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第78話 繋ぐ①

春というには、まだ肌寒い3月 康太は歌舞伎町にいた まだ夜の帳が下りる前の明るい時間だった 康太は慎一と一生を連れてホストクラブへと出向いていた 待ち受けていたのは歌舞伎町界隈では有名なホスト 池上隆二だった 隆二の後ろには、北村省吾と中村俊作が控えて待っていた 隆二は康太を見ると子供みたいな顔で笑った 「隆二、久しぶりだな」 「ええ……康太……逢いたかったです…」 隆二は康太を抱き締めると、店の中へと招き入れた 慎一と一生も康太の後ろを歩いて行った 事務所のソファーに康太を座らせると、中村俊作が康太に子供を手渡した 「璃咲(りさ)といいます りは弟の璃央の一文字貰いましてた」 「璃央の一文字入れて璃咲か 良い名前だな、幸せになれ璃咲! あ、そうだ、おめぇの弟、恋人出来たの知ってるか?」 「………知ってます この子は双子です 片割れは両親に預けました この子は貴方に… 璃央は幸せそうなのですね……良かったです」 「おめぇも幸せにならねぇとな」 「はい。」 康太は少しだけ表情を曇らせると 「璃央からの伝言がある」と伝えた 「………璃央……何か言ってましたか?」 「俊作に逢うと言ったら 『母さんの事、少し気にかけてやって下さい!』と伝えておいて下さいって頼まれた」 「ご無沙汰でしたからね…… 近いうちに顔を出します」 「璃央が言うには、おめぇの弟 相当ヤバいみてぇだな 手の付けられない所まで堕ちたと嘆いていた 『兄さんも竜吾の事捕まえて話をして下さい』との事だ」 「……竜吾……治りませんか?」 手のつけられない札付きの悪だった 璃央の弟だった 俊作 璃央 竜吾の三兄弟は実に個性的に生まれついていた 「お前の子供を引き取った頃から竜吾は家に還らなくなった…… 元々……璃央に異常に甘えてた弟だ 璃央に恋人が出来たってのがショックだったのもある それにしても……ヤバい所に足を入れだした 堕ちて……どうしょうもねぇロクデナシが犯罪を犯したら‥‥おめぇら家族はどうするよ?」 「真贋‥‥」 考えたくもない事実を突き付けられる 「考えたくねぇだろうけど、それほどヤバい状況だって事だ!気を付けろ!」 「解りました! 竜吾を捕まえて今後の事を話し合いたいと想います」 家族から犯罪者を出す‥‥ それは世間から弾かれて、誹謗中傷に晒されて生きて行かねばならない現実となる 「本当にアイツは!」 俊作は吐き捨てた 「俊作、何があっても家族である事実は消えねぇのなら、そろそろ手綱を握って矯正の道を逝かねぇとな」 「はい‥‥」 「璃央が心悩ませるのは可哀想だからな 璃央が悩めば綾人が出て来る…… 厄介になるのは目に見えてるならな……」 「解りました 璃央……何だってあんな厄介な奴と……」 「定めだ! 璃央と綾人は対の存在 子供のうちに生涯の相手と出逢っちまったからな……もう離れられねぇんだよ」 「………璃央が幸せなら……何も言いません」 俊作は瞳を閉じた 可愛い弟だった 誰よりも愛して慈しんで来た 「………璃咲を宜しくお願いします……」 俊作は深々と頭を下げた 「璃央は既に替えの効かない飛鳥井建設の駒に収まった! それ程に璃央は手腕を発揮してる」 「そうですか……」 「俊作……踏ん張れ! 踏ん張って竜吾を正してやれ……」 「………解りました」 何故……竜吾が帰らなくなったか…… 俊作には理由が解っていた…… 可愛い璃央 誰よりも愛して…… 逃げて来た…… 俊作は後はもう何も言わなかった 隆二と今後の話をして、省吾とたわいもない話をして、康太は帰ることにした 慎一が大切に璃咲を腕に抱いていた 康太は慎一に「須賀の事務所に寄ってくれ」と頼んだ 一生は須賀に康太が行く事を伝えた 須賀は了承してくれた 康太は立ち上がると片手をあげた 「またな、隆二、俊作、省吾!」 「また来て下さいね!」 隆二が康太を抱き締めた 「待ってますから!」 と俊作も康太を抱き締めた 「貴方が呼べば地獄の果てまでも飛んでいきます」 と言い省吾も康太を抱き締めた 「ならな!また逢おう」 康太はそう言いホストクラブを後にした 3人は店の中で康太と別れた 目立った行動は一切避ける 関係がある伏は一切見せない 隠密に康太の望む情報を探って伝える情報屋としての宿命だった 康太は歩き出し……ふと止まった 「慎一、この近くに璃央がいる」 「………え?歌舞伎町に……ですか?」 「行方の解らねぇ弟を探しているんだろうな 城田と瀬能、愛染も協力して捜索している だけどアイツ等じゃ……掴まえられねぇかも知れねぇな…… 角倉を貸し出しでやってくれ」 「では門倉に連絡を取ります」 慎一は門倉へと連絡を取った 門倉は電話に出るなり『何処へ逝けば宜しいですか?』と何があっても直ぐに動く体勢は取れていた 門倉に聞かれると歌舞伎町の近くで中村竜吾を捕縛してくれと頼んだ 『了解しました! 総ては康太の想いのまま動いて見せます!』 門倉はそう言い電話を切った 一生は中村に電話を入れた 「中村か?建設部の門倉が竜吾の捜索を手伝ってくれるそうだ!」 『え?‥‥‥本当ですか?』 「あぁ、何かあったらまた電話を入れる」 一生はそう言い電話を切った 康太は言い知れぬ胸騒ぎを覚えていた 何かが‥‥‥起きそうな胸騒ぎを感じて康太は親指を噛んでいた 一生は「どうした?康太?」と問い掛けた だが康太は何も謂わなかった そして車に乗り込んだ 慎一は一生に璃咲を預け運転席に乗り込んだ 車は須賀の元へと向かった 須賀の事務所に行くと、須賀は待ち構えていた 「康太!逢いたかった……」 足を少し引き摺りながら須賀は康太を抱き締めた 「直人、話がある」 康太が謂うと須賀はニコッと笑って 「美味しいケーキを買って貰いに行ったんですよ」 と、秘書にお茶とケーキを申し付けてソファーに座った 「直人、お前の事務所の後継者を連れて来た」 「………本当に……」 「あぁ……中村璃咲と言う女の子だ 行く行くはお前の後継者として跡を継がせる事の出来る存在になる」 「…………康太……何と言ったら良いか……」 一生は須賀に璃咲を渡した 「あと少しで一歳になる 絶対音感の持ち主だ 育て方次第では化ける」 「………大切に育てます……」 「璃咲と言う名前は残しておいてやってくれ…」 「解っております」 「これで……お前も父親だな……」 「はい!子連れ狼の如く連れて歩きたいと想います」 「相賀もお前が一人じゃないと…喜ぶだろう」 「………相賀には本当に世話になりました 相賀は骨身を惜しまず私の世話をしてくれました…… 動けぬ私の支えになってくれました こうして事務所を続けられるのも…… 君や……君の仲間がいればこそでした」 「お前が誰よりも努力したから……皆が支えたいと願ったんだ…… お前が逃げ出さずに闘って来たから…… 皆がお前を支えようと想ったんだ」 「………康太……」 須賀は堪えきれずに康太に抱き着いて泣いた…… 「お前にやっと渡せた……」 「康太……」 「須賀の事務所は未来へ繋がった お前は跡継ぎを得て先に繋げれた」 「本当にありがとうございます……」 康太は須賀をギュッと抱き締め、体躯を離すと紅茶を飲み干した 「直人、オレはこれで帰るな 子育て……大丈夫か?」 「はい!死に物狂いで育てます!」 康太は微笑むと立ち上がった 慎一と一生も立ち上がった 「ならな、直人」 「今度はお食事でも、時間を作って下さい!」 「解った!また連絡するな」 康太は須賀の事務所を跡にした 駐車場まで行き車に乗り込むと…… 息を吐き出した 「………幸多き先へ逝け……璃咲……」 康太は空を見上げて呟いた 帰ろうと車を走らせていると門倉のバイクが慎一の車の横を通っていった 慎一はクラクションを鳴らした するとバイクは停まった 慎一は車を路肩に停めると、康太は車から降りた 「門倉、捕り物は終わったのかよ?」 「………いいえ…とんでもない奴です…… 今仲間を集めてます 悠太や他の生徒会を襲わせたのも…アイツ等でした!」 「悠太?襲われたのか?」 「………え?知りませんでしたか? 桜林の生徒会長と執行部の部長は標的にされて 帰宅途中襲われて……桜林は壊滅的なダメージを負ったと噂が流れています 他校の生徒会や頭を張っている存在は総て行方不明らしいです」 康太は唖然として 「………それは知らねぇな…… 知ってたかよ?」 一生と慎一に問いかけた 一生は「年末前から悠太の奴に逢ってねぇからな……」と言った 慎一も「………誰の口からも……何故漏れて来ないのですか?」と不思議がった 「悠太を傷付けた奴ならば! オレに挑戦状を突き付けたも同然! ただで済ますかよ!」 「……アイツ等を追います……」 「遼一を呼ぶ! そしてトドメを刺してやる!」 康太は怒っていた 康太は携帯を取り出すと九頭竜遼一へと電話をかけた 「遼一か?」 『はい!何かありましたか?』 「今追いかけっこしてるんだが、苦戦してる 応援を頼めるか? 必ず捕まえてオレの前に引き摺り出して欲しいんだ!頼めるか?」 『解りました! 人を集めます』 「門倉を使っている 門倉と連絡を取って必ず! オレの前に引き摺り出してくれ!」 『承知しました!』 九頭竜遼一は電話を切った 胸騒ぎは的中した 康太は悠太の居場所を確認するかの様に、榊原に電話を入れた 『康太!どうしました?』 ワンコールで出ると愛しい男の声がした 甘えてしまいたい想いを押さえて 「伊織‥‥悠太の行方が解らねぇんだよ」と訴えた 『悠太?………最近顔を見ませんね』 榊原はその言葉こそ異常だと感じて‥‥息を飲んだ 『解りました! 悠太の行きそうな所を総て当たります』 そう言い榊原は電話を切った そして念には念を押して康太は更に電話をかけた 「四季か?」 『康太!逢いたかったです!』 「頼みが、あんだけど?」 『何なりと仰って下さい 君の頼みなら神楽四季何を差し置いても完遂してみせます!』 「飛鳥井悠太、葛西繁樹‥‥両名桜林でどう謂われているか調べてくれ!」 『………君の弟と葛西?』 「最近顔を見ねぇんだよ 何でも奇襲かけられたって聞いた オレは今まで気付きもしなかった 何故誰も気付かねぇ? 一体‥‥桜林になにが起こっているんだよ?」 『君は磐石な明日を遺したのに‥‥とお思いてますか?』 「悠太の行く先を確かにしたと想っていた」 『………角倉が卒業して傘下の力が弱ったのもあり……潰されているそうです 桜林の標的……それは葛西茂樹よりも……飛鳥井悠太でしょう……彼が狙われるのは必然なのかも知れません』 「オレはそれを知らなかった‥‥‥ 桜林はそんなに容易く‥‥撃たれるとは想っちゃいなかった」 『強者が出れば杭は打たれる… 仕方がありません』 「……そうか……納得した…… キナ臭い感じは否めねぇ‥‥」 『我等桜林学園は誰が何と謂おうと貴方を裏切ったりはしません! 我等の方でも生徒会長と執行部 部長の操作に当たっています ですが、表に出す訳にはいかないので秘密裏に当たらせて戴きます』 「頼むな四季」 『何があろうとも全面協力をお約束致します!』 神楽は絶対の協力を約束して電話を切った 康太は悠太の行方が解らなくなって3ヶ月経っている事実に身震いして 「一生……悠太……生きてるよな?」と一生に問い掛けた 一生は康太を抱き締めた 「当たり前だろ!」 そう言えば……Xmasも年末年始も悠太は顔を出さなかった 忙しいのかと思ってれば…… 生存すら怪しいとは…… 慎一が「聡一郎は?知らないのですか?」と問い掛けた 一生は聡一郎へと電話を入れた 康太は「………聡一郎が知ってれば……オレに視えねぇ訳がねぇ……」と呟いた 一生は聡一郎に電話を入れた 「聡一郎、おめぇ‥‥‥悠太の居場所を探していたりする?」 一生が問い掛けると聡一郎は「‥‥っ!」と息を飲んだ 「どうなんだ?答えろ」 聡一郎は『悠太の所在を血眼になって捜査をしている』と謂った 康太にそれを視せる訳にはいかなかったから距離を取っていた‥‥と話した 電話を切って一生は、「聡一郎さ悠太の行方を探しているみてぇだ。最近アイツが捕まらなかったのは‥‥恋人を探していたんだ」そう告げた 一生は悔しそうに「康太に勘づかせる訳にはいかねぇから距離を取っていたって‥‥」と吐き出した 康太は天を仰いで 「弥勒‥‥助けてくれて」 助けを求めた 『康太!康太‥‥』 弥勒は康太の胸の内を推し量り‥‥苦しそうに名を呼んだ 「弥勒……悠太‥‥何処にいるか教えてくれ!」 『お前の弟か……待っておれ』 弥勒は気配を消した 「………悠太……死なせたら……オレはそいつ等を絶対に許さねぇ!」 康太は怒りに燃えていた 一生は焦っていた 康太の怒りと哀しみが解るから‥‥ 「そう言えば桜林にいる奴に聞いてみる 待ってろ!」 一生は携帯電話を取り出して電話をかけた 「貴史!頼む………」 『あんだよ?一生……何があった?』 「………悠太がいねぇんだよ…… ……生存すら怪しくて…… 康太が怒り狂ってる…… 康太が暴走する前に悠太を探さねぇと!」 一生は何時になく取り乱していた 康太の怒りが解るから…… 暴走されたら……止められない! そう思った 『一生、お前今どこよ?』 「………今……須賀の事務所の近く……」 『飛鳥井の家に帰るのは大分かかるか?』 「………30分待ってくれ……」 『なら飛鳥井の家の前で待ってる!』 一生は電話を切ると康太を車に押し込めた 「慎一、飛鳥井まで行ってくれ……」 慎一は運転席に乗り込み車を走らせた 飛鳥井の家まで急いだ 飛鳥井の地下駐車場に車を停めて、応接間に行くと、兵藤が待ち構えていた 「貴史……誰に入れて貰った?」 「伊織だ!」 「旦那?……旦那は何処に?」 応接間には榊原はいなかった 康太はソファーに座った 暫くして榊原が応接間にやって来た 榊原は康太を抱き締めた 「悠太のいそうな場所に片っ端から連絡を入れました…… Xmas前から悠太を見た奴はいませんでした」 「………三カ月……」 「………生存すら危ういな……」 兵藤が呟いた…… 榊原は「葛西繁樹に連絡を取りました……彼も捜索願が出されていました……」と現状を告げた 「……桜林は頭を欠いた状態か……」 康太は呟いた 康太は悠太の親になった日に覇道を結んだ 悠太のピンチには直ぐに駆け付けられる様に覇道を結んでいた だから悠太の命に関わる今回の事実を解らない事がげせな 「何故……オレに視えなかった?」 康太は呟いた 兵藤が「Xmas前は天界に行ったり忙しいままに年末年始になったからな……」とフォローした 「それでも何故……視えなかった?」 弱っていたのは確かだった だが悠太の異変に……何故気付けなかった? 一生は康太に 「聡一郎はずっと探していたらしい……」 と告げた 「なら何故オレに言わない?」 「お前を患わせたくない想いがあったんだろうな……」 「………オレの覇道を……切ったのか?」 悠太は覇道を切る力はない筈 顔を見なくても大丈夫なのだと想っていた… その覇道が切られたと謂う事は‥‥‥ 「………覇道が切れる程の……命の危険があったのか?」 康太は思案した 榊原は康太を抱き締めた 「康太……考えすぎないで……」 「………伊織……」 「僕の弟でもあるのです 悠太に何かしたら……タダではおきません!」 榊原は蒼い妖炎を立ちこめて怒っていた 「………伊織……」 「生かしておくものか!」 榊原はそう言い冷酷な笑みを浮かべた 「僕自ら審判を下してやりましょうか……」 怒らせたら厄介なのは康太よりも榊原だった…… 一生は「青龍!」と叱咤した 「天罰は下るものです……」 「それでも……お前は今人の世にいる人間だ!忘れるな!」 「………忘れてはいません 僕が手を下さずとも……使い道はあります」 「………頼むから……冷静になってくれ……」 「僕は冷静です」 誰より怒っていて…… 冷静ではないのは一目瞭然だった その時、九頭竜遼一から連絡が入った 『康太、追い詰めた!』 「そうか、ならオレが行くまで待っててくれ!」 『………え?お前が出るのか?』 「オレの弟が…去年から帰ってない その前に襲撃されたと聞けば…… 直接本人に訪ねるしかねぇじゃねぇかよ!」 「…………お前の弟が……それは確かか?」 「Xmas前から……家に帰ってきてねぇ……」 「………三カ月も……か…… キツいな……それは……」 九頭竜は言葉を濁した 生存確率は日にちを重ねれば下がる一方なのは明らかだったから…… 『なら……お前が来るまで待つ!』 九頭竜はそう言い電話を切った そしてメールで居場所を送った 康太は立ち上がると「行ってくるわ」と告げた 一生も慎一も兵藤も立ち上がると、榊原も立ち上がった 「康太、一緒に行きます」 榊原はそう言い康太を引き寄せた 兵藤、一生、慎一は共に逝くつもりだった 榊原は康太を抱き上げて走った 慎一は戸締まりをして跡を追った 榊原の車に5人が乗り込んだ 「康太、何処へ行けば良いのですか?」 と榊原は問い掛けた 康太はナビに九頭竜遼一から聞いた場所を打ち込んだ 康太は助手席に座ると……爪を噛んで悔しがった 「………もっと早くに気付いていたら……」 三カ月も苦しい思いをさせずにすんだのに…… 榊原は車を走らせた 目的地は……商業施設の廃墟だった 開発に失敗して建設途中で放置されたビルだった 『康太……悠太は虫の息だ…… お前達が乗り込むと同時に我は悠太を助ける!』 弥勒の声が響き渡った 「生きてるのかよ?」 『あぁ…生きてはおる だが……時間の問題だ……』 「一生、久遠に電話して救急車待機して貰えないか聞いてくれ…」 「あいよ!」 一生は久遠に連絡を取った 事情を話すと久遠は快諾してくれ、救急車を近くに配置すると約束してくれた もっと早く気付いていれば……… 悔やまれてならない 「絶対に!逝かさねぇ!」 康太は拳を握り締めて吐き出した 廃墟のビルに到着すると角倉が康太を待ち構えていた 「康太さん!こちらへ!」 角倉に案内されて行くと…… ボコボコにされた男が20人位ぶっ倒れていた 「遼一!」 康太は九頭竜に声をかけた 「康太、このビルの地下に監禁してるそうだ…… 中々吐きやがらねぇから……殺してやろうかと想った!」 九頭竜は残忍な笑みを浮かべて、そう言った 康太はへばって倒れている男に近付くと…… 頭を踏みつけた 「この男が璃央の弟か……」 康太は男を踏みつけながら問い掛けた 「そうだ!その男が中村璃央の弟で、このチームのリーダーだ」 「へぇー飛鳥井康太に仇なせば…… その命を賭けて逃げねぇと……消すぞ!」 男の胸倉を掴むと……康太は嗤った 身も凍る程の笑みに……竜吾は観念した 「中村竜吾!てめぇ……生きてお天道様を拝めると想うなよ!」 康太は竜吾を床に叩きつけると 「悠太は!」と問い掛けた 九頭竜は康太に 「今仲間に地下に見に行かせてる……」と答えた 「一生!地下に久遠を連れて行け!」 康太が叫ぶと一生は久遠の所まで走った 兵藤は地下へと走って行った 地下は光すら通さぬ暗闇が広がっていた そして物凄い臭気を放っていた 久遠は「此処は戦地かよ?」とボヤく程の悲惨な現状が広がっていた 久遠は病院に電話を入れた 「応援を頼む! 他の病院と連絡を取ってかなりの数の収容を確保してくれ! そして消防に連絡して救急車の手配を!」 慎一と一生は懐中電灯の明かりを頼りに、悠太を探していた 顔が腫れて赤黒く黒ずみ‥‥‥悠太が解らなかった 既に息を引き取った者もいた 発狂して叫び続けている者もいた ‥‥‥‥‥光も差し込まぬ地下は‥‥地獄と化していた 一生も慎一も息を飲んだ 惨い 惨すぎる 人間のやる事じゃない‥‥‥ かなりの人数がコンクリートの床の上に寝かされていた 辺りは糞尿で、こんな中にいたら狂って当たり前の現状だった 久遠は駆け付けた消防士と共に地下に行き救命に入っていた 消防士は想定外の人の多さに、応援を呼んだ 辺りは‥‥騒々しい音が響いていた 「オレの弟が死んだら……… てめぇらは……生きてねぇと想え!」 康太は吐き捨てた 竜吾は震え上がった 今まで色んな人間を見て来たが…… 魂まで取られそうな人間は生まれて始めてみた 殺される…… 骨も遺す事なく……消される そんな恐怖が頭を過ぎった 康太の体躯は怒りのために燃えていた 「何故、オレの弟を監禁した!」 「………閉じ込めて痛めただけだ……」 康太は竜吾の顔を蹴り上げた 「何故、オレの弟を監禁した!」 同じ質問を繰り返した 「………アイツ等を逃がせば…… 俺等の犯行が割れるから……」 「人を何だって想ってるんだ? ならお前も同じ目にあえば良い 暴行して閉じ込めてやろうか?」 クジュッと掌を踏み付け躙られた 声にならない痛みと恐怖が竜吾を襲った 「………止め……止めろ!」 「オレの弟もそうやって叫んだだろうな… 骨もなく跡形もなく消し去ってろうか?」 康太はそう言うと掌から焔を出した 真っ赤な目が……竜吾を見ていた 冷酷な唇が吊り上がって……嗤っていた 「止めて下さい!」 璃央が竜吾を見付けて駆け寄った 城田、瀬能、愛染は璃央を止めた 「………止めろ……近寄るな……」 「何故!竜吾が……」 「………一番怒らせてはいけない人を怒らせた…… 命を盗られたって……仕方のない事をしたんだ……」 「………竜吾を助けられないのか?」 璃央は床に崩れ落ちた 康太は竜吾の前髪を掴むと璃央の方を見させた 「お前の愛する兄を哀しめて…… お前はどうする?」 「………兄は……関係ないので……見逃して下さい」 「嫌だ!悠太だって関係ない筈だ! なのにオレの弟は何故死にそうなんだ?」 久遠が悠太を探し当ててタンカーに乗せて運ばせた 久遠は康太!と叫んだ 「康太!復讐は後にしろ! 弟を運び出すぞ!」 「慎一、兄は仇を取ってから逢いに行くと悠太が起きたら伝えておいてくれ」 「………康太……」 「罪なき者を危めた罪は大きい! オレが此処で焼き殺してやんよ!」 康太の体躯は……赤く燃え上がった 久遠は一生に「あのバカ!連れて来い!」と伝えて走って行った 一生は康太を止めようと走った 康太は魔方陣を出していた 「…康太!止めろ!」 一生は叫んだ 康太は辺りに結界を張った 何人たりとも邪魔は許さない!と人の関与を拒んだ 人の目には何も映らない空間を作り出した 唯‥‥‥結界の中にいる中村や愛染や城田は‥‥‥目撃する事となる 康太は呪文を唱えた その時……時空を切り裂いて…… 雷鳴が轟いた ピカッと光る閃光が辺りを包むと…… 馬に跨がった男が姿を現した 真っ赤な衣装にふんだんに金糸の刺繍が施してあった 「我が弟炎帝よ 久しぶりだな」 「兄者……」 「人に手を下してはならぬ」 「………コイツはオレの弟を殺そうとした!」 「なればお前は、その者の兄の前で…… 弟を殺めると言うのか?」 やってる事は変わらないと暗に言われた 「………兄者……」 「この者は報いは受ける 我はその為に存在するのであろうて!」 閻魔大魔王の仕事だと兄は弟に言い聞かせた 「………兄者……すまなかった……」 「青龍殿を哀しませる事はしてはならぬ!」 康太は焔を収めた 閻魔は馬から下りて竜吾の前に立った 「我の名は閻魔大魔王 人に罪の裁きを下す者!」と告げた 竜吾は目の前で何が起こってるのか…… 解らなかった 「お前はこのまま悪事を重ねれば 寿命を全うする前には罪を償わねばならなくなる! 人の罪の重さは己の命で贖わねばならぬ」 竜吾は声もなかった…… 閻魔は台帳を見ていた 「お前の魂、三日預かろう その三日の間、お主は地獄へ逝くと良い 人は命でもって贖わねばならぬ事を知るが良い その者は魂がないだけで、人の目には何も変わらず映るであろう それで、引いてくれぬか?炎帝」 「……兄者……」 「我が弟炎帝よ! 無茶はするでない」 閻魔は康太を優しく抱き締めた 「………兄者……ごめん……」 「この者の魂三日消える 三日の後、今の世界に還す」 閻魔はそう言い竜吾の魂を球体にした 球体の中に閉じ込められ…自分の体躯と引き離されて…竜吾は慌てた 「三日の後、此処にこの者の家族を呼べ」 閻魔はそう言い馬に跨がると時空へと消えていった 康太が張り巡らした結界は閻魔が消えると同時に跡形もなく切れてなくなっていた 康太は璃央に 「三日後、家族全員で此処へ来い」と告げた 璃央は康太に「何があったのですか?」と問い掛けた 璃央達を取り囲んでいた暴走族が康太の後ろに並んだ 九頭竜遼一は康太を抱き締めた 「康太、俺たちは逝くな」 「……ありがとう遼一」 「お前の為なら何だってしてやる だから………俺たちの前から消えないでくれ康太……」 遼一は泣いていた 康太は遼一の背中を撫でた 「消えねぇよ オレはまだやる事があるからな!」 遼一は康太を離すとバイクに跨がった そして康太の傍から離れて行った 遼一を見送る康太を榊原が抱き締めた 「康太……病院へ行きますよ 慎一、璃央達を病院の方に連れて来て下さい」 榊原はそう言うと康太を抱き上げた 兵藤と一生は悠太と共に救急車に乗って一足先に病院の方に行っていた 城田は璃央を立たせると、病院の居場所を聞いた そして璃央を抱えて車へと戻った 瀬能は「………康太さん怒ってたな…」と呟いた 城田も「……あの人は滅多と怒らないのに……」と事情が解らず……親指を噛んだ 愛染も「………何があったか聞かねばなりません!」と覚悟を決めた 車に乗り込もうとする3人に慎一が近寄り 「宜しいですか?」と問い掛けた 璃央は「はい……」と気丈に返事した 「俺がナビするので病院の方まで来てくれませんか? 道すがら何があったか説明します」 城田は璃央を抱えた そして車へと急いだ 城田が運転して助手席に慎一が座った 後部座席に璃央、愛染、瀬能が乗り込んだ 慎一は車が走り出すと事情を説明した 「飛鳥井康太の弟、飛鳥井悠太が去年のXmas以降帰って来てないのです 悠太の友人の葛西茂樹も帰って来てません その少し前に襲撃にあってたそうです……」 慎一が説明すると璃央は 「………康太さんの弟は? 生きていたのですか?」 「このビルの地下に閉じ込められ監禁されてました 暴行の限りを尽くされて……虫の息でした」 璃央は頭を抱えた 「………竜吾がやったんですか?」 「康太は貴方達に角倉を貸し出した だけど角倉では歯が立たなかった で、康太は九頭竜遼一を出したのです 九頭竜遼一が動かせる兵隊は今もかなりの数いる 九頭竜遼一がこの場所を突き止め、アイツ等を取り囲んでいた…… でもアイツ等は反省する所か……居直った 弱いからやられるんだ……と言ったから…… 主は……力を解放された それを……閻魔大魔王が現れて止めた……」 「………あの……時空から現れた人ですが…… 本当に閻魔大魔王なんですか?」 璃央は慎一に尋ねた 「炎帝は閻魔大魔王が弟! 心配して魔界からやって来たのです」 「………弟は……生きて帰れますか?」 「三日後、此処に来れば還すと言われた あの方は約束は守られる方です」 「………竜吾は……どうなるの?」 「悠太さんが亡くなれば……殺人罪です 三カ月も暴行の限りを尽くされ地下の暗い中に閉じ込められた悠太の気持ち……解りますか?」 璃央は言葉もなかった 「……そこまで……クズじゃないと想っていた…」 「悠太だけではありません 地下には何人も閉じ込められていました 久遠は応援を要請した スタッフが残って今も生死を確かめている状態です 監禁 暴行 殺人罪…… 発狂して狂った人間や冷たくなって息絶えた子達がいました 人の命を何だと想ってるんでしょうね…… 地下の光も差さぬ所に三ヶ月も閉じ込め暴行を受けた苦しみが……解りますか? 俺が悠太を探しても…… どれが悠太なのか解らない…… それが現実です」 璃央は言葉もなかった 城田は「………璃央の弟は……どうなるのですか?」と尋ねた 「三日後……魂が還された後に……主が決められる 他の仲間は余罪をくっつけられて逮捕されました 叩けば誇りが出て来る奴ですからね 璃央の弟もそうでしょ? 飛鳥井康太の弟に牙をむけば…… それは飛鳥井康太を標的にしたも同然 悠太は康太が育てた弟です 飛鳥井の明日のを築く為に配置した弟です もし……死ぬ様な事があれば…… 自分の手は下さずとも……消し去れる力はあるとだけ言っておきます」 3人は言葉もなかった 「それが飛鳥井康太です 違いますか?」 慎一は問い掛けた 瀬能は「敵に回る事を想定すれば……計り知れない恐怖になる……」と呟いた 敵に回る日など……想定などしていなかった…… 愛染も「あの方を怒らせる日など来ないと想っていたからな……」と嘆いた 城田は「……よりによって……飛鳥井悠太に手を出すかな…… 飛鳥井悠太は康太さんが育てた子供同然の存在…… 命を脅かそうものなら…… 何としても……仇は打つだろう… 喧嘩を売るなら相手を見るべきだった…… 関東最大のグループを、たった四人で潰したと謂われる人だ だから今回伝説と謂われた人が先導して闘っていた……」とボヤいた ………璃央は言葉もなかった 先の事を考えたら…… 怖くて……堪らなかった 何時も優しい顔の康太しか見た事なかった…… あんな冷徹な顔…… 見た事なかった…… 飛鳥井康太を畏れると言う事がやっと理解できた 病院に到着すると、病院のスタッフは慌ただしく動き回っていた 地下には今もかなりの人間が残されてるらしくて、他の病院に応援を要請していた 慎一は迷う事なく主の覇道を手繰り寄せ、璃央を康太の傍へと連れて行った 「康太……」 慎一が呼ぶと康太は慎一を見る事なく 「三日後、あの場所に家族を連れて来いと伝えておいてくれ……」 「解りました」 「………慎一…」 「はい!」 「…………今日は帰って貰ってくれ……」 「解りました」 慎一は康太の傍を離れると、璃央の傍へと向かった 「璃央さん、今日は帰って下さい……と主は申してます」 「………悠太さんの無事を……」 璃央は言いかけて……黙った そんな資格……ないって解ってるから…… 璃央は立っていられなくて床に崩れ落ちた 「慎一、綾人を呼んでやれ」 康太はそう言った 「璃央さん、綾人さんを呼びます 誰か連絡先を教えて下さい」 慎一が言うと城田が携帯を慎一に差し出した 「この携帯に入ってます これでかけてくれて構わない」 「ではお借りします」 慎一は綾小路綾人と言う名前を押した コール一つで綾人は出た 『城田!璃央は?』 「俺は緑川慎一と申します 飛鳥井康太に仕える者です」 『………璃央に何かありましたか?』 「璃央さんを迎えに来て下さい…場所は…」 慎一は病院の場所を告げた 綾人は『すぐに行きます』と言い電話を切った 慎一は城田に電話を返した 城田は慎一に「………病院にいたら迷惑ですか?」と問い掛けた 慎一は困って一生を見た 視線を感じた一生は慎一の方を見て、何かあると思い、傍へと行った 「何かあったのかよ?」 一生は慎一に問い掛けた 「……病院にいたいと申されるんだけど……」 慎一は言い難そうに言った 「城田は康太の異変には駆け付ける強者だからな…… あんな康太を見て帰れねぇんだろ?」 と一生は察した 「………それでも……」 「慎一、康太は慕ってくる奴には寛容だが‥‥ 今はそんな余裕もねぇだろうからな帰って貰え」 「………解りました……」 慎一は城田達に告げようとした その前に一生が 「城田、瀬能、愛染、一旦帰ってくれ! 璃央は疲れ切ってるからな…… 帰って休め…… 康太の判断だ 何も心配しなくて良い おめぇは飛鳥井建設になくてはならない存在 それは今も変わりはねぇ! 心配してるのは……璃央がぶっ倒れねぇかだ… 弟は閻魔が人か畜生以下か選別する 人の魂を持っていれば……お前の元に還してくれる……だから心配するな!」と伝えた 一生の言葉に璃央は泣き出した 「………オレは……康太さんに顔向けの出来ない事をしたんだ……」 「お前がやった訳じゃねぇ! 弟だ!それは間違うな! 康太は弟の命を取ったってお前は殺しはしねぇ! お前と弟は別物なんだって!ちゃんと理解してるんだ!」 一生の言葉が……痛かった 璃央はどうして良いか解らなかった 立てずにいると……病院の中…… 駆けて来る足音が響いた 「璃央!」 綾人は必死になって走った そして床に崩れ落ちている璃央を抱き締めた 「………璃央……何があったんですか……」 離れるんじゃなかった……と綾人は後悔した どんな時でも……璃央を離さずにいれば良かった……と悔いた 康太は立ち上がると綾人の前に行った 「綾人、何も聞かずに璃央を連れて行け! そして何も喋らさせずに、寝かしつけろ! 出来るか?」 「はい!やります!」 「なら連れて行け!」 綾人は璃央を抱き上げた 「……ちょっ………綾人……離せ!」 璃央は抗ったが綾人は康太の命令通り、璃央を何も言わせず連れ去った 「城田」 「はい!」 「璃央に会社を辞めるのは許さない! と伝えておけ!」 「はい!解りました!」 「そして……お前達は帰って良いぞ……」 「………いてはいけませんか?」 今は‥‥他に気が回らねぇから 遠慮して欲しいのが本音だ! 城田………おめぇもこんなに疲れた顔をして……」 康太は城田の頬に手を当てた 「家に帰っても気になって眠れません……」 「子供は?」 「ベビーホテルに預けてあります」 「朝になったら託児所に連れて行け…… ベビーホテルに預けるお金が勿体ないだろ?」 「仕方ありません…… 友の一大事でしたから……」 「………誰も璃央を責めてなどいない……」 康太が言うと愛染は「解っています!」と康太に言った 瀬能も「自分を責める璃央を放っておけなかったのでしょ?解っています……」ともう苦しまなくて良いと康太に告げた 「………だが……璃央の目の前で……アイツを焼き殺そうとしたのは………間違いだった……」 「康太さん!」 城田は康太を抱き締めた 「貴方が育てた子です……衝動にかられるのは当たり前です! そんなの璃央だって解っています」 瀬能も康太にそう言い抱き締めた 「………でもオレは……同じ事をする所だった……」 「されても……当たり前です! ロクデナシで親も兄弟も泣かす奴です…… この先生きてても……真っ当な生き方をするかも怪しい奴です! だから……貴方が気に病む事はないのです…」 愛染は泣きながらそう言い康太を抱き締めた 「お前達、ちゃんと食事しろ…… 今は‥‥此処にいられる方が迷惑だから家に帰れ!」 こんな時まで心配してくれる…… 城田達はやるせなくなった 「………康太さん……」 城田は何も言えなくて名前を呼んだ 「一生」 康太は一生を呼んだ 慎一は康太の横に来ると「コイツ等か?」と尋ねた 「城田達は昼も食わずに捜索しまわってた 何か食わしてやってくれ」 「了解! 近くのファミレスに行って逝くとするわ!」 「そうしてやってくれ…… その後、家に還る様に言ってくれ!」 「素直に還るかは解らねぇけど飯は食わせに逝くわ!」 「頼むな!」 康太はそう言い傍を離れた 榊原が康太を引き寄せて……座らせた 一生は城田達に「何か食べに逝くぞ」と言い放った 「………今は……何も入りません……」 「そんな事は言わずに行くぜ! 俺は康太達に何か食べれるものを持って帰りてぇからな一緒に行くとするわ!」 一生はそう言い、強引に城田達を引っ張って行った 康太の携帯がプルプルと震えて着信を告げると、康太は携帯を取った 電話に出ると『康太……何処にいるのですか?』と心配性の瑛太からだった 「瑛兄……周りに誰かいるか?」 『いません…私一人です』 「瑛兄、悠太見た?」 『母さんとそれを話していたのです Xmas以降悠太を見ていません 悠太は君が管理してるので口は出せませんが……あまりにも悠太を見ないので……』 「悠太……死にかけてる」 『………え!!それは……』 「母さんや父さんには伝えるな…… 息を引き取ったら…… 言うしかねぇけど……今は言うな……」 『康太……兄も傍に行きたいです』 「飛鳥井の病院にいる」 『……すぐに行きます』 瑛太はそう言い電話を切った 「慎一、瑛兄が来る……」 「了解しました!」 慎一は瑛太を迎えに行った 兵藤は榊原に「少し横にならしとけ!」と言った 消耗してる康太が心配だったのだ 榊原は康太を膝の上に寝かせようとするけど…… 頑なにそれを拒んだ 「………康太……」 「悠太は闘ってる 他の奴も闘ってるんだ! オレが寝てる訳にはいかねぇ!」 康太はそう言い歯を食いしばった 『……康太……』 天空から声が響いた 弥勒からだった 「弥勒……」 『覇道を切ったのは悠太本人だ……』 「……え……悠太にそんな力……あるのかよ?」 『それは解らぬ…… だが……覇道を切ったのは悠太本人だ 今から過去に遡って、それを見て来ようと想う…… だから……お主は無理はするな……』 「………弥勒…………」 『康太……悠太は絶対に死なせたりしない! だから……頼むから………』 無理はしてくれるな……と弥勒は言った 「……焼き殺してやろうと想った……」 『………康太!………人に手を下してはならぬ……』 「解ってんよ……でもあの時……オレは……」 康太はそう言い涙を流した 榊原は康太を強く抱き締めた 『康太、悠太の記憶を遡って来る お前に悠太の想いを届けるから……』 「……ありがとう弥勒……」 『何も考えずとも良い……待っておれ』 弥勒はそう言い気配を消した 瑛太が康太の傍へと走って来た 「康太……何があったのですか?」 榊原が変わって事情を説明した そして慎一が付け加えて説明した 「地下には悠太達だけではなく…… 多数いました……皆……暴行を加えられて虫の息でした…… 久遠先生が他の病院にも要請して救助に当たってます」 「………悠太は……」 「まだオペ室から出て来ません……」 慎一はそう告げた 瑛太は康太を抱き締めた 「悠太は私達の弟です 絶対に死んだりはしません……」 そう言い強く康太を抱き締めた 「………もっと悠太を気にかけてやれば良かった……」 「………ええ……私達も悠太を気にかけてませんでした…… 三ヶ月も……気付けなかった……」 瑛太も悔いた 悔いて自分を責めた オペは朝になっても終わらず…… 瑛太は会社を休んだ 副社長と社長が会社を休めば混乱になると解っていたが…… 今……離れる事を拒んだ オペは10時間を超えて……やっと終わった オペ室から出て来た久遠は消耗していた 「オペで何とか負傷したカ所は手当てした 体力的に弱っているし、暗闇の中暮らしていたから明るい場所に一気に出せば障害が出る 徐々に慣らして行くしかない 重要なのは……体力的な問題だ…… 暴行も凄いが……三ヶ月の間、ろくな食事を与えられないのが原因だ 衰弱が激しい…… 他の病院で手当中に息を引き取った子もいたらしい…… もし何とか持ち直したとしても…… 普通の学園生活が送れるか……心理的な部分も怖い……」 慎一は「……何人か……死んだのですか?」と問い掛けた 「あぁ……何人かは処置してる間に息を引き取った……」 と伝えた 慎一はこれ程まで………と目眩を覚えた 「………後……葛西の方は爪が全部剥がされて…… 相当な拷問を受けている…… 悠太も奥歯が全部抜けていた…… 歯を食いしばり過ぎたのか……抜かれたのか…… それは解らねぇけどな……奥歯が全部なかった 他の奴も……背中を焼かれたり……切り裂かれたり……切り裂かれた奴は……手当ての甲斐なく死んだ……」 言葉もなかった 「………俺も長い事医者やってるけどな……野戦病院の様な患者の山は……平和な日本では目にする事はねぇと想っていた! 暴行の限りを尽くされ感染症で息を引き取る者が多数出ている」 久遠が呟くと……飛鳥井義恭が姿を現した 「慎一、お前も酷い拷問を受けた…」 と慎一に声をかけた 「………義恭先生……」 「だが、康太が弱って力尽きる前にお前を連れて来たからな……あの時は助けられた 今回は……連れて来られた子達は弱り切っていた……」 「………三ヶ月……気付きませんでした……」 「飛鳥井の倅、兄には言うな……と魘されて口にしていた……」 「………え?……悠太が……口がきけたのですか?」 「魘されて言ってただけだ…… 何度も……魘されて……康兄に言うな……と言ってた」 「………そうですか……」 久遠は康太に「今夜まで生きてれば峠は越せるだろう……」と告げた 康太は久遠に深々と頭を下げた 悠太達はICUに入れられた ICUへ入るのは禁じられ……帰る様に言われたが……全員動けなかった 榊原の携帯に清隆から電話が入った 『何があったのか教えてください! 瑛太が休みで、君は何処にもいない 何があったのか勘繰るなと言う方が無理です しかも瑛太は携帯の電源まで切ってます』 「………義父さん……」 『話して下さい伊織! 康太も家には帰って来てません 慎一も一生も……裏の貴史も帰って来ていない これを緊急事態だと想わずにいられません!』 「……悠太が……意識不明の重体なんです……」 榊原は清隆に話した 『悠太が……! 悠太はどの病院にいるのですか!』 「飛鳥井の病院です」 『直ぐに行きます!』 清隆は電話を切った 榊原は瑛太に 「やはり……騙されてはくれませんね」 と告げた 瑛太は「仕方がないです……」と呟いた 康太は榊原の胸に顔を埋めて…… 『………じぃちゃん……悠太を助けてくれ……』と源右衛門に願った 暫くして、清隆と玲香が病院にやって来た 清隆は瑛太に「………悠太は?」と問い掛けた 瑛太は何も言えなかった 玲香が慎一に詳細を問い掛けた 慎一は玲香と清隆に、今までの事を詳しく聞かせた 一生が城田達と病院に戻って来ると……清隆と玲香がいて驚いた 一生は榊原にランチボックスが入った軽食を渡した 「飲み物とサンドイッチが入ってる 旦那……康太を食べさせてくれ! そして旦那も食べてくれ…」 一生は榊原にお願いした 榊原は立ち上がるとか慎一に 「慎一、個室を取って来て下さい!」と頼んだ 「………悠太は……ICUです……」 「悠太は絶対に死にません! ですから個室を取って来て下さい!」 榊原の言葉に慎一は受付へと走った 兵藤は康太に 「今捕まえてる奴等……どうするよ?」と問い掛けた 「余罪を引っ張って拘留させてくれ…… 悠太の名前は一切出さないでくれ!」 「……報道規制やると……正義か繁雄辺りが嗅ぎつけてくるぞ……」 「構わねぇ! 悠太の名前も葛西の名前も一切出す気はねぇ!」 兵藤は美緒に報道規制と拘留を頼んだ 『貴史、堂嶋が探りを入れて来てる… バレるのは時間の問題かもな……』 と兵藤に言った 「それでも……康太の望みだ! 何としてでも叶えてやるしかねぇ!」 美緒は『仕方がないのぉ…』と言い警視総監の叔父の処へ電話を入れた 慎一は個室を取ってやって来た 「皆さん、病院の迷惑になるので個室の方へ……」と言い、案内した 個室に入ると慎一は康太に 「食べて下さい!」と哀願した 榊原はランチボックスを開いて、サンドイッチを康太へ持たせた 「康太、君が弱ってしまったら……悠太が哀しみます」 「………伊織……」 「さぁ、食べて下さい! 慎一が後で君の好きなプリンを用意してくれます」 康太はサンドイッチを口にした 食欲はなかったが……少しだけ囓った 兵藤は「……食わねぇと久遠呼ぶからな!」と脅した 一生も「栄養の点滴打った方が早くねぇか?」と思案した 清隆と玲香は康太を心配した 瑛太も「康太、食べなさい!」と言った 城田、瀬能、愛染は 「「「康太さん!……食べて下さい」」」と泣きそうだった 瑛太は3人に「……君達……今日は休みですか?」と問い掛けた 「はい!休んだ分は倍頑張るので…」と城田が言った 「休まねば……気になって仕事どころじゃありません!」と瀬能が申し出た 「…我等は康太さんを信じて生きてるんです! その康太さんに何かあれば……心配で何も手につきません!」と愛染も反論した 「瑛兄、その3人は明日から開発プロジェクトの一員となり馬車馬の様に頑張るそうだ!」 と康太が瑛太に言った 「……康太、開発プロジェクトは今の所ありませんよ?」 「出来るんだよ! 悠太達を閉じ込めておいた廃ビル…… あのまま置いておく訳にはいかねぇんだよ! オレはどんな手を使っても、あの廃ビルや一帯の開発をやってやる! 瑛兄……オレのPC……」 「PCなら私の車にあるのを使いなさい!」 瑛太はそう言い一生に鍵を渡した 一生は部屋から出て行った 「瑛兄、一生達も何も食ってねぇんだよ……」 「そうですか……何か買って来ますか?」 「慎一達を食べに連れて行って欲しい……」 「君は?」 「オレは此処を動くつもりはねぇ!」 「………そんな事を言うと一生達も動きませんよ?」 「倒れられたら困る……」 「なら君もちゃんと食べて、ちゃんと寝て下さい!」 「………オレは食ってる……」 そう言い康太はサンドイッチを食べた 「貴史にも何か食わしてやってくれ」 「貴史……君……随分汚れてませんか?」 瑛太が言うと慎一が 「貴史は地下室に飛んでいき、様子を見に行きましたから……誰よりも汚れてるんです」 「………着替えに行きますか?」 「………着替えに行ってる間に何かあったら…… 康太が暴走しかねねぇからな… 動きたくねぇんだよ……」 兵藤はボヤいた

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