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第87話 君の傍へ①

久遠は康太や他の医者達と、テレビ局の控室に待機していた 堂嶋と三木と相賀はスタジオに榊原や一生、兵藤と共に入り、康太を見守るつもりだった 九頭竜遼一は、兄の海斗が探し出し助けた 全身ボキボキになる程の暴行を加えられ、嬲り殺しにされる前にGPSを追って助けられた 遼一は病院に運んだと九頭竜海斗から連絡が入り、康太は安堵の息を吐き出した 陣内と栗田は…… 意識不明の重体だった 青信号なのに栗田と陣内の車目掛けて突っ込んで来たと警察の実況見分で明らかになった 猛スピードの車が躊躇する事なく、回りの車を巻き込み‥‥大破させ……玉突き事故となった 運転手は即死だった 巻き込まれた車の中には試合に向かう野球選手や出産を控えて病室に向かう妊婦もいた 多くの人間を巻き込んで‥‥陣内と栗田は事故に巻き込まれた 榮倉は気丈に陣内の傍に着いていた 恵太はずっと泣いていた… 蒼太が恵太を慰めて抱き締めていた 康太への報告は蒼太がした 辛い現実だけど把握する為に駆け回った 康太は蒼太に警察が保護に逝くまで病院から動くなと指示した 飛鳥井康太が…… 最悪の事態なのは変わらぬ事実となった 康太は意識を飛ばした 陣内の傍に気丈に着いてる榮倉へと…… 飛んで行った フワッと包み込まれる暖かい感触に榮倉は顔を上げた 頬に……暖かい口吻けを感じた 『陣内は死なねぇ! まだ死んでいられねぇ! お前との子供をこの世に産み出しちゃいねぇ! なのに死ぬ訳がねぇ!』 優しい声が榮倉の耳元で囁かれた 榮倉はポロッと涙を零した 「………康太……」 『お前を幸せにしてくれと……東矢に頼まれてるんだ! 東矢は誰よりも愛した女を護りたがっていた 出来ないから……オレに頼んで逝った オレは東矢と約束したんだ だから、絶対に陣内は死なねぇ! 陣内は飛鳥井康太の駒に変わりはねぇ!』 「………不安でした……」 『もう大丈夫だ……』 ギュッと榮倉を抱き締めて…… 康太は気配を消した 康太は携帯を取り出すと 「頼みがある」と切り出した 『何でも言って下さい!』 「中村と愛染を連れて陣内と栗田の病室に逝ってくれ 誰か連れて逝ける奴は逝って手助けしてやってくれ!」 『解りました! 今すぐに向かいます!』 「城田……」 『はい!何ですか?』 「気を付けて逝け……」 『はい!では逝きます!』 城田はそう言い電話を切った 「……伊織……大丈夫だよな?」 「信じて…絶対に彼等は君の傍に来ます」 康太は頷いた 「飛鳥井康太さん!スタジオに入って下さい!」 スタッフが呼びに来て、康太は立ち上がった 榊原は康太を護るように歩いた その後ろを一生と慎一が並んだ 堂嶋、三木、相賀もその後に続き、久遠と医者7人も着いて行く 大移動をテレビ局の職員は…… 遠巻きに見ていた 久遠はスタジオに入ると康太に近付いた 「坊主!俺等は常にお前の傍にいる」 「……久遠……ありがとう……」 「お前に何かあったら……飛鳥井の病院を護る資格はねぇと想ってる! 俺は飛鳥井康太が主治医! 何がなんてもお前を生かす!」 康太は頷いてピンマイクを付けて貰っていた 総合司会の音喜多 誠が康太に近付いた 「飛鳥井康太さんですね 総合司会ややってます音喜多 誠です 今日は宜しくお願いします」 フリーになり今は報道クライシスのメイン司会をやっていた 主婦層に大変な人気を持つ人物だった 学校の教師をやっていた経歴を持ち、ニュースキャスターを経て現在はフリーで活躍していた 「飛鳥井康太です!宜しくお願いします」 「……もっと……怖いイメージがありました 本当に貴方は……出会った頃と変わりない……」 「やっぱし……音喜多先生……か…」 「今日は君を引き出せる様に頑張ります」 「………飛鳥井の事件は……何処まで知ってる?」 「最新のだと、社員の方が……事故と暴行で入院したと言う所まででしょうか?」 「流石、最新過ぎて驚いた」 「貴方が話しやすいようにフリます 貴方は好きに話せば良い! 私は飛鳥井康太の味方です 何処かのテレビ局が君のことを認めなくとも、私の番組だけは貴方の真実に近づき報道したいと想ってます」 「音喜多先生……貴方も変わってない 昔から……貴方はそう言ってくれていた 飛鳥井の話を聞け 何時もそう言ってくれましたね……」 「君の行動には何時も理由がある 理由なくやる奴ではない 今回も、私の番組を指名して出ると言ってくれたのなら…… 私は貴方の真実を導き出さねばならない」 康太は音喜多に深々と頭を下げた 「本番入ります!」 音喜多は何時も座るメインの席へと移った 榊原は康太に近寄った 「………お知り合い……なのですか?」 「担任だった…」 「桜林の?」 「そうだ!」 「………僕は……知りません…」 「短かったからな……」 「良い先生だったのですね……」 「彼はオレの味方だった…… 味方でいると……約束して去って行った」 榊原は何も言わず……康太の手を握り締めた 音喜多 誠が「今日のゲストは飛鳥井家真贋 飛鳥井康太さんです」と紹介した 康太はスタッフに案内されてカメラの前へと進んだ 「飛鳥井康太さんです」 音喜多は拍手して康太を迎え入れた 「お久しぶりです」 音喜多は敢えて「お久しぶりです」と出迎えの言葉を吐いた 隣に座っていたアナウンサーが 「音喜多さんと真贋はお知り合いなのですか?」と問い掛けた 音喜多は笑って康太を見た 康太は「恩師です」と答えた アナウンサーは「真贋はどのようなお子さんだったのですか?」と問い掛けた まさに音喜多の目論見通りの展開となった 「康太君は正義感が強い子で、愛されるべき存在でした 彼の逝く道は険しい それでも彼は逃げ道を用意せず…… 真っ直ぐに進む 私は……彼の生き様に感銘を受け、自分の道を考え直し、今の所まで来たのです 何時か……飛鳥井康太の役に立てる人間になろうと……想ってました」 音喜多は康太と出逢ったから総て捨てて、方向転換したのだと言ったも同然だと吐いた 「真贋……いいえ、飛鳥井康太さん 貴方が私の番組を選んで出演した本当の意味を此処で明かして下さい 貴方の好きな様に話して下さい この番組はそのためにあるのですから!」 番組を打ち切られようとも…… 飛鳥井康太の筋を通させる それだけを優先に考えていた 「既にご存知の事と想いますが、飛鳥井は今、標的にされ……その命すら…… 脅かされています…… 弟は保養先の別荘で殺され掛けました 傷を負った弟を…… 非常な暴漢が殺そうと押し入った…… 弟が何をしたのですか? 飛鳥井建設の社員が何をしたと言うのですか? 飛鳥井建設の社員であり、飛鳥井康太の駒である社員が二人、出勤途中に車に突っ込まれて瀕死の重体だ 出勤途中に拉致られて暴行を受けて瀕死の重傷だ…… 次は誰なんだ? オレを殺すまで……やるというのなら…… 今すぐにオレを殺せ……」 康太はカメラを見据えて…… そう言った 番組スタッフや……デレクターに至るまで…… 動きを止めた…… 言葉がないと言うのはまさに…… 圧巻的な言葉だった 音喜多は「何故……飛鳥井康太が狙われるのですか?」と問い掛けた 「何故か……それはオレが聞きたい あまにも多くの血が流れすぎた…… オレも……殺され掛けた 突然……暴漢が押し入り……オレと秘書が被害にあった…… オレも……秘書も……未だにその傷も癒えないのに…… オレに仕える者が殺され…… 祖父……源右衛門が殺された…… そんて今度は……飛鳥井康太の社員が…… 悪夢が醒めない……」 「飛鳥井の社員の方の容態は…」 「意識不明です…… オレは……この馬鹿げた一連の騒ぎに幕を下ろしたい… コソコソ人を使うしか能のない奴に言いたい オレを殺す気なら…… お前本人が出て来いよ!」 そう言い唇の端を吊り上げて皮肉に嗤った 音喜多は「貴方を殺させはしない!」と言い切った 「我等は真実を伝え報道する義務があると想います 我等が真実を曲げたら、誰が真実を知るのですか? ですから……貴方を追って報道します 今日はありがとうございました」 音喜多は立ち上がり康太に手を差し出した 康太も立ち上がり音喜多の手を取った 硬く手を握り返して、テレビ放映は終わった 康太はスタジオを出て……長い廊下に出た テレビ局は厳戒態勢を取っていた 議員が付き添って来る位なのだ…… 非常厳戒態勢を取るしかなかった 康太が控室まで行く廊下は人払いした ………なのに……廊下には凄い人がいた スタッフは「人払いしたんじゃないのかよ!」と叫んだ 康太は前を見据えて…… 榊原の鳩尾に拳を入れて……突き飛ばした 「康太!」 榊原は叫んだ! 康太は……榊原から離れて…人混みの中へ入っていった 榊原は康太を探した! 一生と慎一が康太の前に飛び出ようとした 康太は一生と慎一を突き飛ばした 彼らの頬を……銃弾が掠めて行った…… 掠めた銃弾が……傍にいた誰かに当たり…… 倒れた 「「康太!!」」 一生と慎一は叫んだ 康太は天を仰いだ 「逝くぜ!良いかよ?」 『解っておる……』 康太は一人……歩き出し人混みの中へ入っていった 堂嶋と三木が慌てて康太の方に向かった 銃口は堂嶋と三木を狙って撃ち込まれた その時……時空が歪み堂嶋と三木に直撃する銃弾がグニャッと歪み‥‥弾けた 銃弾は焦点を狂わせて堂嶋と三木を掠めて行った 堂嶋は肩を押さえて……蹲った 三木は足を押さえて倒れた 突然の銃声に……辺りは泣き叫び……逃げ惑った 叫び声と逃げ惑う人間が逃げ場所を探して……走り回る…… 三木と堂嶋は撃たれて血を流しても…… 康太の傍へ行こうと……康太を探した 相賀は動けなかった…… 目の前で……何が起こったのか……頭が理解出来ずに……動けずにいた 康太は人混みの中へ入って逝くと…… 「来いよ……オレを殺したいんだろ?」 と挑発した…… 辺りに一発の銃声が響き渡った…… 榊原は康太の傍に走った 康太…… 康太…… 君に何かあれば……僕は……生きていません…… お願いですから…… 僕から……康太を取り上げないで下さい…… 康太……君さえいてくれたら…… 僕は自分なんか要らない…… 榊原は必死に康太を探し…… 康太の姿を見付けると走った 康太を抱き締め…… その瞬間……放った銃弾が…… 康太と榊原を貫いた 康太は倒れる瞬間……… 呪文を唱えた 「「康太!!」」 一生と慎一が周りにいる人ごみを掻き分けて……康太の傍に近寄った 康太と榊原は倒れていた ニック.マクガイヤーは走って犯人を取り押さえた その時、揉み合ってニックも撃たれた 撃たれてもニックは犯人を離さなかった 通報され警察がやってきた そこにいた全員を取り押さえ…… 負傷者を確認すると救急車を呼んだ 康太が外に出て行く様を総て報道クライシスのスタッフは撮影していた 康太の指示だった 何が起こったのか……解らなかったが… ひたすら撮影した 久遠が康太へと駆け寄った 「康太!てめぇ……」 自ら撃たれに行きやがって……と久遠は怒っていた テレビ局の近くの病院に連絡を取ると…… 救急車を呼び寄せて運び込んだ 隣にいた榊原の処置もして……二人一緒に運び込むことにした 他の医者が堂嶋と三木とニックの手当てに当たっていた その場所は……地獄と化していた 泣き叫ぶ声と……逃げ惑う人間…… 救急車が到着すると康太と榊原はまず運び込ませた その次に堂嶋と三木、そして頬を銃弾が掠めた慎一と一生を乗せた 負傷者した者の手当てをして、救急車の要請をする 巻き添えを食らった人間は……かなりいた それら全員を久遠に連れてこられた医者は動き回り手当てをした そして救急車に乗って病院へと向かった テレビを見ていた瑛太は……撃たれ運び込まれる康太と榊原を見て…… 慌てて会社を飛び出した 同じ映像を見ていた清四郎は真矢と共に……病院へと走った 戸浪も蔵持も……安曇も……運び込まれた病院を調べて駆け付けて行った 一生と慎一の服は…… 血で真っ赤だった 銃弾が掠めて行っただけあって…… かなり深く……縫ったという 病院に駆け付けて来た瑛太は…… 血だらけの慎一と一生を目にして…… 二人を抱き締めた 一生は…… 「康太……わざと撃たれに行きやがった……」 と悔しそうに呟いた 慎一も 「伊織の鳩尾に拳を入れて突き飛ばした辺りから……警戒はしてたのですが…… 人が多すぎて……」と悔しそうに呟いた 瑛太は「その頬……深いんですか?」と尋ねた 一生は「………こんな傷……康太が突き飛ばさなければ……標的にされ撃たれて死んでいた……」と瑛太に訴えた 慎一も「冷静に……康太は銃弾の先を判断してました…… 堂嶋と三木も撃たれました…… 相手は狙って撃てるだけの腕を持ってます…… 康太が突き飛ばさねば……心臓を貫いていました……」と久遠に言われた台詞を瑛太に言った 「……康太は?」 「………解りません…… 人が凄くて……康太に近寄れなかった…… 気付いたら康太は撃たれてた…… 伊織が康太に抱き着いて……重なって倒れた…」 慎一は……倒れた康太に重なっていた榊原を思い出した スーツが……血に染まっていた…… 「伊織は……自分が撃たれても……康太を離しませんでした……」 慎一は顔を覆って泣いた 瑛太は「……康太は撃たれに行ったの?……何故……」…と呟いた 何故…… 撃たれに行った? 総てを終わらせる為? 「………解らない事ばかりだ……」 一生は悔しそうに吐き捨てた 病院に玲香と清隆も来た 清四郎と真矢と駆け付けて来た 戸浪と蔵持善之介、安曇勝也も駆け付けて来た 皆……オペ室の前に……呆然と立ち尽くしていた 病院に須賀直人が顔を出すと一生に 「相賀は何処ですか?」と尋ねた 一生は「……相賀?」と辺りを見渡した 須賀は「………康太が意識を飛ばして来たのです……『直人……相賀を頼む』…って…… なので私は相賀を探しに来ました」と康太からの依頼で来たと告げた 「相賀……テレビ局にいたよな?」 一生は慎一に問い掛けた 慎一は須賀に「報道クライシスのスタッフに相賀を探して戴きます」とそう言い連絡を入れた 報道クライシスのスタッフは相賀を探し回った 暫くして、茫然自失で立っている相賀を保護したと連絡が入った 須賀は「迎えに逝って来ます……後で二人で来ます……」と言い引き摺る足で歩いて行った 慎一は須賀に駆け寄った 「直人さん!俺も同行します!」 「………慎一……大丈夫なの?」 「傷は手当てを受けました 貴方に意識を飛ばしたのなら……相賀は自分を責めてるでしょうね…… 俺も行かねば……相賀は止められません」 慎一は須賀と共に病院を後にした 一生は…… 廊下の隅に置いてある椅子に座った…… 「………兄貴は何か……知ってるのか?」 一生はふと……黒龍を思い出した すると一生の目の前に黒龍が立っていた 「俺は何も知らない…… 知ってるとしたら……転輪聖王位だろ?」 「………弥勒なら……知ってるのか?」 「で、なくば……こんな事は……しでかさぬだろ?」 「……旦那は……青龍は……知っていた?」 「知らぬと想う…… 今回は本当に炎帝の独断だろ? 転輪聖王と二人で……策を弄したのであろう……」 「………そこまで……追い詰められてたのか…… 自らの命を擲って……何やら唱えたと言うのか?」 「………命と引き返す……にな……」 黒龍は最悪の想像を口にした…… 「………なら………康太は死ぬしかねぇのか……」 黒龍は黙った…… 「……兄貴……康太を助けられねぇのか?」 「赤龍……声を落とせ…… こんな会話を聞いたら……動揺するだろ!」 黒龍は怒った 一生は泣いた…… 「………こんなに無茶する奴が…… 魔界に帰ったって無茶するに決まってる…… そうして何時もアイツは……俺達を置いて逝くんだ……」 「泣くな……赤龍……俺は閻魔に逢ってくる……」 黒龍はそう言うと一生の前から消えた…… 暫くして、慎一が相賀を連れて病院に帰って来た 相賀は……俯いて……泣いていた…… 「………怪我はねぇのかよ?」 一生は慎一に問い掛けた 「ええ……怪我はありません…… でも……自分を責めて……」 慎一は痛々しいまで自分を責めてる相賀に何も言えなかった 一生は相賀の前に行くと 「相賀、康太は死なねぇ! だから悔やんだりするなよ!」 「………一生……」 「康太は死なねぇ! ぜってぇにな! だから相賀はぜってぇに悔やむな! それが康太に報いる事となる!」 「………一生……私は動けなかった……」 「それは俺も同じだ! 慎一も……三木や正義だって…… 間に合わなかったんだ! 悔やむ気持ちは皆一緒だ! でも悔やんでても康太は帰ってこねぇよ! ぜってぇに還ると信じねぇとな!」 「………一生……」 「康太のオペが終わったら飛鳥井の病院に還るのか……此処で入院するのか解る…… そしたら動かねぇとならねぇ!」 「……解ってます一生……」 「なら……まずは腹拵えだな その前に……俺と慎一の服……何でもいいから用意して欲しい…… でねぇと……こんな血だらけのまま動けねぇだろ?」 「解りました 事務所の人間に買ってこさせましょう」 そう言い相賀は事務所に電話を入れた 事務所の人間に服を買って来てくれと頼むと、慎一に電話を変わった 「慎一、サイズとか好みを言って下さい」 相賀に言われて慎一は電話を変わった 一生と自分の服のサイズを告げると!服はどんなモノでも良いとお願いした そして電話を切ると 「俺、家に帰り康太と伊織の入院の準備をして来ます!」 と告げた 瑛太は慎一に「車で来たのですか?」と尋ねた 「一生が車で来てます その車を借ります」 慎一が言うと一生はポケットからキーを取り出し慎一に渡した 「気を付けて行って来てくれ……」 一生が言うと慎一は頷いた 「慎一、俺と繁雄の服も頼む」 振り向くと堂嶋が立っていた 腕を吊った状態で……慎一は逆に不安になった 「………正義さん……どっちの肩を……撃たれました?」 「俺か?右肩だ 秘書を呼んだら大事になるからな……」 「解りました 幸哉さんに言って着替えを出して貰います 三木の所は奥さんに告げて貰って来ます」 そう言い慎一は走り出した 堂嶋は「幸哉に来るなと伝えといてくれ……」と伝言を頼んだ 一生は「…泣かれたら……断り切れません」と慎一は困った顔をした 「心配……させたくないんだがな……」 「言われない方が心配が募りますよ! 所で三木は一緒ではないのですか?」 「………繁雄はまだオペ室だ……」 「………三木……酷いのかな?」 「繁雄は康太の所へ還ってくる」 堂嶋は言い切った 慎一は病院を後にした 瑛太は久遠が来るまで……ひたすら待った 頼むから…… 康太を奪わないで下さい…… と、祈った 手が白くなる程握り締め……祈った 康太…… お前のいない世界に…… 生きてはいたくないのです…… 後を追うとお前は怒るでしょうね…… でも……兄は…… お前のいない世界に生きていたくないのです だから…… 頼むから……生きて…… 兄の所へ戻って来て…… 康太…… 康太…… 瑛太は涙が零れるのを拭う事なく…… 祈り続けた オペ室の前にいると病院の関係者が 「入院患者さんのご家族が利用する待合室の方にお移り戴けますか?」 と移動する様に説得した 梃子でも動きそうにない瑛太の手を引き一生は待合室へと移る事にした 気の遠くなる程の時間を待ってた 慎一が康太と榊原の入院の準備をして、堂嶋と三木の着替えを手にして病院にやって来ても…… まだオペは終わらなかった 堂嶋は個室に連れて行かれベッドの上に寝かしたと聞いた 三木もオペ後眠っていると言う 慎一も椅子に腰掛けて…… オペが終わるのを待ってていた 慎一は「……貴史は……何処ですか?」と一生に尋ねた そう言えば兵藤はいた…… 「………何時からいねぇんだ?」 一生は呟いた 「……病院に来た時には見ませんでしたよね?」 「………解らねぇ……気が動転したからな……」 何時消えていなくなったか……解らなかった 「……朱雀……知ってたのか?」 一生は独り言ちた 「……考えても解りません…… 今は康太と伊織が無事……目を醒ます事を祈りましょう……」 「………そうだな……」 康太は撃たれた時……嗤っていた 呪文を唱え……果てを視ていた…… 康太は命を懸けて……最期の賭けに出たのだ…… 自分の命と引き替えに…… 100年安泰な飛鳥井を築く為に…… 自分の命を擲ったと言うのか……… 康太の総ては飛鳥井の為……家の為…… 総てが……… 飛鳥井の為だけに生きているのだ でも康太…… お前の継ぎの真贋は…… まだ………お前が護ってやられねばならねぇ程に……ちぃせぇぞ… 翔はまだお前の…… 手がいる…… 流生だって… 音弥だって…… 太陽や大空だって…… 烈だって…… おめぇの子供はみな… おめぇの手を必要としてるんだ 還って来いよ!康太…… アイツ等から…母親や父親を取り上げないでくれ… 誰もお前達の変わりなんて…… 出来ねぇんだぞ! 一生は悔しそうに……拳を握り締めた 「………慎一……俺……康太を撃った奴を許せねぇ… 康太が何やったって言うんだよ! ………目の前に出て来たら……ぶっ殺してやる!」 「………一生……康太はそんな事望んでませんよ?」 「解ってる! ………解ってるけど……許せねぇんだよ……」 「飛鳥井の家族は……真贋を失うかも知れない…… 翔はまだ3歳で……源右衛門はもういない…… こんな現状を考えた事がありますか? 憎いのも辛いのも……飛鳥井の家族の方です! 榊原の家族も……伊織を失うかも知れないんですよ? そんな家族の想いを考えて言ってますか?」 「………すまねぇ慎一……」 「我が主は未来永劫……康太です 誰にも仕える気はありません! 康太が逝くなら俺も逝きます…… こんな……台詞……聞きたいですか?」 「………聞きたくねぇ…… ごめん慎一……言わせた……」 「一生……信じて待ちましよう……」 「………あぁ……」 一生は自分の手を握り締め……目を瞑った…… 康太…… お前のいない世界に…… 生きる気はない…… 共に……それしか考えてねぇのに…… お前は俺達を置いて逝こうとするんだな…… 還って来いよ……康太 まだ還るな………炎帝…… 一生は溢れる涙を拭う事もせず…… 目を閉じていた もう何も見たくないかの様に…… 一生は目を閉じていた 慎一はそんな一生を見てられなかった…… 慎一にとっても……康太は絶対だった…… 家族や仲間はオペが終わるのを固唾を飲み込んで見守っていた 待合室に久遠が顔を出したのは…… 夜も白み始めて来た頃だったら 一生や家族は久遠の姿を見て飛び起きた 「康太は!伊織は!」 久遠に掴み掛かり……一生は問い掛けた 瑛太も清隆も……久遠の側へと近寄った 清隆は「先生……康太と伊織の状態は……」震える声で……問い掛けた 「康太は後数センチズレていれば……心臓を貫通していた 伴侶殿が康太を抱き締めた反動で数センチズレた だが……予断は許さない状態なのは確かだ 伴侶殿は右肩を貫通していた 伴侶殿は命に別状はないが……目が醒めれば康太の傍に行きかねないので眠らせてある 肩の貫通だが鎖骨までボキボキに折れた程の負傷だ……気は抜けない状態だと言おう 康太は意識が戻らねばICUからは出られない 転院させるのは無理だ…… 俺は転院させられるまで、傍で様子を見る 病院の方は親父と他の医者で回して貰うつもりだ」 「………ありがとうございました……」 清隆は深々と頭を下げた 「康太と伴侶殿は一緒の部屋に入れてある 意識が戻って康太の気配がなくば…… 起き上がって康太を探すから…… 病院側に無理を言って入れて貰った 面会は無理だ……」 「………病院にいては迷惑ですか?」 「此処は飛鳥井の病院じゃねぇからな…… 飛鳥井の病院なら多少の無理も利くが……この病院では無理だ……」 「では……個室を取って待ちます……」 「一度家に帰られよ! 病院の事務方もいねぇからな 俺の判断で何とも言えない」 久遠はそう言い術着を脱ぎ始めた 清隆は「………ホテルを取りましょう……」と声をかけた 家に帰っても何も手には着かない 離れたくないのだ…… 飛鳥井の家族や榊原の家族、一生達は…… 慎一が取ったホテルの部屋へと移った 慎一は堂嶋と三木に着いています…… と病院に残った それぞれの車に乗りホテルへ行く道すがら…… 涙が止まらなくなっていた 康太の事を想えば…… 涙が止まらなくなる…… また……あのニカッと言う顔を…… 見せてくれ…… 今度は意地悪言わねぇから…… 康太…… 康太…… 還ると約束してくれ…… 翌朝 早く一生は瑛太に起こされた 一生は瑛太と清隆と清四郎と共に部屋を借りて寝泊まりしていた 玲香と真矢はツインの部屋を借りて寝ていた 「一生、疲れてますか?」 瑛太は魘されている一生を気にして声をかけた 「………悪い……何時もの事だから……」 「………何時も? 何時も君はそんなに苦しそうに魘されて寝ているというのですか?」 瑛太は一生の頬を優しく触れた 「………瑛兄さん……気にしなくて良いです……」 「………一生……」 瑛太は優しく一生を抱き締めた 清隆は「レストランへ朝を食べに行きますか?」と問い掛けた 瑛太は「なら母さんに電話をします」と言い電話をかけた 電話に出た玲香は支度をしてロビーに待ってると告げて電話を切った 一生は清四郎に「支度しますか?」と声をかけた 清四郎は「ですね」と言い起きた 相賀のスタッフに着替えを用意して貰った一生はシャワーを浴びて血糊を綺麗に落として、服を着替えた 瑛太や清隆や清四郎も歯を磨いて顔を洗って支度をした 準備が整うと部屋を出てロビーへと向かった ロビーには綺麗に化粧を施した玲香と真矢が立っていた 清隆と玲香は瑛太の車に乗り 清四郎と真矢は一生の車に乗り、病院へと向かった 病院へ到着すると、康太と榊原が入ってるICUへと向かった 外からだったら見れると聞き、家族はICUへと向かった ICUには……… 傷だらけで松葉杖でやっとこさ歩ける悠太が立っていた 「悠太!」 一生は怒って悠太へと近付いた 「あんで、此処にいるんだよ!」 一生は悠太を掴んで叫んだ 「………昨日……ニュースを見てたら康兄が撃たれて倒れる所がやっていた……」 清隆は悠太へと近付いた 「………康太の救った命を……粗末にしてはいけません……」 そう言い清隆は……初めて息子を抱き締めた 飛鳥井家 真贋に渡した子…… 親でも口は出せぬ存在だった 康太が総てをやる 入学式も卒業式も……出る事はなかった 総て康太がやるから……と、見てきただけと子だった 「………父さん……俺は康兄が生かしてくれてる存在だから…… 康兄を失ったら……生きるのを辞めようと想う……」 「………悠太……」 「今回も俺を生かしたのは康兄だ……… 俺は康兄がいない世界に生きる気はないんだ 康兄と共に…… それしか願っちゃいない……」 玲香は涙が溢れて来るのを止められなかった 康太…… お前が死ねば… お前と共に逝く者ばかりじゃ…… 悠太ばかりじゃない…… 瑛太だって……生きてはいまい 一生や慎一………お前と共に生きてる者は…… お前と共に逝く事しか…… 考えてはおらぬ…… 伊織だって………生きてはいまい 康太……死ぬな お主が死ねば…… 沢山の命が死を選ぶ事となる…… 「………悠太は莫迦じゃ……」 玲香は泣きながらそう言った 「………母さん……親不孝ですみません…… でも俺の親は飛鳥井康太……… 俺はあの人に育てられ生きて来た……」 「………康太は……そんな事は望んではおらぬ お主の引いたビルを建てる…… その為に……お主を自由に育てのじゃ…… そんな康太の想いが解らぬと言うのか?」 「………母さん……」 悠太が呟くと……… 「このぉ!命知らずが!」 と言う罵声が飛んできた 振り返ると久遠が仁王の様な顔をして立っていた 久遠は悠太の首根っこ掴むと 「おい!てめぇ!入院してたんじゃねぇのかよ!」 と物凄い形相で睨まれた 「…………康兄が気になって……」 「てめぇを生かす為に康太は銃弾の前に飛び出たんだろうが! てめぇが命を捨てる様な事をしても! 康太は喜ばねぇぞ!」 「……久遠先生……御免なさい……」 「今無理して歩いたら、永遠に歩けなくなるかも知れねぇんだぞ! 怪我してなくば…ぶん殴ってやるんだがな!」 「…………許して……下さい…」 「今病院のスタッフに呼びに来させる! 待ってやがれ!」 久遠はそう言い事務所へと電話をかけに向かった 真矢はそっと悠太に触れた 「……悠太……康太に逢いたくば早く治しなさい」 「………真矢さん……」 「自分が如何に無茶したか、解りますね?」 悠太は頷いた 一生も「そんなんだと……復讐しようとして康太に殴られた聡一郎が可哀想すぎるじゃねぇかよ!」と怒った 「………一生君……聡一郎は何処ですか?」 「………聡一郎は復讐する事しか考えちゃいなかった…… 康太は聡一郎を死なしたくはなかった…… だから康太は遠くに聡一郎を連れて行かせた…」 「………聡一郎……」 悠太は聡一郎の名を呼び……涙が流した…… 「悠太、病院に帰れ…… 康太は大丈夫だ…… 康太と旦那には子供がいる 子供はまだ手が掛かる…… 翔が真贋になるには……早過ぎる…… 康太が育ててこその真贋だ…… その康太が簡単に逝く分けねぇだろ!」 そうだった…… 康太には五人の子供がいるのだ…… 我が子を誰よりも愛して育てている 翔はまだ3歳…… 翔に飛鳥井家真贋を継がせるには早過ぎる…… 「………俺が軽率でした……」 悠太は謝った 久遠が飛鳥井の病院へ連絡をつけて迎えに来させる手筈は整えた 「来い、無茶しやがって……迎えが来るまで容態を見てやる」 久遠はそう言い悠太を連れて行った 一生はそれを見送り…… 「……まさか……悠太が病院を抜け出すとは想わなかった……」と呟いた 清隆は「………あの子は……康太を親として生きて来ましたからね…… 康太の役に立たずに死ぬのは不本意だと……泣くのですよ…… そんな子ですからね……康太のいない世界では生きられないのです…… 幼稚舎も初等科も中等部と……総て康太が出席しました 悠太は……かなり揶揄されたと想います ですが……俺は康兄の子供だと…負ける事なく生きて来たのです…… ですから……仕方がないのです…… 私と玲香は……悠太を真贋に渡した日から…… あの子には……距離を取るしか出来ませんでした……」 と悔しそうに言った 飛鳥井家真贋の言葉は絶対だった 我が子を手放した日から…… 清隆と玲香は……我が子を見守り続けようと……距離を取り……見守って来た 「悠太は……んとに甘えん坊だ……」 一生は…… 涙を拭いて……ICUの中を見た ICUの中では……榊原が目を醒まし辺りを見渡していた そして康太を確認すると…… ベッドから下りた 「………あ!……旦那……無理しやがる……」 一生が呟くと家族はICUを覗き込んだ 榊原が点滴や機械の配線を付けたままベッドから起き上がっていた 慎一はナースステーションへと走って久遠を呼んでくれと頼んだ 暫くして久遠がICUにやって来た 「伴侶殿が気が付いたのか?」 「……はい……すみません……伊織は康太が総てですから……」 一生は久遠に謝った 久遠はICUの中に入って行った 「伴侶殿、無理をすれば治りはせぬぞ!」 「久遠先生…康太は? 康太は……どんな状態ですか?」 「ベッドに上がれ…」 久遠は榊原をベッドに寝かし付けた 「康太は 伴侶殿が抱き着かねば心臓を貫かれて即死だった 伴侶殿に抱き着かれた事により、一命は取り留めた」 「………まだ………眠ったままなのですか?」 「意識は混濁しておるが、バイタルは落ち着いている…… まだ様子を見ねば解らぬが……絶対に死なせはしない!」 その言葉を聞き……榊原は少し安心した 久遠は出来ない約束はしない…… 絶対に死なせはしない…… その言葉は有言実行なのだから…… 「一生や慎一はどうしてます?」 「二人は軽傷だ 康太が突き飛ばさねば、心臓を貫かれて即死だった 突き飛ばされて頬を何針か縫う怪我ですんだ」 「………後の人は……」 「堂嶋正義は肩を撃ち抜かれ…… 三木繁雄は股付近を撃ち抜かれた ニック,マクガイヤーは揉み合っているうちに……腹を撃たれた だが、どいつも命に関わる怪我じゃねぇ…… ただ……流れ玉に当たって……息を引き取った者や重傷を負った者がいる…」 「………可哀想な事をしました……」 「お前が悪い訳じゃねぇ! 飛鳥井に非はない! 総ては主犯格の奴が金と人を使って仕向けた事だ! そして飛鳥井に解雇された者が手を組み、ろくでもねぇ計画を立てやがった……」 「………それ……立証……されたのですか?」 「主犯格の奴は……… 警察が踏み込んだ時には……脳と心臓を食い尽くされて……死んでいた 飛鳥井を解雇された奴らは 、今回の事件総てを死人に被せて被害者面してやがる…… 全容解明は時間の問題だ……… 表向きはな、解決だ だが……真実はもっと複雑なんだろうな…… それを知るのは康太と弥勒しかいねぇだろ?」 「………的確な推理でビックリしました……」 「俺は医者で探偵じゃねぇ! 康太が意識を戻したら飛鳥井の病院に転院する……そのおつもりで、一日も早く回復なさって下さい!」 「………康太の傍にいさせてくれて…… 本当にありがとうございました」 「一緒でなくは無茶をするであろうて! 伴侶殿は結構見境ない奴だと主治医に収まった日から心しております」 久遠はそう言い笑った 榊原は情けない顔して…… 「………いじめないで下さい……」と弱音を吐いた 久遠は笑った 「伴侶殿、お主も肩を撃たれて鎖骨を粉砕しておる 堂嶋正義同様、無理だけはすんじゃねぇぞ! でねぇと、くっつく骨も離れてくぜ!」 「心しておきます」 榊原が言うと久遠は榊原の消毒をして、康太のバイタルをチェックしてICUを出て行った 久遠は榊原の意識が戻ったからと、家族や一生達の面会を許可した 但し、騒がない、無理させない、一時間以内と条件は付けた 清隆は恐る恐る康太の指を触れた すると……康太のぬくもりが伝わって来て泣いた 「………生きてます…… 康太のぬくもりが……伝わって来ます…」 清隆が言うと瑛太も康太に触れた 「………本当に……生きてます……」 瑛太は良かった……と呟いて泣いた 真矢も玲香も清四郎もそっと康太に触れた 康太のぬくもりが伝わって来て…… 清四郎は真矢を抱き締めて泣いた 「………本当に良かった…… 康太が死ねば……飛鳥井は葬式を幾つ出さねばならぬのか……」 清四郎は康太と共に在る命を思った 康太が死ねば…… 後を追う命を想い…… 心底良かったと呟いた 一時間はあっという間過ぎて…… 飛鳥井の家族や榊原の家族、一生達はホテルへと引き上げた ホテルに戻り瑛太と清隆は……一生と慎一に 「別の部屋を取るので、そこで康太と伊織を……頼めますか?」と決意を秘めた瞳でそう言った 「瑛兄さん達は……どうする気ですか?」 「私も父も会社に逝きます 康太が命を懸けて護った会社を護らねばなりません! 明日の飛鳥井を繋げねばなりません 翔達に譲る日まで…… 私達は命を懸けて会社護るつもりです ですので、一生、慎一、康太と伊織を頼みます」 「解りました! 目を離すと旦那も無理する…… なので……旦那のサポートをしながら康太を守ります! ですから瑛兄さんや義父さん達は会社を護って下さい」 瑛太は頷き……ホテルを後にした 玲香も……護るべき会社へと向かった 清四郎と真矢も 「私達しか出来ない事をします 傍にいても仕方ないなら……私達は役者です 何時か伊織が脚本を書く映画の主演を張る為に日々鍛錬して来ます!」 と言いホテルを後にした 瑛太達のホテルは引き払われて、長期滞在用の部屋へと移った その日から…… 一生と慎一はホテルに滞在して、病院へと出向いた 康太の意識は中々戻らなかった 榊原は必死に康太に付き添っていたが…… 康太が目を醒ます事はなかった

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