いくれ!」
皇帝炎帝に言われてオーディンは愛馬に跨がり天界の門へと急いだ
総てを配置すると皇帝炎帝は天高く両手を掲げた
「同調しろよ!」
“我も…使うのか?”
「仕える者なら何だって使う!」
両手に気を溜め、踏ん張っていた
「行くぜぇ!用意は良いかよ?」
東西南北、天界の門から同時に
「「「「「良いぞ!」」」」」」と言う声が響いた
皇帝炎帝は溜めた覇道を一気に解放した
「衝覇!」
皇帝炎帝は東西南北、天界の門へ向けて覇道を飛ばした
その覇道を受け止め東の青龍が封印をして西へ飛ばした
西の朱雀も覇道を受け止め封印をした
そして覇道を南の転輪聖王へと飛ばした
転輪聖王も封印し北へ飛ばした
北のスワンも覇道受け止め封印して、天界の門へと飛ばした
天界の門のオーディンは東西南北から飛んでくる覇道受け止め呪文を唱えた
「衝覇!」
オーディンは結界を結び封印をした
皇帝炎帝はそれを見て
「成功したな…」と呟いた
東西南北、封印した所には結界の棟が建っていた
そこに魔獣が棲み着き、己の場所を護る
東西南北、魔獣の配置を見届けると青龍達は皇帝炎帝の所へ戻って来た
炎帝は元の姿に戻っていた
赤い髪と瞳は元に戻って、飛鳥井康太になっていた
「お疲れ!結界は成功した
天界には邪悪モノは入って来られなくなった
天界を正してくのはオレ等じゃねぇ!
ガブリエルお前達の仕事だ!」
ガブリエルは炎帝の前に跪くと、手の甲に口吻を落とした
「この度は天界の為にお力を貸して下さり本当に感謝しております」
「オレが出来るのは此処までだ!
ベルゼブフ辺りが悔しがるだろうが、天界はもう傀儡の集まりじゃねぇ
軌道修正かけたんだから正しい道を逝け」
「解っております!
我等は天使の役割を果たすべく日々邁進して逝きます」
「んじゃ、オレ等は還るな」
ガブリエルは立ち上がると炎帝を抱き締めた
「……貴方の無償の愛……確かに受け取りました」
「オレはまだ本調子じゃねぇからな!」
「………神から…貴方に……」
ガブリエルは綺麗な瓶に入った聖水を口に含むと、炎帝に口移しで飲ませた
「人の世の寿命を全うされる事を祈っております」
「ありがとう」
「天界の門までお送り致します」
「あぁ、ありがとう」
ガブリエルは馬車を用意した
その馬車に来た時の様に乗り込んだ
1台の馬車に炎帝、青龍、転輪聖王、朱雀が乗り込み
もう1台の馬車にガブリエルとスワンが乗り込んだ
朱雀は炎帝に
「……慌ただしいな……」
とボヤいた
「仕方ねぇじゃねぇかよ…
天界の2日は人の世で一週間は不在になるんだぜ?」
「ボケボケしてたら年越しちまうわな」
「だろ?年末年始は家族で過ごすんだよ!」
「なら仕方がねぇ」
朱雀は笑った
転輪聖王は「……だけど少し強行軍じゃないか?」とボヤいた
「……天界の空気はオレには合わねぇんだよ……」
「……解らんでもない……」
転輪聖王は納得した
朱雀は「……天界の飯くらい食いたかった」とボヤいた
青龍は朱雀に
「天界の晩餐の席で……井筒屋の沢庵食いてぇ……
叫んでました……
なので、期待しない方が良いですよ?」
と慰めた
「………俺は……井筒屋の沢庵より晩餐の食事が食いたかった……」
「………人の世のディナーとそう対して変わりません」
「………そうなのか?」
「……前に毒を盛られましたからね…
緊張して味など解りませんよ……」
青龍はトドメを刺した
朱雀は天界の晩餐を諦めた
もう1台の馬車の中ではガブリエルとスワンが別れを惜しんでいた
「………スワン……」
「ガブリエル……」
涙を堪え、別れを惜しんでいた
そんな姿を見て炎帝は
「………ガブリエルの髪の毛……カツラかな?」
と呟いた
朱雀は吹き出し
転輪聖王は口を押さえた
「………炎帝……それは言ってはなりません……」
足首まであるブロンドの髪の毛は艶々で綺麗だった
「………解った、皇帝炎帝もヅラかと謂われたら困るかんな…」
「………康太‥」
榊原は困った顔をした
堪えきれず弥勒は爆笑して
兵藤も笑い転げた
罰当たりな話である
そんな事を知らないガブリエルはスワンと別れを惜しんで……艶々の髪を涙で濡らしていた
馬車は天界の門に到着し、炎帝達は人の世に還って行った
飛鳥井の家に還って来た
康太と榊原の部屋のリビングに下り立った
辺りは真っ暗で榊原はスイッチを手探りで探りに電気をつけた
暗闇を裂き辺りが光で包み込む
するとリビングの扉が開かれた
立っていたのは慎一だった
「お帰りなさい」
「ただいま慎一
所で今は何時よ?」
「12月23日の夜中の2時です」
「案外早く帰れたな……」
康太は呟いた
「貴史も……逝っていたのですか?」
「途中で呼んだ」
「お腹減ってますか?」
「おう!腹ペコだ……」
「では支度して来ます
客間にお布団の用意しますか?」
「おう!それは一生に頼むよ
一生、客間にお布団頼むな」
リビングに顔を出した一生に康太は声を掛けた
一生は「弥勒はどうするのよ?」と尋ねた
弥勒は「泊まる!こんな時間に帰っても家族の迷惑になるだけだ……頼むな」と声を掛けた
一生は「了解!」と言い客間に布団を敷きに行った
聡一郎と隼人もリビングに顔を出した
聡一郎は康太に抱き着き「お帰りなさい」と声を掛けた
隼人も康太に抱き着き「お帰りなのだ」と声を掛けた
康太は二人の手を握り締めて「ただいま」と返した
聡一郎は兵藤に目をやり笑った
「君も逝っていたのですか?」
「………呼び出されれば……火の中水の中……天界でも逝くしかねぇじゃねぇかよ……」
「本当に君は弱いですね……」
「それはおめぇもだろ?」
「僕の場合、主に仕えるのは当たり前なので、君とは違います」
兵藤は脹れっ面になった
康太は兵藤の頭を抱えて
「虐めてやるな聡一郎……」と庇った
「康太、皆 泊まりですか?」
「おう!一生が客間に布団を敷きに行ってる」
「なら僕と隼人も一緒したいので布団を増やしに行きます」
聡一郎はそう言いリビングを出て行った
康太は立ち上がると榊原に手を伸ばした
榊原はその手を取り立ち上がった
「飯食いに行こうぜ!」
弥勒も立ち上がり、兵藤も立ち上がった
康太は弥勒の背中をよじ上った
「疲れた弥勒」
「………お主は昔から疲れると人の背中によじ上ったな……」
「弥勒は甘いからな」
康太は笑った
「………遥か昔から……お主には勝てる気がしない……それ故であろう」
「それが負い目であったとしても……
お前は甘いかんな……」
「……負い目なんかではない……
負い目など抱いてはおらぬ
お主だから……甘いのだ……」
康太は笑って弥勒の肩に顔を埋めた
弥勒はキッチンまで康太を背負って行くと、慎一が弥勒の背中から康太を剥がして椅子に座らせた
「康太、体調は?」
「悪くねぇぜ
壊れた箇所を治された感じだな」
ガブリエルが綺麗な瓶に入った聖水を口移しで飲ませてくれたから……
………それしか考えられなかった
「でも久遠先生に謂われてる食事療法は続けます」
「良いぜ……そこまで快調って訳じゃねぇからな」
慎一は消化の良いモノばかり康太の前に置いた
榊原達には普通の食事を置いた
兵藤は「久しぶりに米食った感じ……」としみじみ呟いた
康太もガツガツ食べていた
食事をしていると瑛太がキッチンに顔を出した
その後ろには佐野春彦と神野晟雅が顔を出した
康太は佐野を見て「お!彦ちゃん!」と声を掛けた
佐野は康太を背後から抱き締めた
「………康太……ずっと逢いたかった……
四季にもたまには逢ってやってくれ……
ずっと泣いていた……」
「近いうちに桜林の行くかんな
その時に顔を出すよ」
「………桜林に?
何かありましたか?」
「悠太の三者面談だ!
長瀬が時間を作れと言ってたかんな」
「……あぁ、悠太も高2ですからね
来年受験に突入します」
「オレは悠太の好きにさせてる
悠太は……どうせ上に上がると言い出すだろうしな……」
「君の軌跡を追ってますからね……」
「………」
康太は何も言わず、ほうじ茶を啜った
瑛太は「この後、どうされます?」と問い掛けた
「オレ?オレ等は客間で雑魚寝だ」
「では私達も混ざって宜しいですか?」
「それは一生に聞いてくれ
布団が後幾つ残ってるか敷きに行った奴しか解らねぇかんな」
瑛太は一生に声を掛けた
神野は康太に「近いうちに時間を取って下さい」と頼まれた
「村松康三か?」
「………君のお知り合い……でしたか……」
「彼は飛鳥井康太の変わらぬ位置に立った
彼の要求は……何でも飲んでやってくれ……」
「………解りました……
笙に……殺人者の役を……と言われました……」
「それは大切な通過儀礼だと思って引き受けてくれ
伊織が作る映画が射程範囲内に入った今……
村松は榊原 笙と言う役者の殻を脱がせたいのかも知れねぇ」
「………そうでしたか
解りました、お引き受けします
でも康太……時間を作って下さい
君とゆっくり食事してません……」
「なら近いうちに声掛けてくれ
……って言うか、年末年始飛鳥井に来れば良いじゃねぇかよ?」
「………お邪魔じゃないですか?」
「うちの人間は賑やかな方が喜ぶ
だろ?瑛兄?」
康太にフラれて瑛太は笑った
「飲むなら一人でも多い方が良い
その方が……源右衛門も喜びます
辛気くさい抹香臭いお正月なんて迎えたら源右衛門に叱られます」
「………ではお邪魔します」
神野は嬉しそうに笑った
「晟雅……子供……貰い受けたか?」
康太が忙しくて天宮に託した
天宮は見事に仕事を完遂しただろう
「……はい!貰い受けました!」
神野は深々と頭を下げた
「榮倉の愛だ……大切にしてやってくれ……」
「……この命に変えても……守り抜きます!」
康太は何も言わず笑った
客間に行き雑魚寝する
康太は佐野に声を掛けた
「………彦ちゃん……飛鳥井の病院に一度見せろ?
久遠で手に負えなかったから……オペの出来る病院を世話してくれる
お前が……こんな風に飲んだくれてても……仕方ねぇんだぞ?」
佐野は泣きそうな顔して康太を見た
「……やはり……視えましたか……」
「愛する妻なんだろ?」
「……はい!愛する妻です……
俺なんかには勿体ない出来過ぎた妻です」
「………てめぇ…最期を看取る為に戸籍なんて入れやがって……」
「………籍が違うと……俺は病室にも入れません……」
「んな事じゃねぇ……
大切にしてぇなら……もっと早くやりやがれって言ってんだよ!」
「………ずっと……傍にいてくれるので……
気付けませんでした……
亡くす日なんて……ないと想ってました」
「明日……後悔したくねぇなら……
毎日、言わねぇとな!」
佐野は「……はい……」と何度も返事した
「まだ……死なねぇよ……
おめぇを置いて逝く訳ねぇだろ?」
佐野は康太に抱き着き号泣した
そして泣き疲れて……眠りに落ちた
康太は瑛太の方を見た
「瑛兄、総ての手筈を頼む」
「解りました!」
「病院の転移と専門の医者の派遣を頼む」
「久遠先生と相談して出来る限りの事をします」
「………彦ちゃんの妻……瑛兄知ってるんだ」
「………学園時代から惚れぬいた相手ですからね
余所見は絶対しない……
佐野は……初恋の相手しか見てませんでした
初恋を根性と忍耐で実らせた
桜林の奇跡の人と言われてました……」
瑛太は当時の事を想い口にした
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