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第77話 別れの時

Xmasも無事終える頃、年末の色は濃くなっていた 慌ただしく会社の大掃除をして、家の大掃除をして 皆で年の瀬を迎えた 康太の体調も良くなりつつあった 1月25日 戸浪 海は一歳の誕生日を迎えた 康太は戸浪の家に来ていた 「康太、戸浪 海に御座います」 「……今日……一歳の誕生日か……」 「はい!そうです」 「………なら明日……夏海の処へ行こうか……」 戸浪はグッと奥歯を噛み締めた 「………はい!」 「若旦那、オレも……一緒に行く 夏海の家には入らねぇ…… 車の中で待ってる……」 「………それでも……心強いです」 「我が子は可愛い…」 康太は戸浪の家に5人の子供を連れて来ていた 「……本当に愛されて育ってますね…… この子たちは……」 それが……自分に出来るのか…… 戸浪は不安だった 「流生、かぁちゃの傍に来い」 康太が呼ぶと流生は康太へと駆け寄った 「かぁちゃ!」 甘えて抱き付く姿は……どこから見ても親子だった 「神楽煌星は雅龍の血を濃く受け継いでいる だから、その容姿は外人の様だ 煌星は何時か……自分の容姿と……両親との容姿が違うのを知るだろう……」 「………はい……金髪碧眼なれば……私達とは違うのは何時か気付きますね……」 「オレの子だって何時か……自分の両親は他と違うのに気づくさ…… そしたら嫌われ軽蔑されるかも知れねぇ…… だけど、明日へと続く道を築かねば……道は途絶える だから踏ん張って親をやるしかねぇんだよ 男同士で気持ち悪いと言われ嫌われようとも…… 引き返す道なんてねぇんだよ だから……精一杯の愛で育てて逝くしかねぇ おまえ達を愛していると……訴えて逝くしかねぇんだよ……」 康太は我が子を強く抱き締めた 「……愛して……曲がらねぇ様に育てる……」 流生は康太にチュッとキスした 「かぁちゃ らいちゅき」 流生が言うと太陽も音弥も大空も翔も康太にキスした 「………オレ達は……男同士だからな……」 「………康太……そんな事言わないで下さい……」 「不安はあるさ 出来るなら……軽蔑なんてされたくねぇ…… 誰に何を言われても良い…… 子供に……気持ち悪いって言われたくねぇ……って想ってる 覚悟は出来てるのにな…… いざとなったら……怖いんだ…… 情けねぇだろ?」 「康太……私達だって……怖いです…… 君達は憧れでした……だから…… そんな風に言わないで下さい……」 「若旦那……それでも……乗り越えねぇと駄目な時がある……」 「………解ってます……」 「一緒に乗り越えて行こうな若旦那……」 「………はい……」 戸浪は康太の手を強く握りしめた 「おとたんも」 音弥は戸浪の手の上に手を乗せた 「ちなも」 「きゃなも!」 「じゅるい、かけゆも!」 「りゅーちゃも!」 子ども達はキャッキャと喜んで手を重ねていた 戸浪の妻の沙羅がケーキを持って来ると、子ども達は更に喜んだ ケーキを子ども達の前に置くと、子ども達は良い子して待っていた 康太が「いただきます!って言ったら食べて良い」と言うと 子ども達は「いららきまちゅ」と言いケーキを食べ始めた 沙羅はそれを見て微笑んだ 「………良い子達ね…… 本当にお行儀が良いわ」 食べ方は……凄いが、行儀は良かった 榊原は子ども達のお口を拭き、零したケーキを片付けていた 音弥は榊原に抱き付きチューッとしようとした 榊原は音弥のお口に…… 「………そのお口では……とぅちゃは嫌です…」 と言いお口を拭いた お口を拭くと音弥は榊原にチューッとした 「とぅちゃ らいちゅき」 「とぅちゃも音弥が大好きですよ」 榊原は音弥の頭を撫でた 大空は康太にベッタリだった 戸浪はその光景を見て…… 「………その子は双子の片割れですか?」 と問い掛けた 「おう!大空だ!」 「伊織に似てます?」 「太陽が伊織の兄の笙に似てる 大人になったら笙の子供よりも笙に似た容貌になる」 あぁ……康太の瞳には子ども達の果てが見えているのか…… と改めて思い知らされた 「流生は……一生によく似て、翔は瑛兄の子供の瑛智より、瑛兄に似た大人になる 音弥は隼人そのもので、太陽は笙、大空は伊織によく似て育つ」 「………5人……全員……親の容貌を引き継いでいるのですか?」 「そうだ……だから……鏡を見れば自分が誰の子か嫌でも解るという訳だ…… 彼等が明日の飛鳥井の礎となる そうなる為に日々育てて逝かねばならない」 「……康太、覚悟は出来ました 誰よりも煌星を愛します それがトナミの礎になるのなら…… 誰よりも愛して……育てて逝きます」 「大丈夫だ!煌星にはかけがえのない友が出来る 瑛兄の子供の瑛智や美智留、小太郎と言う子供が煌星と凰星と変わらぬ友情を結ぶ オレ等の子供も何かと世話を焼いて繋がって逝く 総ての要素が繋がり支えてくれる」 「………なら心強いです……」 「明日……夏海の家に逝く前に……向かえに来い」 「はい。田代の車で向かえに行きます」 「一生と慎一を連れて行く」 「はい。明日………」 「なら、オレは還る…」 「また遊びに来て下さい」 「あぁ、うるさくても良いなら家族で越させて貰う」 「来て下さい! 子ども達も喜びます」 「万里と話もしねぇとダメだしな…… 明日、万里を車に乗せて連れて来い!」 「………解りました 康太には万里の不安定が見えましたか?」 「子供が増える……家庭が何か変わりつつある 挙げ句、苦楽を供にしていってくれると想ってた千里は家を出ると言う……会社は継がない 戸浪とは関わりなき者になる その変わり血の繋がらぬ子がトナミの社長になる……おかしいと想うのは当たり前だ 話し方もフォローも足らねぇんだよ 明日、万里も連れて行く」 「………解りました」 「じゃ、帰るぞ皆」 康太が立ち上がると子ども達は一斉に康太に抱き付いた 戸浪に見送られて康太は戸浪の自宅を後にした 「………時は来たな…… 夏海はそんなに遠くない時に黄泉を渡る…」 「………皮肉ですね…… 彼女は……誰よりも母親でした……」 「遺して逝きたくなんかねぇんだよ……誰も… それでも逝かねぇとならねぇ事がある…」 榊原は康太の手を強く握り締めた 「……母親は……強ぇな……」 「君も強いですよ?」 「………伊織……抱き締めてくれ……」 「一晩中……君を抱き締めて離しません…」 榊原は飛鳥井の家へと還った 明日の朝……涙は見せない 絶対に…… 泣かないように…… 康太は心に決めた 翌朝、戸浪は飛鳥井の家にやって来た 約束通り万里を連れて……一歳になる海と妻の沙羅を伴って…… 田代のワゴン車でやって来た 戸浪は康太の顔を見るなり……深々と頭を下げた 「………今日は……宜しくお願いします」 「夏海の所へ行くのはお前達だ……オレは車の中にいる……」 「解ってます……」 戸浪は覚悟を決めた瞳をしていた 煌星と凰星が一歳の誕生日を迎えた翌日だった…… どんな星の下に生まれたか…… 戸浪の子供の海と奇しくも同じ日の生まれだった 学年で行けば同学年になる 戸浪海里は海を抱き上げると夫婦で…… 神楽の家を訪ねてた 康太と榊原は車の中で…… それを見送った 神楽の家の玄関のインターフォンを慣らすと、雅龍がドアを開けた 「お待ちしておりました」 金髪碧眼のかなり体躯も良い男が出迎えてくれた 戸浪は彼が雅龍だと直ぐに解った 上質なスーツに身を包み、優しげな面立ちの戸浪は、夏海を見ると深々と頭を下げた 「トナミ海運の社長をしております 戸浪海里、と申します そして此方が妻の沙羅に御座います」 自己紹介した 戸浪の腕には…煌星と同じ年格好の子供、海を抱っこしていた 「そしてこの子が戸浪 海と申します その他に私には子供がおります 万里と千里と申します 万里が、高校2年で千里が高校1年に御座います」 戸浪海里は、夏海に家族のあらましを説明した 戸浪はソファーに座り、夏海を見た 「どうですか? 私共は、貴方のお眼鏡に叶いますか?」 戸浪は夏海の瞳を射抜き、そう問い掛けた 「煌星と同じ位の年の子供がいる方に…… 煌星を 愛してもらえるか… 不安は消えません!」 夏海は戸浪を見詰め、キッパリと言葉を投げ掛けた 「愛します。 我が子以上に…煌星を愛します」 戸浪は夏海にそう返した 「飛鳥井康太は、私にこう言った 明日のトナミを繋げたいのなら、外からの風を 入れろ!と。 外からの風、それは煌星です 煌星はトナミ海運の社長になるべき存在 康太は煌星を社長として育てろと言いました 我が子以上に愛して…育てろと。 海は会社全体を見渡す指揮官となりなす 万里は会長となり舵取りをして行きます 煌星はトナミ海運の次期社長となるが定め 違えれば…トナミ海運の明日はない… 会社の社長となるべき煌星を迎え入れ この命を懸けて愛して行く覚悟で今日は参りました!」 戸浪は夏海に総てを話し 受け入れてもらうつもりだった 「では、戸浪海里に問おう 貴方は何があろうとも、誰よりも煌星を愛してくれると、言い切れるのですか!」 真摯な瞳が戸浪を貫く それを受けて 戸浪も妻の沙羅も濁りない瞳を向けた 覚悟なら……とうの昔に出来ている 私は戸浪の女 戸浪を影で支える為に骨身を惜しみなく尽くすと心に決めた 沙羅は 「私は我が子よりも煌星を愛する覚悟は出来ております! 私は戸浪を影から支える女 我が子の海以上の愛を、煌星に注ぎ 我が子になれる様に愛して行く所存です!」 我が子を手放す…夏海に誠心誠意、心を尽くす 夏海は…辛そうに瞳を閉じた そんな夏海の肩を、雅龍が抱き締めた 戸浪も妻の沙羅も… 雅龍の姿を見て…成る程と想った 康太は戸浪に 『お前の貰い受ける子は神楽の守 り龍の子だ』 と告げた 人の容姿をしていても 雅龍の放つ異彩で…人以上の臭いをかぎ分ける 外人の様に見えても…… その容姿は人には非ず…… 煌星は龍の雅龍の血を引く子供だ…… 金色の髪をして、金色の瞳を持つ雅龍 一見…外人に見えない事もない だが…海神の血を受け継ぐ戸浪には… 雅龍の人でない雰囲気が見れて取れた 「海神か…」 やはり…戸浪を伺っていた雅龍も 戸浪海里とその息子の海に… 人以上の臭いを嗅ぎ取っていた 戸浪は雅龍に問い掛けた 「貴殿は…龍とお訊きしました 龍と言えば…伊織や一生を思い浮かべるのです が… 何か縁が?」 総て承知していると、戸浪が口を開く 「我の父が、青龍の父と兄弟になる」 従兄弟… と言う存在でしたか…と戸浪は納得した 「伊織は…」 戸浪はそう言い…蒼い龍を思い浮かべた 「彼は蒼い…ですよね?」 「青龍だからな!」 一生は赤龍… 彼の兄弟は黒龍と地龍… 四龍の兄弟だったな…と、龍にも色々在るのだ な… と、思いに耽った 「お主達海神も繋がりし存在 青龍の両親は金龍と銀龍 そして四龍の子を成す 我の父は黄龍と白龍 我が兄は水龍を引き継いだ お主の祖先海神に落ちる前、名乗っていた龍となる」 総ては繋がっていると…雅龍は言う 戸浪は…驚愕した瞳を…雅龍に向けた 「総ては…」 戸浪が言うと 雅龍が引き継ぎ 「繋がりし存在だ!」 と繋げた 戸浪は納得する 元は1つだから… 総ては…還るべき存在だと 康太は言ったのだと ならば…誰よりも愛さねば… 何よりも愛さねば 還るべき存在が受け継がれて行くのだ 次代へ繋がり 先へと続く 誠…見事な采配だと… 戸浪は胸を押さえた 戸浪海里と妻の沙羅は、夏海と雅龍に深々と頭を下げた 「誰よりも愛します この命を懸けて護ります! ですから…貴方の大切な煌星を、私共に預けて 下さい! お願いします!」 心より…そう願い 夏海と雅龍、その家族に伝えた 夏海は、そんな二人を見て 運命なのだと…実感する 望まれて…迎えられる そしてトナミを担う礎になる それが煌星の定め 「煌星と言います 名前は変えないで下さい」 夏海は戸浪へ想いを投げ掛けた 「はい!総て承知しております 総て、貴方の想いのまま迎え入れたいと想って おります 今後も貴方の異に反する事はしない所存です! 」 それを聞き 夏海は安堵する そして、漆黒の髪をして蒼と赤の瞳を持つ子を 腕に抱き 「この子は神楽 凰星 煌星の弟です 煌星と凰星、二人は同じ星を持つ存在 煌星が太陽なら、凰星は月となる この二人が共にいると…凰星は煌星の影に隠れ て…光を失う 今から…高校に上がる頃まで…凰星は隠れるが 周期 それは本意ではない 私は神楽の為に子を成した どの子も…私の大切な宝! でも共に輝けないのなら…離す定め 煌星の星は…貴方の元で輝くと出ている 凰星は煌星と離れる事で 本来の光を放つ 本当なら! 離したくなどない 離れたくなどない! でもこの命も…期限を迎え… 我が子の先を示さねばならぬ時が来た だから、見定めさせて貰いました 煌星を… どうか宜しくお願い致します」 夏海はそう言い深々と頭を下げた 戸浪海里と沙羅は…夏海の想いを受け止めた 神楽 夏海 朝廷の世から続く祓い魔の家系 その力…始祖を越える と言われた力持ちだ 夏海は…優しく微笑んでいた 容姿は…まだ学生と言っても納得出来る程 幼く見えた 長い黒髪を、後ろで束ね 白いワンピースを着て我が子を手にしている姿は…何処か儚く… 体調の悪さを伺わせていた 康太は…戸浪に言った 総ては夏海の想いのままにしてやってくれ…と 夏海は…若くして黄泉へと渡る 後…1年…持たぬうちに…この世で命を落とす 悔いは遺させたくはない だから…頼む…と、康太は戸浪に頭を下げた 康太が頭を下げる… その事態に…戸浪は驚きを隠せなかった それ程…康太が大切に想う存在 それは…あまりにも… 飛鳥井康太に酷似した…存在だった 家の為だけに在る…存在だった 戸浪は 「夏海さん、貴方の宝を康太と共に守って行く 所存です!」 と、言葉に託した 「お願い致します」 覚悟はとうに出来ていた だが…我が子と離れて… 暮らすと言うのは 頭で解っていても… 身を裂かれる程に…辛かった 「煌星を……連れて行って下さい…」 夏海は…止めどなく流れる涙を拭い 煌星を抱き上げ… 戸浪に渡した 戸浪は煌星を受け取ると… その腕に抱いた 「ママァ~ママァ~」 煌星が、異変を感じて…泣き出した 夏海は煌星から顔を背けると… 凰星を抱き締めた 「連れて行って下さい…」 「法律的な事は後日お願い致します では、煌星をお預かり致します 誰よりも愛して育てます そして何時か…凰星と出逢わせてやりたいと想っております」 戸浪の言葉に… 夏海は…泣き崩れた 嗚咽が漏れる… 雅龍は戸浪に 「行って下さい…」 と頼んだ 別れたくなど…ない この手で… 育てられない… 現実に…夏海は…涙した 離れたくない… 離したくない… お腹を痛めた我が子を… 誰が手放したいものか! 離したくない… 煌星 煌星 母さんを…恨んでも良いから… 何時か… 何時か… 凰星と逢ってやってね 夏海は…凰星を抱き締め泣いた 凰星は…戸浪に抱き締められた煌星に 何時までも…バイバイ…と手をふっていた 戸浪は振り切る様に…… 神楽の家を後にした 沙羅は泣いていた 海を抱き締めて泣いていた…… 同じ母親として…… 夏海の想いが辛かった 誰が……お腹を痛めて生んだ子と離れたいものか…… そう思うと泣けて…… 涙が止まらなかった 戸浪も泣いていた 車まで来ると、田代が出迎えた ドアを開けると戸浪は煌星を康太に渡した 「……星が離れたな…… 凰星は煌星を失い陰から抜けた……」 康太は煌星を見つめ…星を詠んだ 「煌星、お前の半身を忘れるな…… お前を誰よりも愛してこの世に産み落とした母を忘れるな…」 康太はそう言い煌星の頬に口吻けた 戸浪は言葉もなく泣いていた 沙羅も……泣いていた 榊原は海を沙羅から離して抱き上げた 田代は車を出した 飛鳥井の家に行く為に…… 車を走らせた 「海、君は弟を護って生きて行きなさい」 榊原は海の瞳に語りかけた 「海神の始祖よ…… 誰よりも愛してあげて下さい……」 海の瞳が深い蒼に光ると…… 脳裏に声が聞こえた 『青龍……約束しよう! 我は煌星を愛して曲がらぬ様に導くと…』 榊原は頷いた 戸浪は榊原を見た 「………今の声は……」 「海の中に眠ってる始祖の力」 「………君も龍……でしたね」 戸浪は今更ながらに…納得した 「誰よりも愛して育てて下さい それが夏海の想いです」 榊原は夏海や雅龍を想った 「雅龍と言うのは我が父の弟の子供です 僕は……赤龍と違って社交的ではなかったので、話した事はありませんでした 龍の世界に辟易して人の世に外聞を広げに行ったと聞いた どんな経緯で神楽の家の守り神になったかは知りませんが…… 彼は生きる事すら辟易していたのです…… それが……夏海と知り合って……恋に落ちた 雅龍は夏海の命が尽きた時……共に消滅する気でした…… 心底惚れた相手は人で……愛せば愛すほど…… 弱って命を落とす事なる…… 雅龍は出逢わなければ良かった……と泣きました でも夏海は一度も悔いる事なく…… 愛を貫きました…… 人と……龍とは交わえば……寿命を縮める事になるが解っていた 解っていても夏海は愛に生きると決めた 夏海の想いを…… 煌星は一身に受けて生まれた…」 榊原の言葉は……胸に響いた 戸浪は……何度も頷いた 飛鳥井の家で康太と榊原は下りると、田代は戸浪夫妻と子ども達を乗せて……帰って行った 万里は……黙って見ていた 何故……康太が同席させたか…… 涙する両親を見ていれば解った 康太は何も言わなかった 戸浪夫妻が神楽の家に行った時 「人の命は重い……両親の覚悟をその目で見るがいい」 とだけ言った 何故養子を取るのか…… 不思議だった 両親を見ていれば…… 総てはトナミの為と解った トナミの明日を築く為だけに…… 煌星を貰い受けたのだと……解った どれ程の想いを…… 押さえて……我が子を手放したのか…… 万里は胸を押さえた 手放す方も…… 受け入れる方も…… 運命には逆らえなかっただけのことだ…… 他人の子なんて…… と想った自分が恥ずかしい…… それでも明日へ続けて行かねばならない……義務が自分達にはあるのだ…… 父の覚悟と…… 母の覚悟…… そんな想いで迎え入れた子を…… 自分も愛そう 誰よりも愛そう…… そうして繋げる先に…… 自分は逝くのだから…… 万里は覚悟を決めた 戸浪の子として生まれた使命なのだと想おう…… 康太が何故……この場所に同席させたか…… 万里は解った気がした 万里は煌星に手を伸ばした そして煌星を渡してもらって抱き締めた 「煌星、僕が兄さんだよ」 そう言い煌星の頬にキスを落とした 戸浪と沙羅は…… 黙って万里を見ていた 願わくば…… 家を出て逝く千里の道が…… 光に照らされた道であります様に…… 万里は祈った 千里……好きに生きれば良い…… 悔いなく…… 生きて欲しい…… 万里は止め処なく流れる涙を拭う事なく…… 煌星を抱き締めた

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