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第81話 人としての心①

夜になると康太と榊原は立ち上がった 一生と慎一、そして聡一郎は本来の姿で着いて行くと決めた 隼人は仕事が入って不在だった 康太達はタクシーで廃ビルへと向かった 廃ビルに到着すると中村璃央が康太に深々と頭を下げた 璃央の横には綾人が控えていた 璃央の両親と……そして俊作が……康太に近寄った 「康太さん……何と言って良いか……」 俊作は泣きそうな顔をしていた 「俊作、話は後で良いか?」 「はい……俺……」 取り返しのつかない事をした……と俊作は悔やんでいた もっと実家の言葉に耳を傾けていたから…… 璃央は憔悴しきっていた…… 綾人に支えていられねば……倒れそうな顔をしていた 康太は耳を澄ますと…… 「来るぞ!」と叫んだ 雷鳴が鳴り響き……雨が降って来た…… 閃光が走り…… 時空を裂いて……閻魔はやって来た 朱雀と転輪聖王と司禄を従えて…… 聡一郎は完全体に姿を変えて……司命として司録の横に並んだ そして閻魔の前に跪いた 「司命……お主もいたか」 閻魔は嗤った 「我が弟 炎帝よ! 約束の時が来た!」 「兄者、ありがとう」 「さて本題に入るとしようそ!」 「あぁ、約束通り、家族を呼んだ」 閻魔は家族の前に歩を進めると立った 台帳を取り出し読み上げた 「中村竜吾 17歳  この者は窃盗、恐喝、泥棒、車上狙い、障害、暴行、数知れぬ罪を犯しておる そして今回は……8名の者の命を奪った……」 閻魔が言うと俊作は「…誰が…死んだのですか?」と問い掛けた 「地下に監禁していた時に発狂して命を落とした者…… 手当ての甲斐なく息を引き取った者…… 合わせて8名の命は奪っておる」 俊作は……ガクッと崩れ落ちた まさか……そこまで…クソに成りはてていようとは…… 閻魔は手の中に球体を出した 目を凝らしてみれば…… 球体の中に竜吾がいた 「この中に竜吾の魂が在る」 閻魔はその場に竜吾を出した 竜吾は放心状態で……床にへたり込んだ 「人の命とは尊ぶべきもの…… 殺めたり奪ったりしてよいモノではない 罪は自分の命をもって償わねばならぬ それを、その者は理解しておらなかった だから無間地獄を見に行かせた 無間地獄に堕ちて…… 人の命の尊さを識るべきだと思った それで目が醒めぬのならば…… この者は……畜生以下の存在となる!」 閻魔は悔悟の棒を取り出した 「その者はまだ、人の心は忘れてはおらぬ」 「そうか……なら人にならねぇとな! 罪を償って……やり直すしか道は残されてねぇな……」 康太が呟くと俊作は 「………君の弟の意識は戻ったのですか?」と問い掛けた 「まだ意識は取り戻していねぇ……」 康太は苦しそうに言った 璃央の母親は……泣き崩れた…… 璃央の父親も……呆然とした 家の中から殺人者を出す…… 璃央は「………竜吾が逮捕されたら……会社辞めなきゃ……」と泣きながら呟いた 俊作も「………俺も……貴方の傍にはいられません……」と呟いた 竜吾は自分のした事で悲しんでる姿を見て……取り返しのつかない事をしたと本当に想った 「我が弟……炎帝よ その者はお前に渡そう お前の好きにして良い 死んで欲しいのなら……司命と司禄に命ずれば良い……」 「兄者……罪は生きて償わねぇと本人の懺悔にもならねぇよな……」 「我はお前が望むままに…… それしか想ってはおらぬ」 「でもな……死ぬのを願うのは止めるわ」 「お主なら……そう申すと想っておった…」 「8名の命の重さ……コイツに教えた?」 「あぁ、識っておるであろうて」 「なら罪は警察で償わせる事にする…… 兄者ありがとう……」 「炎帝よ……よくぞ留まった……」 「兄者……オレはもう間違えない…… 同じ轍は二度踏まねぇ……」 「……そうか……もう大丈夫だな」 閻魔は康太を抱き締めた 「司命 司禄……お主達の出番はなかった」 閻魔が言うと司禄は 「初めから出番など来ないのを知ってて連れて来たのですよね?」 と閻魔に問い質した 「総ては炎帝の想いのままに…… それしか願っておらぬ」 閻魔はそう言い笑った 司禄は康太を抱き締めた 「貴方に逢えたので由とします」 漆黒の髪を足首まで伸ばし司禄は笑った 「司禄、久方ぶりだな」 「今世は逢えないと想っておりました 司命は役立っておりますか?」 「司命は恋人を得て柔和な性格になったぞ」 「本当に御座いますか……」 信じられない様に司禄は呟いた 「………今回の……被害者……だからな……」 「………では意識の戻らぬ……貴方の弟……ですか?」 「そうだ……」 「………司命なれば……八つ裂きにしそうですが……」 司禄が言うと聡一郎は司禄の足を踏み付けた 「……痛いっ!」 司禄は司命を睨み付けた 「本当にお主は気性が荒い!」 「それも今世、かなり直した方です」 「……みたいだな 恋人を傷付けられたら…お主なら仇は討つ筈だからな……」 「………憎いが……主はもっと悔しい筈だからな……」 司禄は司命を抱き締めた 「我の分も……主を頼むぞ…」 「解っておる」 「………ではな司命……そして主よ 来世……魔界に還られた時、お出迎え致します」 司禄は康太に深々と頭を下げた 閻魔は康太を強く抱き締めて……離れた 「ではまたな!炎帝よ」 「兄者……本当に済まなかった……」 「我はお前が笑っていればそれでよい!」 康太は頷いた 雷鳴が轟き……時空が裂けると…… 閻魔と司禄は還って行った その場に弥勒と兵藤が残った 康太は璃央の家族に向き直った 「この者は……罪もなき者を殺めた…… 他の者は既に逮捕されている この事件は明日には大々的に報道されるだろう……」 殺人者の身内となる…… 母親は……顔を覆った 父親も……頭を抱えた 「竜吾は……どうなるのですか?」 璃央は康太に問い掛けた 「地下室に閉じ込められていたのは敵対する高校の生徒だ オレの弟も……その中に入っていた 始めの頃はおにぎりでも一日に一回は差し入れに行っていた ここ最近は……怖くなって……此処に近寄る事すらしなくなった…… 放っておけば……皆死ぬと何故解らなかった? 人を殺めれば……償わねばならぬ! 違うか?璃央」 「………違いません……」 璃央は答えた 「この者の魂は本体へ還す そしたらその瞳で現実を見る事となる」 康太はそう言うと竜吾を球体に閉じ込め弥勒に渡した 弥勒は呪文を唱えると球体を掌から消した 皆……息をする事すら忘れたみたいに動かなかった…… 両親は康太の前に土下座をすると謝った 「本当に……申し訳ありませんでした……」 俊作は地面に崩れ落ち床を殴った 「アイツは死んで詫びても足らない罪を犯した‥ 人を殺めれば……取り返しがつかないと何故解らなかった…… アイツも3ヶ月……日の当たらぬ地下で暮らしてみれば良いんだ…… 何故……そんな残忍な事が出来たんだ!」 俊作は泣き叫んだ 現実が重くのし掛かる 明日から犯罪者の身内となる現実が‥‥‥‥ 家族を苦しめていた みな‥‥息をするのを忘れたらかと謂う位に微動だとしなかった その沈黙を破ったのは康太だった 康太は「この後時間を作れ」と家族に言った 俊作は「………ホテルの部屋……取ります」と言い、ホテルに予約を入れた ホテルの予約を取ると…… 康太に告げた 康太は弥勒を見た 「弥勒……」 「我と朱雀は病院の個室におる! お前は行って来るが良い」 「悪ぃな……」 「朱雀が何やら沢山食べ物を買って個室で待ってると申すからな……」 弥勒がそう言うと兵藤は 「解りました!買います 貴方の食べたいの買いまくってあげます!」 と観念した 「司命も、もう用はねぇだろ? だったら司命も連れて行くとする」 「あぁ……頼むな」 「お前は気にせず、カタを着けて参れ!」 兵藤は弥勒と聡一郎を連れて離れた 康太は俊作に声を掛けた 「なら、行くとするか!」 そう言い康太は榊原と一生と慎一と共に移動した 俊作はタクシーを2台呼んだ 1台に家族で乗り、もう1台に康太達を乗せた タクシーの運転手に行き先を告げると、俊作はタクシーに乗り込みホテルを目指した タクシーの中で母親は泣いていた 父親は「会社……辞めねばならぬかな……」と不安を口にしていた 璃央も綾人に「……オレ……綾小路の家に相応しくない…だから……綾人……」 と別れを決意していた 綾人は璃央を抱き締めた 「お前を離したりしない!」 そう言い抱き締められたが……不安は尽きなかった 俊作は……もう康太の側では働けないと覚悟していた タクシーはホテルに着いた 俊作はタクシーを下りるとフロントに走った そして康太達を待つと…… 「………部屋に……ご一緒願います」と声を掛けた 康太は何も言わず、俊作の後を着いて歩いた 部屋に入ると康太はソファーに座った 榊原はその横に座った 慎一と一生は康太と榊原の後ろに立っていた 「さてと、話をしょうぜ!」 康太が言うと璃央達はソファーに座った 康太は何も言わなかった 俊作は「………どう償ったら……良いですか?」と問い掛けた 「償うのは竜吾だろ?」 「………家族です…… 家族の中で殺人者を出せば…………償わねばなりません……」 「オレは謂ったよな? 現実が突きつけられた時、おめぇはどうするよ?って‥‥ その現実が今、突き付けられたって事だ」 「ええ‥‥貴方にどうやって償ったら良いか‥‥解りません」 「誰もお前や璃央に償えとは言ってない」 「………ですが……もう……貴方の傍にはいられません……」 俊作はそう言い顔を覆った 「………俊作、何故竜吾は道を踏み外したか……解るか?」 「………解りません…… いえ……解ろうとしませんでした……」 「だろうな……家の中で誰も竜吾の事を心配する奴はいない…… 手の着けられないワルだから……… 仕方ない?そんな想いが、アイツをロクデナシにしたんだぜ?」 「………ロクデナシだと想っていましたが…… 人を殺める……最低な奴に成り下がってるとは……思いませんでした……」 「誰も止める奴がいなかったからな 坂道を転がる様に勢いが着いて…… 引き返せなくなって行ったんだ… あれは……自分で自分を把握出来てない未熟者だ……」 「……止める奴……止めておけば……アイツはいうことに事を聞きましたか?」 「それは過程の話だろ? オレは過程の話は視えねぇんだよ 過程の話で済むうちは家で何とかなってると言うもんだろ?」 「………そうです……」 「今回、しょっ引かれた奴等が口を揃えて、主犯格は中村竜吾と言ってる…… 分が悪いのは否めないな…… 踊らされて有頂天になってれば……矢面に立たされるしかねぇかんな!」 璃央が「………竜吾はどうなりますか?」と尋ねた 「当分は出られねぇだろうな…… 年少か鑑別行きなのは間違いねぇ… 問題はそれからだろ?」 「………え?……」 「竜吾は17歳だ 人生はそれで終わる訳じゃねぇ、違うか?」 「………違いません……」 「竜吾は自分を考える時間を持つ アイツは罪は自分の命でもって償わねばならないのを知っている だが、死ねと言ってる訳じゃねぇ 生きて償うんだ 一番辛い選択をさせるんだ これで終わる人生じゃねぇ! 人は気付いた時からやり直せるんだ!」 「………やり直せるんですか?」 俊作は康太に問い掛けた 「やり直さねぇと、殺された奴等が報われねぇだろうが! アイツは8人分の命を背負ったんだ 生きて生きて償うしかねぇんだ!」 俊作は「……竜吾はいっそ死んだ方が……」と呟いた すると俊作を……康太は殴り飛ばした 「あんで殴られたか……解るよな?」 「………アイツのせいで……家族は…… 辛い思いをする…… 総て……アイツのせいで……」 「俊作…それがお前の本音か?」 「………ネットから……ボロボロと素性が暴かれて……明日には普通の生活も……出来なくなります」 それが現実だった 現実は牙を剥き‥‥家族に襲い掛かるのは時間の問題だった 康太は中村の家族に 「規制を掛けた 被害者も加害者も……未成年だ 事件は大々的に報じられるが、個人情報は漏洩する事なく規制する 罪は本人が償う お前達は竜吾の先を話し合う必要がある……」と諭した 「………康太……」 「綾小路の方には知らせる必要はない 綾人と別れる必要もない 飛鳥井を辞める必要はない! 俊作についても、今まで通りしていれば良い 璃央の父親についても運が良いかもな 就職先がトナミなれば……多少の便宜は図って貰える……」 璃央の父親は「……え?……」と、驚愕の瞳を康太に向けた 「罪は本人に償わせる その代わり家族は二度と道を違えない様に協力して生きて行けと言ってるんだ」 「………許されるのですか……」 璃央の母親は康太に問い掛けた 「何が許される?」 「………殺人者の家族なのに……」 「お前達は育て方に難があった…… 野放しは育ててるとは言わない まぁ言う事を素直に聞く奴でもなかったからな……自業自得とはこの事だろう… だが……お前達も竜吾を見なかった罪はあるぞ」 母親は「……竜吾は何を言っても聞かないと……放っておいたのは確かにあります…… 言っても返ってくる態度に…… 恐怖を覚えると……何も言えなくなってしまいました……」と苦しい胸の内を吐き出した 父親も「ガタイが良くなった息子が怖かったってのはあります…… 何か言えば……殴り掛かって来る……怖かったから竜吾を見ないで来てしまったのは否めないです」と自分達の非を認めた 「オレは17歳の時に飛鳥井家の真贋を引き継いだ 竜吾と同じ年の時だ」 康太が言うと璃央は康太を見た 「飛鳥井家の真贋を引き継いでオレの生活も一変した オレより年上の人間がオレに平伏すんだからな……オレは自分が怖かったぜ 力を持てば人は平伏す 竜吾も力を持って人を平伏させた時、ある種の特別な者になった気がしたんだろ? それを止める者もいなければ…… 粛清も矯正もされる事なく来てしまった…… そんな日々が竜吾に人の心を忘れ去らせたんだ……」 康太の言葉を家族は聞き入っていた 父親は康太に深々と頭を下げた 「自分の保身ばかり考えていました 竜吾の罪を考えれば…… 我々は明日から……まともな生活は出来ない…… そんな不安ばかり考えていました…… こんな時でも我々は竜吾を見ていなかった…」 父親が言うと母親も 「そうですね……我々は明日からの生活を考えて……竜吾を責めているばかりで…… 総て竜吾のせいだと……押し付けてました…」 璃央も……泣きながら…… 「仕方ない……仕方ない……竜吾は言う事を聞かないから仕方ない…… そうやって竜吾と向き合うのを避けてきた… そのツケが今回の犯罪なんだ…… なら僕達は……竜吾と向き合わねば…… って言う事だよね?」 と自分に言い聞かせるみたいに言葉にした 俊作も「僕は家を出たから……関係ない…… そんな想いがありました 竜吾が犯罪を犯せば……犯罪者の家族と扱われるのは同じなのに……! 自分は蚊帳の外にいるつもりになってた……」 と自責の念を口にした 康太は家族に 「賽は投げられた 殺してやろうと想ったがな…… 罪を償わせて……人として生きて欲しいと想う 人が人として生きていく罪を償わせ…… やり直させたいと想う だからお前達に問い掛けた 竜吾を背負うつもりがあるか……知りたかった やり直すスタートラインに立ったとしても 家族に総スッカン食らわせられるのは可哀想だからな…… オレはアイツが畜生以下の存在じゃなくて良かったと想う 畜生以下の存在なれば……兄者はオレには逢わせる事なく処分していた 人の心があって良かったと想う 人は悔いた時からやり直せるとオレは想う 何度でもやり直しが効くのが人生だ オレは苦しめた奴らの想いや 殺めた奴らの想いを背負って 今度は曲がる事なく生きて欲しいと想う 人としての心を忘れる事なく生きて欲しいと想う! それがオレの答えだ! だから璃央や俊作はオレに引け目を感じなくて良い 罪は本人が償う もし殺人犯の家族だとバレたとしても、今度はお前達が逃げないで欲しい 報道規制は万全に掛けた だけど世の中には心ない人間も、確かにいる 一人が腐ってると家族全員腐ってると言う奴もいるだろ…… だけど、それに目を背けないで欲しい それが竜吾と同じスタートラインに立ったと言えると想う お前達、家族全員が試練の日々かも知れない だが、それに堪えられた人間だけが…… その先へと進めるんだ オレはお前達にその先へと進んで欲しい その為なら出来る協力はさせて貰う!」 信じられない言葉が送られた 康太は言葉を続けた 「トナミの会社の方には一連の事件のことは伝えておく だが、それで会社を辞めねばならないと言う事はない トナミの方でも配慮して公に出ぬ様にしてくれる筈だ だからお前は家族のために、会社のために働け! 働く場を失えば人の心は折れる オレはそうはさせたくねぇ! 職場は与える 生活も与える なれば、それからはお前達、家族の問題だ 向き合って竜吾を支えて行ってやれ それだけだ!」 康太は自分の想いを伝えると立ち上がった 「オレは帰る! 璃央、仕事は一日も休むな! 綾人、お前もだ! 俊作、お前には頼んでる情報があったよな? だから仕事を疎かにするのは許さない! 璃央の父親もそうだ! お前、部長やってるんだろ? だったら今度は部下は自分の子供同然だと想って社員達と向き合えよ 意固地な心には誰も着いて来ねぇぜ! と、言う事で、オレは還る」 言う事を言って、康太は立ち上がり部屋を出た 家族は……何が何だか解らないうちに…… 康太を見送った…… 璃央は「スタートラインに立ったのか……」と呟いた 俊作も「始まったばかりだな……僕達の日々は…」と言葉にした 父親も「今までの概念を捨て去って……向き合おうと想う…… もう……逃げたりはしない…… 仕事もそうだ……社員と向き合ってみようと想う… そうだ……私は何一つ見ようとしていなかった… 自分の目と心で感じていなかった スタートラインか…… 私達は……今日から始まるのですね」 と改めて口にした 母親も「………もう逃げ道はない……逝くしかないのですね…… 見なかった事を…… 止めないとね…… もう逃げるのは止めなきゃね……」と自分に言い聞かせていた 口にすれば重い 新しい日々を思えば重い それでも……心を一つにして生きて逝くと決めた ホテルの部屋を後にした康太は慎一に 「タクシーで還るかよ?」と聞いた 「ホテルの下で停まってるタクシーに乗りますか?」 「だな、腹減ったかんな…… 病院に還るとするか 弥勒がいるからな……悠太起こさねぇとな…」 「……起きますかね?」 榊原は口にした 「これで起きなかったら、アイツの深層心理まで潜って叩き起こしてやる!」 康太は言い捨てた 「逝くなら僕が行きます 君は無理しないで……」 榊原は康太を抱き寄せた ホテルの下まで逝くと、タクシーが何台か停まっていた 慎一は走って行くとドアを開けさせて康太達を待った 助手席に慎一が乗り込むと、後部座席に康太と榊原と一生が乗り込んだ 康太は一生の頬に手を当てた 「疲れたか?」 「大丈夫だ! それよりお前こそ無理すんじゃねぇぞ!」 「一生」 「………言いたい事は解ってる 力哉の事だろ?」 「そうだ!もう少し気に掛けてやれ」 「………解ってる…… 力哉は俺を心配させたくなくて……オペだって勝手にやる奴だって知っていた ………淋しい想いをさせた……」 「これが片付いたら力哉と旅行に行って来いよ」 「………何処かへ行きたくねぇんだ……」 聡一郎と旅に出て還って来た時に、康太が重体だった…… あの衝撃を想うと…… 離れたくないと想ってしまう…… 頭では解ってる…… だが心が……離れたくないと……訴えてしまう 「なら旅行に行かなくて良い その代わり……大切にしてやってくれ……」 「解ってる 俺も……力哉が大切だ」 「なら良い!それだけだ!」 康太は病院に着くまで、榊原の胸に顔を埋めて……何も言わなかった 榊原は康太の頭を、優しく撫でていた 病院に到着すると榊原は精算して病院の中へと戻って行った 個室に戻ると兵藤はかなりの食料を買い込んでいた 康太はそれを見るなり「お!すげぇな!」と喜んだ 「………弥勒の奴……康太が好きそうなのを ポンポン、カゴに入れやがった!」 と兵藤はボヤいた 康太はソファーに座ると食べれそうなモノに手を着けた 榊原も康太の横に座って静かに食べ始めた 一生も座って食事を始めると、慎一はお茶の準備をした 皆にお茶を配ると食事を始めた 「康太、食ったら始めるぞ」 弥勒は頬一杯に膨らませて、ニカッと笑った 「お!頼むな弥勒 じぃちゃんの想い紡げたのかよ?」 康太は首尾を弥勒に尋ねた 「………閻魔が……源右衛門を連れて行けと……」 弥勒は手の中の球体を見せた 球体の中には源右衛門がいた 「……じぃちゃんじゃねぇか…… 父ちゃんに逢わせてやりてぇな……」 康太はそう口にした 榊原は携帯を手にすると清隆に電話を掛けた 「義父さん、お話があります」 清隆は電話を取るなり……榊原に言われて…… 面食らっていた 『伊織……何ですか?』 「今すぐ病院の方に来てくれませんか?」 『………悠太に……何かありましたか?』 「ありません!」 榊原はキッパリと言った 清隆は「……へ??」と素っ頓狂な声を出した 「康太が貴方に源右衛門を逢わせてやりてぇなと言いましたので電話をしました」 妻の願望ならば、何としてでも叶えてやる榊原伊織だった 愛する……愛する……妻の為だった 『……今から病院に行きます!』 清隆はそう言い電話を切った 榊原はニコッと優しい顔をして 「義父さん、来るそうです」 と康太に伝えた 周りの者は……あからさまな榊原に…… 呆れながらも、笑って食事をしていた 暫くすると清隆は飛んでやって来た 瑛太というオマケを連れて…… 榊原は瑛太を見ると…… 「明日は寝不足で秘書に怒られそうですね……」とボヤいた 瑛太は榊原に 「副社長は出社しませんからね!」と嫌みの応酬をした 「僕は在宅ですが仕事は上げてます」 「副社長の椅子は空いたままですよ?」 「…………悠太が治れば出社します!」 榊原が言うと瑛太は榊原を抱き締めた 「そんなに拗ねない!」 「……義兄さんが意地悪するから……」 瑛太は笑っていた 清隆は康太に「……父さん……いるのですか?」と問い掛けた 康太は「弥勒……逢わせてくれねぇか」と頼んだ 清隆は別れも言えず源右衛門と別れた 突然の出来事に…… 心の何処かで受け入れられずにいた 清隆の目の前に源右衛門が姿を現した 「清隆……」 父は我が子の名を呼んだ 「………父さん……」 息子は……父を呼んだ 親子であって遠い存在だった 父に何も言えず……育った 反対されて我を通したのは玲香との結婚だけだった 後は父の言う通りに生きて来た 「清隆……別れも言えずに逝ってしまって済まなかった……」 「………父さん……突然すぎます…… 私は今も……信じられない想いで一杯です」 「清隆……玲香と幸せにな…… 我は……何時までもお前の幸せを願っている お前の子供達を守っている…… お前にしてやれなかった分…… お前の子供たちに……返してやろうと想っている……」 「父さん……」 清隆は父の胸に飛び込んだ 源右衛門は息子を強く……抱き締めた 「………父さん……大好きでした…… 貴方が大きすぎて……私は不甲斐ない息子でしたから……引け目に想ってました……」 「お前は我の自慢の息子だ 清四郎の存在を受け入れてくれた優しい子じゃ…… お前が息子で良かった お前が護る飛鳥井の家を我は護る! 明日へ繋げる為に…… 我は再び飛鳥井に生まれて明日へと繋ぐ 最期の転生となる その後は……お前達が役務を終えるのを待っておる」 「父さん……」 「清隆……愛しい我が子…… 我は不器用でお前に伝える事は出来なかった 誰よりも愛しておるお前を 我も清香もお前の幸せを願って止まぬ…」 親の愛を渡された 亡くして……初めて貰えた愛だった この人の息子に生まれて良かったと想う そして明日の飛鳥井を繋げる子供を持って幸せだと想う…… 「父さん……ありがとう……」 清隆は泣いていた 弥勒は康太に「もう良いか?」と問い掛けた 時間が経てば源右衛門の魂が還れなくなるからだ…… 「あぁ、じぃちゃんに父ちゃんも逢わせてやれた! じぃちゃん、悠太を起こしてくれねぇか? 悠太はまだ目を醒まさねぇんだ」 「なれば、我が発破を掛けてこようぞ!」 源右衛門はハッハッハと爽快に笑った 生前の源右衛門の笑いだった 弥勒が源右衛門を悠太のいるICUへと連れて行った 康太達も息を潜めて…後に続いた 弥勒は源右衛門を悠太の意識の中へと飛ばした

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