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第80話 繋ぐ③

榊原は康太を連れて飛鳥井と帰った 徒歩5分圏内の飛鳥井の家へ歩いて帰った 榊原は飛鳥井の家に康太を連れて帰ると、3階の寝室目指した 浴室で服を脱いだ 全裸にした康太を……榊原はそっと抱き締めた 悠太が入院してから互いに触れていなかった だが……まだ悠太は意識を戻していない 今宵は閻魔との約束もある 榊原は康太を離すと自分も服を脱いだ 浴室に行き、康太の体躯をゴシゴシ洗った 「………伊織……」 康太は榊原を見上げた 榊原は康太の唇に口吻けた 「悠太の意識が戻ったら……」 愛し合いましょうね……と榊原は囁いた 康太は頷いた 「ゴメンな伊織……」 「今宵は閻魔も来ます」 「………あぁ……その前に悠太に逢いに行って起こしてやろうと想う」 「それ、良いですね」 「その前に……抜いとく?」 「………抜いたら止まらないので止めときます」 「そっか……ならあと一踏ん張りしねぇとな」 「そしたら君を心置きなく抱きます」 「ん……そうして……」 榊原も頭と体躯を洗うと、二人して湯船に浸かった 風呂から出ると髪を乾かして服を着せた 榊原も髪を乾かして服を着た そして戸締まりを確認して、飛鳥井の家を後にした 1時間もしないうちに病室に戻って来た康太と榊原に…… 一生と兵藤は驚いた…… 「………康太……旦那と……」 思わず一生は聞いた 「風呂に入って来たんだよ 悠太も目を醒ましやがらねぇし、今宵は兄者が来るからな……」 あれから三日……経っていた 「………そうか……今宵か……」 一生は呟いた 「一生、オレは悠太の病室に行く!」 「………ICUだぜ?」 「久遠に行って逢わせて貰う!」 「………起こしに行くのか?」 「葛西は意識を取り戻した まだ一進一退だけど……一歩は踏み出した」 「あぁ、起こしに行けよ 貴史とも話してたんだ お前が起こしに行けば起きるんじゃねぇかって! お前が駄目なら……聡一郎を呼ぶしかねぇしな…」 「……あんな顔の悠太……見せたい訳じゃねぇ…」 ボコボコに殴られた顔は打撲と打ち身で腫れ上がって……悠太か解らない顔になっていた 「………だな……」 「まずは目を醒まさねぇとな……」 「だな……植物状態には……させたくねぇからな…」 「なら起こしに行って来るかんな!」 康太と榊原は久遠に許可を貰ってICUへと向かった 康太は悠太に声を掛けた 「悠太 起きやがれ!」 …………だが……悠太は目を醒まさなかった 「………駄目かよ……起きると想ったんだけどな…」 「悠太は何故……目を醒まさないのでしょう?」 体躯はまだ治ってないし…… 壮絶な痕を残していた だが……他の病院に運ばれ子達もちらほら取り留めた子達は目を醒ましていた 「………脳にダメージでもあんのかな?」 「CTスキャン 撮ったんですよね?」 「頭も内出血凄いと言われたけどな…… 取り敢えず意識が戻ってから治療するって言われたな」 榊原は悠太に声を掛けた 「悠太、起きなさい!」 ………悠太は起きる気皆無だった 「………誰の声だと起きますかね?」 「………誰だろ? 取り敢えず全員声掛けさてみるか?」 「………ですね……」 康太と榊原は個室に戻った 一生は「どうだった?」と問い掛けた 康太は首をふった ソファーにドサッと腰を下ろして 「……誰の声なら起きるんだ?」とボヤいた 「………なら俺と貴史、やってみるか?」 一生は思案した 「全員声掛けさせてくれ! 聡一郎にも連絡取って起こす様に言ってくれ」 一生は「あいよ!」と言い兵藤と共に病室を出て行った 「あんで意識……戻らねぇかな…」 康太が呟くと 『悠太は助かった事すら知らぬ…… 唯一、源右衛門がこの世に繋ぎ止めていた』 弥勒の声だった 「………なら……源右衛門の声なら起きるのかよ?」 『可能性は高いな……』 「源右衛門は……助かったのかよ?」 『水神が飛鳥井の次代は源右衛門しかおらぬと言うからな…… 輪廻の輪に押し込んで監視を付けた』 「………源右衛門の声だけ……何とかならねぇか?」 『……何とかしてみる…… 今宵までに何とか出来るなら閻魔と共に還る事にする』 「悪かったな弥勒……」 『気にするでない 還ったらお前とご飯食べて雑魚寝するつもりだ』 「そんなんで良いなら何時でも来いよ」 康太は笑った 「弥勒…」 『何だ?』 「龍騎……どうなった?」 『あやつは桃香に言って病院に連れて行った 満身創痍の身で……死ぬ気だったからな…』 「………悠太が起きたら……龍騎の所に見舞いに行くわ」 『その時は我も逝こう!』 「弥勒…」 『何だ?』 「………ありがとう……」 康太はそう言いニコッと笑った 『………康太……お主が言うと……永久の別れに聞こえる……止めてくれ』 「ひでぇ奴だな!」 康太はボヤいた 弥勒は笑って 『お主がしおらしいと……天変地異の前触れの様でな……何だか恐ろしい……』 「……てめぇ今夜還って来たら覚えとけ!」 康太が怒鳴ると弥勒は嬉しそうに 『お主はそうでないとな』 と笑って『今宵、必ず逝くから待っておれ!』と気配を消した 康太は「……還ったらゲジゲジしてやる!」と腹を立てていた 康太が怒ってると一生と兵藤は戻ってきた 「どうだった?」 康太が聞くと兵藤が「……無反応…」と両手を挙げた 「………聡一郎にキスさせるか?」 一生が呟くと兵藤は「止めとけ……目を醒まさなかったら……悠太確実に死ぬぞ」と止めた 一生は聡一郎らしくて笑った 康太も聡一郎ならやろそうだな……と笑った 笑い声に隼人が目を醒まし、康太に抱き着いた 「康太……お腹減ったのだ……」 「オレも減ったらからな…」 と康太は榊原を見た 「………食べに行きますか?」 「………それは嫌……」 「では何か買ってきて貰いますか?」 康太は頷いた 慎一は会社に出ていた 馬関係の仕事で、どうしても決済のいる仕事を康太に変わってやっていた 「一生、貴史、何か買ってきてくれ!」 兵藤は「何が食いたい?」と康太に聞いた 「何でも良い!隼人を連れて行け!」 隼人は立ち上がるとポリポリお腹をかいた 兵藤は「……おい……芸能人!」とだらしのない事を止めさせた 「貴史、何?」 「腹をポリポリかくな!」 「痒いのだ」 「お前芸能人だろ?」 「オレ様は康太の長男隼人!」 兵藤は言うのを止めた 隼人を引き連れて一生と兵藤は買い出しに行った 康太は携帯を取ると電話をかけた 「聡一郎か?」 『はい!』 「………悠太、探してたんだってな?」 『‥‥っ‥‥悠太は見付かったのですか?』 「飛鳥井の病院にいる 受け付けに聞けば個室の部屋番を教えてくれる筈だ」 『………では逝きます!』 聡一郎はそう言い電話を切った 「アイツ……オレを避けてる筈だな……」 悠太を探して歩いて寝てない 聡一郎は出来る限りの事をしていた だけど、それを康太に気付かせるのは……嫌だと……隠し通した 暫くすると聡一郎が個室のドアをノックした ドアを開けたのは榊原だった 榊原は聡一郎を招き入れると、ソファーに座らせた 「聡一郎、悠太が還らないと何故オレに言わなかった?」 「………悠太は何処かへ逝く筈などないのです 浮気もしない誠実な男になりました そんな悠太が還って来ないと知らせたら…… 悠太はまた何処かの女の所へ行ったのか…と考えたりすると想ったのです……」 「………バカだな聡一郎……」 聡一郎は康太に抱き着いて泣いた 「………聡一郎……聞いてくれ……」 聡一郎は顔を上げて「はい!」と答えた 「………悠太……三カ月も地下の日の差し込まぬ様な所で監禁されていた……」 「………え!………悠太は……」 「意識が戻らない…… 顔も……悠太か解らない程に腫れ上がって…… 黒ずんでる…… 暴行の限りを尽くされたそうだ……」 「………犯人は……」 「………知ってどうする?」 「悠太を殺るなら……僕がこの手で殺してやります!」 「………それを………オレはやろうとした…… そいつの兄の目の前で…… そいつを消し去ってやろうとした……」 康太は哀しい顔をして……そう呟いた 「………康太……」 康太のこんな哀しい顔を見れば…… 聡一郎は何も言えなくなった 胸がキリキリ痛み出す……そんな哀しい顔だった 「………兄者を……オレは呼び出してしまった……」 「………閻魔大魔王を……?」 「………兄者はオレの異変を嗅ぎ取って…… 人の世に姿を現した……」 主として仕えていた 炎帝を主と決めるまで……仕えていた 冷静沈着を絵で描いた様な閻魔が…… 取り乱すのは何時も弟の事だった 閻魔の苦悩を想って……聡一郎は涙した 「………閻魔は……どうされたのですか?」 「主犯格の男の魂を三日間……地獄に連れて行った 自分の罪は命を持って購うしかないと…… 教えると言ってな……」 「………閻魔らしいです! では……僕が出る幕はありません!」 「聡一郎、悠太に声を掛けてやってくれ 起きねぇんだよ……」 「康太は声を掛けたのですか?」 「あぁ……でもアイツは目を醒ましやがらねぇ!」 「……なら僕でも無理です 悠太が愛するのは昔も今も……君だけだ」 「……聡一郎……」 「閻魔は何時来るのですか?」 「今宵…」 「でしたら司禄も来ますね」 「………何故……そう思う?」 「僕はずっと閻魔に仕えて来た 閻魔は……その者の命……康太の好きにさせるつもりです…… 我ら司命 司禄は記録係として遺すが仕事 司禄が来るなら僕は本来の姿で出迎えたいと想います」 「………聡一郎……悠太に逢ってこい…」 「………はい!」 聡一郎は個室を出て行った 榊原は康太を膝の上に乗せて、強く抱き締めた 「康太 愛してます」 「オレも愛してるかんな……」 康太は榊原の首に腕を回した 聡一郎が個室に戻って来ると、康太と榊原はキスしていた 聡一郎は気にする事なく康太に声を掛けた 「康太、瑛兄さんに発破掛けさせれば起きるんじゃないんですかね?」 「………何で瑛兄?」 「悠太、貴史に何と言われてるか知ってますか?」 康太は榊原を見た 「……えっと……何だっけ?」 「飛鳥井瑛太の出来損ない……でしたね」 榊原が康太に変わって言うと、聡一郎は 「そうです!」と答えた 「悠太は瑛兄さんが苦手なんですよ 誰よりも瑛兄さんは悠太に厳しいですからね!」 「聡一郎、瑛兄は悠太を嫌いだからやってるんじゃねぇ……」 「知ってますよ! 貴方に苦しんで欲しくないから悠太に厳しく当たる また言えば悠太は解る子だって瑛兄さんは言ってました」 「瑛兄は悠太に自分を見てんだよ……」 「………え?……」 「五人兄弟の中で酷似してるのは悠太だけだ…… 自分に似てるんだからと言う期待もある だから誰よりも厳しく瑛兄は悠太に接するんだ」 「……知りませんでした……」 「悠太はオレが管理してるからな、飛鳥井の家族や……周りは口も手を出さないようにしてるんだ…… だから悠太が浮いて見えるかも知れねぇが……決して軽んじた訳じゃねぇ……」 「………悠太は……家族にも……兄弟からも…… 一歩下がってますから……不憫でした」 「悠太は明日の飛鳥井を担って逝く 瑛兄はそれを期待している 伊織もそれを望んでいる 飛鳥井のビルの製図を引くのは悠太だ 悠太が遺すビルが建ち並ぶ 飛鳥井の家族はそれを夢見てる 瑛兄はその地盤を作って日々働いている」 「………悠太は目を醒まします やはり瑛兄さんに起こして貰いましょう」 「………瑛兄か……やってみるか?」 康太は榊原を見た 榊原は「そうですね!」と賛同した 「しかし悠太は義兄さんが苦手だったんですね……初めて聞きました」 榊原は今更ながらに呟いた 聡一郎は笑って 「瑛兄さんの次に苦手なのは伊織、君ですよ」 「悠太は僕も苦手だったのですか?」 「伊織は悠太に桜林の制服を渡した 悠太は人一倍努力をしてました 伊織の期待に少しでも添いたい…… そう思って努力してました」 「僕は悠太には高校生活を楽しんで貰いたかったのです 僕達の高校生活は楽しかった 康太や君達と過ごした高校生活は僕の宝物です 悠太にもそんな日々を送ってほしかったのです」 「………伊織……」 聡一郎は瞳を潤ませた そこへ一生と兵藤と隼人が買い物から帰ってきた 聡一郎は「慎一は?」と問い掛けた 「慎一は会社に行って、決済を下さねばならない書類の判を押しに行ってます 力哉が復活してくれたので、一緒に仕事を片づけてます」 榊原は聡一郎に説明した 一生は聡一郎に 「………康太が呼んだのかよ?」と問い掛けた それに答えは康太だった 康太が「そうだ」と答えた 「………じゃあ……悠太の事知ってる?」 「あぁ、知らせた そして聡一郎に悠太を起こしに行かせた」 「で、どうだった?」 聡一郎は首をふった 「あんでも瑛兄なら起きるかもって聡一郎が言ってた」 康太が言うと一生は「……瑛兄さんかぁ……」と呟いた 兵藤は「やってみるしかないっしょ!」とやる気を見せた 聡一郎は兵藤がいるのが不思議だった 「………何で……貴史がいるのですか?」と問い掛けた 一生が聡一郎に 「貴史はずっといんぜ?」と話した 「そうなんですか?」 「悠太の救助の時から康太の傍にいる」 「………僕は知りませんでした……」 聡一郎は拗ねた その時、個室のドアが開いた 「聡一郎……君いたのですか?」 個室に入って来たのは…… 慎一と瑛太だった 康太は瑛太を見るなり飛び上がった 「お!瑛兄、良い所に来た!」 瑛太は怪訝な顔をして康太を見た 「……何なんですか?」 「悠太を起こしてくれ!」 「………悠太……を、ですか?」 「そう!オレも伊織も声を掛けた 聡一郎も、一生も貴史も駄目だ このままでは源右衛門を起こしに行かせねぇと不味いんだ…… それはしたくねぇかんな……」 「そうですか! では悠太に発破をかけて来ましょうか…」 ダメ元で瑛太は立ち上がった 康太も榊原も立ち上がると、瑛太と共に行く気満々だった 一生も兵藤も立ち上がった 瑛太は皆を見て…… 「……君達も付いて来るのですか?」 と問い掛けた 「おう!決まってるじゃねぇかよ?」 康太は笑ってそう言った 聡一郎と隼人も後に続きICUに向かった 瑛太は康太に 「………聡一郎を呼んだのですか?」と問い掛けた 「あぁ、呼んだ」 「………酷な事をしましたね…」 「知らねぇ方が酷だろ?」 「………悠太は聡一郎の声で……起きなかったのでしょ?」 「仕方ねぇよ……オレでも起きねぇんだからな!」 「………私で起きるとも思えませんが……」 「瑛兄で駄目なら……母ちゃんと父ちゃんに頑張って貰うか……」 「………何故起きないのですかね? 頭は……異常はないんですよね?」 瑛太は榊原に問い掛けた 「頭にも内出血はありますが、意識を奪う程のモノではないと言われました」 「………葛西君は目醒めたんだよね?」 「………ええ……」 「………何が問題なのですかね…… このまま……起きなければ……」 自力で食事が取れなければ体力は消耗して……植物状態になるしかなかった…… 「瑛兄、やっぱ飛び起きる様な掛け声頼むわ」 「兄は頑張ってみます!」 悠太の病室へと向かった そーっと息を殺して瑛太達は病室へと入った 瑛太は息を吸うと…… 「悠太、起きなさい!」 と声を掛けた 悠太の体躯がピクッと動いた 康太は「……おっ!反応してるやんか!」と言ったが…… 目を醒ます程ではなかった 「………無理ですね……」 「瑛兄、父ちゃんと母ちゃんにやらせてくれ! それで駄目なら源右衛門を出すしかねぇ!」 「解りました 私が会社に戻り、父さんと交代して来ます」 瑛太はそう言いICUを後にした 康太は悠太に向かって…… 「あんで……目を醒まさねぇんだよ!」 と言葉を投げかけた 「………1週間……目が醒めねぇと……植物状態になる可能性が抜けなくなるのに……」 兵藤は悠太に「康太を哀しませるんじゃねぇぞ!悠太!」と怒鳴った 悠太の手が……ビクッと動いた 兵藤はひとりごちた 「………聞こえてはいるみてぇだな… ……悠太の命を繋いでいたのは源右衛門だからな…… 源右衛門が起こさせるしかないか……」 何かを思案していた 康太は兵藤に 「………お前もそう思うか?」と問い掛けた 「悠太をこの世に繋ぎ止めていたのは源右衛門だからな…… 深層意識に源右衛門が起きる様に言えば目を醒ますんじゃねぇかって想う……」 「………それしかねぇか……」 「だから源右衛門は輪廻の輪に入るのを拒んだ…… 自分しか悠太を起こせないのを知っていたのか?」 兵藤はその結論にしか辿り着けなかった 「………弥勒が……源右衛門の所に行ってる やはり鍵はじぃちゃんしかねぇからな……」 「……あぁ、そうか……今夜閻魔が人の世に来るんだったな その時、司禄を連れて来るだろ?」 「……お前も……何でそう思う?」 「司禄にアイツの寿命をお前の好きな様に改竄させる…… そうすればアイツはお前の意のままこの世から消える事となるからな……」 「………司禄が来るなら……と司命は自分を解放した」 「……そうか……聡一郎を見て何か違和感があると想ったら……司命か今……」 姿は聡一郎のまま……中身は司命になっていた 兵藤はそれで、納得がいった 「司命 司禄 揃うのか?」 魔界でなく……人の世で…… 康太は何も言わなかった 「康太、俺は魔界に行って来るわ 弥勒だけだと悪戦苦闘しそうだからな… 今宵……閻魔と共に還る……」 「……朱雀……逝くのか?」 「悠太を起こさねぇとな! 生命維持装置も安くねぇんだ! 叩き起こさねぇとな!」 「そう!個室も毎日何万と飛んで逝くかんな…」 「元は元気な奴なんだ! 意識さえ戻れば慎一並みに元気になるさ」 兵藤はそう言い康太を抱き締めた 「………だからお前は何も心配するな!」 兵藤は康太を離すと…… ICUを後にした 榊原は康太を抱き締めた ICUに玲香と清隆がやって来た 康太は玲香と清隆見ると 「母ちゃん……父ちゃん……悪かったな」 と謝った 玲香は悠太の横に立つと悠太の耳元で 「悠太!何時まで寝てるのだ!」と地を這うような声で……言った 悠太の体躯がピクツと跳ね上がった…… が、起きる気配はなかった…… 「………起きぬか……」 次は清隆がやった 「悠太、落第したくないなら起きなさい!」 悠太の体躯は小刻みに震えた…… 一生は「………意識は落第を恐れてるのにな……」とボヤいた 「やはり源右衛門しか起きねぇか……」 康太が呟くと清隆が 「……何で父さんですか?」と問い掛けた 「悠太をこの世に繋ぎ止めていたのは源右衛門だからな……」 「……源右衛門が起きろと言わねば……起きない……って事ですか?」 「みてぇだな 皆はオレが呼べば起きるって楽観してたみてぇだけどな……駄目だったかんな」 「本当にこの子は!」 玲香は腹が立って怒った すると悠太はビクビクと震えた…… 「母ちゃん 怖ぇのは今も健在か」 康太は笑った 「母ちゃん、悠太な子供達にXmasプレゼント手作りで作ってたんだ……」 康太は玲香に意識の奥で見た悠太の優しさを伝えた 「……悠太は優しい子だからのぉ……」 玲香はそう言い目頭を押さえた 「康太、我と清隆は考えたのじゃ!」 「何をだよ?」 「我は悠太の奥歯を入れる時に、奥歯に発信器を着けて入れさせようと想ってるのじゃ」 と玲香は時々消える息子に…最後通牒を突き付け様としていた 「……発信機……かよ?」 「伊織が悠太の発見された場所を教えてくれた…… 今回、早くに行方不明が解ったとしても…… 悠太の手掛かりは捜すのは至難技じゃった 清隆と話をして……丁度奥歯がない今…… 歯を入れる時に発信器を仕込むしかなかろうて……と考えた」 玲香と清隆は心底考えて……行き着いた答えだった 「そうだな……勝手に覇道を切る子は発信器を着けとかねぇと……不安だな」 康太も思案して……玲香と清隆に賛成した 榊原も「それは賛成です」と賛成した そして記憶を総動員してニャッと嗤った 「発信機なら良さげなのがあります 康太、脇坂工業が世界最小のGPSを開発したとニュースになってましたね! 脇坂工業なら康太が勝機を導いている会社です!」 榊原は最近見たニュースを口にした 清隆も「それは良いですね!」と良い案だと受け入れた 「康太、脇坂工業に行って世界最小のGPS、買って来ましょう!」 「悠太が意識が戻ったら技工士と共に行こうぜ」 悠太はプルプル震えていた 康太達は、悠太が意識を取り戻さないから、ICUを出て行った 康太は途中清隆達と別れて、葛西の病室に顔を出した 葛西の母親は康太を見ると深々と頭を下げた 葛西は康太に「悠太は?」と問い掛けた 康太は「……まだアイツは起きねぇ……」と伝えた 葛西は泣きながら…… 「悠太は僕が殴られるのを庇って殴られた 僕が爪を剥がされる時……刃向かったから…… 殴られて……奥歯を全部折られた…… 悠太は僕を庇って……」 自分も辛いのに必死に訴えた 「大丈夫だ葛西…… 悠太は絶対に目を醒ます!」 「………康太さん……」 「早く元気になれ……良いな」 葛西は何度も頷いた 葛西の顔も……まだ治ってはいなかった 目は暴行を受けたせいで片眼は腫れ上がって……見えてない状態だったから…… 手は骨折したのか包帯が巻かれていた 葛西の母親は康太に…… 「繁樹は……転院させようと想っています」 と切り出した 葛西の家は業績を下げていた 鰻登りだったピークの半分も今はない…… 「入院費の支払いは無理か?」 康太は母親に問い掛けた 「‥‥‥はい、無理に御座います なのでもっと安い病院に入れるしかないと想っています」 「別に飛鳥井が滅法高いと言う訳じゃないんだがな‥‥‥ 今、それなりに治療を継続しねぇと、治るもんも治らなくなる 治療は継続する 葛西は治してやるつもりだ!」 「そんなお金‥‥支払えません‥‥」 葛西の母親は力なく項垂れると呟いた 「葛西の治療費は出世払いで支払ってやる だから、ちゃんと治せ!」 康太が言うと葛西は 「康太さん……それは駄目です……」と辞退した 「葛西、お前、今治さねぇと、後で後悔する事になんぜ?」 「………それでも‥‥俺にも俺の家にも……支払えるお金なんてありません! 出世払いにしても、一体幾ら掛かるか解らない今‥‥‥援助は受けられません……」 「葛西、それでもな、オレはお前に投資すると決めたんだ!」 「………康太さん……」 「退院したら飛鳥井でバイトしろ! 大学は奨学金を狙えばバイトして何とか卒業出来るだろう オレの仲間は……もう両親がいないからな、そうしてる奴もいる」 「………誰ですか?」 「緑川一生と慎一兄弟だ!」 「………彼等は……飛鳥井の援助を受けているのではないのですか?」 「援助はしねぇよ! アイツらは自分の力で生きている 飛鳥井で働いてくれてる分には給料は支払う! 支えるのは容易い だが支えて駄目にするなら……はなから手を差し出さねぇ方が本人の為だろ?」 思えば……この人は甘くはなかった 「僕は……貴方の役に立ちますか?」 「役に立ちてぇなら日々自分を磨いていかねぇとな! いざとなった時、なまくらては困る」 「必ず!貴方の役に立ちます!」 「ならオレはお前に先行投資してやる! 今は何も考えずに治す事を優先しろ!」 「はい!」 「お前を少し実践的に使える様にしてやる その手腕で自分の家を建て直してみろよ!」 「………え?……」 「総てなくしても‥‥生きていれば夢を手に入れる事だって可能だ お前には輝ける不可能ある! やれば出来るだろう」 最大限の賞賛だった 葛西は……止め処ない涙を流した 「ならな、葛西! 悠太が意識が戻ったら逢いに来てやってくれ!」 「はい!」 葛西は返事をした 康太はその返事を受け取って病室を後にした 榊原は葛西の病室を後にすると康太に 「………葛西の家の経済状態は悪いのですか?……」と問い掛けた 「経済的にかなり頻拍してる 葛西は……奨学金で桜林に通い始めた 高校卒業したら働くつもりでいた…… だから……誰よりも葛西は高校生活を大切に送っていた……」 「そうだったのですか……」 「………葛西の家は老舗の旅館を何店舗も持っていた だが食中毒騒ぎを起こして以降……客足が途絶えつつあった…… 嫁いだ姉も実家の不況に……嫁ぎ先を追い出された…… そんな状態で個室は愚か……治療費さえ怪しい……」 「………葛西……大変な思いをしていたのですね」 「葛西は頭が切れる 先行投資しても損はないかんな」 「康太……彼は……君を……」 「伊織、オレは伊織しか愛してねぇ……」 「………康太……君を抱きたいです……」 「……少し我慢してくれ……」 「解ってます!」 康太と榊原は個室へと戻った 玲香と清隆は会社に戻っていた 康太は携帯を取り出すと電話を掛けた 「脇坂、いるか?」 『編集長ですね!待ってて下さい!』 そう言い電話は保留になった 暫くして『脇坂です』と東栄社の小説部門の編集長が電話に出た 「脇坂か?オレ、飛鳥井康太」 『康太さん……何の用ですか?』 「脇坂、オレ欲しいのがあるんだ だからお前の所で仕事をしても良い! 写真集でもエッセイでも何でも書くからさ」 『………何が欲しいと仰るのですか?』 「お前んちが発表した世界最小のGPS」 『………GPSと来ましたか…… 父に掛け合ってみます 何に使うかだけ……お聞きして良いですか?』 「………オレの弟が……今瀕死の重傷なんだよ 三カ月もの間……日の光もささぬ地下室に閉じ込められていた だからな、母ちゃんや父ちゃんが弟にGPSを着けると言い出したんだ 今弟の奥歯は拷問で折られて生えてねぇんだ だから入れ歯を入れる時にGPSを入れておこうと考えてるんだよ」 康太はサラッと言った 『………康太さん』 「あんだよ?」 『……貴方……意図も簡単にサラッと言いましたね?』 「………そこ重く言うべきだった?」 『………で、弟さんは……どうしているのですか?』 「未だに意識不明だ……」 『………そんな事件……上がって来てませんよね?』 「あぁ、報道規制掛けさせた」 『………父に言えば……何を差し置いても康太さんの為に……御用意したのに……』 「お前は報道に携わる人間の端くれだ だから守秘義務は守れるだろ? だから言ったんだ…… オレは仕事をする ギャラはGPSを! それで手を打ってくれ」 『では飛鳥井家真贋にエッセイの依頼をお願いします ギャラはGPS!どうですか?』 「おう!それで良い……」 『………康太さん……社長は知ってるのですか?』 「明日には大々的にニュースになる 今枝が煽ってくれる算段だ 東城も仕える手は総て使って未成年犯罪について報道をするだろう……」 『………今枝が……そうですか…… 弟さんの意識が一日も早く戻ります様に…… 祈っております』 「ありがとう! なら頼むぞ脇坂!」 康太はそう言い電話を切った 榊原は康太を抱き締めると 「夜まで少しあります 僕の膝で……眠りなさい」 と良い膝の上に寝かせた 康太は榊原の膝に擦り寄った 夜…… 総てが決まる 康太は瞳を瞑った

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