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第83話 悠太①

飛鳥井の家を出て病院に行った 悠太の個室はまだ暗くしてあった それでも昨日よりは少し明るかった 病室をノックすると聡一郎がドアを開けた 「起きてるかよ?」 「……検査から帰って来て、ずっと寝てます 久遠先生が寝かせておいたと仰ってました」 「そうか……なら何も話さなかった?」 「はい……でも生きててくれたから…… 何時でも話せます」 聡一郎はそう言い康太に抱き着いた 「……聡一郎……」 「はい!」 「大々的にニュースになった…… それで今日は……尋ねて来る人間も多いと想う」 「そうですか……解りました 情報操作の方は、悠太が寝ててくれたのでスムーズに行きました」 「陽人と陵介もフルに動いてる……」 「………そうですか……飛鳥井の名は絶対に出してはなりませんからね……」 恰好の餌を与える事となるから…… 康太はソファーに座ると聡一郎が冷蔵庫からプリンを出して前に置いた 「おっ!これ桜林の!」 「悠太も寝てるので偵察に行って来ました」 「どうだった?」 「何時もと何らか変わりません…… 食堂のおばちゃんに聞いても普段と変わりないと言われて……今帰って来た所です」 「………そうか……桜林は平静か……良かった…」 長瀬が悠太の個室を尋ねて来たのは、まだ朝早い時間だった 多分、朝礼だけ済ませて車を走らせたのであろう…… 康太は個室へと姿を表した長瀬に 「早かったな」と声をかけた 「……気になって授業など……出来ません 悠太の容態は?」 「昨夜検査した後に医者が眠らせてくれたからな‥‥まだ寝てる、見てやってくれ」 長瀬は悠太のベッドへと促されて歩み寄った ベッドには……顔が腫れ上がって…… 黒ずんだ色した……多分悠太であろう……男が寝ていた 「………悠太……ですか?」 「解らねぇだろ? 地下に一生達が救助に入った時…… どれが悠太だか解らない状態だったらしいかんな……」 康太の説明に…… 壮絶な日々を垣間見て……長瀬は言葉をなくした 「悠太は……全治……」 「6ヶ月と言われた」 「………半年……駄目ですか……」 「もし学校に通える様になったとしても、かなりの骨を粉砕されているからな‥‥ 長期的に経過を見て逝かねぇとなならねぇと想う 問題は体躯の傷は治るが、長期間に渡り監禁された異常な空間にいたからな‥‥‥ 心の方が心配だ‥‥‥ 帰宅途中に拉致監禁されたと言う事もあって……同じ時間帯に歩けるのか…… 3ヶ月も日の当たらぬ所で過ごした精神状態も……気になるな…… なんにせよ……今後……どうなるかは……今の所解らねぇよ」 「………メンタル面……が一番解らないのですね」 「そうだ……オレだって……何時もと同じ日常を送っていた時に暴漢に押し入られ……殺されかけた 未だに……脳が忘れなくてフラッシュバックをおこす時もある……」 飛鳥井建設に押し入った暴漢はニュースで大々的に取り上げられた 襲われたのは…… 飛鳥井家真贋 飛鳥井康太…… まだ記憶に新しい事件だった 心の傷は……簡単ではない…… 「………悠太は3年に進級します! 今年、3年の教室は1階に下ろして貰います 悠太が通学しやすいように……我々も善処して行くつもりです!」 「………長瀬……悪かったな……」 「悠太に送られたがっていた3年生は……可哀想な事をしました」 「なら兄が悠太に変わって卒業式を執り行ってやんよ! その様に神楽に言っておけ!」 「………悠太と葛西は……皆にはどう話しておきましょうか?」 「お正月休みに葛西と悠太はスキーに行って雪崩に遭い……遭難 つい最近まで意識不明だった……と言っておいてくれ キナ臭い感じは否めねぇかんな、被害者として名を出す訳にはいかねぇと想っている‥‥‥」 「………見舞いに来たいと申しましたら?」 「意識が戻るまで面会謝絶だとでも言っておけ!」 「………3ヶ月行方不明とニュースで見て…… 他の生徒達は悠太と葛西も被害にあったんじゃないかって……言い出してます」 「それは何とでもなる 情報は行き先を変えやれば勝手に一人歩きするものだ 此処で悠太と葛西はスキーで遭難…… 意識不明の重体と言っとけば、学園側は被害者はいないと打ち出してるんだ 噂なんて立ち消えるだろ」 「解りました 学校に戻りましたらクラスの皆には言っておきます!」 長瀬は「また見舞いに来ます」と言い帰って行った 康太は「………やはり……不在の一致は……痛いか…」と呟いた 悠太は「……康兄…」と声をかけた 康太は悠太の枕元まで行って、覗き込んだ 「どうしたよ?悠太 腹でも減ったか?」 「………違います…… 俺達を……監禁してた奴らは……」 「全員逮捕された」 「………そうですか……」 「オレが殺っとけば良かったか?」 「違う……康兄……違うってば……」 「お前は葛西とスキーに行って雪崩に遭い遭難! つい最近まで意識不明の重体だった!」 「………え?……」 「お前の為だ……オレは事件の被害者としてでも、お前の名前を入れる気はねぇんだよ!」 「………康兄……迷惑掛けました……」 「オレの覇道を切りやがって! オレは怒ってんだぜ!悠太!」 「………康兄……ごめん……」 「……これでお前が死んでたら…… オレは必ずアイツ等を仕留めていた! 生かしておくものか! お前は兄を殺人者にしたいのか?」 「………康兄……貴方を殺人者にしたくありません! だから……覇道を切ったのに……」 悠太は泣いていた 「悠太、奥歯の治療をする時 お前の奥歯に発信機を着けるわ おめぇは……時々何やるか解らねぇからな…… オレは怖い!」 「発信機でも何でも着けて良いから……康兄……」 「早く良くなれ! でも無茶はするな! 解ったな!」 悠太は何度も頷いた 「葛西もこの病院の個室に入ってる」 「………え……あの家……そんなお金払えない……」 「……知っていたのか?」 「……葛西が……大学は無理だから……と言ってた なら高校生活は絶対のモノにしよう! そう話してたんだ……」 「葛西は大学に行くぜ!」 「………え?……何で……」 「オレが先行投資してやるかんな!」 「そうなんだ……良かった……」 悠太は胸をなで下ろした 「そうだ!スプーンで食える悠太の飯、来てたな」 「康太のご飯も来てますよ」 「なら食うとするか! 聡一郎、悠太に食わしてやってくれ」 聡一郎は悠太におもゆを飲ませた その目の前で康太が病院が用意した朝食をガツガツ食べていた 「………康兄……良いなぁ……」 「おめぇは何も食ってなかったからな 固形物食えば胃がビックリするだろ?」 「………それにしても……何で康兄の分があるの?」 「オレはお前がICUを出るまで、そのベッドで寝てたからな! 久遠がオレの飯を用意してくれたんだよ」 「………好待遇……ですね!」 「悠太、おめぇもな! お前の治療費、目が飛び出る位だぞ?」 「………出世払いでお願いします」 「良いぜ!そのかわし今後は病気もするな 解ったな悠太!」 「解りました……」 康太は笑って病院の御飯を食べていた 食事を終えると康太は持ってきたPCを取り出した 「康兄…」 「あんだよ?」 「意識がない時……母さんや瑛兄に怒られる夢見たんだけど……」 悠太が言うと康太は榊原や一生を見た 榊原は「震えてましたからね」と思い出し 一生は「夢だと想ってるんだ…」と呟いた 「おめぇが目を醒まさねぇかんな 母さんや瑛兄もお前を起こしてたんだよ 当然、オレや伊織、一生や貴史……そして聡一郎も起こしに行ったんだぜ?」 一生は「恋人の声に目も醒まさねぇなんて薄情な野郎だなお前は……」と揶揄した 「………夢かと思ったんだ…… ずっと……じぃちゃんが声をかけてくれていた 叫び声や呻き声の中……俺は自分を保つ為に…… じぃちゃん以外の声を遮断したんだ……」 「………やっぱし……おめぇは力持ちだったか…… そんな事が出来るのは力持ちだけだ オレの覇道を切ったのといい……少しは使える技を仕込まねぇとな……」 と康太は思案した 榊原が康太に 「退院出来るようになったら菩提寺に預けてはどうです? 力を解き放ち……少しは使える様に修行をさせるんです そしたらピンチの時に式神位送れる様になります 発信機も着けますが、機械ものは壊れる心配もありますからね!」 「だな、龍騎にまだくたばる暇はないと発破をかけとくしかねぇか!」 「そうです!んとにこの子は……どれだけ心配かければ良いんですか!」 榊原は怒っていた 「……義兄さん……ごめん……」 「悠太、貴史が君に制服をあげると言ってました 兵藤貴史は伝説を作った生徒会長、不足はないでしょう!」 榊原が悠太にあげた制服はぼろ切れ同然になってしまった 兵藤は康太に「次は俺の制服をやんよ!」と申し出てくれたのだった 悠太は言葉をなくした 「…………勿体ないです……」 悠太は喜びを噛み締めるように言葉にした 生きているからこそ味わえる喜びだった 榊原は「一旦 会社に顔を出して来ます」と言い個室を出て行った 康太は一心不乱にPCを操作していた 個室がノックされドアを開けると東都日報の今枝浩二が立っていた 聡一郎は個室の中へ招き入れた 薄暗い病室に入って来た今枝に康太は 「今枝、どうしたよ?」と問い掛けた 病室に入って今枝は悠太が個室に移されていて驚いていた 「……意識が戻られたのですか?」 「おー!ちと悪戦苦闘したけどな、昨夜戻ったんだよ」 病室はかなり暗くしてあった ソファーの方は少しだけ明るくしてあるが、ベッドの方はかなり暗くしてあった 「………悠太さんですか?」 今枝は声をかけた 「はい……」 「……良かった……本当に良かったです……」 今枝は感激していたが、康太を訪ねてきた本題に入った 「今…色んな憶測が飛び交ってます 我が社の方にも加害者について……持ち込みが凄くあります」 「………だろうな……… ネット上でも色んな憶測が飛び交ってる」 「………少年Aの実名に辿り着くまでに… そんなに時間は要らないかも知れません…」 「だろうな……」 「………手は……打ってあるのですか?」 「桜林は被害者は一人もいなかったと正式発表した 中村竜吾の学校はそんな生徒など在籍した記録も御座いません……と公表した だから余計憶測が蔓延るのかも知れねぇな」 「飛鳥井康太に脇坂からエッセイの仕事の依頼がありました! 今日はそれの取り立てに来ました ギャラは脇坂工業のGPSだとか…… 悠太さんが歯を入れる時に技工士と協議をすると言う事で……良いのですか?」 「おう!オレが頼んだんだ」 「ではエッセイの段取りをしたいと想います 東栄社の小説雑誌の方に飛鳥井家真贋として、テーマは区切らず書いて下さいとの事です」 「解った」 「悠太さん……学校を休んでる理由は?」 「スキーに行き雪崩に遭い最近まで意識不明だった……とは言ってある…」 「それ、より確かになる様に協力しましょうか?」 「………それは?どう言う意味だ?」 「俺は報道の仕事を携わっている 貴方が戻してくれた俺の道です その恩返しには足りませんが…… 飛鳥井家真贋の弟、冬山で雪崩に遭い意識不明の重体……だったニュースは配信できる力はあります」 「………あの悠太の顔をどうする?」 「凍傷と言う事で包帯を巻けば何とかなりませんか? 目だけだして後は包帯を巻く」 「………包帯か……思い付かなかったな……」 「そして撮影すれば良いのです」 「それを……何処で流す……」 「6時のニュースの特番枠で流します 冬山の恐ろしさ……と銘打って悠太さんの撮影を流す そすれば……悠太さんは冬山で遭難した事になる……」 「頼めるか?」 「ええ!出来ます 貴方の力になりたいと想ってました あの日……貴方が声を掛けてくれねば、存在しなかった今の世界です……」 「お前の魂は誰よりも綺麗だった お前が自分で掴んだ世界だ」 「我が子は……貴方がいねば生きてませんでした」 「恩など感じずとも良い」 「貴方は何時もそう言う でも俺は貴方の力になりたい 何時も……そう想うのです 真贋の取材の時、貴方は本来の姿を俺に見せてくれた 俺の瞳が濁らないのは貴方を見ていたいからだ!」 「良い瞳をしている…」 「何時、撮影して良いですか?」 「何時でも構わない」 「なれば少しでも準備出来次第、行動に移ります」 今枝はそう言い病室を出て行った 康太は今枝が出て行った後 何も言う事なくPCを操作していた そして立ち上がると「会社に顔出すわ」と言った 一生は「旦那の所まで送るわ」と言い立ち上がった 慎一も立ち上がって 「では車を持って来るので下で待ってて下さい」 個室を出て行った 一生は「会社、何しに行くんだよ?」と問い掛けた 「悠太の事が報道されれば口裏は合わせとかねぇと聞かれた時に困んだろ? 後、夜には若旦那も来るからな、その前に用は片付けとかねぇとな…」 「なら行くとするか」 「聡一郎、今枝が来たら、アイツの言う通りに撮影させてくれ!」 「解りました」 「オレの昼飯、食っといてくれ!」 「時間掛かるのですか?」 「伊織とイチャイチャして来るかんな!」 康太は笑って言うと、一生と病室を出て行った 病院を出て正面玄関で待ってると慎一が車を停めた 康太は車に乗り込み一生に声を掛けた 「今枝が何故オレに逢いに来たか解るか?」 「新聞社に中村竜吾のタレコミがあったとかか?」 「だろうな……このまま行くと主犯格は他の奴になるしかねぇからな 保身に走るなら竜吾の名前をトップに掲げておきてぇからな…… それか……飛鳥井悠太をスケープゴートにしてぇ奴とかの策略だろ?」 「………どうやっても……悠太を叩きてぇか…」 「悠太を矢面に出して飛鳥井康太を狙う… 今枝はそんな輩から悠太を……… しいてはオレを護りてぇんだと想う…… アイツは今……報道の最前線にいる人間だからな……悠太がオレのアキレス腱になるのを危惧してるんだ」 一生は「成る程!」と納得した 慎一は「では今枝は先手を打つと言うのですね」と状況を踏まえ言葉にした 「今枝はオレを護ると……言ってくれた」 「康太が生かした命なんでしょ?」 慎一はそう康太に問い掛けた 「オレはアイツの記者魂が綺麗だったから…… 逆境に置かれても濁らないアイツの記者魂を護りたかったんだ……」 見返りなんて求めて……やっていない 康太ならそうであろう……と慎一は納得した 慎一は飛鳥井建設へと車を走らせた 飛鳥井建設の地下駐車場の車を停めると、エレベーターに近付いた 一生と慎一は常に康太を護りながら歩を進めた 何があっても臨戦態勢は取れる様に慎一と一生は回りを見渡してエレベーターに乗り込んだ 慎一は役員の階のボタンを押した 役員の階に到着すると、康太はエレベーターを下りた 副社長室のドアをノックすると榊原がドアを開けた 「康太……」 榊原は愛する恋人を抱き締めた 「伊織、父ちゃんの部屋に行く だから顔を出した」 「そうですか では僕もご一緒します」 「………仕事は?」 「君を膝の上に乗せて片づけます」 「仕事にならねぇぞ」 康太は笑いながら榊原と手を繋いだ 会長室へと向かいドアをノックすると秘書の榮倉がドアを開けた 「康太、どうしたのですか?」 「父ちゃんと話し出来る?」 「会長、康太さんです」 榮倉が言うと清隆は立ち上がってソファーに座った 「話は何ですか? 君が……この部屋に来る…… 遊びに来た訳ではないですよね?」 「おう!オレは飛鳥井家真贋として来てる」 「では、お話、お伺い致します」 「悠太の事だ」 「悠太……ですか?」 「悠太は雪山で雪崩に遭い意識不明の重体だった それをニュースの特集で流してくれる で、流れれば問い合わせて来る奴が多いだろうと想ってな、事前に口裏合わせをするしかねぇと来た」 「…………そうですか……。 悠太の名前を出して……飛鳥井を貶めようとする輩が……手ぐすね引いているのですね」 「あぁ、主犯格を飛鳥井悠太に挿げ替えて…… 情報操作して飛鳥井の株を貶めるには充分な情報だからな……」 「………そうですか……解りました では幹部と家族を集めますか?」 「………頼む……」 「そう言う事は瑛太に任せておけば良いのです」 清隆はそう言い笑って受話器を取り上げると内線を押した 「社長をお願いします」 清隆は敢えて社長を……と言った 瑛太は電話を取ると『会長、何か用ですか?』と問い掛けた 「話があります 飛鳥井の一大事です 蒼太に恵太も呼んで下さい 飛鳥井と名乗る者総て呼んで下さい そして栗田と陣内と 水野千秋もお願いします」 『………会長……誰が召集してるか……だけお教え下さい』 「飛鳥井家真贋です」 『真贋……の、言葉ですね 解りました 只今召集を掛けます』 瑛太は電話を切ると佐伯に 「佐伯、各部署の統括本部長を会長室に呼び出して下さい そして飛鳥井蒼太と恵太も会長室に呼んでおいて下さい」 「解りました! 只今召集を掛けます」 佐伯は各部署の統括本部長の召集を掛けさせた そして飛鳥井蒼太と恵太も召集を掛けた 「社長、全員会長室に来るように伝令は流しました」 「そうですか では会長室に向かいます」 瑛太は会長室へと向かった 清隆は瑛太との電話を切ると玲香の処へ電話を掛けた 「母さん、飛鳥井家真贋からの召集です 今すぐに京香と共に会長室へ向かって下さい!」 『………真贋の召集かえ? 解った! 京香を拾って会長室に向かう』 玲香はそう言い電話を切った 瑛太が会長室のドアをノックすると榮倉がドアを開けた 「会長、社長がお見えになりました」 瑛太は会長室の中へと入ると、ソファーに座った 瑛太は康太を見掛けても声は掛けなかった 飛鳥井家真贋として、会長室のソファーに座っているなら…… 声など掛けられないのは…… 誰よりも知っていた 榊原もキリッとしてソファーに座っていた 甘い雰囲気などなかった 蒼太が会長室にやって来て、恵太もやって来ると 統括本部長が続々会長室へとやって来た 「蒼兄と恵兄は会長の横に座れよ」 言われ蒼太と恵太は清隆の隣に座った 統括本部長達は康太の向かい側に座った 「呼び立てて悪かったな栗田、陣内、水野」 康太が言うと栗田が「御用件は……?」と問い掛けた 「飛鳥井の一大事だ! これより飛鳥井は渦中の存在となる 小さな綻び一つ許されはしない現実に突入する事となる! 小さなほつくれで破滅に向かう事は避けたい…… だから事情を話して、皆で乗り切って欲しいと想って、お前達を呼んだ」 陣内は「………何がありまたか?……それからお願いします」と筋道立てて話してくれと頼んだ 康太は悠太の話をした 敵対する高校の人間達に奇襲を受けて…… 拉致られて日の光も通さぬ地下に監禁され…… 死者も出て騒いでる事件の被害者だと告げた 栗田は表情を強ばらせ……「悠太は?」と問い掛けた 蒼太も「………生きているのです?」と問い掛けた 「悠太は生きてる だが……助けに入った時……どれが悠太か…… 解らぬ状態だった 昨日まで意識不明だったのは嘘じゃねぇ……」 蒼太は顔を覆った…… 恵太も弟を想った 「………悠太……だけが被害者……ですか?」 「いや、桜林の頭は葛西繁樹と言う男だ だから二人が邪魔だったんだろうな……」 「………その子は……?」 「生きてる」 恵太は息を飲み込んだ…… 「この事件は未成年と言う事もあって個人情報は伏せた状態にして貰っている 悠太の名前が……少しでも漏れようモノなら…… 待ってましたと主犯格を飛鳥井悠太と銘打って……でっち上げるだろう…… そんな事はさせない! 飛鳥井の屋台骨を揺るがす事は絶対にさせねぇ! あの事件で……少なくとも8名が……息を引き取った この先増える可能性も否めない 謂わば……殺人事件だ…… 主犯格を悠太に変えれば…… それを信じた輩は……飛鳥井の息子は殺人犯だとインプットするだろう…… そしたら株は暴落……会社の存続は無理となる そうさせねぇ為に…… 悠太はスキーに行って雪崩に遭い、つい最近まで意識不明の重体だとニュースに流す それが流れれば……会社や社員の周りを彷徨く輩も出て来るだろう…… 何処かに……ほつくれがないか……あらを探すだろう 我々は何としても一致団結して乗り切らねばならなぬ!」 康太の言葉を水野は黙って聞いていた 「社内報で出して悠太さんの事故を知ら社員に向けて出します 社内放送でも悠太さんの事をニュースで扱うけど、取材に何か聞かれたら一切答えるな…… と公示して社員をコントロールしていけば良いと想います」 「水野、出来るか?」 「はい!やります!」 水野はそう答えた 陣内も「飛鳥井は一枚の岩になってます! そんなに容易く崩れたりは致しません」と嗤った 栗田も「そうです!飛鳥井はこんな事でへこたれたりは致しません! 何度も妨害があっても、真贋が排除して先へと繋げてくれた! 今度は社員一丸となり、明日の飛鳥井を繋げて行きたいと想います!」と言葉にした 蒼太は「………悠太に逢いたいのです……」と泣きながら言葉にした 恵太も「……悠太の顔を見たい……あの子の顔を見たのは……まだ小さい頃…… 僕らは兄弟なのに……悠太とは距離を取り過ぎた…」と悔やみながら言葉にした 「悠太はまだ17だ…… 誕生日が来たら18になる… 4月から……高校3年になるんだ……」 康太は悔しそうに……言葉にした 「………犯人を……殺してやろうと想った……」 康太が言うと蒼太が立ち上がった 「………康太……お前にばかり辛い想いをさせる……」 そう言い蒼太は康太を抱き締めた 「………悠太は中々意識を戻さなかった…… 頭は頭蓋骨陥没骨折する程だ…… 腕も足も骨がボキボキだ…… 奥歯も……べし折られて……相当な拷問を受けた痕があった…… 悠太をこんな目に遭わせやがって…… ぶっ殺してやりてぇ想いで一杯だった…」 康太の言葉を恵太は痛そうに聞いた 「………康太……」 「オレは飛鳥井を護る義務がある 明日へと飛鳥井を繋げる義務がある! 何としてても醜聞など出させるか!」 康太が言うと清隆が後を続けた 「飛鳥井と名乗る者は家の為に 我が社の社員は会社を護る為に 我々は何としてでもこの難局を乗り越えねばなりません!」 蒼太はソファーに座った 「僕の部署のモノには帰って直ぐ、伝えます」 蒼太はそう言った 栗田も陣内も「部署に帰り次第、社員に伝えます!」と言ってくれた 水野は「社内報を直ちに作ります!」と伝えた 「って言う事で皆、頼む」 康太は立ち上がると深々と頭を下げた 清隆と瑛太も立ち上がり、頭を下げた 栗田と陣内と水野は直ちに仕事に掛かった 蒼太は「………悠太を見舞って良いですか?」と尋ねた 「あぁ、見舞ってやってくれ……」 と言い病院と部屋番をメモして蒼太に渡した 蒼太と恵太も会長室を後にした 玲香は「レストラン部門の連中には伝えておこうぞ!」と言い会長室を出て行った 京香も「保育園は無関係とは言えぬからな… 保母や関係者には伝えておこう!」と言い 会長室を出て行った 康太と榊原も立ち上がると会長室を出て行った 瑛太が康太の後を追った 「康太……」 瑛太に呼び掛けられ康太は振り返った 「瑛兄、どうしたよ?」 「私は君の体調の方が心配です……」 「今んとこ痛みもねぇかんな 大丈夫だ瑛兄」 「無理はしてはいけませんよ」 「あぁ、解ってんよ!」 「………今日は……お昼までいますか?」 「おう!昼に瑛兄が何か奢ってくれるなら昼までいても良い」 「解りました 佐伯に何かケータリングさせましょうかね?」 瑛太は嬉しそうに言った 「なら昼にな瑛兄」 「はい。康太、楽しみにしてます」 瑛太はそう言い社長室に入って行った 副社長室に康太を連れ込んだ榊原は、副社長の椅子に座り康太を膝の上に乗せた それを見て、慎一と一生は真贋の部屋へと入って行った 「伊織……仕事は?」 「しますよ……でも奥さんとの語らいの方が僕には大切なんです」 「オレも伊織との時間の方が大切だ……」 キスをしようとすると副社長室のドアがノックされた 「開いてます!どうぞ!」 榊原は声は掛けた 康太を下ろして出迎える気は皆無だった ドアを開けて入って来たのは、城田と瀬能と愛染だった 「どうしたよ?」 康太が声を掛けると城田が切り出した 「……お話……出来ませんか?」 康太は榊原の膝の上から下りた そしてソファーに座ると、榊原は真贋の部屋へをノックしてドアを開けた 「お茶の用意お願いします」 榊原が言うと一生は 「誰か来てるのかよ?」と尋ねた 「城田達が来てます」 榊原が言うと一生は副社長室に入って行った 慎一は「解りました!今用意します」と言った 榊原はそれを聞き届けて康太の横に座った 慎一がお茶の準備をすると副社長室へと持って行き、城田達の前に置いた そして一生同様、康太と榊原の後ろに立った 「じゃ、話を聞くとするか!」 康太が言うと瀬能が 「……悠太さんの意識は……?」 と尋ねた 「戻ったぜ! だからオレは此処にいる」 でなきゃ会社になど出勤しない……と暗に言われた 城田は「康太さん……璃央の弟は……どうなりました?」と尋ねた 「逮捕された以上は司法の判断に任せるしかねぇだろ?」 「………そうですが‥‥…」 「さしずめ、今は警察で取調中だろ?…」 「情報が……錯綜してます… なので……どうなったか……聞きに来ました」 「どんな風に情報が流れているんだよ?」 「今回の事件の首謀者の名前を悠太さんの名が出ては消えて‥‥‥その繰り返しです」 「それは想定内だから見ぬフリを決め込んで構わねぇ‥‥ 最初からキナ臭い感じは否めねぇでいたからな‥‥‥」 「何が起きているのですか?」 愛染は不安そうな顔で問い掛けた 「これは高校生の縄張り争いなんかで終わる話じゃねぇって事だ 裏があるんだよ‥‥」 瀬能は「‥‥‥まるで情報合戦の様に画面は目まぐるしく移り変わっています‥‥」と不安そうに口にした 「オレは今回の事件に悠太の名前は一切出させねぇ! 悠太はスキーに行き雪崩に遭って意識不明の重体だと社内にも知らしめる」 愛染は「解ってます!我等も一切他言は致しません」と申し述べた 「ネット上では、それは憶測が飛んでる 憶測が憶測を呼び、事を大事にしてる そして犯人捜しだ 同じ時期に行方が解らない……と来れば…… 飛鳥井悠太が被害者かも……と出て来る そのうち尾びれと背びれが着いて、主犯格は飛鳥井悠太……となるだろう 情報が錯綜してる時ほど、情報操作は容易い そうならない為に手を打っている」 「………そうでしたか……」 三人は納得した ずっと不安だったのだ…… 「………璃央は……?」 「何も変わらない 璃央は会社に出て来てるか?」 「……来てます……」瀬能が答えた 「支えてやってくれ…… 苦しい道程になるだろうが…… 乗り越えれば……明日へと繋がる 乗り越えなきゃ……明日は送れねぇんだ」 城田は「……解ってます…」と伝えた 「当分、病院には寄りつくな! 璃央にも言っておけ! アイツ…悠太が入院した日から待合室にいるだろ? 病院には近付くな!解ったな!」 「解りました! 璃央を病院には近付けません」 「オレの周りも少し慌ただしくなる だから…オレに近付くな!解ったな?」 「解りました! 我等は何時もと変わらぬ仕事ぶりを致します」 三人は立ち上がると、深々と頭を下げ副社長室を出て行った 康太は紅茶飲み干してから立ち上がった 「瑛兄と昼を食うとするか!」 康太はそう言い副社長室を後にした 「瑛兄、飯食おうぜ!」 腹減りの康太が社長室に乱入して昼へと突入した 瑛太は秘書にホテルのケータリングを社長室に運ぶ様に注文した 腹一杯食べると、康太はお茶を啜った 「この後、どうするのですか?」 瑛太は康太に尋ねた 「オレは病院に戻る」 康太は立ち上がると、榊原も立ち上がり康太を抱き締めた 「なら僕も行きます」 「……仕事は?」 「持ち帰ってやります 君の傍にいたいのです」 榊原はそう言い康太の頬にキスを落とした 榊原は一生と慎一に「病院に行きます」と告げた 一生は「俺も行く」と後に続いた 慎一は「俺は悠太の着替えを取りに一旦帰ります」と告げた 地下駐車場まで一緒に向かい、一生は榊原の車の後部座席に乗り込んだ 慎一は自分の車を運転して帰って行った 榊原は運転席に乗り込むと車を病院へと走らせた 病院の駐車場に車を停めると、病院の中へと入って行った 待合室を避けて関係者の通路から直接個室へと向かう このビルを建てた時に、視野に入れて待合室を通らずに個室に行ける方法を取れる様に設計させた 個室に戻ると、悠太の姿はなかった 康太は聡一郎に「悠太、どうしたよ?」と問い掛けた 「包帯を巻きに行ってます」 「今枝、来てるのかよ?」 「はい!少し前に来ました」 「………そうか……」 康太はソファーに座った 暫くすると今枝が病室に顔を出した 「康太……来てたのですか?」 「おう!根回しに行ってたんだよ」 「悠太は久遠先生と話して、他の病室で撮影した方が良いだろうと言われて、他の病室で撮影に当たった 個室ではなく特殊病棟の方で撮影をして来た所です」 「悠太、まだ顔に包帯を巻いてる?」 「ええ。悠太さんが個室に戻ってから外すと言われてます」 「………そっか……好都合かもな……」 康太が呟くと榊原も「そうですね」と賛同した 「長瀬に電話してくれ」 「解りました。電話します」 榊原はそう言い病室を後にした 今枝は康太に 「今夜、放送します」 と告げた 「………今枝……ありがとう」 「会社に戻ってテレビ局の奴と編集に当たります」 今枝はそう言うと個室を後にした 暫くして悠太が病室に戻ってきた 顔には包帯が巻かれていた 「悠太…」 「何?康兄?」 「その調子で学校の同級生と逢うか?」 「………俺の所に来ると葛西の所へも行くよ?」 「葛西には毎日顔を出してる うちの状況を理解して協力してくれる しかも葛西は顔の傷はそんなに酷くない 顔と言うより……葛西は身体的な拷問だな 殴り付けるより……痛め付けられた…… 葛西に病室に来て貰えば一石二鳥だ」 「………葛西……歩けるの?」 「今はリハビリが始まったばかりだからな 歩くのはまだ無理だな…… アイツも逃げられない様に脚の骨を折られてるからな…… でも車椅子で移動は可能だからな」 「………葛西に逢いたい……」 「後で来て貰えば逢えるさ 慎一、長瀬に連絡して何人か面会可能になったから連れて来て良いと伝えてくれ」 「解りました 連絡を入れます」 慎一は個室を出て電話を掛けに行った 暫くして戻って来ると 「直ぐに生徒を数人連れて見舞いに来ると仰ってました」 「そうか……なら葛西を呼ばねぇとな」 康太が言うと一生が 「久遠に許可貰って連れて来るわ」 と個室を出て行った 「悠太……」 「何、康兄?」 「疲れてねぇか?」 「大丈夫だよ」 一生は葛西を車椅子に乗せて悠太の病室に連れて来た 康太は葛西に「悪かったな…」と謝罪した 「康太さん悠太に逢わせてくれて本当にありがとうございます 悠太…生きててくれて本当にありがとう…」 葛西は泣いていた 榊原は葛西に「体躯は?痛くありませんか?」と問い掛けた 「はい……痛む時はありますが…… 堪えれない程じゃないです」 「無理はいけませんよ?」 「はい……」 葛西は悠太の手を……強く握った 一生は葛西に 「康太の兄の瑛太さんが葛西に制服をくれるそうだ」と告げた 「………え……瑛太さんが……」 「清家が制服をお前にと………言ってたけど、清家とお前とでは体格が違うからな…… お前は俺らが卒業してから育ったな 瑛太さんの制服じゃないと入らないかもな…」 「………勿体ないです……」 「藤森も制服を提供すると言ってたが、藤森も細いからな……無理だからな……」 「………ありがとうございます……」 葛西は……堪えるきれなくなって泣いていた ドアがノックされて一生がドアを開けに行くと長瀬と数人の生徒が見舞いに来ていた 長瀬は「葛西……お前……大丈夫なのか?」と問い掛けた 「………俺は大丈夫です 悠太が僕を庇った分……凍傷が酷くなって…… ずっと……悠太……意識が戻らなかったんだ…」 葛西は泣いていた クラスの一人が「………暴行事件に巻き込まれたんじゃないかって…心配した!」と悠太に告げた 悠太は包帯だらけの顔で…… 「………ご心配掛けました……」と謝った 暗い部屋に違和感を感じない様に慎一は 「部屋の照明を落としております 悠太は瞳も……凍傷で傷が付きましたので…… 照明の灯りは落とされているのです」と説明した 康太は皆に「悠太は今朝方、意識が戻ったばかりだ……」と告げた 榊原は全員に「雪山の怖さを皆さんに知らしめて欲しいとテレビ局の人に言われて、悠太は協力しました 6チャンネル系列で、午後6時からの特番で流れます 皆さん 帰られたらテレビを見てください」 テレビでやると言われれば…… 全員 悠太は雪崩に遭い、意識不明の重体だったんだろう……と想うだろう 生徒達は悠太と葛西と話をして、長瀬と共に帰って行った 「葛西、悪かったな 疲れたろ? 一生、葛西を病室に連れて行ってくれ」 康太に言われて一生は葛西の車椅子を押して、個室を後にした 聡一郎は悠太の顔の包帯を外した 夕飯が運ばれて、悠太はスプーンで掬って貰い食べていた 康太は病院の夕飯を食べていた 食べ終わると、悠太は疲れたのか……眠りに落ちていった 「悠太寝たし、慎一、夕飯買ってきてくれ!」 康太は問い掛けた 榊原は「まだ食べるんですか?」と問い掛けた 「違ぇよ!聡一郎とか伊織達は食べてねぇからな個室で食うか、食べに行って来いよ」 「では個室に運んで貰いましょうか? 君のプリンも買ってきて貰いしょう」 「………オレ、プリンは良いわ……」 「………え?体調……悪いのですか?」 榊原はそう言い康太の額に手を当てた 「………少し熱ありますね……君……」 「…………伊織……吐きそう……」 康太が言うと榊原は康太を抱き上げて洗面所へと向かった 一生は「……無理したからな……」と心配した 慎一は久遠を呼びに個室を出て行った 康太が洗面所から戻ると…… 真っ青な顔をしていた 久遠はそんな康太を見て「吐いたのか?」と問い掛けた 榊原が変わって「はい……全部吐きました…」と答えた 「点滴打つか……伴侶殿、康太を処置室に連れて来て下され」 と言い久遠は出て行った 榊原は康太を抱き上げると個室を出て行った 一生も康太の後を追った 2時間程すると康太は個室に戻って来た それより前に戸浪が悠太の病室を尋ねて来た 聡一郎に果物の籠を手渡して、戸浪は個室の中へ秘書の田代と共に入った 「………あれ?康太は?」 戸浪が問い掛けると慎一が 「………康太は少し体調を崩してます ですので、久遠先生に点滴を打ちに連れられて行ってます 暫くお待ち下さい」 慎一はそう言い一生にメールを打った 『若旦那がおみえだ』 一生はメールを見ると「点滴は終わった、直ぐに行く」と返した 「康太、若旦那が個室に見舞って下さっている」 一生は康太に告げた 榊原は点滴の終わった康太を抱き上げると個室に戻って行った 個室に入って榊原は戸浪に気付いた 「康太、若旦那がおみえです」 康太は榊原の胸から顔を上げると笑った 「若旦那、待たせてすまねぇな」 「体調が悪いのですか?」 戸浪は心配して口にした 「………力を使ったかんな……」 「……無理は……しないで下さい……」 それでも逝くと解っていても…… 少しは自分を顧みてあげて下さい……と願ってしまう…… 「若旦那、悠太に逢った?」 「いえ……君が……具合が悪いとお聞きしたので……」 「悠太、戸浪の若旦那だ」 康太は悠太に声を掛けた 「お久しぶりです若旦那」 悠太は少しだけベッドを上げて貰い挨拶した 戸浪は悠太のベッドに近付いた そっと腫れ上がった頬に触れた これが「悠太だよ」と言われねば…… 解らない顔をしていた 「………大丈夫なの?」 「はい!康兄に助けて貰いました」 あと少し遅ければ……確実に衰弱死してただろう……と康太は言った 日の光も差し込まぬ地下に三ヶ月も…… 戸浪は泣きそうになった 「…………何か……欲しいのはある?」 「ないです……総て康兄が与えてくれますので……」 「………そう……」 戸浪は言葉を無くした 総て康太が与えてくれますので……… あまりにも重い言葉だった その命さえも…… 戸浪は悠太の頭を撫でた 「一日も早く……治ると良いね……」 「はい!あと少ししたら退院出来ます」 「………退院……早くない?」 「個室に入っていても、家で寝ていても変わらないなら家に還りたい…… 康兄にそう言ったんです そしたら毎日通院で還るかって……言ってくれました 当分は俺は源右衛門の部屋で寝起きするしかないけど……還りたいんです……」 「………そうなんだ……」 悠太はニコッと笑っていた 戸浪は悠太の傍を離れると…… 康太の傍に行った 「………退院して大丈夫なのですか?」 「視力が平常に戻ったら……家に還らしてやりてぇんだ……」 三ヶ月も不在だった家に…… 「………早く帰れると良いですね……」 「若旦那……悪かったな……」 「いいえ……悠太を見舞えて良かったです」 「若旦那……飛鳥井の家に行くか?」 「………良いのですか?」 「伊織達が飯を食ってねぇんだ 若旦那も一緒に食ってってくれ」 「ではお邪魔します」 「若旦那、車?」 「はい!田代の車で来ました」 「なら皆乗れるな 聡一郎、どうするよ? お前、今夜帰って来るか? それなら後で誰かと変わらせる」 「僕は今夜まで泊まり込みます 明日は誰か変わって下さい」 「おう!無理すんなよ 眠れる時に寝とけ!」 「解りました」 康太は聡一郎を抱き締めると、背中を撫でて離れた そして個室を出て、病室を後にした 駐車場へ出て行くと田代が先に駐車場に出て来て、車の中で待っていた 戸浪は窓をノックすると、田代はドアのロックを外した 田代の車に乗り込むと戸浪は 「飛鳥井の家までお願いします」と田代に告げた 田代は飛鳥井の家へと車を走らせた 飛鳥井の家に行くと慎一がリモコンでシャッターを開けた 田代はスロープを下がり車を停めた 慎一はシャッターを閉めると、車から降りて、通路のドアを開けて待っていた 駐車場側から玄関に入り靴を脱ぐと、家に入った 慎一は応接間のドアを開けると皆を部屋へと案内した キッチンにいた瑛太は応接間の開く音に応接間に顔を出した 「康太、帰っていたのですか?」 心配性の兄はまずは康太の無事を確かめた そして戸浪に「若旦那、いらっしゃい」と挨拶した 「瑛兄、何か取ってくれ 伊織達も何も食ってねぇんだ」 「君は?食べましたか?」 「………オレは……吐いたからな…… 今日はもう食べねぇ方が良いかもな…」 「康太……無理しすぎなんですよ! ずっと気を張り詰めていた……」 「大丈夫だ……瑛兄」 「消化の良いモノかデザートを頼めば良いのです……」 「ならそうしてくれ……」 慎一は「適当に見繕って注文します」と言い応接間を出て行った 康太はソファーに深々と座って息を吐き出すと…… 「一生、録画…」と言った 一生はPCを取り出すとテレビと繋げた そして6時に流れたニュースを再生した 特番で扱われていた 冬山の恐ろしさを取材して、救助隊のインタビューを流して、救助に当たった時の話をした後に…… 悠太の映像が流れた 彼は凍傷で顔が焼けてつい最近まで意識不明の重体でした インタビュアーが「大丈夫ですか?」と問い掛けると悠太の顔がアップになった 「名前は?」 「飛鳥井悠太です」 「悠太さん、貴方は雪崩の瞬間を憶えてますか?」 「覚えてません 目の前が真っ白になり……意識が遠くなり…… それからは……何も覚えてません」 「意識は最近戻られたそうですね」 「はい。昨夜、やっと戻りました」 「………全治……何ヶ月ですか?」 「医者には6ヶ月と言われました ………遊びに行ったスキー場でまさか…… 雪崩に遭い……意識不明の重体になるとは…… 解りませんでした……雪山って……本当に怖い……」 悠太のインタビューが終わると他の人の映像も流して特番は終わった 康太はそのニュースを見て… 「………すげぇな……」と呟いた 戸浪は黙って……ニュースを見ていた 田代は「悠太君意識戻ったんですね」とホッと呟いた 瑛太が「……昨夜……康太が意識を取り戻させたんです」と田代に教えた 「………全治6ヶ月……とは酷い……」 「足の骨も腕も指も……歯も……ボキボキですからね…… 歩ける様になるまで何ヵ月かかるか…… また歩けるようになったからと謂って安心は出来ない 全身の骨がポキポキに折れていましたから‥‥何処まで戻るか‥‥解らないです」 見通しは暗い現実を口にする‥‥‥ 助かったと謂っても、めでたしめでたしでは終わらない現実だった 康太は「体躯は治る…心はどうか…何とも言えねぇ 精神状態も……解らねぇしな…… 瞳も……まだ灯りを遮断してる状態だ…… 退院出来たとしても……サングラスは外せねぇだろうな……」とメンタル面の不安を口にした 一瞬 静まり返った部屋にインターフォンの音が響いた 慎一はカメラを作動した 「康太……清四郎さんです」 「入って貰ってくれ」 慎一は玄関に出て玄関を開けた 清四郎は慎一に招き入れられ応接間まで来た 「皆さん 今晩は 若旦那もお久しぶりです」 戸浪は清四郎を見た 「清四郎さん お久しぶりです え………清四郎さん……その子は……」 清四郎は嬰児を抱えていた 「この子は真矢が生んだ子で、康太の子供です 流生達の弟の烈(れつ)です」 清四郎はそう言い烈を康太に渡した 「退院したんだ」 康太はそう言い烈の頬に口吻けた 戸浪は「………その子……入院してたのですか?」と尋ねた 「この子は音弥と同じで超未熟児だったんだ…… 7ヶ月で真矢さんの体躯が妊娠に耐えられなくなり取り出した そして退院するまでに2ヵ月……やっと退院出来たんだよ」 「………真矢さんの体調はどうなんですか?」 戸浪は心配そうに……尋ねた 「真矢は産後、中々体調が戻りませんでしたが……康太が村瀬先生と共に医療チームを編成して治療に当たってくれたので‥‥ 今は元気になり仕事を再開させました」 「そうでしたか……」 戸浪は息を吐き出し……良かったです……と呟いた 烈はじーっと康太の瞳を見ていた そしてニコッと笑った まだ目が見えない嬰児なのに…… 清四郎もソファーに座って皆とお酒を飲み始めた 「伊織…」 「何ですか?」 「子ども達連れて来てくれよ……」 「解りました」 榊原は応接間を出て行った そして暫くすると5人の子供を応接間に連れて来た 応接間に入るなり子ども達は、かぁちゃに抱き着こうとして…… ピタッと動きを止めた 「翔 流生 音弥 太陽 大空 おいで!」 名を呼ばれると駆けていき傍までやって来た 「お前達の兄弟だ!」 康太が言うと流生が 「きょーらい?」と不思議そうな顔をした 「そうだ、お前達の弟だ」 「ちょれ おぃちぃにょ?」 音弥は理解していていなかった…… 「お前達の弟だ お前達が護って生きて逝くんだ」 大空が恐る恐る……康太の手の中の烈に手を伸ばした そっと……頭を撫でると……大空は瞳を輝かせた 「………ちゅごい……」 大空は感激して言った 翔も烈に触った 怖くないと解ると、音弥も太陽も烈に触った 流生は「やらきゃい……」と手を触っていた 柔らかい……赤ちゃんに触れて子ども達は優しい顔をしていた 「烈だ!お前達の弟だ」 「れちゅ?」流生が問い掛けた 「そうだ!烈だ」 子ども達は新しく出来た弟を触っていた そして清四郎や戸浪に気付くと…… 流生は戸浪のお膝に上った 「きゃいり…」甘えてスリスリする姿は可愛かった 「流生、お兄ちゃんになりましたね」 「にーたん?りゅーちゃ にーたん?」 「そうですよ 我が家も弟が出来たので万里や千里は毎日構ってます」 「りゅーちゃ みゃもりゅ!」 流生が言うと音弥も 「おとたん みゃもりゅ!」と片手をあげた 「かけゆも!みゃもりゅ!」 「ちなも!」 「きゃにゃも!」 皆でワイワイ烈を囲んで騒いでいたが…… 流生は戸浪の膝の上で寝てしまった 翔は清四郎の膝の上 音弥は瑛太の膝の上 太陽と大空は榊原の膝の上でうとうと眠りに入っていた 慎一は立ち上がると「寝かせに行きましょうか?」と康太に問い掛けた 「頼めるか?」 「ええ。隼人と聡一郎と一生に手伝って貰います」 子ども達が部屋に引き上げると戸浪も自宅に帰って行った 清四郎は応接間にいた 「…………悠太……当分は退院出来ませんか?」 康太に問い掛けた 「悠太は家に帰りてぇと言ってるかんな…… 近きうちに連れ帰ろうと想ってる」 「………退院……出来るのですか?」 「当分検査が続くからな、現状では無理だ 後、瞳がもう少し光になれねぇとな 通常の生活は無理だが、それをクリアしたら多分退院すると想う…… 退院しても病院には連れて行かねぇとダメだけどな……」 「………腕も……折られたとか……悠太は……製図を引くのですね? 腕は……大丈夫なのですか?」 「人間……咄嗟に大切なモノは守るらしい 悠太は聞き手を庇って、聞き手じゃねぇ方をやられてる……製図は引けると想う 悠太の飛鳥井での立場は不動だ 先は変わっちゃいねぇ……でも足がな……」 康太は言葉を濁した 「………悠太の足……相当悪いのですか?」 「………痛め付けられて三ヶ月放置されてた傷が腐りかけてた 壊死……手前だった…… もっと酷ければ久遠はその場で切断しただろう………」 「…………歩けなくなる………のですか?」 「………どうだろ?神経が……これから検査してくしかねぇとな…… まぁ殴られ蹴られしたからな、体躯の骨もポキポキな状態だ! 多分‥‥治ったかと見えても、成長と共に体躯は悲鳴をあげると謂われた」 「………では……まだ安心できないのですか? それで退院しても大丈夫なのですか?」 「ずっと入院させてた方が……家族は安心だがな…… 悠太は……家に帰りてぇとずっと言ってる アイツは飛鳥井の人間だ…… アイツは家を出る事なく……飛鳥井で死ぬだろう…… そんな悠太だからな……家を焦がれるのは当たりめぇなんだ…… 還らしてやるつもりだ……」 「………何故……悠太が……」 清四郎は悔しそうに言った 「オレは悠太に盤石な明日を残してやった気でいた…… だが……門倉が卒業して一年で揺らぐとは想わなかった…… オレは大丈夫だろうと悠太を気に掛けなかった ………まさか……悠太が虫の生きだなんて知らなかった…… あと少し遅かったら……悠太は死んでいた 搬送されてからの久遠の処置が悠太を先に繋げた…… オレは……忙しくて悠太を気に掛けなかった……」 康太は自分を責めていた 「………康太……自分を責めないで……」 「………Xmasの夜……悠太はどんな想いで過ごしたか……」 「……康太……それなら我々も……悠太を気に掛けてやらなかった 悠太は控え目で……決して目立つ子じゃない…… 悠太を……気にしなかったのは…… 我々も同じです……」 「清四郎さん……」 「悠太の看病をしようと想い、仕事をセーブしました 真矢も同じです…… 私達は悠太を気にしなさすぎた…… もう淋しい想いはさせない! 私と真矢、笙と明日菜は悠太の看病をするつもりです 今日、私が一人で来たのは悠太の病室に泊まり込むつもりなんです」 「………病室には聡一郎が……」 「聡一郎が倒れてしまいますよ? 聡一郎も寡黙で何も言わない…… でも疲れ切ってる筈です」 「……明日は交代する……」 「良いんです 今夜は聡一郎と変わってやります」 「………清四郎さん……」 清四郎が言うと清隆も 「兄さん、貴方が泊まるなら私も泊まります」と申し出た 「では父親二人で泊まりますか?」 「良いですね! たまには説教してやりたいと想います」 清隆はノリノリで立ち上がった 清四郎は「明日は瑛太と笙が泊まるのですよ」とトドメを刺した 瑛太は「解ってます!泊まり込みます」と言い笑った 清隆と清四郎が家を出て行くと聡一郎が戻って来た 「………帰って良いよ……と追い出されました」 聡一郎はそう呟いた 「お帰り聡一郎」 康太は笑って両手を広げた 聡一郎は康太の胸に飛び込んだ 「…………ただいま……」 「なんか食えよ聡一郎 食ったら皆で寝るとするかんな!」 「………康太……伊織と寝ないのですか?」 「今夜はお前と寝てやろう お前は一人じゃねぇんだぜ?」 「………康太……」 「一人で背負うな…… 何でも背負うのはお前の悪い癖だ 昔から変わってねぇな……お前は」 聡一郎は康太の胸で泣き出した 耐えきれず……堪えていた感情が爆発した様に……涙は止まらなかった 康太は何も言わず聡一郎を抱き締めていた 涙が止まると聡一郎は食事をした そして客間で雑魚寝した 「………源右衛門の部屋……バリアフリーだったよな?」 飛鳥井の家は源右衛門が寝たきりになっても良い様にバリアフリー設計だった 「ええ。特に源右衛門の部屋は車椅子になっても良い様に設計されてます 出入り口にしても玄関を通らなくても源右衛門の部屋の窓から外へリフトが着いてますからね 車椅子でそのまま外に出られます」 榊原は家の設計図を思い出し口にした 慎一も「ベッドも介護用のリクライニングです」と介護しやすい環境なのを口にした 「慎一、悠太の瞳はまだ光は受け付けねぇだろう…… 光を通さないサングラスより見た目の良い眼鏡…作れる所を探して病院に来て貰ってくれ」 「解りました 手配します」 一生は「………退院、させるのかよ?」と問い掛けた 「あぁ、入院させといた方が面倒は要らねぇ 個室料金にしたって一ヶ月入ってたとしても払えねぇ額じゃねぇしな…… でもな……悠太はずっと……地下に閉じ込められてる時から…… 家に還りたがってたんだ…… 家に還る……それだけ夢見て……生き続けたんだ だから家に還してやりてぇんだ」 「在宅になっても久遠に来て貰うか、通院すれば良いんだよな? なら準備を整えて迎え入れてやろうじゃねぇか! 悠太は康太の傍にいれば元気になる それが一番の薬だからな!」 一生はそう言い笑った 康太は榊原の胸に顔を埋めた 榊原は康太を強く……抱き締めていた 眠れない気分を払拭して…… 瞳を瞑った

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