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第79話 繋ぐ②
瑛太には兵藤の想いが痛い程に解った
だから打開策を口にした
「このビルの三階に飛鳥井の持ち部屋が幾つかあります…そこでシャワー浴びて着替えてらっしゃい」
「着替え……持って来ねぇとな」
「では隼人に頼みますか?」
「隼人?何で隼人?」
「飛鳥井の家にいましたからね
今日はオフなので暇だと言ってました」
「………隼人でお使い出来るのかよ?」
「………心配なら……力哉を付ければ良いではないですか!」
「………力哉……家にいたのかよ?」
「力哉は体調が悪くて長期休暇を取ってます
なので、頼めば来てくれると想いますよ?」
瑛太はさっさと携帯を取りだして力哉に電話を入れた
力哉は直ぐに動くと約束してくれた
暫くして力哉が隼人を連れて、兵藤の着替えを持って来た
「貴史さん、お母様がスーツケースごと持って行けと言われたので、持って来ました」
と言いスーツケースを渡した
「………あのクソババア……荷造りが面倒だから…」
兵藤はボヤいた
力哉は康太の傍へと駆け寄った
「………康太………康太……大丈夫なのですか?」
力哉はそう言い康太を抱き締めた
「力哉……お前こそ体躯は大丈夫なのか?」
「………康太……僕は大丈夫です……」
「お前もXmas前から皆の所に顔を出さなかった……
気になっていたけど……忙しさにかまけて……
見過ごした……」
「………康太……僕は大丈夫です……」
「一人でポリープの手術なんてするんじゃねぇよ!
オレ達は……んなに信用がならなかったのかよ!」
康太は怒った
「………康太……違います……
君に心配かけたくなかったんです……」
「……心配するから家族なんじゃねぇのかよ?
お前……オレ達と家族になったんじゃねぇのかよ?
なら……あんで……んな事を言うんだよ……」
康太は悲しそうに言った
瑛太は力哉を抱き締めた
「力哉……君は飛鳥井の家族じゃないんですか?」
力哉は泣いた……
泣いて……「ごめんなさい……」と謝った
一生は兵藤に「着替えて来いよ!」と言った
「お前、案内してくれ!」と言い、兵藤は一生と共に個室を後にした
兵藤は「力哉の病気、康太に言わなかったのかよ?」と問い掛けた
「……俺も……力哉がポリープの手術したの……知らないんだわ……」
と意外な言葉が返ってきて兵藤は驚いた
「お前の恋人なんだろ?力哉」
「………薄情な奴だと想ってくれ……
俺は……康太ばかり見てるからな……力哉は黙ってオペをしたらしい……
オペの事……俺も知らなかったんだ
ここ最近、力哉が体調不良で……寝てないからな……オペの後も見てない」
「………お前の恋人は可哀想だな……」
「………お前の妻になるのも可哀想じゃねぇのかよ?」
「俺は妻にはちゃんとサービスすんぜ?」
「………そうかい!悪かったな!」
一生は拗ねた
兵藤はシャワーを浴びて、着替えた
「一生、おめぇはんとに昔から……炎帝命だよな?」
「………お前もだろ?」
「……俺の次代の朱雀はもういるからな
来世還ったとしても俺は独身貴族を気取れる
お前は恋人持参で帰るんだろ?
なら寂しい思いをさせるなよ」
「………肝に銘じとく……」
「選んだなら……時には康太よりも優先すべきだと……俺は想うぞ」
「頭では解ってるんだ……
でも……置いて逝かれたくねぇんだ……
俺は如何なる時でも……共に逝きてぇ…」
「なら、もう何も言う事はねぇ……
お前が馬鹿野郎なのは遥か昔からだしな!」
兵藤は一生を促して病室へと戻って行った
病室へ戻ると……飛鳥井の家族はいなかった
城田達も……いなかった
その代わり……堂嶋正義と安曇勝也と三木繁雄が来ていた
堂嶋は兵藤と一生を見ると
「ご家族や関係者の方にはご遠慮願った」と告げた
康太は黙って……そっぽを向いていた
「……何があった?」
一生は堂嶋に問い掛けた
「貴史、ソイツも連れて出て行け!」
堂嶋は一蹴した
兵藤は一生を連れて病室を出た
病室から離れて一生は兵藤の手を振り払った
兵藤達の横を……東都日報の東城と今枝が通り過ぎて行った
何かをやるのは間違いなく解った……
「一生……今は……遠慮しとけ……」
兵藤は言った
一生は「康太……何やる気だ……」と問い掛けた
「……廃ビルの開発だろ?
あのまま黙ってる奴じゃねぇからな……
康太なら……あの地帯一帯買い取るのも可能だろ?」
「慎一、いなかったよな?」
「………あぁ、いなかった」
兵藤と一生は慎一に連絡を取り、合流した
堂嶋正義は秘密裏に兵藤美緒が動いているとの情報を受けていた
兵藤美緒だ、聞いても答えはくれないのは知っていた
そして人員を総動員して探りを入れていた
すると三木繁雄が堂嶋の処に来た
「康太が捕まらないんだけど?
飛鳥井の家族も慎一や一生も捕まらない
そんな時……康太に何かある……」
三木は堂嶋にそう言った
「兵藤美緒が秘密裏に警視総監を動かしてる……」
「美緒が秘密裏に動くとしたら康太絡みだ
美緒は康太以外には動いたりはしない」
「………だとしたら……何かあったな……」
堂嶋と三木が話をしていると安曇がやって来た
「康太の息の掛かった暴走族が人を集めて動いていた……と交通局の人間から連絡がありました
康太に何かあったのですか?」
開口一番、安曇はそう言った
バラバラのパズルを組み合わせて繋ぎ合わせて行くと……
辿り着くのは……飛鳥井康太以外には考えられなかった
康太が暴走族を集めて何かをした
安曇は人を動かし情報を集めた
すると飛鳥井の病院に向かったと放った諜報員が突き止めた
3人は飛鳥井の病院まで来て、康太と話を始めた……と言うのが経緯だった
飛鳥井の家族や城田達には遠慮して貰った
病室に来た安曇や堂嶋と三木に、榊原は事情を説明するしかなかった
安曇は「………悠太は…」と問い掛けた
康太は何も言わなかった
変わりに榊原が「……まだ……」と答えた
「久遠先生が言うには……運び込まれて手当てをしてる時に何人かは息を引き取ったそうです……」
と現状は甘くない事を告げた
堂嶋は「三ヶ月か……」と呟いた
三ヶ月監禁される……
光もない闇の中に葬り去られたみたいに置かれた日々に胸が苦しくなった
三木は「……悠太は君の弟です!絶対に死にません!」と泣きながら言った
三木は昔から飛鳥井の家とは懇意にしていた
康太の後ろを控えめに立っていた弟を思い出した
決して兄の前には出ずに、兄の後ろに控えていた悠太
………三木は悔しかった
三木でこんなに悔しいのなら……康太は相当悔しいだろう……
康太は親指を噛みながら
「オレは今回の事を悠太の名前は出さずに大々的に煽ってやろうと想う
廃ビルなど……取り壊す!
あんな場所があったから悠太は閉じ込められた!
二度と悠太があの場所を見なくても良い様に……オレはあの一帯を買い占めてやる!
そして開発プロジェクトをぶっ立ててやる!」
と言い放った
康太が言うと安曇は「私が火付け役になりましょう!」と名乗りを上げた
「いや、良い
適任は既に呼んである」
と康太は果てを視て答えた
病室のドアがノックされると榊原はドアを開けに行った
訪ねて来たのは東都日報社長 東城洋人とカメラマンの今枝浩二だった
東城は康太に「お呼びですか?」と声をかけた
「東城……オレの弟が死にそうなんだ…
他の病院に運ばれた奴は手当ての甲斐なく死んだ奴もいる……」
康太は悔しそうに……そう言った
東城は驚いた瞳で康太を見た
「え‥‥君の弟が巻き込まれたのですか?
話して下さい……総てを‥‥」
東城が言うと康太は総て話した
東城は言葉もなく康太の言葉を聞いていた
「………未成年の犯罪でも……これは酷い……」
東城は悲鳴にも似た想いを吐き出した
「三ヶ月……死なない程度に食わしてはいたみてぇだが……
拷問の限りを尽くされた体躯を……
三ヶ月に渡り放置した
しかも光も入らぬ地下に放置した
悠太の友人は爪を剥かれて爪がなかった……
悠太は奥歯が……なかったそうだ……」
聞いていても痛い……
「………生徒会長と執行部部長……
その肩書きを持つ生徒が……逆らったからと言って……閉じ込められて暴行の限りを受けた
悠太も……生死が解らぬ状態だ……許しておくか!」
「……犯人は?どうなりました?」
「主犯格の奴は……警察に捕まった
だが、これは唯の抗争なんかじゃねぇ!
多分、飛鳥井を潰したい奴等が悠太を利用して何らかの動きをした‥‥だけの話だ」
「………暴走族の争いではなく、根はもっと深い‥‥と?」
「そうだ、表向きは暴走族の領地争いとして処理をされるが、本当の狙いは飛鳥井を潰す‥‥それだと想う
だからオレは悠太を抗争の被害者の中に名前を連ねる気はねぇ」
「……誰が‥‥糸を引いているか‥‥解ってらっしゃるのですか?」
「………誰…とは解らねぇけど…胸糞悪い胸騒ぎならば、ずっとしてるんだよ!」
「ならば、我等は貴方の意のままに動きたく存じます」
「今回の被害者の………親の処には取材に行く事は禁じてくれ……」
「報道規制をかけても……それは難しいと想います
動き出す噂は憶測を踏まえて莫大な怪物に変化します」
「それでも‥‥だ、今は暴動を押さえてくれ」
「解りました、善処します」
東城が謂うと今枝が「少し良いですか?今回の現場を教えて貰えませんか?」と問い掛けた
榊原が康太に変わってタブレットで現場を教えた
「この廃ビルの地下に閉じ込められていました……」
「……このビルの許可は誰に取れば良いですか?」
「オレがあの一帯を買い取った
今頃…事務処理をしてる頃だ
だから誰の許可も要らない!」
康太はそう言った
「………光も通さぬ地下に三ヶ月……
さぞや地下は壮絶な事になってますね
その惨状をカメラに収めます!」
「真実を伝えてくれ……
だが飛鳥井悠太の名前は出さないでくれ!」
「元より彼は未成年
彼は高校二年生……いや…4月から三年になられるんでしたね……」
「………そうだ…執行部部長をやっていた……
兄がなれなかった役務に付いて……いた……」
東城は今更ながらに病室に目を向けて
「……蒼々たるお方がおられますね……」言った
堂嶋は「我等は貴方の視界に入らなかった事にして下さい」と言い捨てた
東城は「もとより、そう致します」と返した
安曇が東城に
「悠太は康太が育てた子なんです…
授業参観も入学式も卒業式も……
悠太は家族は来ない……
それは飛鳥井康太の子だから……
飛鳥井の家族でさえ口も手も出せない存在
そうして康太が守って育てたのが悠太です」
と説明した
今枝は「………彼の入学式の写真を貴方に変わって撮りに行きました……あの時の子ですね」と問い掛けた
「あぁ……あの時の悠太だ……高3になる……」
「悠太の今の写真を撮らせて貰えませんか?」
「………撮れるか今枝……」
「撮れます」
「………なれば撮ってくれ……」
康太はそう言った
榊原は立ち上がると、久遠先生には話を通しておきます……と病室を出て行った
暫くして榊原は久遠と共にやって来た
久遠は今枝を見ると
「須賀の時に来た奴だな」と言った
「話は聞いている
撮りたいなら撮れ!
その代わり今回もフラッシュは駄目だ」
「解っております」
「……今回は…部屋をかなり暗くしてある……
地下に三ヶ月も閉じ込められていたからな……
目を慣らさずに光に当てられない……
それで……どうやって撮る……」
「暗視カメラを持って来ます」
「なら用意したら声をかけろ!
康太……顔色が悪い……」
久遠は康太の顎をあげた
「飯は食ってるか?」
「さっきサンドイッチを少し……」
康太に変わり榊原が答えた
「今夜から病院の方で康太の飯を出してやる!
それを食わせろ!解ったな!」
「はい!ありがとうございます」
榊原は久遠に礼を言った
「このままで行くと……ぶっ倒れるな
伴侶殿、康太をベッドに押し込んで下され!
今点滴を持って来るので頼みます」
久遠に言われ榊原は康太を抱き上げた
「………伊織……離せ……」
「ぶっ倒れると言われて離せません!」
榊原は康太の靴を脱がすと康太を寝かせた
久遠が点滴の用意をしてやって来ると、康太に点滴をした
「………久遠……卑怯だぞ……」
康太が言うと久遠は笑い飛ばした
「ぶっ倒れそうな面してんじゃねぇよ!」
そう言い聞く耳は持たなかった
点滴を打たれて……康太はうとうと眠りだした
堂嶋や安曇、そして三木は一旦家に帰ると言って帰って行った
東城も今枝と共に帰って行った
病室に誰もいなくなると榊原は康太の手を……
強く握り締めた
暫くすると飛鳥井の家族と榊原の家族が戻って来た
笙は榊原に「………康太……どうしたんですか?」と問い掛けた
「康太は眠ってます
久遠先生が点滴を打って眠らせてくれたのです」
と説明した
「………悠太ちゃん……もっと早くに探してやれば良かったわね……」
真矢は泣きながら……そう言った
「………母さん……悠太は人も寄りつかぬ廃ビルの地下に監禁されていたので……
もっと早くに探していたとしても……
見付かったとは想えません……」
「………それでもよ……
三ヶ月も誰も気付かずにいたなんて……
辛すぎじゃないの……」
「………そうですね……
義兄さんは?」
「会社に顔を出しに行きました
清隆さんが……我は行かぬと駄々をこねたので……瑛太が行くしかなくなりました……」
真矢は説明した
清隆は「悠太は私の息子です……傍にいたいのです……康太も心配ですから……」と言い訳をした
玲香は「………面会謝絶じゃ……悠太にも逢えぬ……」と辛そうに言った
眠る康太の頬を撫でていると弥勒の気配を感じた
「………弥勒?」
『伴侶殿、悠太の意識の彼方に康太を連れて行きます!
伴侶殿は康太と魂を結びし者……伴侶殿も見るが良い』
弥勒はそう言った
康太は眠っていると……
目の前に弥勒が現れた
「弥勒?」
康太が言うと……意識が遠くなった……
「康太、これよりお主を悠太の意識彼方に連れて行こうぞ!」
「………弥勒……今か?」
「そうだ!
ちょうどお主は眠りに落ちていた
今ならお主は悠太の深層心理の奥深くまで逝ける……」
弥勒はそう言い……
康太を連れて悠太の意識の奥まで……
潜り込んで行った
「出来た!これでXmasには流生達に渡せるな」
悠太は嬉しそうに笑っていた
建築資材の切れ端で悠太は積み木を作っていた
それを流生達にプレゼントするつもりで削っていた
和希と和馬、北斗には家の模型を作った
総て悠太の手作りで作っていた
色を塗って、ニスを塗って、何ヶ月も掛けて作っていた
夜遅くまで、製図を引いて、勉強もして、生徒会の仕事も片付けていた
『………悠太………』
康太は呟いた……
その日はXmasだった
夜遅くまで生徒会の仕事をして葛西と帰る所だった
「Xmasだね……お前んちはどうする?」
葛西は悠太に尋ねた
「俺んちはXmasパーティーだ
子ども達がいるからな賑やかになる」
「良いなぁ……俺んちは姉さんが離婚して帰ってきたからな……お通夜みたいだぜ毎日…」
「言ってやるな……うわっ!何者だ!」
葛西と歩きている所を襲われた
無抵抗な状態で襲われて……拉致された
光も刺さぬ暗闇に閉じ込められた
毎日……気が遠くなる程に殴られた……
地下室には他の学校の奴等も連れられて来ていた
一日一個のお握りを渡された……
不衛生な場所で……虫がたかる……
悪臭がしていた
意識は日々朦朧となった
悠太は……
康太と繋いだ覇道を切った
康兄が来る……
それだけは避けたかった
康太を煩わせたくはなかった
康兄……俺……死ぬのかな……
死んだら……康兄に逢えるかな……
気の遠くなる時間を閉じ込められた
朝なのか昼なのか……夜なのか
解らなかった
発狂して……自分を殺そうとする奴も出た
悠太は葛西と手を繋いでいた
「………悠太……」
「………葛西……」
呼び掛ければ……声が聞こえる……
それだけが救いだった……
最近は一日に1回のお握りも来なくなった
こうして……置き去りにされて……
死ぬんだろうか……
康兄……
康兄……
貴方が好きでした
貴方以上に愛せる人は……いません
俺は……何一つ貴方の役に立てずに死ぬのは不本意です……
貴方の望む図面を引きたかった……
意識が……遠くなる……
もう呼び掛けても……葛西は返事もしなくなった……
もう死ぬんだ……
やっと………この苦痛から解放されるんだ……
悠太は安堵した
その時……意識の彼方から……
『悠太!お主はまだ来るのは早い!』
源右衛門の声が響いた……
『………じぃちゃん……そっちに行ったら駄目なの?』
『お主が来れば康太が苦しむ!
どうしてお主を死なせたと悔やむであろう!
お主は康太を悔やませたいのか!』
『それは嫌だ………
康兄が苦しむのは不本意です』
『なれば生きろ!』
『………でも……じぃちゃん……俺は此処から出られない……』
『康太が見付ける……
康太は……お主が死ねば……犯人を殺しに行くであろう……』
『………じぃちゃん!それは駄目だ……』
悠太は泣いた
『じぃちゃん……康兄を助けて……』
『なれば、お主は死ぬな!
意識を手離すな!』
『……解ったよ!じぃちゃん……
だから康兄を……助けて……
殺人犯なんかにしないで……』
『お主が生きてれば……康太は殺りはせぬ!』
『………俺……生きるから……
まだ俺は康兄に何一つ返してない……
俺……還りたい……康兄の傍に還りたい……』
『還してやる!
この身が消滅しようともお主は還してやる!
だから諦めるでない!』
『………じぃちゃん……解った……』
悠太は精一杯、生きる気力を保っていた
絶対に死なない…
そう心に決めて葛西を励まして……
他の者も励ました
榊原は泣いていた……
悠太の想いを康太の意識を通して見ていた
一生は榊原に「……旦那……どうした?」と問い掛けた
榊原は一生の手を握り締めた
康太から見た意識が……一生に伝わって……
一生も泣いた
「………源右衛門はすげぇな……」
死しても家族を守る為に……
榊原と一生は泣いていた
寝ている康太も泣いていた
榊原の家族や飛鳥井の家族は……
何が起こったのか解らなかった
慎一は家族に
「康太は今、悠太の意識の中にいるんだと思います
伊織と康太は魂を結び合っている者同士
意識を共有出来るのです……」
と説明した
瑛太は「………なら一生は何故……」と問い掛けた
「彼等は龍の兄弟故……共鳴出来るのでしょう」
と説明した
全員は……納得した
「後でちゃんと説明して貰えます……」
慎一が言うと家族は納得した
悠太は耐えた
絶対に還る!
その想いだけで耐えた
幾日も幾日も……葛西を励まし
己も還ると誓った
駄目になりそうな意識に幾度も源右衛門が出て来て
悠太を叱咤する
そうして……悠太は一日……一日……生きながらえたのだ
悠太の意識が途切れる瞬間
源右衛門が姿を現した
『……康太……我は来世の転生は諦めた
我は悠太を置いては逝けぬ……』
「じぃちゃん!じぃちゃん……」
康太は泣いていた
『飛鳥井を頼むな康太……』
「………じぃちゃん……悠太を護ってくれてありがとう……」
『悠太が死ねば……お主は……仇を打つであろうて……
我はそれはさえたくはないのだ……
康太……明日の飛鳥井を繋げてく導いてくれ……
それはお主にしか出来ぬ事だ……』
「………じぃちゃん……は……どうするんだよ?」
『…我は輪廻の輪を外れてしまった……
もう戻れる道はないのだ………』
源右衛門は転生するよりも悠太の命を護った
「………じぃちゃん……なんで……
オレが……悠太を見付けるのが遅かったから……いけねぇのか?」
『悠太はお主の覇道を断ち切った
お主を……護りたかったのじゃ……
そんな悠太を置いて……
我は逝けなかった……許せ康太……』
「じぃちゃん……もう良い……
じぃちゃんの魂はオレが………」
康太が言うと紫雲龍騎の声がした
『康太……源右衛門は我が責任を持って転生の輪に入れる……』
「……龍騎……止めろ!」
『明日の飛鳥井の道を狂わす訳にはいかぬ!』
紫雲龍騎は源右衛門の変わりに命を擲って……
代わりになるつもりだった
康太は叫んだ
「弥勒!………龍騎を止めやがれ!」
康太は泣き叫んでいた
『………本当に……命を粗末にする輩がいて困るわ』
真っ白な光に包まれて………
神の声が響いた
紫雲と源右衛門は目をこらして……光の中を見た
「………転輪聖王……」
康太は呟いた
完全体の転輪聖王だった
「………封印を……解いたのか?」
『仕方あるまいて!
此処に命知らずな輩がおるからな!』
…………転輪聖王……と聞き源右衛門も紫雲も……
目をこらして弥勒を見た
『紫雲、お前はとっとと自分の世界に還れ!
体調が悪いと伏せってたんじゃないのか?
そして源右衛門!
お主は本当に目を離すとロクな事をしやがらねぇな!』
転輪聖王はボヤいた
その高貴な姿で……
口調は弥勒高徳だった
転輪聖王は紫雲と源右衛門の首根っこを掴むと……
『この者は我に任せろ!』と言い姿を消した
康太は夢から醒めて……目を開けた
「……伊織……見てた?」
「………ええ……ちゃんと見届けました……
悠太の想いを……源右衛門の想いを……」
「………そっか……なら…話してくれ……
オレは怠い……」
康太はそう言い榊原に抱き着いた
榊原は康太を抱き締めた
「………赤龍……皆さんに話して下さい……」
「お前は?」
「康太が怠いと言うので抱き締めていたいのです」
「………そうですか……」
一生は呆れて……変わりに話した
悠太の想いを……
源右衛門の想いを……
家族は……顔を覆って泣き出した
悠太の兄を想う想い……と
源右衛門の飛鳥井の家族を想う想いに……泣いた
「………源右衛門はどうなったのですか?
紫雲龍騎は……どうなったのですか?」
清隆は一生に問い掛けた
「………それは俺には解らない……
転輪聖王しか……解らない……」
「………そうですか……
父は……悠太の為に転生の輪から外れてしまわれたのですね……」
それまで黙って座っていた兵藤が……
「どうなったか……見て来てやろうか?」と問い掛けた
「貴史……お前は気配を消してたんじゃねぇのかよ?」
一生は揶揄して、そう言った
「俺も源右衛門は気になる……
紫雲龍騎は最近……死にそうになったのか?」
兵藤が言うと康太が
「何故そう思う?」と問い掛けた
「魂が全体的に薄い……病み上がりか……余命がない者にしか出ない影の薄さだ」
「………流石だな……
龍騎は最近まで伏せってた
自業自得とも言える……
禁断の魔方陣を使いやがったんだ……
魔に取り込まれて……弥勒が駆け付けた時には……一旦……息を引き取った……
それを魔を払って生き永らえさせた」
「………ほほう……それであの影の薄さか……
どの道……俺が逝かなきゃ収集はつかねぇでしょ!」
兵藤はそう言い立ち上がった
「……貴史……無理するんじゃねぇぞ!」
「解ってる!
俺はまだ死ねねぇ!
お前の見た果てまで逝っちゃいねぇからな!」
「……あぁ……そうだったな……」
「ならな、康太!
ちょっくら逝ってくるわ」
兵藤はそう言い病室を出て行った
榊原は康太に問い掛けた
「逝かせて良かったの?」………と。
「あぁ……朱雀は弱くないからな……」
「ですね!」
榊原は康太を強く抱き締めた
その夜康太は病室のベッドの上で眠りについた
榊原はずっと手を握っていた
清隆や瑛太は家に帰って行った
何日も休む訳にはいかなかったからだ…
玲香は毎朝顔を出した
そして榊原達の食事を慎一と共に差し入れてから会社へ出勤した
京香は子供達を保育園に預けだ後に顔を出していた
「………悠太は……?」
家族は病室に顔を出すと……必ず問い掛けた
康太は力なく首を振ると……
何も言わず立ち去った
悠太を病院に連れて来てから……三日が経っていた
今夜は廃ビルへと行く日だった
久遠は毎日康太の食事を運ばせた
康太は病院のご飯を食べて、慎一にプリンを貰っていた
榊原達の食事は慎一が毎日作って玲香や京香達と持って来ていた
康太は顔色も良くなっていた
「お風呂入って来ますか?」
今夜……約束の日だから榊原は問い掛けた
「そうだな……」
葛西は悠太よりも早く目を醒ました
まだ予断は許されないが……目を醒ましたのだ……
悠太は………意識を戻してはいない……
榊原は一生に声を掛けた
「飛鳥井の家にお風呂に入りに行きます
何かあれば連絡下さい」
「あいよ!」
一生は康太と榊原を送り出した
「………葛西は意識を戻したってな……」
兵藤は一生に問い掛けた
「………悠太は何で意識を取り戻さない?」
一生も解らないと両手を挙げた
「所で源右衛門はどうなった?
聞きたくて……聞けずにいた……」
「源右衛門は消滅覚悟で戻ってきたからな……弥勒に叱られてた……
取り敢えず輪廻の輪に入れて、二度と出て来られない様に監視を付けた」
兵藤が説明すると……一生は
「……紫雲龍騎は?」
と肝心の確信に入った
「紫雲は俺は知らねぇ……
弥勒辺りが連れて行ったと想う……」
「………そうか……で、禁断の魔方陣を……って紫雲は何をやったんだ?」
「それは知らねぇよ!
聞く気もねぇよ!
総ては康太の為……あのバカ者はそれしかねぇだろ?」
「………だな……」
「………悠太……目を醒ます気ねぇのかよ?」
兵藤はごちた
「案外康太が呼べば目を醒ますかもな……」
「有り得るな……」
兵藤と一生は後で康太に声を掛けさせに行くか……と決めた
兄の為に生きて来た悠太なれば……
その兄に呼ばれれば目を醒ますかも……
微かな希望だった……
ともだちにシェアしよう!