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第90話 湯治 IN魔界①

康太は退院して通常の生活に身を置いた 銃創は1ヶ月入院して大分治癒したが‥‥‥ 完全には治りきってはいなかった それもその筈、康太を貫いた弾丸は吸血鬼や狼男を殺傷する為に用いられる銀玉を使用したからだった 康太は吸血鬼でも狼男でもないが‥‥‥多少の影響を体躯に受けているのは‥‥‥ 治りきらない銃創を見て解っていた 康太は退院して半月経った頃、家族に 「今月一杯湯治に行って来るわ」と告げた 銃創が中々治りきらない影響が私生活に暗い影を落としていた 榊原も康太も痛くて……セックスも出来ないでいた それでも互いに触れてれば欲望はわく だが互いを欲すれば欲する程に‥‥‥痛みが二人を苦しめていた 体躯が挿入の激しさに着いて逝けないのだ‥‥‥ そんな時は互いの性器を合わせて扱いて欲望を解放させていた 退院して半月経つのに…… そんな調子だった 聡一郎はまだ還って来ていなかった 清隆も玲香も京香も瑛太も、湯治に逝くという事には大賛成してくれた 「今回は子供達も連れて逝く だから慎一と一生と隼人も連れて逝く」 康太がそう言うと瑛太は 「君達がいないと淋しいけど…… 早く良くなる様に……祈っております」と告げた 「瑛兄、飛鳥井に何かあれば直ぐに連絡は入るかんな! そしたらオレは還って来る! それまでは少し休もうと想う… 傷が何時までも治らねぇからな…… オレは……2ヶ月近く伊織とまともにエッチも出来やしねぇ……」 康太が言うと家族は驚いた 京香は「……勃起せぬのか?」と問い掛けた 「勃起はするさ 勃ち過ぎて困る程にな でもセックスの激しさに体躯が着いていけねぇんだよ…… 互いを欲すれば欲する程に……痛みにのたうち回り……萎える…… 何とか気を取り直してみても……… 伊織に抱き着く事すら……痛くて…… 仕方ねぇから……互いを扱いて終わりだ…… オレは伊織と繋がりてぇんだよ! だから湯治に逝って治して来ようと想うんだ でねぇと……夫婦の危機だぜ!」 康太の言葉に玲香は涙した 「………康太……愛せぬのは辛すぎるであろうて……」 誰よりも愛し合ってる恋人同士が愛し合えないなんて…… 京香も涙した 京香は「康太が子供達を連れて行くなら、悠太の面倒は我が見よう! だから心置きなく逝くが良い!」と悠太の看病を買って出た 「頼むな京香、そして母ちゃんや父ちゃん、瑛兄……一ヶ月近く留守にするかんな……その間頼むな……」 康太が言うと清隆が 「お前の不在の一ヶ月位、会社も家庭も護ってみせます! ですから君は何も心配せず湯治に逝ってらっしゃい!」 「頼むな……」 康太は家族に甘える事にした そして悠太に 「兄は少し留守にするが、決して無理はするなよ!………」と謂った だが無理をするなと謂っても‥‥‥ 「不安だよな?一生……」と一生にフッた 一生は俺にフルな‥‥と想いつつも 「不安しかねぇわ‥‥絶対安静でウロウロする子だからな コイツも連れて逝くしかなくねぇか? 連れて逝くしかねぇと想うぞ!」 「………そうだよな? なら悠太も連れて逝くわ 暫く留守にするが、その間は飛鳥井は安泰だと想うから……頼むな」 康太が言うと清隆は 「ゆっくりしてらっしゃい!」と言った 「裏の貴史には内緒な!」 康太が言うと玲香が 「ちゃんと貴史に言っておけ! でなくば何度も尋ねて来るではないか…… あの姿は見ていてかなり可哀想だからのぉ」 「……解った言ってから逝く…… じゃ、母ちゃん達が帰る頃にはオレ等はいねぇからな!」 「………解っておる…… 淋しくなるけど……お主が体躯を治すのが先決じゃ…… 気を付けて逝くのじゃぞ……」 「あぁ、待っててくれ!」 清隆や瑛太、京香と玲香は康太を抱き締めてから会社へと向かった 家族を見送って康太は 「一生、裏にはお前が連絡しといてくれ!」 「………了解!」 一生はラインで終わらせようと 「ちょっくら魔界に行って来るわ!」とトークで送信した それで終わらないの知ってて……ずっこしようとした 案の定電話が鳴り響いた 『魔界に逝くってあんでだよ?』 「湯治に逝くって言ってたやん」 『銃創が治らねぇんだよな?』 「そう!これから魔界に逝く」 『俺も逝く!』 ………そう言うのは解っていた 解っていたが…… こうも予想通りに出られると…… 苦笑するしかなかった 「貴史……一ヶ月位不在にするんだぜ? 家族に言って出ねぇと……捜索願いだされるぜ?」 『なら美緒に言っておく! だから先に逝くなよ!』 兵藤はそう言うと電話を切った 一生は康太に「貴史来るってよ……」と告げた 康太は笑って榊原の手を握り締めた 抱き着くと痛いから……… 二人は距離をとっていた それを見てて……一抹の不安を抱いたのは家族全員だっただろう…… 暫くすると兵藤が飛鳥井にやって来た 「お待たせ!逝こうぜ!」 兵藤はそう言った 応接間には流生達、5人の子供もいた 「………おい……子供も逝くのかよ?」 兵藤は呟いた 「あぁ健御雷神や金龍が逢いたい言うかんな! ……逢いたいと想うのは仕方がねぇな」 「………次代の赤龍だっけ?」 「九曜神の仲間入りする隼人と音弥にも逢っておこうと言う算段も解らなくねぇしな…… 閻魔は……太陽と大空……翔を見たいと言うからな……」 「………え?………それはどう言う事だ?」 兵藤は驚いて問い掛けた 「他意はない! ただどの子も見たいと謂うだけだ 魔界へ逝く目的はオレと伊織の湯治だ オレ達の夫婦生活の危機を脱出しねぇとな!」 「……夫婦生活の危機………エッチ出来ねぇのか?」 「お互い痛くてな……」 「…………そうか……銃創は治りが遅いからな……摩利支天の所へ行って治癒して貰うと良い」 「………オレは金龍御用達の温泉につかってくる予定なんだよ 摩利支天は遠慮しておく」 「………え?……お前……摩利支天苦手だっけ?」 「………一生、健御雷神が待ってるから逝くぜ!」 「………おい……」 兵藤は呼び掛けたけど……康太は応えなかった 応接間から魔界に繋ぎ、康太達は魔界へと足を踏み入れた 康太と榊原 一生、隼人、慎一が子ども達のフォローで着いて来ていた そして5人の子ども達に悠太がいた 烈は小さすぎて京香に預けて来た 魔界に降り立つと閻魔が出迎えてくれた 「炎帝、傷の具合はどうじゃ?」 「……あんまし……良くねぇな…… オレは吸血鬼じゃねぇのに銀玉使いやがったかんな……余計治癒を邪魔してやがる…」 「………やはり……摩利支天に逝くか?」 「………兄者まで言うのかよ? 忘れちゃいねぇよな? ……鼻っ柱べし折ったから恨み買ったじゃねぇかよ?」 「………やはり……無理かな……」 「無理だろ?」 「おい!炎帝!話しやがれ!」 朱雀が食いつくと、閻魔は「家に入りますか?」と声をかけた 閻魔の邸宅に入って逝くと天照大神がソファーに座っていた 「………母上……」 炎帝は呟いた 「炎帝と青龍の子をこの腕に抱きに参った!」 「………オレ……生んでねぇぜ?」 「お前が魂を分けて育てておるなら、お前の子も同然じゃ!」 そう言い流生達に手を伸ばした 「ばぁばですよ!」 天照大神が言うと流生が「ばぁば?」と問い掛けた 「おお!本当に可愛らしい!」 そう言い天照大神は流生を抱き上げた 「炎帝、銃創なら摩利支天へ逝くがよい」 「だから、恨んでるだろ?」 「少し……恨んでおるが気にするでない!」 「……やっぱ…少し恨んでるんじゃねぇかよ?」 炎帝はボヤいた 朱雀は「…聞かせろ!あんで摩利支天がお前を恨むかを……」と迫った 「………色々とあんだよ!」 「だから、その色々聞かせろよ!」 朱雀は一歩も引く気がなく、絶対に誤魔化しは受け付けねぇぞ……と言う顔で康太を睨んだ 「摩利支天は閻魔の唱える事総てに異議を唱えていた オレはその態度が不穏分子に見えて叩きのめした 一人が不満を述べたら…… 止まらなくなるのは解っていたからな その頃の魔界は……オレの存在を抱えて微妙な雰囲気を醸し出していたからな…… 後……摩利支天は青龍を逆恨みして……突っ掛かっていたからな 余計叩きのめしてやった……」 「……何で青龍に逆恨みしてたんだ?」 「金色姫っているやん」 「魔界随一の美女とか言う?」 「金色姫に摩利支天はベタ惚れだったんだよ 金色姫は青龍にベタ惚れだったんだよ…… で、摩利支天は青龍に何かに突っ掛かっていたから……黙らせてやった」 「………摩利支天の逆恨みって……金色姫絡みなのか?」 「青龍はモテたからな……」 「………お前……結構セコいんだな……」 「………青龍を傷付けようとする奴を……見過ごす事は出来ねぇよ!」 「……青龍は知ってたのかよ?」 摩利支天の……逆恨み……を。 「………知りません……」 青龍はキッパリと言った…… 「摩利支天も相手見て喧嘩売れば良いのによぉ…… 俺は青龍には喧嘩は売らねぇぜ? 買わねぇ喧嘩を仕掛けるだけ無駄だろうが!」 朱雀が言うと炎帝は 「お前が青龍に喧嘩を売った時点で叩き潰してやる!」と宣言した 赤龍は「お前は……もう黙ってろ!」 と、怒ると朱雀は黙った 閻魔は「摩利支天の治癒力は確実に効きます!湯治なんて目じゃない位に…… 待ってなさい……今呼んであげます」と炎帝に言った 「………マジかよ?」 「僕がいます 君には指一本触れさせません」 青龍は優しく炎帝を抱き締めた 悠太は唖然とした顔で……兄を見ていた 此処が何処なのかも……悠太には解らなかったから…… 「兄者、司命を呼んでくれねぇか?」 「今……ですか?」 「あぁ、今直ぐ呼んでくれ!」 炎帝が言うと閻魔は立ち上がった そして側近に司命を呼んで来て下さいと告げた 暫くして司命が顔を出した 「大魔王、お呼びですか?」 「お前を呼んだのは私ではない お前の主自ら呼んだのです!」 「…………炎帝!……炎帝………」 司命は泣いた 「魔界に還って来た訳じゃないんですよね?」 「お前を呼びに来たのと、傷を癒やしに来たんだよ!」 「……撃たれた傷は……?」 司命は炎帝の膝の前に跪いた 「………銀玉を使われた…… オレは吸血鬼でもねぇのにな……銀玉使いやがったから治りが特に遅い……」 「………僕は……還って良いのですか?」 康太は司命の問いに司命を視た 司命からは今も‥‥‥‥影は取れてはいなかった 司命は何かをまだ追っている事は確かだった だが素直に答える奴じゃないと解っているから見守るしかないと想っていた 「オレが還る時に帰れ! でもオレは傷を癒やしに来たからな…… 少しの間留まる事になる……」 「そうですか……なら還る時一緒に連れて逝って下さい……」 「司命、おめぇには悠太を託す!頼むな」 「……悠太……」 司命は……悠太を見た 「………聡一郎?……」 金髪の髪が足首まであり、白い法衣を身に着けていた 「そうです!傷は……どうなりました?」 「大分良くなったよ」 司命は悠太を優しく抱き締めた 「悠太の面倒を頼む! 今回オレは子ども達と来たからな…… 中々悠太まで手が回らねぇんだよ」 「解ってます…… 君は傷を……治して下さい」 「後で金龍の所へ逝き湯治に行く予定だ おめぇも悠太を連れて逝くと良い」 炎帝は司命の髪を一房手に取ると口吻けた 「………炎帝と一緒にいて宜しいのですか?」 「お前も恋人とゆったりと過ごせ 夜になれば……司禄が揶揄しに来るだろうからな」 「………アイツ……来たら返り討ちにしてやります! 久々にアイツの家に押し掛けると……妻がいたのです! お相手は……金色姫……ですよ? 遊ばれてませんか?」 「………ほほう……金色姫は司禄に行ったか」 炎帝は楽しそうに呟いた 炎帝は「………敵は一匹でも少ねぇ方が良いかんな!」とニャッと笑った 朱雀は「……んとにお前はセコい……」と呟いた 「オレがセコいのはお前が一番知ってるやん」 炎帝は笑った 朱雀は可愛くて仕方がないと言う顔をして…… 炎帝の頭をクシャッと撫でた 話をしてると来客の訪問が告げられた 「大魔王、摩利支天がおみえになりました」 「通して下さい」 閻魔が言うと摩利支天が部屋に通された 摩利支天はソファーに座る炎帝に目をやると 「珍しい方がお見えになられてますね」と言い炎帝の前に跪いた 「久方ぶりに御座います炎帝」 「久しいな摩利支天」 「炎帝様 幾久しゅう御座います 青龍殿と婚姻を結ばれたと言うのは本当の事でござったか……」 「オレの青龍だからな……手を出せば焼き消すぞ!」 炎帝はそう言い摩利支天を射抜いた 「炎帝、我は青龍に遺恨は残しておらぬ しかも……逆恨みなのは重々承知であった 青龍殿には相手にすらされなかったがな…… それでも……当時は身を焦がす程に惚れておったのだ……」 「…………あれから告白したのかよ?」 「………しておらぬ…… 金色姫は見目の良い男にしか靡かぬ 我など木偶の坊なみのガタイの男は視界にすら入らぬと聞くのに……告白など出来ぬ…… お主に鼻っ柱をべし折られ……我は考え方を変えた… 今は閻魔大魔王の信頼厚い存在になった それを何時か炎帝……貴殿に報告したかった」 「摩利支天、好いたおなごらおらぬのか?」 「我の様な……男はモテますぬ……」 「そうでもないぞ? 今、おめぇを視たら瑠璃姫と結婚すると出てる…… オレが後見人になってやるから見合いすっか!」 炎帝が言うと閻魔はチャンスとばかりに口を開いた 「摩利支天、瑠璃姫と見合いしなさい! 丁度来ているのですお見合い話が!」 そう言い立ち上がると石版を取り出した 石版を摩利支天に渡すと、摩利支天は石版に目を通した 人の世で言う見合いの釣り書きみたいなモノだった 「これは運命ですね」 閻魔はニッコリ笑ってそう言った 摩利支天は……立ち上がると 「お見合いよりも本来の呼ばれた用事を先に致します これより治癒致します 炎帝と青龍、そしてそこの人の子……三人並んで我の前に座って下さい」 摩利支天が言うと炎帝と青龍、そして悠太が並んで座った 「我の治癒は蜃気楼による治癒です 蜃気楼を出して貴方達の傷を蜃気楼に移します 現し身による治癒なので完治とは違います 傷は蜃気楼に移り傷はなくなります 後は湯治でもして日々の傷を癒やしさえすれば倍の早さで治癒へと向かいます」 説明した後、摩利支天は蜃気楼を出した 炎帝と青龍と悠太に蜃気楼を入れると…… 霧の様なモノに包み込まれた 霧の様なモノは三人を包み込むと…… 炎帝や青龍、悠太のカタチになり抜けた 抜けた蜃気楼は負傷した箇所が傷付いていた 「あなた方の傷は蜃気楼が吸収いたしました 傷は消えたので後は湯治にでも出てゆっくり治癒して下さい 後は回復して行く一方だと想います」 摩利支天は蜃気楼を瓢箪の筒の中へと吸い込ませた 「総ての傷が癒えましたら、この蜃気楼は消えてなくなります そしたら瓢箪も消失致します」 炎帝は摩利支天に礼を述べた 「摩利支天ありがとう 真剣に縁談考えてくれ オレの目には縁が見えてる それを逃せば当分は……ないと思う」 「………炎帝……我に結婚生活は無理に御座います」 「無理とか決めつけるな! 可能性がゼロでないなら……考えろ!」 「………炎帝……変わられましたね 昔は……中身の詰まらぬ……何の感情も抱かぬ方でしたのに……」 「変わったとしたら青龍の愛だ オレは青龍の愛があるから生きていられるのだ!」 炎帝が言うと「惚気はその辺にしておけ!」と言う声が聞こえた ドアの入り口を見ると黒龍が立っていた 金龍や銀龍、地龍と銘もいた 「黒龍!遅かったじゃねぇかよ!」 炎帝は両手を伸ばすと、黒龍が炎帝を抱き締めた 「待たせたな炎帝! 摩利支天……炎帝達の治癒に呼ばれたのかよ?」 「……黒龍……そうだけど……縁談まで持ち上がって……」 摩利支天は躊躇した顔でそう答えた 「縁談、してみろよ! 見合いしたからって結婚しねぇと駄目って訳じゃねぇんだ! 逢うだけ逢ってみて考えれば良いじゃねぇかよ」 「………そんな気楽で良いのかな?」 「気楽で良いだろ? お前は深く考えすぎなんだよ! まるで……その気質は青龍みてぇに……融通が利きやがらねぇ……」 金龍が「見合いするのか?摩利支天?」と乗り気で問い掛けた 炎帝は「瑠璃姫と結婚するが定めだって言うのによぉ! しかも見合い相手は瑠璃姫だって言うのに…」とボヤいた 金龍は「なれば場は我が設定しようか?」と乗り気で申し出た そこへ健御雷神もやって来た 「お見合い?誰がですか?」 金龍は「摩利支天ですよ!」と教えてやった 「よいではないか!良縁じゃ!」 と健御雷神は自分の事の様に乗り気だった 金龍も「そうでしょ!やはり場を設けますか?」と思案した 炎帝は摩利支天の肩を叩いて 「………摩利支天……あぁなったら……もう逃れるのは不可能だぜ…」 「………みたいですね……」 「摩利支天、一度会ってみろよ 瑠璃姫はお前に尽くして生涯を終える お前に似合いだとオレは想う 金色姫よりは……お前に似合いだと想う」 「……炎帝……金色姫は……はなから釣り合いなど取れてません…」 「釣り合いって何だよ? 釣り合いばかり考えて……自分の本音も意志も……呑み込んで押さえるのか? そんなのくそ食らえだと想わねぇか?」 「………炎帝……」 「………オレは釣り合わないって言われようとも……誰に反対されようとも…… 諦めねぇと決めてるんだ! オレ達が互いを欲しているなら決して手は離さないと決めたんだ…… お前も見極めろよ!」 「……はい!」 青龍は炎帝を抱き締めた どこから見ても恋人同士だった…… 「…父者、オレ達の子に逢ったか?」 「天照大神の傍にいる子達がそうか?」 「あぁ、そうだ…」 「後で構い倒すと致そう! 摩利支天、炎帝が滞在する間に見合いの場を設けるぞ!」 健御雷神は摩利支天にそう言った 「はい!お願い致します」 摩利支天の返事も貰い金龍と健御雷神はご機嫌だった 「金龍、湯治に逝くぜ?」 炎帝が言うと金龍は 「おお!そうであった!」と本来の目的に入った そして炎帝の前に跪くと 「今宵、龍の一族が湯治場に集結致します 我が一族は炎帝を青龍の嫁と認め一族総出で法皇の立場を青龍に授けようと想っております!」 炎帝は……青龍を見て 「………皆大賛成です!めでたし!……とはいかねぇだろ?」と呟いた 青龍は「反対されても僕は君しか妻にはしません!ですから関係ないのです」と言い口吻けた 金龍は炎帝に「根回しは致しました!」言い切った 「我は龍族の長に御座います! 龍族八部集の復活に尽力を添えた炎帝を蔑ろにする者などおりはせぬ! 龍族が辿るべき道を示すのは炎帝しかおらぬ 魔界の絶対的存在は炎帝しかおらぬ! 龍族は誰一人反対など致しません!」 金龍は言い切った 一抹の不安は残るが……炎帝は青龍の手を握りしめた 炎帝は「朱雀、逝くか?」と問い掛けた 朱雀は「遠慮しとく! 」と言って子ども達の方へ向かった 「お前、龍が嫌いなのか?」 炎帝は単刀直入に問い掛けた 朱雀は慌てて「龍が嫌いなんじゃねぇよ!」と取り成した 冗談じゃない! 金龍がいる前で龍が嫌いなのか?と聞かれたこっちの身にもなりやがれ! 朱雀は心の中で毒突いた 「だよな?お前は赤龍とも黒龍とも仲が良いよの? なら……あんで行こうとはしねぇんだ?」 朱雀は降参した 「迦楼羅が来るだろ?」 「……お前……かるら……苦手だったっけ?」 「アイツは何かにつけて俺にケチをつけるんだよ!」 『傀儡の友達なんだろ? ちゃんとお前は中身が入っているのか?』 そう嫌味を言われ続けた それを炎帝に言うつもりはないが…… 青龍は「迦楼羅は大人しい神ですが?」と思い浮かべて口に出した 「それは青龍だからだろ? 俺や黒龍辺りは……嫌味のオンパレードだったぜ……」 朱雀が言うと青龍は黒龍を見た 「……兄さん……そうなのですか?」 青龍が問い掛けると黒龍は嫌な顔をした 「………赤龍も言われたよな?」 赤龍は兄に恨みがましい瞳を向けた 「…………言われたさ…アイツは嫌味しか言わねぇし……しかも人を見てしか言わねぇよ!」 赤龍は迦楼羅を思い浮かべて口にした 「………天竜八部衆の一柱でしたね…… 天竜八部衆は壊滅的に減ったのでしたね」 「………だからな天龍を銀龍に産ませて、天龍八部衆はを作ろうと試みた…… ………オレも迦楼羅には恨まれてるかもな…」 炎帝はボソッと呟いた 朱雀は炎帝に「ならお前も残れ」と悪魔の囁きをした それを聞いた金龍が朱雀にゲンコツを入れた 「んとに、この子は……炎帝が来ねば一族総勢集めた意味がないではないか!」 と金龍は怒った 「………誰一人異議は唱えなかったのかよ?」 朱雀は疑問をぶつけた 「前は……確かに異論はあった…… 認めるなら龍族から抜けると言う話も出た だが炎帝と青龍が魔界の絶対の存在だと解った……今、皆が賛同した 青龍が還るなら……閻魔は青龍にそれなりの地位は用意するであろう 弟婿になるのだからな…… 閻魔は宣言した 炎帝の夫は未来永劫青龍だと…… だとしたら青龍は変わらぬ駒に収まった 龍族がどんな異議を唱えようとも……覆らない現実ならば…… 我ら龍族は歩み寄るしかないではないか! 青龍は我が子だ だが……我は龍族の長だ 皆が反対するなら…我が子でも切るしかない ………それが現実だ…… 元より…青龍はそんな事は承知で炎帝と共に逝ったのであろう…… 我は私情は一切挟まず長に徹した その結果みちびきだした答えだ 龍族が炎帝を認めぬのならば…… 閻魔は……最悪龍族を切る覚悟だろう…… 龍族なくしても魔界は維持できる 次代の閻魔もその道を逝くのだろう…… なれば、我ら龍族は魔界から出て何処へ行く……と言う話になった…… 今更……魔界から出て何処へ行くと言うのだ? 行きたい奴は出て行けば良い 我は龍族の長として……魔界に残る決断をした 我は魔界が好きだ! 今更……我らの地を求めて何処へ行くと言うのだ? ………確かに………出て逝った奴はおる 迦楼羅は……真っ先に出て逝きおった 傀儡が魔界を統治するのは許せん……と残し……出て逝きおった だから迦楼羅は存在せぬ 天竜八部衆は一柱遺らず魔界から消え去った! だから天龍八部衆を作ったとしても…… 誰一人異議など唱えぬ そうであろう炎帝!」 金龍は炎帝に話をふった 「まぁオレが傀儡なのは嘘じゃねぇからな… 迦楼羅達天竜八部衆は炎帝を創るのを真っ先に反対した奴等だからな…… 新たに天竜八部衆が出来るなんて耳にしたら一番に異論を唱えそうだしな‥‥」 炎帝はそう言い皮肉に鼻で嗤った 「と言う事で我等は覚悟を決めた 魔界で生きて逝くと決めた以上は魔界のルールに従う! 法皇青龍の再現……我等の悲願を…… この目にする……その為だけに我等は生きて来た! 龍族から揺るぎない存在を輩出する それが明日の龍族の支えとなる!」 青龍の存在こそが…… 八仙の予言した存在なのだ……… 婚姻が続かないと聞いた時……法皇は夢と終わると想った だが青龍は絶対的存在を手に入れ結ばれた ある意味……龍族の希望は先に続いた同然となった 炎帝は嗤っていた 「………金龍、黙って引く奴じゃないのは覚えとけ……」 炎帝が謂うと金龍は 「覚えておきますが……今宵は忘れます! 流生達も来てるとお聞きしました 早く片付けて流生達と遊びたい! 炎帝と青龍の子だ! 我等の初孫ではないか!」 「なら可愛がってやってくれ」 「当たり前です! 炎帝と青龍はそのまま湯治してれば良いです! 我等は勝手に遊んでますから!」 無茶苦茶な言い分だと笑った 金龍達と湯治場へと向かった やはり朱雀は留守番で、慎一と隼人と悠太と司命も留守番となった 朱雀は「……波乱の影は消えねぇよな?」と司命に問い掛けた 「………でも炎帝ですからね…… あの方は我ゆく道を逝かれます…」 「……俺はアイツが笑っててくれば良い」 「奇遇ですね!僕もそうです」 一抹の不安を残し…… 炎帝達は湯治に逝った どうか……何もありませんように…… 司命は祈った 何かあれば駆け付けると朱雀は心に決めた 湯治場に逝くと、既に龍族は湯治場に来ていて、一族総勢で出迎えた 炎帝の足取りは揺るぎない 真っ直ぐ風を切って歩いていた 金龍が一族の前に立つと、一族の者は深々と頭を下げた 「炎帝、青龍との婚姻 一族総勢を上げて受け入れさせて戴きました!」 と炎帝に告げた 炎帝は何も言わなかった 青龍は炎帝を護って立っていた 龍族が炎帝を受け入れた瞬間だった 金龍は炎帝に「お言葉を!」と問い掛けた 炎帝は「要らねぇだろ?」と嗤った 金龍は「………炎帝……」と呟いた 「金龍、頭と心は別物だとオレは想う 頭では龍族の為と理解してても…… 心は龍族の誇りはそこまで地に堕ちてなどおらぬと想う輩がいる! それを押さえ付ける気はねぇからな! 俺は何も言わねぇ事にした 青龍は我が伴侶! それは未来永劫変わる事はない! 青龍に手を出せば……オレは生かしてはおかぬぞ! オレの焔は無に返すだけの能無しじゃねぇ 苦しめていたぶって……死なぬ程度に何年も焼き尽くしてやろうか? 転生などさせるものか! 地獄に堕ちる方が楽だと言わせてやるぜ! 炎帝を認めずともよい! 青龍を諦めればいいだけだ!」 炎帝は言い捨てた 金龍は……茫然自失となった ………何故今……その様なことを言われるのか……解らなかった 龍族は納得逝かぬまま……解散した 金龍は炎帝に怒りを収めぬままに突っ掛かった 黒龍が金龍を押し留めた 「黒龍……退け!」 「親父殿!止めろ! 親父殿でも炎帝に手を出せば…… 黙ってはおらぬ!」 「………何故だ!炎帝!何故一族の想いを蹴ったのだ!」 金龍は泣き叫んだ 黒龍は金龍を抱き締めた 「親父殿……炎帝は一族総勢に認められなくとも良いと言ったんだ…… 無理して認めなくとも良い………と。 だが邪魔するなら……焼き殺してやると宣言した 青龍と別れる気は皆無だ……と皆に知らしめた 何故だと想う?親父殿 龍族、一族総勢は炎帝をまともに見たものなどいないからだ……… 威名ばかり先立って恐怖ばかり大きくなって……親父殿が無理矢理認めさせれば…… 炎帝は龍族を従えて恐怖政治をやれと言ってるようなもんだろ? 親父殿の想いは解る……龍族の悲願だ… 魔界で虐げられて来た訳ではないが…… 龍は忌み嫌われた… 龍を愛してる奴などいない……… 我等……同族だってそうだろ? 龍である事に誇りを持つ心と…… 本体の恐ろしさに……愛されないと……報われない心を持ってる 炎帝はそんな想いを常に抱いてるんだ! 誰よりも忌み嫌われる存在だと言われて育ったんだ 魔界での自分の立場を絶対に忘れない……それが炎帝だ…… それは何故か解るか…… 炎帝は閻魔の弟で、父親は健御雷神、母親は天照大神……だと言われれば立派な血筋だが…… 天魔戦争の時に神が創った存在だからだ! 未だに魔界は炎帝の存在を畏怖している…… 今でこそ炎帝は皇帝炎帝だと認識しつつあるが…… 冥府の者が魔界にいるのはおかしいとか…… 神はなんてのを創り出したんだ…… と言う声が消えたわけじゃない 誰よりも自分を知ってるのは炎帝だ! 親父殿は強引すぎた 一族の不安や不満を見逃せば…… 取り返しがつかないと炎帝は視たんだろ? でなくば……挨拶もしない訳がない……」 黒龍の言葉に……金龍は崩れた 「……我等の悲願……魔界に下り立った時から……絶対的な存在と言う証…… 魔界に絶対の金字塔を打ち立てる事だった 青龍の婚姻によって……それが現実となると謂われた時……我等は強引に青龍を婚姻させた……青龍の婚姻が……婚姻こそが…… 我等の希望であり……一縷の光だと想っていた その青龍を失い……我は長として………決めていたのだ…… 息子の幸せは願っておる 我も親だ……誰よりも息子の幸せを願っておる だが……一族が魔界の絶対的存在になれるなら……我は……長の努めとして……我が子でも切らねばならぬ そう思っておった……」 「……親父殿……親父殿の想いは解る…… だが……無理をすれば……亀裂は走る…… それを炎帝は謂ってるんだ……」 「……解っておる……皆を黙らせて……強引に進めれば……不満は爆発する……って事は…… だが不満など一族の悲願の前に…… 消えてなくなると想っておった……」 金龍は泣いていた…… 銀龍は優しく夫を抱き締めた 炎帝は金龍に 「オレ達は此処で湯治する 龍族も湯治して逝けば良いだろ? 炎帝が見たければ近くで見る良い機会だろ?金龍!」と言いニカッと嗤った 黒龍は「そうだな良い機会だな」と言い金龍に 「この機会を好機にするもせぬも親父殿次第だってよ?」と告げた 金龍は立ち上がった 「これより龍族はこの地で湯治する!」と告げて動き出した 青龍は炎帝を抱き締めた 「僕は君が何者でも愛してます この愛は覆りません!」 「オレも愛してる青龍… 龍になれよ!洗ってやるからよぉ! 癒して帰ろうぜ! それが当初の目的だろ?」 「そうでした! 僕達は疲れ切りすぎてます 炎帝に洗ってもらうの物凄く楽しみでした!」 青龍は炎帝を脱衣所に連れ込んだ さっさと服を脱ぎ、服を脱がせると湯殿へと急いだ 湯殿に来ると青龍は 「龍になっても良いですか?」と問い掛けた 「良いぜ!龍になれよ!」 青龍は龍の姿になり湯殿の前ででろーんと長くなった 炎帝は鱗の一枚一枚綺麗に磨き上げた 「湯治してる間はずっと磨いてやるからな!」 炎帝が言うと青龍は赤い舌を伸ばして炎帝を舐めた 遠巻きに……龍族がそれを眺めていた 金龍はでろーんとした青龍に 「………お主……しまりがなさ過ぎじゃ……」と苦言を呈した 「父さん、愛する妻が洗ってくれるので、しまりがなくなっても多目に見て下さい」 「………んとに締まりがない……」 そう言い金龍は湯に浸かった 黒龍は笑いながら湯に浸かった 青龍はうっとりと妻に洗って貰っていた 「青龍、湯に浸かろうぜ!」 炎帝が言うと青龍は龍のまま湯に飛び込んだ サバァァァァンと湯が飛び跳ねた 金龍は「青龍!」と怒った 赤龍は金龍に「甘えてるんだ放っておけよ親父殿!」と言った 「赤龍……青龍はあぁも我が儘なのか?」 「炎帝が甘やかすからな……」 青龍は炎帝を抱き抱える様に蜷局を巻いていた ………その様は……お世辞にも……ラブラブとは言えなかった まるでホラーだった だが炎帝は幸せそうに笑っていた 「炎帝……君の裸を誰にも見せたくありません!」 「………なら炎帝の家の湯殿に移るか?」 「そうですね! でなくば、君に悪戯も仕掛けられません!」 「もう少し治ったらな!」 炎帝は赤龍のヒゲを掴むと口吻けた 「炎帝……」 龍が口を開けてパクッと食べそうになる 炎帝は笑って龍の口先に口吻けた 金龍はそれを見ていて…… 「炎帝は本当に青龍を愛してるのだな……」と呟いた 龍族でも忌み嫌う姿をこよなく愛す…… 「炎帝……君を抱きたいです!」 傷が痛んで抱けなかった日々が青龍を堪らなくさせていた 「………青龍……オレんちまで跳ぶか?」 「跳びます! 親父殿!僕は炎帝の邸宅に行きます 炎帝と夫婦生活を再開させます!」 そう言い炎帝を頭に乗せて…… あっという間に飛び去った…… 「………理性派だと謂われた青龍は…… 妻の前では獰猛な獣にしかならぬか……」 金龍がボヤくと……赤龍が 「愛し抜いた妻だからな……多目に見てやれよ! 夜には炎帝の家に押しかければ良いって事だろ?」 「では夜には押し掛けましょう…… 銀龍……産後の肥立ちに効くのでよーく浸かっておきなさい!」 金龍は銀龍とイチャイチャ始めて…… 黒龍と赤龍は湯から出た 「………兄貴……んとに……この親子は似た者で困るな……」 赤龍がボヤくと黒龍は 「………金龍と銀龍は……魔界随一のおしどり夫婦なんだからな仕方がない……」 と諦めの境地だった 遠巻きに見ていた一族の者が黒龍に近付いた 「青龍様はどちらへ逝かれたのですか?」 「妻と夫婦生活に突入する為に炎帝の邸宅に行ったみてぇだな……」 とアホらしい!怒りながら言った 赤龍は笑って 「青龍は誰よりも我が父金龍に似て愛妻家だ 妻しか愛さず、釣った魚に餌を与え続ける夫の鏡だ あんなに愛されれば……疲れ果てそうだけどな……炎帝は青龍を愛して受け止めてる 炎帝のストッパーは青龍だ! それ程にあの夫婦は愛し合ってる 炎帝は青龍の龍の姿にベタ惚れだ 鱗の一枚たりとも美しい……と言ってのけるのは……魔界では炎帝しか思い付かねぇな」 と二人の激愛ぶりを語った 「………炎帝様は本当に青龍様を?」 「愛してるさ! 青龍しか愛せねぇ程にな!」 「………炎帝様は……我等を怒っておいででしょうか?」 「アイツが怒るかよ?」 赤龍はそう言った 黒龍も「だな、アイツはそんな事で怒らない…」と悲しそうに言った そして言葉を続けた 「炎帝と言う奴は誰よりも自分を知っている 自分が驚異だと知っている 自分は創られし存在だと知っている たから皆が畏怖しているのも知っている 炎帝が怒るとしたら青龍を傷付けられた時だけだろう…… アイツは誰よりも青龍を愛していて…… 青龍を傷付けられれば……暴走する ストッパーをなくす事になる…… そしたら誰も止められない…… だから我等は青龍をなくせないと想っている 閻魔も青龍がいればこそ……だと解っている」 黒龍の話を一族の者は興味深そうに聞いていた 赤龍は黒龍に 「兄者、閻魔の邸宅で夜まで過ごそうぜ! 流生達も待ってるからな!」 と声をかけた 黒龍もそれには乗り気で 「雪に言って終わったら知らせる様に申し付けておくとしようぜ! でねぇと見たくねぇ場面に出くわすからな!」 黒龍はワクワク歩き出した 赤龍も一緒に歩いて行き、龍になり閻魔の邸宅まで飛んで逝った 閻魔の邸宅に行くと…… デレデレの健御雷神と天照大神がいた 閻魔も流生達にメロメロだった 子閻魔は翔に何かとライバル心を剥き出しにしていた 音弥が一生を見付けると 「かじゅ!」と言い近寄ってきた 「音弥、良い子にしてるか?」 「ちてる!おとたんはいいきょ!」 「そっか!音弥は良い子だよな」 赤龍は音弥を撫でた 朱雀は太陽と大空を膝の上に乗せて閻魔と何やら話していた 閻魔は黒龍に気が付き「炎帝は?」と問い掛けた 「………今頃は最中だろうな……」 と苦笑した 「そうですか………黒龍、お前は誰かといなくてよいのか?」 閻魔は黒龍を揶揄した 「俺がフラれたの知ってて言ってる?」 「お主の場合フラれると言うより…… 優先順位を上げぬからであろう 誰でも自分が優先されたいモノだ」 「………良いんだよ 優先順位1位は決まってるんだから……」 「………黒龍……我は……お主も幸せになって欲しいと願っておる……」 「アイツが生きてれば……それで俺は幸せなんだ……放っておけ……」 「………黒いの……お主は赤いのと同じで……不器用だのぉ……」 「龍は似るんだ」 「………そうか……ならそう言うことにしておこうぞ!」 閻魔はそう言い笑った 朱雀は……笑えねぇでしょ……と心の中で呟いた 閻魔は朱雀の方を見て笑った 「お主も……誠に……同類だな……」そう言いクスっと笑った 子閻魔がふんぞり返っていると翔が殴り飛ばした 子閻魔は泣いたフリして翔を睨み付けていた 「らめ!にゃっちぇにゃい!」 翔は「なってない!」と怒った その後も何かにつけて子閻魔は翔にライバル心を剥き出しにして突っ掛かって行って怒られていた 閻魔は何も言わなかった それどころか流生に「麒麟(きりん)」と名を教えた 「ちりん?」 「そうです!名を呼べば呪縛出来るので呼びなさい!」と知恵まで与えた 朱雀が「……麒麟?……雷帝じゃねぇのかよ?」と疑問を口にした 「我が妻が始祖の血を持つ女神のなのだ 始祖の血は魔族の血を始祖へと還した それで生まれたのが子閻魔だ だが魔界の習わしで雷帝以外は閻魔は継げぬ だから子閻魔と呼ばれておるのだ 雷帝は次に産まれてくると炎帝が申すから魔界は安泰であろうて!」 それで納得した 炎帝が反対を押し切って妻に据えたと言うのが理解出来た 閻魔は「客間を提供いたそう!」と話を変えた 「赤龍、黒龍、朱雀、慎一、悠太は客間に泊まって逝けば良い…」 閻魔は上機嫌だった 誰もが子閻魔を特別にする 自分は特別ではなく、特別な事をする為に生まれて来たのが解ってない 叩かれて泣けば側近が来る だから敢えて泣く ずるい子になったと閻魔は残念がっていた 「らめ!」 ビシッと翔は子閻魔の頬を叩いた 側近の者が翔を排除しようと動いた すると赤龍と朱雀が翔の前に出た 「この子は炎帝の子! 排除などしようものならお前が消されるぞ!」 と朱雀は側近に申し付けた 側近は炎帝と聞いて……引き下がった 朱雀は子閻魔の首根っこを掴むと 「てめぇ、わざと泣くのは感心しねぇぞ!」とお尻を叩いた 「うわぁん~わぁん~」 子閻魔は泣いた 「………朱雀様……分を弁えなさい その方は未来の閻魔に御座います」 側近が呟くと何処からか声がした 「そんな風に育ててるから付け上げるのだ 朱雀に手を出すなよ? 朱雀に手を出せば……炎帝が黙っちゃいねぇぜ!」 神々しく姿を現したのに…… その口の悪さは弥勒だった 「転輪聖王……」 側近は……恐れをなして部屋を出て逝った 「魔界の者は情けねぇ奴に成り下がったな 閻魔になるから特別? その特別をクソに育てて使えねぇと判断したら消すしかねぇって誰も解っちゃいねぇ」 閻魔は弥勒に深々と頭を下げた 「………躾がなってませんでした……」 「なってねぇのレベルじゃねぇな 炎帝、視てんだろ?」 『オレの子を排除しようものなら…… どうなるか見せ付けてやろうと想っていた』 炎帝の声が響き渡った 「子閻魔は八仙の処へ修行に行かせるか?」 『少しまて……そしたら呼ぶ……』 「伴侶殿と最中に悪かった……続けて構わぬ」 弥勒はそう言い笑った 「このガキは炎帝が来るまで保留だ!」 子閻魔はニヤッと嗤って弥勒を蹴り飛ばした 「触るな!」 子供の顔をしていた子閻魔の顔付きが変わった 音弥は弥勒の処へ急いだ 「みりょきゅ!」 「音弥……どうした?恐かったか?」 弥勒は音弥を抱き上げた 音弥は怒り狂っていた 翔を馬鹿にして弥勒を蹴り上げた事に怒っていた 翔は弥勒の足元に来た 「おとたん らめ!」 翔は叫んだ 流生も音弥の傍に行った 太陽と大空も音弥を心配した 音弥は妖炎立ち上げていた 弥勒は「………すげぇ力だな……」と呟いた 「みりょきゅ いらい!かわいちょう!」 弥勒が痛くて可哀相だと音弥は怒っていた 弥勒は音弥を抱き締めた だが「ゆるちゃにゃい!」と怒りは増幅していった 閻魔は「………九曜神の一柱になられる方でしたね……」と今更ながらに九曜神の威力を知った 子閻魔は恐れをなしていた 「音弥、止めろ!」 静まり返った部屋に炎帝の声が響き渡った 振り返ると炎帝が立っていた 炎帝は弥勒に近寄ると音弥を抱き締めた 「音弥、力を使ってはならぬ」 「………かぁちゃ……みりょきゅ……いちゃいにょ…」 音弥は泣いた 「大丈夫だ!後で弥勒の手当てしとくからな!」 「かぁちゃ おとたん わりゅいきょ?」 「音弥は良い子だ 弥勒が痛いって想ったんだな」 音弥は頷いた 炎帝は弥勒に音弥を預けると…… 子閻魔を掴み上げた 「子閻魔久方ぶりだな!」 子閻魔はそっぽを向いた 「叔父に挨拶も言えねぇ奴に成り下がったか……炎帝なんて相手しなくて良いって側近に教わったか?」 炎帝が言うと側近達は脱兎の如く逃げ出した 弥勒が統べての扉を閉めた 「子閻魔、おめぇには特別な奴に仕込んで貰うとするか! 元々閻魔を継は雷帝と決まってるんだよ おめぇは次代の閻魔と持て囃されたが、閻魔にはなれねぇんだよ!」 「え?‥‥」 子閻魔はそんな事は聞いてないと不安になった 「弥勒」 炎帝が言うと弥勒は魔方陣を出した 青龍は妻の傍に立っていた 炎帝は誰も聞いた事のない呪文を唱えると…… 魔方陣の中に…… 聖獸と謂われる麒麟が姿を現した 五行の麒麟と謂われる…… 今は伝説にしかならぬ麒麟を…… 木=聳孤(しょうこ)<青(緑)の麒麟> 火=炎駒(えんく)<赤・紅の麒麟> 土=麒麟(きりん)<黄色の麒麟> 金=索冥(さくめい)<白の麒麟> 水=角端(かくたん)<黒の麒麟> 炎帝は呼び出した 麒麟は炎帝の前に行くと 「久方ぶりだな炎帝」と声をかけた 「元気そうでなによりだ五行の麒麟」 「要件を窺おうか?」 「この子供は魔界を担う一柱となる子だ 次代の閻魔を支える存在になる筈だった」 「………珍しいな……魔界に麒麟が産まれるとは聞いてはおらぬ……」 「始祖の血を持つ女神と契らせた 閻魔の古き血が麒麟を生み出した」 「………始祖の血を……… それで納得じゃ……」 「この子を預かって鍛え上げてくれねぇか? 力の使い方を間違えてしまっている このままで逝けばクズにしかならぬ そしたらオレが狩るしかねぇかんな…… 頼めるか?」 「………狩ると聴いたなら……申し出を受けるしかないではないか! 麒麟を狩らせるのは……忍びない 我等に預けると言うなれば…… 力の使い方を、礼節を叩き込むとしようぞ」 「頼むな!オレが魔界に還ったら五行の麒麟も共に還るとするか?」 「………それは勘弁……我等は決められた道にいればよい…… 五行が狂う事がなければよい 今更……表舞台になど立つ気はない」 「残念……」 「だがお主が求めるなれば我等は何をおいてもお主に協力する! そう決めておる お主が八雷神を導いた時からそれは決めておる……」 「………ありがとう麒麟……」 「ではその者を預かろうぞ!」 炎帝は子閻魔を掴むと麒麟に渡した 罵詈雑言言っていた子閻魔ごと……麒麟は消えた 閻魔は炎帝に「………悪かった……」と謝った 「その……エッチの最中だったのであろう?」 「いやまだ犯ってねぇ! 湯殿で青龍とまどろんでいた」 「そうか……そんな時に悪かったな」 「それより兄者、魔界は……変革期を終えたのではないか?」 と問い掛けた 閻魔は仕方なく 「………変革期……で魔界は確かに変わった…… だが……膿は出し切った訳ではない……と言う事だ……」と答えた 閻魔は……炎帝に気づかせる気はなかった 「そう言う事か……龍族も出て逝った奴等が何か仕掛けて来そうだしな…… まだ本当の変革期は終えてねぇって事か?」 炎帝が言うと黒龍が 「変革期を乗り越えたからこそ出て来る問題であろう…… 何度も何度もふるいに掛けねば…… 本質など視えては来ぬと言うもんだ!」答えた 炎帝は健御雷神に問い掛けた 「………オレが知らぬだけで色々とあったと言う訳か?」 「…………そうだ……お主には知らせたくないと閻魔が申すからな……口にする事はないと想っておったが…… 変革期を終えて……めでたしめでたし……と言う事にはならなかった 最近は……次代の閻魔を懐柔しようとしてか…………子閻魔にあらぬ事を吹き込んだり…… 目に見えぬ所で……画策されておった 子閻魔は閻魔を継げぬと解っていて‥‥ねじ曲げん勢いに‥‥不穏な空気を感じておった所だ」 と日々の心労を口にした 「………そう言う事か……」 と炎帝はため息を着いた 天照大神も……… 「………子閻魔は日々傲慢になって行った 蓮華を見下し……蓮華は……病に伏せった 身分の低い者が傍に寄るな……と申すのだからな……ショックであろう… 軌道修正を計ろうとしても……… どうにもならなかったのじゃ…… 側近の者は‥‥まるで閻魔よりも持て囃し仕えておるからな、錯覚するなと謂うのが間違いであろうて‥‥ 炎帝……そなたが傷を癒やしに来ると解っていても…… 何処かで……期待しておった…… この現状を正してくれるのは……炎帝だけだと想っておった………」 天照大神は日々の心労を滲み出して呟いた 「黒龍、側近をこの部屋に集めてくれ!」 炎帝が言うと弥勒は 「この屋敷からは出られぬ様にした 逃げてるのを捕まえて来ればよいのだ!」と言い赤龍を摘まみ上げた 「一生、殴り倒して良い 捕獲して来いよ!」 「了解!」 赤龍は嬉しそうに呟くと 「朱雀、慎一、兄者逝くぜ!」と朱雀と慎一と黒龍を引き連れて部屋を出て行った 「この屋敷には皇帝閻魔の結界が張り巡らされておる…… 破るのは至難の業……と言う事は…… 外に出た時に懐柔した?……しかあるまいな」 弥勒は腕を組み思案していた 炎帝も「それしかねぇな……」と考えにたどり着く先はそれしかないと考えた 「………迦楼羅……が噛んでおると想ってよいのか?」 「……どうだろ? オレが魔界に来るように……仕向けたかったのは確かだな 子閻魔を懐柔して手がつけられなくして…… 炎帝を魔界に呼ぶ……そんな筋書きだったのかよ?」 「多分そうであろう……… だが撃たれた傷が治らず想ったより早めに魔界に来た……と言う事か?」 「………だな……オレを魔界に来させて何がしてぇんだ?」 「…………目的が見えては来ぬから何も言えぬな……」 「………心当たりならある……」 「なら早く言え」 「天竜八部衆……神の柱をオレが知らねぇか……探りを入れてるのかな?」 「………天竜八部衆……それは迦楼羅以外は消滅した神であろうて……」 「転輪聖王、神は魂がなくなるとどうなると想う?」 「冥府に逝くのじゃないのか?」 「そうだ!それはあくまでも魂の話だ 神の力はどうなると想う?」 「………魂…力も…神の魂は冥府に還るのではないのか?」 「神の魂は冥府を渡る それは間違っちゃいねぇ…… なら神の力は……そうじゃねぇ?」 「………魂と共に逝くのではないのか?」 「神の力は継承だ…… 皇帝閻魔が冥府に渡った時……閻魔の力を 兄者に総て託した様にな そうして閻魔は何代も継がれて来た」 「………皇帝閻魔は………閻魔に力を継承したんだろ?」 「………総てを託して冥府に渡った筈だぜ?」 「………なれば……あの力は……何故……」 「親父殿は……冥府で力を継承したから絶対神になられた…… 神の力は即ち継承…… 迦楼羅は天竜八部衆を創り上げたい だが魂の柱(コア)がない…… 天竜八部衆は不完全なモノにしかなれねぇからな…… 炎帝が魔界に来るのを手招きして待ってたんだろ?なぁ、迦楼羅」 炎帝は誰もいない所を見つめて嗤った 炎帝と弥勒以外には見えていなかった 迦楼羅………と呼ばれ……ソイツは姿を現した 「流石、傀儡は目も利きますね」 嫌味を垂れ流して……立っていた 「迦楼羅、オレは唯の傀儡じゃねぇぜ? 先頃オレは親父殿から体躯の一部を貰い受けた それでオレの体躯は八割戻った 完全体に近い状態になった訳だ! だからな……ただの傀儡と訳が違うんだよ! おめぇが見ていた頃のオレは中身も詰まっちゃいなかった だが今は青龍の愛が詰まってんだよ!」 炎帝はそう言い嗤った 見るからに……力の差は歴然だった…… 昔………魔界で見た頃と全く違っていた 迦楼羅は下手に長引かせるより単刀直入に切り出した方が得策と踏んだ 「天竜八部の柱を還せ!」 「オレは持ってねぇ!」 「………神の柱を力ごと持ち去れるのは…… 炎帝、お前しかいない……」 「それだけオレの実力を買ってるって事かよ?」 炎帝は馬鹿にしてフンっと嗤った 「傀儡はそう言う事は得意だろうと言っただけだ!」 「さっきも言ったが、傀儡と馬鹿にしてられなくしてやろうか?」 炎帝の体躯から炎が燃え上がった 姿を変えて………炎帝は嗤っていた 真っ赤な髪と真っ赤な瞳をした皇帝炎帝が…… そこに立っていた 「我の名は皇帝炎帝! 柱が欲しければオレを倒して逝けよ!」 皇帝炎帝は馬鹿にするように言った 迦楼羅はジリッと後ろに下がろうとした …………が………いつの間に出したのか…… 足下には魔方陣が出ていた 迦楼羅は魔方陣の真ん中に立たされていた 「………何時………魔方陣を出した!」 迦楼羅は叫んだ 「その魔方陣は、お前が姿を現した時には在った!」と嗤った 「………嘘をつけ!」 「嘘をついても徳なんかしねぇのに着くかよ お前が姿を現す瞬間、転輪聖王が呪文を唱えた!」 転輪聖王……… 名は聞いた事はあるが…… その姿は……決して目にする事はない 存在するのに姿はない神だった 「………転輪聖王……そんなモノが存在するというのか?」 「存在してねぇってよ? おめぇ……姿を出さねぇのにも程がねぇか?」 「姿を出すと色々と面倒なんだよ 転輪聖王、そんなのいたの?……その程度の神でよい!」 「んとに……おめぇはよぉ……」 炎帝はボヤき……魔方陣に沿って炎を立ち上らせた 「迦楼羅……オン・ガルダヤ(ギャロダヤ)・ソワカ!」 炎帝は迦楼羅の真名を口に出して唱えた 迦楼羅の動きは……封じられた 「おめぇに教えてやろう! 天竜八部衆は先がないと解ると閻魔を訪ねて炎帝に逢わせてくれと頼んだ オレが逢うと天竜八部衆の神々は…… 自分の死期が近い事を告げ…… 死した後、自分の力の柱(コア)を炎帝に託す……と言い残して冥府を渡った 天竜八部衆の奴等は言った 『我等の死後、迦楼羅にだけは渡さないで下さい!』と託して逝った オレは託されたんだ それをお前になんか渡すと想うのか?」 迦楼羅は………初めて聞かされる事に唖然となった 「………我は……仲間に嫌われておったのか?」 「そう言うんじゃねぇ! 嫌いとか……そう言うレベルじゃねぇ! 自分の力を死した後も……責任を負わねばならぬと想っていたからこそ、正しい道へと導いてくれと頼まれたんだよ!」 「………アイツ達は……炎帝を傀儡と言っていたのに……お前に頼んだと言うのか?」 「それはオレには解らねぇ……だがオレは託されたから……それに従っただけだ!」 冷酷な瞳に……見られて……迦楼羅は覚悟を決める…… どの道還る道などないのだ……… 「………炎帝……一つだけ尋ねたい事があります」 「あんだよ?」 「天竜八部衆の皆は……苦しまず…幸せな想いを抱いて逝ったのですか?」 「苦しんで逝ったかは自分の目で確かめて来い!」 炎帝はそう言い呪文を唱えた すると…迦楼羅の体躯は崩れ落ちた 崩れる寸前、弥勒がその体躯を抱き止めた 炎帝は魔方陣を消し去ると 「兄者、そこのソファーにでも寝かしてといてくれ!」と頼んだ 「弥勒……迦楼羅を視たが……コイツじゃねぇぞ?」 「皇帝閻魔の結界の上にあやかしで上書きしたしたのは……… 迦楼羅ではないな……なら誰?」 「それを今知恵を絞っても出ては来ねぇよ! 聡一郎、慎一、子ども達を頼む…… 絶対に離れねぇでいてくれ…」 炎帝は黒龍に目配せをした 黒龍は頷いて赤龍と共に消えた

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