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第85話 目論見①

悠太は飛鳥井瑛太が出向いて転院させた 葛西は既に転院した後で……自宅にいる気配はなく足取りは掴めなかった ネット上では「飛鳥井悠太 殺人罪」と書き込まれる陰湿な嫌がらせが後を断たなかった 警察は書き込みした犯人を全員逮捕して身柄を拘束した 模倣犯や愉快犯はなりを潜め…… 書き込みはなくなった 逮捕した犯人全員の 『割の良いバイトだった』と答えた 給料の高さに釣られて、雇われネット上で飛鳥井悠太の事を書いた ゲラの通りに書いただけだと主張した またゲラの受け渡しに使った喫茶店の防犯カメラからゲラの渡し人も逮捕された だが彼等もアルバイトで、主犯格に中々たどり着けない事件となった 病室の盗聴器や康太達を拉致しようとした輩も…… 同じようなモノだった 犯人は口を揃えて言った 『逮捕されるならやらなかった!』……と。 悠太のネット上での噂の拡散は止まった 相手もトドメを刺したくて焦れていたのか…………強硬手段に出て来るのは必須だった その手始めが……悠太が泊まる別荘に暴漢が押し入った 押し入った瞬間に捕獲された犯人は…… 捕獲されたと同時に……射殺された 兵藤は別荘を中心とした距離に隠しカメラを配備した 射殺……出来るであろう距離に狙撃手は来るのを見越して、隠しカメラを配備してあった 一つのカメラに狙撃手は映っていた 兵藤は手土産を持って康太の所へやって来た 「鈴木研一 元警察の狙撃部隊にいた奴だ」 兵藤はそう言い康太に、その男のデーターを手渡した 康太は男のデーターを手にして見た 「………その男は……どうなった?」 「まんまと逃げられた…… 警察は弟の身柄を保護した 男は弟に会いに来るだろうからな……」 「…………憐れだな……弟の手術代欲しさに…… 犯罪に手を染めたと言うのか?」 「………理由はあっても……そいつは確実に人を殺した……」 「殺された奴は?」 「………泰田文則 36歳」 「家族は?」 「……天涯孤独だった……」 兵藤の言葉に慎一は辛そうな顔をした 兵藤は慎一に「どうした?」と声をかけた 「……親もいない……頼れる人もいない……住むところも身元もないから……就職も出来ない…… そんな人間は……安易に金が手に入るなら… それが悪い事だと解っていても…… 手を出してしまうのです……」 「……慎一……」 「弱い人間は泣くしかないんですか…… 踏みにじられ……明日を生きて行く為に…… 利用されるしか……生きていく術は見つからない……… そんな人間もこの世の中にはいるのです 俺は………康太に拾われなければ…… 明日は生きてるか解らない日々でした 犯罪スレスレ……いや……食べる為なら…… それが犯罪だと解っていても…… やるしかない…… 生きる為…… 生きる為に……ゴミ屑でも必死に抗って生きているんです」 康太は慎一を抱き締めた 「慎一………想い出させた……」 「……康太……… 路上で寝てた時……夜まで生きていたのに…… 朝には冷たくなった人を何人も見た…… 金の為に…生きて行く為に犯罪に手を染める人間を見てきた…… 利用される人間は……たった一切れのパンの為だって……食えるなら人を殺します…… そんな人間を……食い物にして……安易に殺す……絶対に許さない……」 慎一は震えて……ファイルを手にした 犯人の顔写真を握り締めていた 感情が……引き摺られる…… 金の為…… 生きてく金が欲しい…… 立ち直ってアパートを借りたら……親に顔向けが出来る…… その為だ…… 弟のオペ代さえ手に入れられたら…… 自分は死んでも良い…… 感情が流れ込んで来て……シンクロする…… 死んだ男は暗闇の中……悔いていた 逃げた男は…… 助けを待っていた…… 「………スカイツリー……その下に……男は隠れてる…… 早く……見付けないと殺される……」 慎一は果てを見ながら……泣いていた 兵藤は康太を見た 「保護してやってくれ……」 康太が言うと兵藤は飛び出した 康太は慎一の手から写真を取り上げると、ソファーに座らせた 「………慎一………もう視なくて良い……」 「………康太……」 「後は警察が動く……」 「………俺も……飛鳥井に来なければ…… 利用されて……堕ちて逝くしかなかった……」 慎一は泣いていた… 一生は慎一を抱き締めた 「お前には血を分けた兄弟がいる! 仲間がいる!飛鳥井の家族がいる! ………それを忘れるな……」 「………一生……」 慎一は涙を拭いた 「………すみませんでした…… 想いが引き摺られてました……」 「オレが深淵を探ったから……お前は力を戻してしまった…… 辛いのなら……封印してやる………」 「大丈夫です………」 「お前は救いたかったんだな……」 「………え?……」 「慎一、お前はこれより飛鳥井の菩提寺に向かえ」 「……貴方から離れたくはないのです……」 「暗闇にいる魂を…救ってやれ」 「………俺には無理です……」 「お前は視た 力を持ちの(視る者の)使命だ お前は視た 救ってやりたかった筈だ 紫雲龍騎がサポートするから無間地獄に送ってやれ 人は命でもって罪を償う 彷徨う暇に償わせてやれ!」 「………康太……」 「一生、慎一に付き合ってやれ」 一生は「………菩提寺から帰って来たら消えてる……なんて事……ないなら行く」とごねた 康太は笑って一生の頬に口吻けた 「一生、消えたとしてもお前を呼ぶから、そしたらオレの所にちゃんと来い!」 「絶対にだからな!」 「約束する! 何処にいてもオレ達は四悪童! 何時も一緒だ」 一生は康太を抱き締めた 「これからお前はどうする?」 「邀撃に出るしかねぇだろ?」 「………邀撃に出るなら俺等が戻るまで待て!」 「なら待ってやんよ! オレも子供と逢いてぇかんな 早めに片付けてぇんだよ!」 「解ってる!なら逝ってくる!」 一生は慎一と共に部屋を出て行った 榊原は康太を抱き締めた 「大丈夫ですか?」 「伊織……愛してる」 「僕も愛してます奥さん」 榊原は康太を強く抱き締めた 「……伊織……片付いたら……少し休みてぇ…」 「そうですね……少し休んで新婚生活を送りましょう」 「………この身が滅ぼうとも……オレはお前しか愛さねぇ……」 「僕も……君しか愛しません」 二人は何も言わず抱き合っていた 康太は静かに…… 瞳を閉じた 慎一と一生がホテルに戻ると康太と榊原はいなかった 予感はあった…… 帰ったらヒョッとしたら…… 康太と榊原はいないだろう……と。 一生はドカッとソファーに座った 「………置いて逝かれちまったな……」 「予感はありました……」 「………お前もか……」 「仕方ないですよ…… それより、一生……何ですか?その紙は?」 テーブルに置かれた紙に慎一は気付いた 一生は紙を手にした 『一生、慎一、ホテルに戻ったら、そこは引き払え! んで、ホテルニューグランドのラウンジで待ってるかんな!』 「慎一!行くぞ!」 一生は立ち上がった そして慎一と共にホテルを後にした 一刻も早く…… 逸る想いを押さえてホテルニューグランドへと急いだ ホテルニューグランドに入りラウンジへと急ぐ すると康太が笑顔で手をふっていた 「………康太……」 一生は康太の名を呼んだ 「取り敢えず部屋に行くかよ? 此所じゃ話せねぇかんな」 ホテルの部屋へと向かい、部屋に入ると康太は 「慎一、ちゃんと送れたか?」 と、慎一に問い掛けた 「はい。龍騎さんがフォローに当たって下さったので送れました…… その……地獄の門番が……炎帝に宜しくと言ってました……」 「………地獄の門の近くまで送って逝ったのかよ? しかも門番に逢ってるとか…… アイツは気紛れだからな……機嫌が悪かったら……この世に返してはくれねぇぞ?」 慎一と一生はゾミッ……と背筋が寒くなった 「………俺の体躯から貴方の覇道を嗅ぎ取ったみたいで……」 慎一は慌てて事情を説明した 「あたりめぇじゃねぇかよ! 地獄に逝かせるのに俺の覇道を纏わねぇと手を出されたら二度と逢えねぇ事態になんぜ?」 康太はそう言い笑った 「………門番は貴方の覇道に震えてました…」 「フルボッコにしてやったからな」 康太は爆笑していた 一生も慎一も笑えなかった ゲームとかに出て来るトロルばりの巨漢をフルボッコにしたと言うのか…… 榊原は眉間に皺を寄せて…… 「……そうでしたね…… 君が門番をのしてしまったので…… 門番は閻魔に泣き付いて来てましたね 仲裁に入ったのは僕です…… よーく覚えてますよ」 一生は榊原を見た 「………本当にフルボッコなのか?」 「ええ……番人がエグエグ泣いて閻魔に訴えてました 閻魔は僕に……炎帝に説教して謹慎だと伝えろと言いました……」 「………青龍は冷たくオレに説教したよな… 今度番人を虐めたら法廷の掃除させるって… 冷たく言ったよな……」 康太は淋しそうに言った 榊原は康太を抱き寄せ頬に口吻けた 「………僕も役務に着く身……閻魔に言われれば聞くしかないのです 閻魔は弟に嫌われたくなくて…… 僕に説教させるのです……」 「………青龍……」 康太は榊原の胸に顔を埋め抱き着いた 一生は「………此所で始めるなよ……」と一応注意した 「始めねぇから安心しろ! さてと、邀撃に出んぜ!」 康太は口の端を皮肉に吊り上げて嗤った 「お!やっとか!」 「別荘の方で殺人事件もあった 狙われたのは飛鳥井悠太とニュースになった そして慎一の視立て通り……スカイツリーその下で男は確保された 暗殺者が一足先に来てて……警察官が1名負傷を負った 防弾チョッキを着てなくば……即死だっただろうな……」 「………狙撃手を狙った犯人は?」 「張ってたSATに撃たれて……死んだ」 「…………何処までも……人を弄ぶな……」 一生は悔しそうに呟いた 「だが無駄死にじゃなかったみてぇだ 射殺された奴は賢くて証拠を総て保管していた もしも……の時に無駄死にしたくなったんだな 男は前金で金を振り込ませてる 防犯カメラに映る振り込みに来た男の身柄は抑えた どんどん外堀は埋めてっているんだよ そのうち本陣を火炙りで誘き出せれば…… 真犯人は誰か解る しかも……視えて来てる……」 康太は果てを見ながら……嗤った 「殺人の依頼や下手な書き込みはサイバー課の仕事だからな プロバイダーごと吊し上げてしょっ引く手筈は整ってるんだよ サイバー課の応援に陵介と陽人も駆り出してるんだ 尻尾も掴めねぇなんて事はねぇ様にしてるんだ」 「………なら……後は仕掛けだけか……」 「そう飛鳥井康太は逃げも隠れもしねぇ! 堂々と表舞台に出て誘き出してやるよ!」 「……康太……危ねぇ事だけは……」 「オレはテレビに出る そして一連の事件が飛鳥井に関係あると公表する 逃げてる卑屈な犯人を挑発してやんよ!」 「……康太……」 「長引けば飛鳥井の不利になる 悠太も心安まる時が来ねぇ…… いい加減……苛立つ現状を打破しねぇとな 会社のみならず志気にも関わる 総てが……限界なんだよ一生」 「………なら……仕掛けて逝くのか?」 「おう!オレは出るぜ! 誘き出してやんよ!」 「着いてくぜ! 例え地獄の果てだって俺は着いてく! 決して離れねぇ!」 「来いよ!一生! オレから目を離すんじゃねぇぞ!」 康太はそう言い笑った 果ては変わらない…… 変えてはいけない…… 受け止めて……逝くしかねぇんだ…… 「………例え……死しか待ってなくても…… オレは逝くしかねぇかんな……」 榊原は康太を抱き寄せて抱き締めた 「君の傍には僕がいます……」 「………伊織……」 一生は「これからどうするんだよ?」と問い掛けた 「相賀が来るかんな待ってんだよ」 「………相賀?」 「そう。相賀和成」 「知ってんよ!何故相賀よ?」 「相賀がオレの出るテレビを仕切るからだ」 「………大阪では……テレビ局で慎一は刺された……」 一生は当時を思い出して康太を牽制した 「それでもな一生、目立つ所に逝くにはテレビは手っ取り早いんだ」 「………おめぇ……今……死しか待ってなくても……とか言いやがったな……」 「モノの例えだ一生」 「いいや!てめぇ……何考えてやがる!」 「それは秘密!」 康太はそう言い笑った 「一生」 「あんだよ!」 「………オレは死なねぇ…… だから聡一郎をオレから遠ざけてくれ……」 一生は驚愕の瞳を康太に向けた 「………聡一郎……動くつもりか?」 「聡一郎は……ずっと一人で動き回っていた 犯人の目星も……付けてんだよアイツは…… だからオレは矢面に立って…… 聡一郎を遠ざけてぇんだ……」 「………おめぇは……矢面に立って何かあったらどうするんだよ!」 「オレの周りは警察が常に警護してる…… オレに何かあれば……オレよりも弥勒がいち早く動く オレは守られてるんだよ一生…… だけど聡一郎はどうだ? 銃口が聡一郎を狙ったら……誰が聡一郎を庇うんだ?」 一生は言葉をなくした 言われてみれば……そうだった 飛鳥井康太なれば護られる命だけど…… 四宮聡一郎の為に護られる命はない 「解った……聡一郎を離す……」 「兎に角、聡一郎を横浜から遠ざけろ!一生」 「………え?遠ざけろ…って何処へ…」 「横浜以外なら何処でも良い ほんの数日、聡一郎を離してくれ…… 下手にチョロチョロ動かれる方が目障りなんだよ!」 「………おめぇはどうするんだよ?」 「数日中にカタを付けてやる! だから聡一郎に出て来られると迷惑なんだよ 聡一郎がウロウロ嗅ぎ回ってチャンスを逃したら……そいつは当分表には出ねぇぞ? ほとぼりが冷めるまで待って……再開するんだ その時に…オレが生きていなければ……どうするよ? 翔だけでは手に負えねぇぞ? そしたら飛鳥井は潰れるのか? それを……お前達が見届けて……魔界に還る事となる…… そうなりたくねぇなら! 黙ってオレの言う事を聞きやがれ!」 「………解った……聡一郎を連れて行く……」 「そうしてくれ!」 一生は康太に掴み掛かった 「お前は……絶対にキズ一つ付けるなよ! 約束しろよ!」 「ならお前は聡一郎に押し切られて横浜に帰らねぇと約束しろ!」 「クソ!約束するよ! おめぇの傍にいられねぇ時に……血を流すんじゃねぇ!」 「約束する!ぜってぇに死なねぇ!」 「…………約束する……聡一郎を一人にしねぇ…」 「なら逝け一生!」 「………っ!……」 一生は涙を堪えて部屋を出て行った 康太はそれを見送って息を吐き出した 「取り敢えず、聡一郎は遠ざけた……」 弥勒が『司命の命が消えかかってるぞ…』…と今朝方姿を現した 「………弥勒……何故?」 『アイツ……犯人を探って歩いてるらしいな…… 核心部分に近づきつつあるからな……命を狙われたとしてもおかしくねぇだろ?』 「……やはり……大人しく引き下がらねぇか……」 『惚れた男なんだろ?』 「だな……アイツが本気で誓った相手だ」 『かなり強引に探りを入れてるみてぇだからな……外に出た瞬間……なんて事も視野に入れねぇと駄目かもな……』 「……聡一郎を飛鳥井から遠ざける…… そしてカタが着くまで近付けねぇ事にすんよ!」 『それが一番だな 閻魔が知らせに来た 司命はお主の僕だからな…… 何かあれば……お主は暴走するかも知れん 閻魔はそれを心配しておる』 「………弥勒……聡一郎に呪縛……掛けてくれよ 横浜に入れねぇ様に呪縛してくれ……」 『解った……だから炎帝……無理はするな……』 「解ってんよ!弥勒」 弥勒は気配を断った 榊原は康太を抱き寄せた 「康太…」 「あんだよ?」 「……僕から離れないで下さいね……」 「あたりめぇじゃねぇかよ! オレが伊織から離れる訳ねぇだろ? 伊織……」 「何ですか?」 「オレの前に絶対に出るなよ!」 「……え……それはどう言う意味ですか?」 「お前こそ……オレを庇って撃たれるなよ?」 「………君が……撃たれる位なら……僕が撃たれた方がマシです!」 「伊織……おめぇに何かあったらオレは生きてられねぇじゃねぇかよ!」 「なら無茶しないで下さい」 「…………伊織……総ては決められし理だ…… 未来は変えてはいけないんだ…」 「君をなくす未来なんてくそ食らえです!」 「奇遇だな……オレも伊織をなくす未来なんてくそ食らえだと想ってる」 康太は笑って榊原に抱き着いた 部屋のドアがノックされ慎一はドアを開けに行った ドアを開けると、そこには相賀和成が立っていた 慎一は相賀を部屋に招き入れた 「康太、私に用とは何ですか?」 相賀は飛鳥井の家でなくホテルに呼ばれた事を不思議に想っていた 「相賀、オレに力を貸して欲しい…」 「何時でも相賀和成、貴方に力を貸すと申し出てる筈!」 「………オレをテレビに出してくれ……」 「………テレビ……にですか?」 「そう。相賀は悠太のニュース……知ってるか?」 「はい!ニュースで拝見して飛鳥井の家に連絡を取りました ですが君は連絡を断ってて……連絡出来ませんでした」 「悠太はスケープゴートだ 本当の狙いは飛鳥井康太にある」 「…………え……学校間の抗争ではないのですか?」 「巧妙に張り巡らされた罠だ……」 「………心当たりは…あるのですか?」 「………多分間違ってなきゃ……発信源は大阪だろ? 飛鳥井をクビになって失業した半端者と……復讐に燃える京極瑠璃子の弟の仕業だ しかも京極瑠璃子の弟は……逃げるのが上手くてな前回は不起訴だ…… 尻尾を掴まねば……また逃げられ命を狙われる事となる……」 「……手を打たねばなりませんね」 「悠太の命を狙って殺しに来た者も逮捕された 悠太の事を殺人犯と言いネットで煽っていた輩も逮捕された そいつらは一様に金欲しさに求人に食い付いただけだと言った ネットでのやり取りで……尻尾さえ掴めなかった…… そうして狙撃されて犯人は殺された 捕まれば殺して黙らせる…… 京極の人間なら好きそうなやり方だ……」 「………打つ手は……ないのですか?」 「………オレが出ねぇと収まらねぇ… 誘き出すしかねぇんだよ…… しかもこれは‥‥ほんの序章にしか過ぎねぇ‥‥ だからどんな事も‥‥手を抜かずに遣るしかねぇんだよ」 相賀は腹を括り 「解りました! 君の想いのまま全面協力致します」と約束してくれた 「悪いな相賀…」 「気にしなくて良いのです 私は君の為に動ける事は誇りに想います 君があの日、私の鼻っ柱を折ってくれねば、今の自分はなかった…… 孤独に潰されそうになり……抗っていた 育てるという事をせず…… 人の人生を潰した…… 君はそんな私に……仲間や信頼を教えてくれた…… 私は須賀が可愛い 子供を授かり子育てしてる須賀は前よりも成長しました うかうかしてると追い抜かれてしまうので、私も子育てを手伝ってます」 「直人は良い親になる」 「君も良い親ですよ」 「………どうかな? オレはずっと傍にはいてやれねぇ…… 家族や仲間の手助けがなきゃ……育てられねぇよ……」 「傍にいられなくとも、君の子供は君や伊織の背中を見て育ってますよ 本当に良い子達です 逢いたいです……甘いじぃたんが沢山の玩具を持って遊びに行くのが楽しみなんです」 「カタが着いたら……オレの子供も家に還る そしたら遊びに来てやってくれ!」 「はい!楽しみです では動きます! 手筈が整いましたら連絡します」 相賀は立って部屋を出て行った 「伊織……会社に顔を出すか?」 「そうですね!では行きますか?」 「おう!行こうぜ!」 康太はソファーを立つと榊原と手を繋いだ 「慎一、行くぜ!」 「はい!何処までもお供致します 貴方に仕えるのは未来永劫、俺だけですから!」 慎一はそう言い笑った 「あたりめぇじゃねぇかよ! お前しかオレに仕えられねぇよ!」 康太はそう言い部屋を後にした 榊原はフロントに行き精算して駐車場へと向かった 「慎一、おめぇは何で来たんだよ」 「一生の車で来ました」 「なら後ろに乗れよ!行くぜ!」 康太は助手席に乗り込んだ 慎一は後部座席に乗り込むと榊原は運転席に乗り込み、飛鳥井建設へと向かった 飛鳥井建設の地下駐車場に車を停めると車を降りた 榊原は康太を胸に抱きしめ、慎一は辺りを警戒してエレベーターへと向かった 扉が開き乗り込むと役員の階を押した エレベーターが役員の階に止まると、ゲートをIDを通して抜けていく 康太は社長室をノックした ドアを開けたのは瑛太だった 「………康太……どうしました?」 飛鳥井の家から消えた康太が立っていて瑛太は驚いていた 「瑛兄、株価の動きはどうよ?」 「蓮が動いてますか? 今の所変動はありません」 「そうか……そろそろ仕掛けて来る頃だかんな……」 「………康太……何時……還りますか?」 「オレが還れば家族が巻き添えを食う…… それだけは避けてぇかんな……距離を置いた」 「………悠太の件……ただの他校との勢力争いなだけではないのですか?」 「あんでそう思う?」 「一時、会社の回線がパンクする位……人殺し……と言う電話攻撃がありました……」 「今は?」 「………今はありません…… 知っていましたか?君……」 「陣内にデータを総て取って警察に提供しろと指示は出しといた! 総て逮捕されてる筈だ」 「………犯人の目的……聞いても良いですか?」 「目的なんてねぇんだよ 日銭を稼ぐ奴等を釣って犯行を繰り返させた 逮捕された奴等は皆口を揃えて言った 誰からの指示か知らない お金さえくれれば……良かった……ってな」 「………弱者を金で釣って犯罪を指示した訳ですね……」 「そうだ!」 「………で、反撃に出られるのですか?」 「しかねぇだろ? 長引けば会社の志気にも関わる 子供達も不安になる…… 良い事なんて一つもねぇかんな……」 「ですね……流生達の顔が見たいです」 「あと少しだ……瑛兄……」 「はい。」 「で、瑛兄……もし聡一郎がオレの居場所を聞いて来たら家に還ったって言っといてくれ」 「………聡一郎……? さっき電話ありました」 「何って言ってた?」 「康太いるかって……」 「で、答えた?」 「私は今、外に出てるので解りかねます……と言っておきました」 「それは良い!慎一辺りに電話があるんじゃねぇか?」 言ってる矢先に慎一の携帯がプルプル震えた 慎一は携帯に出た 「聡一郎ですか?どうしました?」 『康太は何処ですか?』 「副社長室の内線に掛けてみたらどうですか?」 『………康太……会社にいるのですか?』 「確かめたらどうです ねぇ、瑛兄さん」 慎一は敢えて瑛太にふった 瑛太は「康太なら副社長室ですよ」と言った 電話はブツッと切れた 慎一は苦笑して胸ポケットに携帯をしまった 康太は「副社長室に行ってるわ」と言い社長室を出て行った 副社長室に入ると直ぐに電話が鳴り、榊原が電話を取った 「はい。副社長室」 榊原の声に聡一郎は『康太……いますか?』と問い掛けた 「待ってて下さい! 康太、聡一郎から電話です」 榊原は受話器を康太に渡した 「あんだよ?聡一郎?」 『………康太……何故……僕は横浜から出ねばならないのですか? 何故‥‥‥君の傍にいてはいけないのですか?』 「お前はかなり確信に迫って来ている だから、向こうは警戒をして来るだろう これからと謂う大一番にお前にウロチョロされるのは迷惑なんだよ! そんな目立つナリしてオレの回りを彷徨くなと謂っている!」 『………康太……』 「だから、お前は横浜には来るな!と謂った おめぇみてぇな金髪の目立つ奴連れて歩けねぇからな!」 康太はキツい言葉を投げかけた 『………僕は……邪魔ですか?』 「誰が邪魔だと言った? 仕上げの最中に目立ちたくねぇんだよ! それ位聡一郎だって解るな?」 『………解るけど……僕は……康太の傍にいたい』 「それは無理だ! オレが良いと言うまで横浜には来るな!」 『………康太……何で……』 「何でもだ!お前が来れば……未来は変わる オレは……犯人を逃がして……何時また襲撃されるか解らず……暮らさせるしかなくなるんだ!」 『……康太……解りました…… 横浜には行きません……』 「一生に変われ!」 『………康太……すまねぇ…… ぶちのめしたい程に頑固で……動かねぇんだ』 「一生……仕方ねぇ……飛鳥井に連れて還れ…」 『………お前はどうする?』 「聡一郎がいては仕掛けが出来ねぇ…… オレ達は聡一郎が追えない場所に行くしかねぇ! 命令を聞けねぇ奴はいらねぇ! 違うか?一生!」 『………違わない…… お前の命令は絶対だから……』 「なら答えは解るよな? 聡一郎が来たら……悪目立ちしてバレる事となるんだ 周到の罠を張っていても台無しになる それは出来ねぇ失敗だからな……」 『………聡一郎に警告しとく……』 『頼む…… 逃がせば……何時また仕掛けて来るか解らねぇ一発勝負だ!解るな一生」 『………解ってる……でも遠ざけるのはそれだけが理由か?』 「失敗出来ねぇと言わなかったか?」 『解った……殴って縛ってでも……動かさねぇ…』 「……頼むな」 一生は『了解!』と言い電話を切った 「………オレの周りは殴りてぇ程に頑固者ばっかかよ?」 康太はボヤいた 「君が頑固者ですからね似るのですよ」 榊原はそう言い康太を抱き寄せた 「…………自ら殺されに逝きたがりは止めとかねぇとな……」 「………ですね……悠太を想えばこそ…… じっとしてられないのでしょう」 「だろうけどな……でもアイツは無茶しやがるかんな…… 止めとかねぇと怖ぇんだよ」 「僕も君を止めておきたいです」 「閉じこめるか?」 「………君の歩みを止める事は出来ません… ですから一緒に逝くと決めてるのです」 康太は榊原に抱き着いた 康太の携帯がプルプル震えて仕方なく体躯を離した 康太は着信相手を見て電話に出た 「貴史、どうしたよ?」 『お前の読み通り北高の頭が金を貰って中村竜吾を煽てて主犯格に仕立てた 既に金は貰って自分は逃げる算段していた 警察署の中まで殺しにやってきた暗殺者がいてな…… そいつはペラペラと話しだした そいつの供述によると狙いは飛鳥井悠太の荷物だ 個人情報の解るモノをコインロッカーに入れて鍵を指定されたカフェの机の下に貼り付けたそうだ』 「……中村竜吾はどうなる?」 『余罪が腐る程あるけど、未成年だからな 主犯格ではないし、情状酌量の余地はあるだろ?』 「悪かったな貴史……ありがとう」 『お前、何処にいるよ?』 「飛鳥井建設の副社長室」 『なら今から逝くわ!』 「テレビに出る予定だけど…おめぇ来るか?」 『逝くに決まってるだろ! 直ぐに逝くから動くなよ!』 兵藤はそう言うと電話を切った 「慎一、貴史が来る」 「解りました では下で待って連れて来ます」 慎一はそう言い副社長室を後にした 慎一がいなくなると榊原は 「君は視たのですか?」と問い掛けた 「聡一郎?」 「ええ……彼の果てを視たのですか?」 「このまま嗅ぎ回っていれば聡一郎は消される 相手は狙撃手を何人か雇ってるみてぇだからな……… 狙われて息の根を止められてもおかしくねぇと…言う事だ それは避けてぇんだ…… 今動かねば……聡一郎は撃たれる事も視野にいれねぇとダメなんだよ……」 「……聡一郎が大人しくしてますかね?」 「………果ては……寸分違わずに来るかも知れねぇけどな…… 無駄な血は流させたくねぇと……想うんだ」 「解ってます…… 聡一郎は執念で割り出してしまったのですね」 「………閻魔が視て弥勒に伝えに来させた…… 滅多と動かぬ兄者が予言した訳だ……」 「………閻魔の見立てなれば……寸分違わずに来るかも知れませんね……」 「……それは……させたくねぇんだよ……」 暫くすると慎一が兵藤を引き連れてやって来た 部屋に入るなり「あれ?一生は?」と兵藤は問い掛けた 「一生は聡一郎に付けてある……」 「聡一郎?聡一郎……何かやらかすのか?」 「今朝方弥勒が姿を現した 兄者からの言伝を言いに来たのだ それによると……司命の命は風前の灯火……らしい……」 「………何故?何故……聡一郎はそんなに追い詰められてるんだ?」 「犯人を追って探りを入れてそうなんだ 核心部分まで……嗅ぎ付けたらしくてな…… 命を狙われてるんだ……」 「………悠太の仇を討つつもりか?」 「……許しておけなかったんだろ? 苦しむ恋人を目にして何もしてやれない無力さに……聡一郎は仇を考えたのかもな……」 「で、今何処よ?」 「一生に足止め食らわさせてる が、時間の問題だろうな……」 「何で時間の問題だって言うんだ?」 「………果ては狂ってない…… 寸分違わずに歯車は回ってる…… もう遅いんだ朱雀…… 何処へ逃がしても……もう歯車は回り始めているんだ……」 「………なら……俺が逝く! 聡一郎の所に俺が逝って止めて来るわ!」 「………朱雀……それはダメだ……」 「それしかねぇだろ? 閻魔は司命は死ぬと言って来たのか?」 「……いや……司命の命の風前の灯火だと……言って来た」 「風前の灯火なら消えちゃいねぇ! 火は煽ってやれば燃え上がるんだ! おめぇはそんな火を見て来たんじゃねぇのかよ?」 「………貴史……死ぬなよ……」 「康太、お前の目に俺は今も稀代の政治家として映っているかよ?」 康太は兵藤を視た 国会に立つ兵藤貴史がそこにいた 日本の国を背負って戦い抜く姿が……そこに在った 「……あぁ……お前は稀代の政治家として国会にいる……」 「なら俺は死なねぇな! だったら俺が司命を止めてやろう!」 康太は儚げに笑っていた ………掴んだら……今にも消えそうに…… 兵藤は康太を引き寄せた 「お前の果てを狂わすのは…… この俺が許しはしねぇ! だからお前は前を進め!」 「解ってる……聡一郎を頼むな……」 「お前に変わって護ってやる!」 兵藤は康太を離すと立ち上がった そして康太に背を向けて副社長室を後にした 相賀から電話が掛かって来たのは、その直後だった 『康太ですか? 明日の夜10時の報道クライシスの時間を30分押さえました 今晩、報道クライシスのメインキャスターの音喜多 誠が予告ゲストを発表します 明日は午前中から、かなりの番宣で飛鳥井康太がゲスト出演と宣伝される事となります』 「無理させたな…… 本当にありがとう」 『貴方の役に立てるなら相賀、どんな協力も惜しみません! 明日は私も付き添います!良いですね!』 「あぁ、頼む」 康太は電話を切ると、他の所へ電話をかけた 「オレだ!明日10時からの報道クライシスに出る事が決まった」 『解りました! 叔父貴に警備の要請をします!』 「頼むな、紛れ込むのが大好きな奴等だからな……」 『紛れ込もうが混ざろうがネズミ一匹逃す気はありません! 明日は私も付き添います!』 「………繁雄……相賀も付き添うつもりだぜ? お前も付き添ったら……」 『君が何と言おうと私は聞く耳ありません!』 康太の言葉を遮って言いたい事だけ言って三木は電話を切った 「………聞けよ……人の話しはよぉ……」 康太の呟きが虚しく響いた 榊原は笑っていた 康太は榊原の足を………蹴飛ばした 「痛いっ……康太……蹴らないで下さい…」 「お前の言いたい事は解るんだよ!」 「そうですか? なら言って下さい……」 「オレを抱き潰してベッドに縛り付けてぇ…… って想ってる……」 榊原は爆笑した 「降参です康太 で、抱き潰しても良いですか?」 「今夜はお預けだ…… 流石とテレビに出るのに……抱き潰された顔は見せられねぇかんな!」 「残念です……」 榊原は康太を膝の上に乗せて抱き締めた 「伊織、その変わりデートしても良い!」 「本当に?素敵です康太……」 榊原は蕩ける様な笑顔を見せた 榊原は基本ポーカーフェイスだが…… 康太と共にいる時は色んな表情を見せる 慎一は幸せそうな二人を見ていた 不意に胸ポケットの携帯が震え、慎一は電話に出た 「慎一です! ご用件はなんでしょうか?」 『康太、三木を動かして何をやるつもりですか?』 「正義さん、康太は横にいます 電話変わりますか?」 『あぁ……康太に変わってくれ……』 慎一は康太に携帯を差し出した 「正義さんです」 慎一は電話の相手を知らせて康太に携帯を渡した 康太は携帯を受け取ると 「正義?あんだよ?」と電話に出た 『三木繁雄を動かして何をするつもりだ?』 「明日、10時から報道クライシスに出演すんだよ! その時にオレ目掛けて狙撃でもされたら、被害に遭う奴とか出てきたりするかんな 警戒と警護を頼んだんだよ」 『………誘き出すおつもりか?』 「ちんたら向こうの遊びに付き合ってる時間はねぇんだよ 株価も操作しようって目論見の奴に寝首を掻かれる前に、掻いてやんだよ」 『坊主、明日、俺も付き添うとしよう!』 「……繁雄と相賀が付き添う……」 『一人や二人増えても構わねぇだろ?坊主』 「………正義……んとに危ねぇんだよ……」 『知ってる! 悠太が狙われて別荘で殺されそうになったのも 飛鳥井建設をネット攻撃してたのも 殺人依頼を受けて付け狙っていたのも 全部知ってる』 「………そいつら全員ネットで安請け合いした愚か者だってのもか?」 『知ってる そろそろお前が邀撃に出る頃かと張ってた お前が動く時、一人でも多い証人がいた方が有利だろ?』 「………全部知っててオレと逝くと言うのかよ?」 『そう!こんな所で飛鳥井康太はへたばらない! 俺はお前の明日を見続けると決めたんだよ そのために俺は国会に躍り出た お前の目指す日本を作ってやる気で日々闘ってるんだからな!』 「………オレは今夜からテレビ局の近くのホテルに泊まり込む……」 『なら慎一に俺の部屋も続きで取っておく様に言ってくれ! 三木も引き摺って逝ってやる だから部屋は全部で三部屋だな!』 「なら今夜……部屋で待ってんよ!」 『待っててくれ!』 堂嶋は電話を切った 慎一に携帯を返して 「………増えてくのは何故だ……」 と、康太は呟いた 「君の果てを見届けたい…… 君へと続く場所にいたいのですよ」 「オレは頑固者じゃねぇぜ?」 「僕の愛する奥さんです」 榊原はそう言い康太の頬にキスを落とした 「慎一、テレビ局の近くのホテル 三部屋続きで取ってくれ」 「解りました!」 慎一は真贋の部屋へと入って行った 「康太、この後どうしますか?」 「会社を見回りして帰るとするか、色んな情報が錯綜してるかんな」 「では慎一が部屋に戻りましたら社内を見て回って帰りますか」 「おう!そうしようぜ!」 イチャイチャしてると慎一が戻って来た 慎一は康太に「飛鳥井康太で部屋を取りました そして後の二つは水野と一色の名前を借りました」 「おっ!流石慎一! さてと、会社を見て回るとするか!」 康太は立ち上がった 榊原も立ち上がり康太の横に立った 慎一は少し後ろに控えて歩く 副社長室を出て、康太は会社の中を見て回った 陣内は不在みたいで綾小路に康太は声をかけた 「綾人、陣内は?」 「陣内さんは事故に遭い病院に運ばれました」 「………事故?」 「会社に来るまでに陣内さんと栗田さんが事故に遭いました」 「………二人して事故ったのか?」 「………詳しくは解りません 今、蒼太さんが病院に行ってます」 「………そう出たか……オレを誘き出すまで社員を一人一人傷付ける気か?」 「………偶然……なんてありませんよね?」 「……だな狙われたんだよ 飛鳥井康太の駒を!」 「……病院に見舞いに行きますか?」 「………逝かねぇ……逝けば……巻き添え食らう奴も出る……」 康太が言うと榊原も 「…そうですね…… 迷惑になるので病院には行かない方が良いでしょう」と賛同した 「綾人、少し待ってろ そしたら総てがカタが着く 璃央の件も総てカタを着けてやるから待ってろ!」 「解りました!」 康太は綾小路の肩を叩くと、会社を後にした

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