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第89話 君の傍へ③

康太は笑って 「それ散々言われた…」とボヤいた 「だろうな……弥勒が戻ってきたら……始める 多分弥勒は……古来の神の力を寄せ集めてる お前を蘇えらせる為に…… 呼んだ時と同じ力を持ち寄り呪文を唱えると言った……」 「………古来の神……炎帝の為に力を分ける訳ねぇじゃんか…… 弥勒も苦戦する筈だな………」 「そうでもねぇぞ? お前が今も伴侶を得てなかったら…… 怖がって断ったろうが、天界の掃除も魔界の奴等はどう言う訳か知ってやがった お前は……今や魔界の絶対神となりつつある 人の世のバランス 天界のバランス 魔界のバランスを考えて動いてるのは炎帝だと言わしめたも同然なんだろうな……」 「オレは、んな安全なモノじゃねぇよ! 安全だと感じたなら青龍の愛だろうな」 康太はそう言い笑った 「………惚気やがって……」 一生は病室に戻っても…… 声すらかけられずにいた 兵藤と康太の会話があまりにも…… かけ離れすぎてて……… 何を言ってるのか理解するのに……思考が拒否していた 突っ立ってる一生に気付いた兵藤は 「よぉ!一生!」と声をかけた 「貴史……何処へ逝ってたんだよ?」 「俺か?俺は綺麗の所に逝って、流生達に逢って来たんだよ」 「………流生達、元気だったか?」 「泣いてばかりだな…… 流生は特に母さんっ子だからな…… 恋しがって泣いてた…… すると音弥が泣いて、太陽と大空も泣き出して…… それを翔が慰めてたな…… 翔は……見てて可哀想な位に兄さんやってて……我慢してばかりいる…… それが見てて辛かったな……」 「………早く……逢わせてやりてぇな……」 「あぁ……ぜってぇに逢わせてやるって約束したからな!」 兵藤はそう言い笑った 「……康太を………目醒めさせる為にいるのか?」 一生は問い掛けた 「それが俺の使命だからな!」 兵藤は人差し指で康太の頭を撫でた そして榊原へと返した 「あ、そうだ! 毘沙門天が後で来るって言ってた」 兵藤は伝言を康太へ告げた 「………毘沙門天? あんだろ?飯を食わせろって事かな?」 康太は思案して……そう呟いた 毘沙門天……お前どんだけ腹減りなんだよ…… と兵藤は思った 「オレの心臓は毘沙門天が与えしモノだからな…… オレが弱れば……毘沙門天には解るんだろな?」 「………毘沙門天の心臓?」 兵藤は理解不能な言葉におうむ返し的に問い掛けた 「炎帝の体躯は神の寄せ集めで出来てるんだよ…… オレに体躯を提供した半分の神は寿命を終えて冥府に渡った……けどな そこが皇帝炎帝とは違う所だな」 「俺はお前がブリキで出来て様が構わねぇよ! お前はお前にしかなれねぇからな! お前の魂さえあれば、器は関係ねぇだろ?」 兵藤はそう言い笑った 康太も笑って榊原に擦り寄った 静まり返った病室のドアの鍵が勝手にガチャッと掛かった 一生は何が起こったのか…… 解らなかった…… ゴクッと息を飲む音さえ響きそうに静まり返った病室が割れる様な音が響き渡った 時空を裂いて登場したのは…… 皇帝閻魔…… 一生は何が起こったのか解らなかった 漆黒の髪を足首まで伸ばし、赤い瞳は逃げ出したい位に冷酷に見えた 漆黒の髪に、漆黒の服で身を包み…… 闇と同化した様な姿に…… 見た者は畏敬の念を抱かずにはいられなかった 畏れと言う言葉を体現した容姿に一生は瞳をそらした…… 「我が息子……皇帝炎帝よ……」 皇帝閻魔はそう言い小さな康太を手にした 康太は皇帝閻魔の掌に乗った 「親父殿……あんで此処に来たんだよ?」 「…………消滅覚悟の息子を助ける為…… それしかなかろう……違うか?炎帝」 「………親父殿……何をなくそうとも逝かねばならぬ時がある…… 例え……我が身が消滅しようとも……… 逝かねばならぬ時があるんだ……」 「そんな我が子なれば……… 護りたいと想うのが親の想いであろうて! お主は本当にどの子よりも…… 世話が焼ける……」 皇帝閻魔はそう言い優しく頬笑んだ 「………崑崙山と繋いだのか?」 「………冥府には逝けぬであろう…… 赤龍は冥府に入れば……消滅するであろうて……それはしてはならぬからな」 「………親父殿……すまなかった……」 「謝らぬとも良い 青龍殿を悲しませてはならぬ…… 解るな……それは?」 康太は頷いた 「青龍殿は魔界の秩序であり法律だ 魔界で初めて法王、法皇、皇帝まで上り詰める存在 魔界にはなくてはならぬ存在だ 解っておるであろう? ………なれば……お主の命は青龍殿の命でもあると自覚せねばならぬぞ?」 「……………それでも……オレは逝くしかねぇなら逝く! それがオレの使命だかんな!」 皇帝閻魔はため息をついた 「………青龍殿……お転婆ですまぬ……」 「いいえ……皇帝閻魔…… 僕は炎帝と共に…しか考えておりません…」 「息子に青龍殿がいてくれて良かった……」 皇帝閻魔は心底……呟いた 掌の康太を、本体の上に置くと…… 弥勒が綺麗な球体を全身に被せた 「おっと!出遅れた……」 姿を現したのは毘沙門天だった 「毘沙門天……あんで来たんだよ?」 「お前に心臓をくれてやる為にだ!」 毘沙門天は笑顔で、そう言った 「……お前の心臓はもう半分貰った……」 「役立たずなら……後半分くれてやるよ!」 康太は皇帝閻魔に 「………親父殿、毘沙門天を一発叩いてくれ!」 と頼んだ 皇帝閻魔は毘沙門天の頭をベシッと叩いた 「あにすんだよ!」 毘沙門天はふて腐れた 「お前の心臓を貰ったら……… お前は生きられねぇじゃねぇかよ!」 「俺の命よりもお前の命の方が尊い」 「毘沙門天……何があった?」 「………何もない……」 毘沙門天は言葉を濁した 皇帝閻魔は毘沙門天の頭を撫でた 「我がまだ魔界にいた頃はお主は生まれたてのヒヨッコだった やけに威勢の良い十二天が生まれた…… それがお主だったな…… お前は我に仕えてくれた…… 冥府に還るか?」 「………皇帝閻魔……俺はまだ遣り残した事がある……」 「なら心臓は取っておかねばな」 「………悪かった……」 「長く生きてれば…… 生きるのが嫌になる事の一つや二つあるであろうて!」 「………我等は……神だが無力だ…… つくづく思い知らされた…… 多くの命が一瞬で奪われると言うのに……… 我等は何一つ出来ずに……送るしか出来ねぇ…」 「………しかたあるまい…… 人の生き死に……我等は関与は出来ぬ…… 目の前で苦しむ人間がいようとも……… 我等は手を差し出してはならぬのだ……」 「………皇帝閻魔……… 我等は………こんなに無力なれば……… 何のために……存在しているのだろう?」 「人の世界を闇へと落とさぬ為に存在しているのだ! 間違った方へ逝かぬ様に導く為にいる…… 人の世が闇に支配されれば…… 人は殺し合い……滅ぶしかなかろう…… そうはさせてはならぬから我等はいる 我等の力は小さくとも、集まれば大きな力を発動させる事も可能だ ………そんな日は来てはならぬが…… 然るべき日のために我等は目をそらしてはならぬのだ!」 「………皇帝閻魔……」 「毘沙門天、我は人の世におられる時間はそうないのじゃ! 我が子を生き返えさなければならぬのじゃ‥毘沙門天」 皇帝閻魔は毘沙門天の頭を撫でると、炎帝の体躯へと近寄った 皇帝閻魔が炎帝の頭上に立つと、弥勒は足下に立った 両手を前へと伸ばすと…… 弥勒と皇帝閻魔の手から結界が伸びて繋がった 結界は康太を包んで……ベールを纏ったみたいに光った 「הנשמה של המדריך מזון(この者の魂を導き給え)」 皇帝閻魔はそう呟くと……呪文を唱えた 皇帝閻魔の呪文を後から追うように弥勒も呪文を唱えた 総ての心血を注ぎ…… 皇帝閻魔と弥勒は呪文を唱えた 「הנשמה חזרה לגוף!(魂を体に戻し給え)」 呪文を唱え印を切る 幾度となく続けると…… 康太の体躯が…… 血色を取り戻して…… 息を吸った ドックン……ドックン…… 刻み始めた心臓は……血液を送り出し…… 血は巡り…… 康太の体躯に艶をもたらしていた 榊原は両手を握り締めて……祈っていた 真っ白な指は感覚もなくし……それでも祈った 康太は薄らと瞳を開けた 皇帝閻魔は康太の額に口吻けを落とすと…… 息を吐き出し……弥勒と顔を合わせた 「………上手く戻せましたね転輪聖王……」 「はい!皇帝閻魔……貴方を此処まで呼び寄せてしまい……本当に申し訳なく思います」 「炎帝は我が息子! どの様な姿をしていても、その魂は我が息子のモノだ! 私は我が息子の為なれば…… 何を置いても駆け付けると決めている それ程に……我が息子は可愛い……愛しておるのじゃ……」 康太の瞳がカッと赤く光ると…… 康太の体躯は焔に包まれた 真っ赤に燃え上がる焔を見て…… 「康太の体躯は……既に尽きるしかなかった……なので……我の体躯の一部を転輪聖王に言い取り出させた…… 我の体躯を取り入れれば……燃える…… 焔が落ち着いた時……飛鳥井康太は元の体躯に戻るであろう」 榊原を抱き締めて皇帝閻魔はそう言った 冥府の王の体躯を分け与えたと言うのか……… そんな事をすれば…… 皇帝閻魔の体躯は…… どうなってしまうのだろう…… 榊原は不安な瞳を皇帝閻魔に向けた 皇帝閻魔を亡くせば…… 炎帝は冥府に還るのだから…… 「そんな顔をするでない 我はまだ冥府を護る 我が息子の出番はまだ来ぬ! 我が息子は魔界を絶対のモノにする使命が遺っておる それまでは何が何でも……… 我は冥府の絶対神となっておる 皇帝炎帝が還ったら……我が妻の想い出と共に冥府の片隅で……息子達を見守ろうと想う それまでは我は逝かぬ」 「………皇帝閻魔……」 「元より、皇帝炎帝は我の体躯を与えて創りし存在………息子は我も同然 息子は強い……こんな所でへたばったりはせぬ」 「………貴方を……炎帝は誰よりも大切に想ってます……」 「青龍の次に………であろうて!」 皇帝閻魔は笑った 「八仙が怒って来るであろうからな…… 我は冥府に還るとしようぞ! 転輪聖王、八仙から薬湯を渡されたとしても持って来るのではないぞ!」 弥勒は笑って 「それは聞けませぬ 我も八仙は怖いので……持って逝くしかないのです!」 「お主は……本当に我が息子の言う事しか聞かぬな!」 「仕方ありません 我はアレと共にしか願っておりませぬからな!」 「なれば、少しは伴侶殿の心労を回避して差し上げろ! この様な事ばかりさせぬ様にするがよい!」 「…………心に……刻んでおきます」 「多分無理であろうけどな!」 皇帝閻魔は笑って、康太の傍に寄った 「הבן שלי אוהב(我が愛する息子よ) להיות מאושר יותר. מכל אחד אחר(誰よりも幸せになりなさい)」 そう唱えると康太の額に口吻けを落とし…… 毘沙門天を連れて消えた 康太の焔は……消えていた 弥勒は呪文を唱えると……時空を元に戻した 一生は何も言えなくて一部始終を見ていた 兵藤は「俺は炎帝の無事を告げねぇとならねぇからな……少し逝って来る……」と言い姿を消した 弥勒も「八仙に呼ばれておる、暫し逝く!後で見舞いに来るとしようぞ!」と言い、榊原を抱き締めて……還って行った 榊原はそーっと康太に触れた 康太のぬくもりが掌を通して伝わると…… 康太の頬に口吻けた 「………温かいです……」 一生も康太の傍に寄ると……そーっと康太に触れた 「………あぁ……本当に……あったけぇな……」 「………小さな康太も可愛かったです……」 「どんな姿してたって……飛鳥井康太にしかなれねぇからな……」 「そうですね……」 「旦那……良かったな……」 「…………兄さん……僕は……貴方に支えられてますね……」 「そうか? 魔界にいた頃は嫌われて寄り付きもしなかったからな……」 「………僕は……貴方が嫌いでした……」 「………だろうな……」 「下半身がだらしがない貴方が大嫌いでした…」 「………改めて言われると……傷付くって……」 「でも僕は本当に貴方を見てなかった…… 教えてくれたのは炎帝です 僕が見なかったモノを教えてくれたのは総て炎帝です…… 炎帝がいればこそ知った事ばかりです……」 「それで良いじゃねぇか…… 俺は……刹那い位に自分を律しているお前が……誇りであり……大嫌いだったよ 何も映さねぇ瞳が……大嫌いだった! そんなお前が炎帝と人の世に墜ちたってのが解せなかった…… お前が……本気で誰かを愛すなんてのは想像すらつかなったからな……」 「………兄さん……」 「でも湖に映るおめぇは……心底炎帝を愛した瞳をしていた…… 人の世に墜ちて……傍に来れば本当におめぇは青龍で、不器用な男だって始めて知ったよ 俺達は……兄弟だったが誰よりも遠い存在だった…… 俺もおめぇを見てなかった…… 龍族の誇りだ……正義だ秩序だと……謂われる弟は融通の利かねぇ心も持たぬ木偶の坊みてぇだと想っていたからな……」 「…………兄さん……今は貴方が好きですよ?」 「俺もな誰よりも誇りに想う……愛しい弟だ」 「………何か……照れます……」 「だな……俺も言った後でまずいと思った」 そう言い二人は笑った 互いの存在があるから………心強い…… そんな事を想える自分がいた 康太を見ると…… 康太は榊原をジーッと見ていた 「四龍の兄妹は、んとに仲良しだな」 そう言いニカッと笑った 榊原は康太を抱き締めて………泣いた 一生は「体調はどうよ?」と問い掛けた 「悪くねぇぜ? 何たって神々の力を受け、親父殿の力を貰ったかんな! 前よりも漲る感じだな」 「………んとに……おめぇは無茶しかしねぇ……」 「………悪かったな……」 「あんで今回こんな無茶したんだよ?」 「ソロモン72柱の復活を阻止する為と、操られた奴の排除の為だ でねぇと………何時までも飛鳥井は狙われ続ける 京極の弟は操られて飛鳥井を狙っていた 他の奴等も飛鳥井を標的にして…… 強いては飛鳥井康太を足止めさせる為に、犠牲者を出した 飛鳥井康太を動けぬ様に足止めさせて…… その間にソロモン72柱を解放させるつもりだった そんな事をされたら…… 人の世も魔界も天界も……悪魔だらけになるのは必死だった…… 72体の悪魔を閉じ込めた柱を解放させられたら…… 人の世は核兵器でも使い……人の住めない世になるしかねぇ…… 天界は悪魔に占拠され…… 魔界も……そんな悪魔に攻め来られたら……狩られるしかねぇ…… 総てを殲滅(せんめつ)させ…… 悪魔に占拠された世界しか遺らなくなる…… それはさせたくなかったかんな…… オレの命と引き替えに…… ソロモン72柱を解放させた瞬間を狙って…… 冥府の門を解き放った ソロモン72柱に収められた悪魔は…… 総て冥府の門へと吸い込まれ…… 門を閉じた 二度と再び出られねぇ様にな! 幾十もの封印を施し…… 冥府の門の中へ閉じ込めた 術で操られていた奴等は……跳ね返り……総て食われた 後はそれを操っていた奴等を追い詰めるだけだ……」 「………康太……頼むから無茶すんな…… 俺は生きた着心地がしなかった……」 一生はボヤくとナースコールを押した 『どうなさいました?』 看護師の声がした 一生は「飛鳥井康太、意識が戻りました」と告げた 『久遠先生が向かいます』 ナースコールが切れると、暫くして久遠が顔を出した 「康太、意識を戻したんだって?」 久遠は康太のベッドへ向かった 康太はニカッと笑って久遠を迎えた 「………悪かったな久遠……」 「お前が死ななきゃ……それで良い……」 久遠はそう言い康太の頭を撫でた 「一応、検査しとくか?」 「だな。今日退院して良いか?」 「………本当にお前は無茶ぶりが好きだな…… 銃創だからな退院は無理だ、自分が一番解っているだろうが!」 「あぁ、無茶は己の体躯が一番解ってる この体躯に戻って想ったんだけど…… めちゃくそ……肩が痛ぇな……」 「……そりゃあな……伴侶殿が抱き着かねばお前は心臓を貫かれて即死だった…… それ程の銃創を負ったんだ」 「それでもな……逝かねぇとならねぇ状態だった…… 少し痛みが落ち着くまで大人しく入院してるとするわ! 所で……悠太……どうなった?」 「あのバカなら足のプレートがズレて、ビスの打ち所がないから、骨を強化するまでは歩行は禁止にした」 「………酷いのか?」 「………足は……多分……後遺症は残る…… 腕を庇って足を潰されたらしいからな…… でも切断した訳じゃねぇ…… 須賀よりは引き摺るだろうけど……歩けると想う……マラソンとかリレーはダメだろうな……」 「………そっか……でも生きてるなら良い……」 「傷は癒えても‥‥まだ成長する年齢を考慮すれば‥‥確実に成長に痛め付けられた骨は着いて逝けなくなるだろう‥‥‥危惧すべきは今じゃない‥‥今後だ」 「久遠‥‥それは今考えたくはねぇよ‥‥」 「解ってる、頭の片隅に入れておいてくれ!」 「解った、本当に無茶するなアイツは‥‥」 「おめぇもな……無茶するんじゃねぇよ お前を生かす為に俺はいるんだって忘れるな!」 「久遠……悠太も退院させて家に還らせてやりてぇけど無理か?」 「無理だな、目はまだ光を受け付けない 家に還ったら自分でやろうと動くだろうし、まだ入れておけ!」 「解った、悠太の事頼みます」 「任せとけ! で、お前も悠太も少し治療に当たれ」 「あぁ、解った 後で検査を入れる 準備が出来たら呼びに来る」 久遠はそう言うと病室を出て行った 「一生、オレは意識が戻ったって瑛兄に知らせてくれ! あれ??……慎一は?」 「………え?慎一?………いなかった?」 一生は思い巡らした 「俺がニックを病室に連れて行って還って来たらいなかったぞ?」 「……オレは小さかったからな…… 見渡せる距離は知れていたかんな……」 一生は携帯を取り出すと慎一に電話をかけた 「慎一か?」 『一生、何かありましたか?』 「康太の意識が戻ったぞ」 『………っ!………本当に?………』 「何処にいるんだよ?」 『瑛兄さんと病室に向かったのですが……入れませんでした ノックしたけど音沙汰がなかったので……瑛兄さんと買い物に出ました 今すぐ戻ります!』 慎一はそう言い電話を切った 暫くすると瑛太と共に慎一は病室に顔を出した 「康太……意識が戻ったのですか?」 瑛太はドアを開けた一生に問い掛けた 「瑛兄!」 ベッドから康太の声が響いて、瑛太は康太の傍へと急いだ 「………康太……本当に……康太ですか?」 「オレだよ瑛兄 オレをこの世に引きとどめてくれてる奴等が……オレの意識を取り戻させてくれた…」 瑛太は康太を抱き締めた その肩が震えていた 「瑛兄……ごめん……」 「謝らなくて……良いです…… 君は何時も……飛鳥井の為……家の為ばかり……」 瑛太は泣いていた 久遠が「検査の準備が出来たぞ!坊主!」と呼びに来た 康太は久遠に 「久遠、一生と慎一の顔も手当頼む……」とついでに頼んだ でないと治療しないから‥‥ 「後で手の空いてる医者に消毒させる 伴侶殿の検査も一緒にいれました 二人は一緒に、が宜しいでしょうから‥」 「ありがとうございます 傍にいたいので一緒にお願いします……」 「なら着いて来い」 久遠は康太を寝台車に乗せて榊原と共に検査へと向かった 康太を見送って慎一は瑛太に 「康太は少し静養が必要です…… 伊織も‥‥限界越えて心配してましたからね」 「………体調が戻るまでは入院させましょう それより悠太はどうなりした?」 瑛太の問い掛けに一生が 「悠太は……無茶して足のプレートをズラさせたからな、当分は歩くのは無理だと想う 暴行を受けた傷も悠太の成長にどんな影響を及ぼすか解らないとされています でもアイツは自分の事は二の次で康太が気になって勝手に出歩くからな…… 傍にいさせるのが一番の治療法だと久遠は判断した……だから当分は大人しく入院させておくのが懸命だな」 と答えた 康太が検査から戻って来る前に慎一は堂嶋の処へ出向いた 「康太、意識が戻りました 今度ばかりは無茶も効かなくて、当分は入院する事になります」 慎一が告げると堂嶋は驚愕の瞳を慎一に向けた 「………意識が戻ったのか‥‥ 命に‥‥‥別状はねぇんだよな?」 「はい、命に別状はありません……… ですが、大人しく寝てくれないのが飛鳥井康太ですから……何日で退院すると言い出すか心配は絶えません」 堂嶋はため息を着いた 「……だな……なら俺も今は治療に専念して、康太の退院に合わせる事とする! 多分三木もそうするだろう……」 「ですね、これから三木の処へ行きます」 「俺も行くわ」 そう言い堂嶋はベッドから下りた そして慎一と共に三木の処へ向かった 病室に入ると三木は起きていた 「………繁雄さん……起きてて大丈夫ですか?」 「慎一……康太は?」 「意識が戻りました これから治療に専念して治すとの事です」 「………本当に……康太は目を醒ましたのか? ………そうか………なら頑張らないとダメだな…」 三木は泣き笑いしていた 目の前に目標が輝やかしく先を示す 堂嶋と三木は治療してリハビリに突入して、康太と合わせて退院する算段をした 何にせよ満身創痍の体躯では‥‥ここぞと謂う時に動けも出来ないのだから‥‥ 三木と堂嶋は久遠を呼び出して 「久遠先生、康太が退院する時、我等も退院する所存だ! なのでリハビリをお願いしたい!」 「やはり……そう来るか 怪我の治癒に合ったリハビリから始められると良い! ある程度体力が戻れば、リハビリも苦痛はなくなるだろう そしたら康太と同時に退院させてやる その代わりメンテナンスは怠るな! この病院に通院できないなら紹介状を書いてやるから、ちゃんとメンテナンスだけはしろ!」 久遠が言うと堂嶋は 「俺の家はこの近くなので還る前に診察入れておくので大丈夫です!」 と笑って答えた 三木も「私も飛鳥井に寄るついでに通院するので、このままで良いです」と言ってのけた 久遠は笑って「ならリハビリを入れる!但し、無茶するなら退院はさせねぇからな!」と脅し続けた 「おめぇらは体躯が資本の議員だろ? 自分の体躯の事は知っておかねぇと、いざという時闘えねぇぞ!」 久遠ならではのエールだった 堂嶋と三木は銃創の治癒の為、自分に出来る事を成し、毎日康太の個室へと向かった 毎日必死に入院生活を送り1ヶ月が経とうとしていた 退院が決まった日、康太を訪ねると病室に康太は戻っていなかった 堂嶋は「康太は?」と尋ねた 瑛太が「まだです」と答えた そして堂嶋と三木の傍に行き深々と頭を下げ 「………貴方達に怪我を負わせてしまい…… 本当に申し訳ありませんでした……」 と謝罪の言葉を述べた 堂嶋は「好きで着いて行ったんですから、気になさらないで下さい」と瑛太に頭を上げさせた 三木も「離れているより傍にいたかっただけです……」と瑛太を抱き締めた ドアがノックされ慎一が開けると、康太が榊原に連れられて戻って来た 悠太は車イスに乗って一緒に退院すると謂う 堂嶋は「康太!」と叫んだ 三木は引き摺る足で康太を抱き締めた 「………康太………良かった……」 三木は号泣していた 泣き崩れる三木を慎一は支えて椅子に座らせた 堂嶋も康太を抱き締めた 「……坊主……やはりお前は……その方が良い」 「正義……怪我させて本当に……申し訳なかった お前達が撃たれる事までは……… 視えちゃいなかった……本当にすまなかった」 「気にするな……相賀と須賀に知らせる…… 後、若旦那にも……喜ぶと想う……」 「正義、暇なら飛鳥井に来いよ! 少し動いて欲しい事がある」 「精算は終わってる何処へでも逝くに決まってるだろ?」 康太は儚げに笑うと……堂嶋の背中を撫でた そして離れると榊原の手を握り締めた 「伊織……還るか?」 「ええ……還りましょう…… 僕達の家へ……」 康太は榊原を見上げて笑った 「………お前のポケットに入れて良かった…」 何時も一緒に何処へでも逝けて…… 良かった……と康太は笑った 「ええ……本当に君は可愛かったです…… 僕は……どんな君でも愛してます」 康太は榊原の手を握り締めた そして手を離すと歩き出した 風もないのに髪が靡いて揺れていた 強い眼差しは前を見据え……果てを見ていた また一歩踏み出す 果てへと進む…… 明日の飛鳥井の為に…… 礎になる為に…… 康太の歩みは澱みない 視えぬ先を見据えて進む…… 決して後ろを見る事なく…… 康太は歩き続ける…… 榊原はその背から離れる事なく歩き出した 君の逝く所なら何処へでも一緒です 離れないでいられるなら…… 何でも出来る… その想いは一生や聡一郎、隼人、慎一も同じだった 堂嶋や三木……瑛太や家族も同じだった 悠太は兄の背を見て泣いていた 康兄……俺は貴方のいない世界では生きていたくありません…… 貴方の視る先を逝く…… それが俺の………生きてる証なのだから……… 康兄…… 康兄…… 悠太は歩き出した 康太の果てへと逝く為に……… 君へと続く場所に逝く為に……

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