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第92話 粛正 IN魔界①
炎帝の邸宅で飲み明かして目醒めると朝になっていた
「………もぉ朝かよ?」
炎帝は起きると伸びをして、応接間を見渡した
子ども達は雪が寝かせに行ったが、大人はデロデロに酔い潰れていた
黒龍は朝から元気な炎帝を掴まえて……
「元気かよ?」と言い頬にキスを落とした
「元気だぜ?」
「痛みは?」
「だいぶ薄れた」
「なら良かった!」
黒龍は振り返ると青龍にも声を掛けた
「痛くねぇかよ?」
「痛くないです」
「それは良かった」
黒龍は立ち上がると死屍累々を回収して、閻魔の邸宅へと雪崩れ込んだ
青龍は炎帝を引き寄せて
「辛くないですか?」と尋ねた
「辛くねぇぜ!
オレは何時でも青龍に愛される存在でいてぇんだよ!
だから身も心も愛されてオレは満足だぜ?」
「僕も……満足です…」
「なぁ青龍……」
「何ですか?炎帝」
「おめぇ……魔界にいた時は……一人称は『私』だったよな?」
「ええ。ずっと、『私』でしたね
でも瑛兄さん位なら違和感ないでしょうが……僕の年でそれをやると違和感ありますよ?」
「だよな……」
「どっちが好きですか?君は?」
「オレは『僕』って言うお前が好きだ
魔界にいた時には聞いた事がないからな……ふと思い出しただけだ……」
「僕は君が好きな方で喋ります
君しか愛せませんですからね」
「オレもお前しか愛せねぇ……」
二人は寄ると触るとキスして……
イチャイチャ始まる
黒龍は炎帝の首根っこを掴み食堂に向かった
食堂には摩利支天が座って黙々と食事していた
「………摩利支天……どうしたよ?」
炎帝が声を掛けると摩利支天は困惑した顔を向けた
「……これより……瑠璃姫とお見合いだそうです……」
「お!めでてぇやん!
素のままでいれば良い
下手に自分を作ったりせずに素のままでいれば良い……」
「………はい……」
「摩利支天、目線の高さを瑠璃姫に合わせて、瑠璃姫に自分の言葉で話をしろ
縁とは自分で繋いでいかねば結ばれはせぬぞ?とにかく緊張をとけよ!」
「…………心しておきます」
炎帝達も食指を始めると、いつの間にか来たのか毘沙門天が炎帝の前に座っていた
「いつ来たんだよ?」
「今 お前の覇道を辿ったら此処だから来た」
「あにがあった?」
「お前が放ってある聖獸……殺られたの知ってるか?
俺はたまたま魔界に用があって向かった時に目撃した
見た事もない男が……ニーズヘッグを殺害せんとしていた……
見られてると解ると俺を追って来たからな俺は逃げた……その後見に行ったら……ニーズヘッグの屍があった……」
「おめぇニーズヘッグの由来してる」
「嫌‥‥」
「古エッダの巫女の予言には、ニーズヘッグがナーストレンドで死者の血をすすることが書かれている
この蛇はラグナロクを生き延びるとされている
『巫女の予言』第66節に、終末の日に翼に死者を乗せて飛翔する黒き龍とされている
ニーズヘッグは既に命のない存在……
それを殺ると言う事は……消滅させたという事だ
ニーズヘッグの消滅……
それは……総ての世界の終焉に救いを断たれたと言う事だ……」
事は重大だと……暗に言っていた
「………炎帝……めちゃくそヤバいって事か?」
「そっか……聖獸を片付けにかかったか……
あんなの放ってあったら好き勝手に出来ねぇもんな……」
「どうするんだよ?炎帝……
俺はお前の望み通りに動くつもりだ!」
「待てよ毘沙門天
放ってあるのは影だ
本体は冥府に存在している
でも影でも疵付けられれば……本体はダメージがあるな……」
「…………魔界……何か変だよな……」
「どこら辺が?」
「空気がよどみ始めてる……
霧が立ち込める様になって来てる
霧がでる日は……各地で小競り合いが続いてる
俺は……今は小さな小競り合いだが……
内乱に勃発しねぇか危惧してる……」
「毘沙門天、魔界を見ていてくれるんだな
あの日の約束通りに気に掛けてくれているんだな
ありがとうな」
あの日、十二天は魔界に還ると宣言した
炎帝の代わりに魔界を見ていくと約束した
それを実行に移してくれているのだ……
「毘沙門天、少し頼まれてくれねぇか?」
「あぁ、何でも頼まれてやる」
毘沙門天が言うと瑛太は、毘沙門天の耳元で
毘沙門天にしか聞こえぬ声で用事を告げた
食事を終えると毘沙門天は何も言わず出て行った
炎帝は閻魔の邸宅の応接間へと向かった
応接間には既に客人が来ていた
迦楼羅と九曜神がソファーに座っていた
「迦楼羅、目が醒めたかよ?」
「はい……仲間の想いは解りました……」
迦楼羅は意識の奥深くに仲間の想いを視せられた
真実は案外見えていなかった
仲間は……迦楼羅の暴走を止められないのを知っていた
迦楼羅を止められないなら……
止められる人に頼むしかないと閻魔に託した
閻魔に頼めば炎帝が軌道修正をしてくれる……
一縷の望みに総てを託した
「迦楼羅、天竜八部衆の柱は、八部衆になるべき器に収めた
天竜八部衆は終わらない
お前達天竜八部衆が去ったとしても受け継がれて逝く
それをお前の同胞は願ったんだよ」
「………炎帝……我が……死したらその時は貴方に総て託します!」
「その前にお前はやる事がある
天龍八部衆はこの魔界に蘇った……
お前の同胞はその中で生きている
逢えば解る……
お前は崑崙山へ逝って同胞に逢ってこい
虹龍、青龍、黒龍、地龍、天龍、蜃龍……
そして難陀はそのまま転生を果たした
今 崑崙山に揃っている逢ってこいよ」
「………炎帝……すみませんでした……」
「迦楼羅」
「はい!」
「生あるうちは龍族に還れ」
「無理に御座います……」
「金龍は受け入れてくれると想う」
炎帝はそう言い金龍を見た
金龍は迦楼羅を見て……何やら思案していた
そして「迦楼羅、一族に戻って参れ!」と迦楼羅に告げた
「………金龍……それは……出来ませぬ……」
「我は龍族の長
我が死した後は黒龍が龍族の長になる
龍族は団結する必要がある……
バラバラでは……この先閻魔のために働けはしない
団結して戦おうではないか迦楼羅」
「金龍……一族が許してくれるなら……」
「話は決まったな!
さてと瑠璃姫を連れて来て見合いをせねば」
金龍はウキウキしていた
炎帝は「見合いは金龍、お主が総て世話をして瑠璃姫を嫁がせてやってくれ!」
「炎帝は?」
「オレは音弥を何とかしねぇと……
人の世に還れねぇじゃねぇか……
九曜神も来てくれたしな、九曜神と対策を練る」
炎帝が言うと摩利支天が「……九曜神……本当に存在しておったのか?」と驚いた声を上げた
「摩利支天、この世に名ばかりの神などおらぬ!
名が在ればそれは何処かで存在しているんだよ!」
唖然とする摩利支天を引っ張って…金龍は健御雷神と閻魔の邸宅で一番良い部屋へと向かった
炎帝は九曜神に「待たせたな」と挨拶した
「力を解放したのであろう……
魔界で……強い力を感じた……
この子はコントロール出来ぬのか?」
「修行を始めたばかりだ……
コントロールはまだ……無理だ
だけど力を爆発させた事は一度もない……」
「炎帝、此処が魔界なれば……ある程度の力は押さえ付けられるだろう……
だが……あれを人の世でやれば………
建物は崩壊して……人は死ぬ……
解っておるのか?炎帝!」
「解ってるさ!
………解ってるけど……オレは音弥の力を過小評価していたのかも知れねぇ……」
「………閻魔が封印したのか?」
「転輪聖王にも封印させた……
だけど……そんなモノ……力を爆発させた音弥の前には皆無だった………
オレは……音弥を……此処に残さねぇとならねぇのか?」
炎帝は泣いていた
「この子は……お前の息子の……四季の後継者となる!
この子の中には……九曜神の血と飛鳥井の魂が組み込まれている
オレは適材適所配備するが務め!
音弥の代わりはいねぇんだよ
………果てが歪む……
それだけは避けたい……
隼人の血を与(くみ)し音弥は神楽に収まる
九曜の血は脈々と受け継がれて未来へ繋げる……
それが途絶える……それはさせたくねぇんだよ……」
「………力をコントロール出来ねば人の世に還れは出来ぬ……
それが世の理だ炎帝、解っておるな」
「………音弥は……人の世に還れないのか?」
「………今のままでは無理であろう……」
「人の世で修行をさせる!
それでもダメだというのかよ!」
「制御出来るようになる前に………
力を爆発させたらどうなるか解っておるであろう?」
炎帝は顔を覆った
「………連れて来なきゃ良かった……」
炎帝は泣いていた
「………オレが魔界に連れて来たから……
音弥は力を爆発させてしまった……」
「炎帝……そうではない……
人の世で、もし爆発させてたら?
そうなった時お主はどうするのじゃ?
インジケータを吹っ切った時……音弥はセーブ出来なくなったら?
お主はどう考えておったのじゃ?」
「海路……音弥はまだ3歳だ……
翔はかなりキツい修行を始めた
それでもオレが受けた修行よりは……
かなり緩い……
だが子供に鞭打って修行をさせてどうなる?
オレは修行の日々が嫌だった
なんで……こんなに辛いんた……と心が折れそうになった……
だから翔は3歳になるまで修行はさせなかった……
3歳になって少しずつ修行を始めた
そのうち黙ってても修行は厳しくなる……
オレは鬼にならねばなねぇ……
解ってんよ!そんな事は!
でも……人として生きたいと願って何故悪いんだよ!
音弥は………まだ3歳だ……
そんな子供に……地獄の修行をさせてぇ親なんて何処にもいねぇんだよ……」
炎帝を青龍は抱き寄せた
青龍の胸に抱かれる炎帝の体躯は震えていた……
九曜神は苦しげに瞳を閉じた
青龍は九曜神を睨みつけ
「炎帝は………いいえ、飛鳥井康太は我が子の為なれば命を懸ける覚悟なら何時も出来てるのです
我が子が暴走したら己の命を賭してでも助けると決めている
それは僕も同じです
我が子を誰よりも愛しているのは飛鳥井康太なのです
僕も我が子を愛しています
我が子の為なれば……
命を懸ける覚悟は常にある!
朱雀だって赤龍だって……司命だって……
その時が来れば康太を助けて散る覚悟なら出来てるんです!
人の世で暴走などなせません!
我等が生きていて……
そんな事は皆無です
我等が死ぬまでにコントロールを身に付けさせれば良い
難しい事ではないのです
修行の厳しさ辛さを知っているのは康太です
我が子には……子供らしく生きてて欲しいと想うのは当たり前なのではないですか?
成長すれば嫌でものし掛かってくるのです
子供のうちは子供らしく育てたい
そう思ってはいけないと言うのですか?」
青龍は涙を流して……九曜神に突っ掛かった
九曜神は困惑した顔をして……
「青龍殿……九曜の力……人の世には不要です
だが……力を……柱にして封じ込めるとしたら……
それはもう……皆の知る音弥ではなくなる……
炎帝はそうする事は避けたいのであろう……
なれば……他の索を探らねばならぬ……」
「魔界には2週間しかいられません
2週間魔界にいれば人の世は一ヶ月は過ぎていく……
それ以上は無理です……
2週間経てば……僕は音弥も連れて人の世に還ります
その時は……誰が止めようとも……僕は連れ帰ります!
僕達を敵に回せると想うのでしたら……
やってみると良い!
僕は………昔よりは遙かに力を増しております
炎帝と契った日から……僕は炎帝の力も継承した事を忘れないで下さい!」
青龍は妻の為に喧嘩を売った
朱雀は……理性派の青龍が啖呵を切る事などないと想っていた
「ほほう!青龍殿の啖呵ですか!
珍しいモノが見えましたな玄武」
ガハハッと笑う人物を見ると白虎だった
青龍は「……白虎……玄武……」と呟いた
白虎は「司禄が青龍達が還ってると言ってたからな、遊びに来たのだ!
それだけではないがな……炎帝、お主に話もあった」と声を掛けた
玄武は「………炎帝……泣いておるのか?誰が虐めたのだ?おじさんが仇を取ってやる!言ってみろ?」と息巻いて言った
朱雀が「お前ら少し黙ってろ!」と言いソファーに無理矢理座らせた
九曜神は「………伴侶殿に宣戦布告されては……こちらも考えねばならぬな………
炎帝……暫し時間をくれぬか?
お主達が魔界から還るまでに……答えを用意して参る!」と言い残して消えた
白虎は「九曜神だろ?今の……何かあったのかよ?」と問い掛けた
青龍は妻を抱き締めたまま……
「………我が子が……力を爆発させてしまったのです……
それで……人の世に還れぬと言われて……」
と青龍は説明した
玄武と白虎は居住まいを正すと
「「炎帝殿に話があって来た」」と切り出した
炎帝は顔を上げた
もう泣いてはいなかった
「魔界がおかしいって言うんだろ?
霧の立ち込める日は暴動や争いが多い……
魔界の皆が不穏な空気を感じてる……」
炎帝が言うと白虎が「そうだ!」と頷いた
「お前達はそれをどう見るよ?」
逆に炎帝から質問されて白虎は
「目に見えれば対策は出来るがな……
手探りの模索では……
どう動いて良いか解らねぇんだよ」と告白した
玄武も「不穏な空気は感じている
だが………何処で何があったかと言えば……
些細な暴動や喧嘩だ……
もっと目に見えない……不安が襲うのに……
口で説明が出来ない事ばかりだ……」と訴えた
「閻魔の邸宅の使用人が主や家族に従わなくなった
閻魔の子供を主と拝み立て……天狗にさせた
能なしの子閻魔は……あのまま育てば狩るしかねぇ不出来なバカに成り下がった
だから五行の麒麟を呼び出して預けた
主に従わぬ使用人など不要!
だが次を入れても同じ事になったら……
何度入れ替えようとも同じにしかならねぇからな……
今 一部屋に閉じ込めて様子を見てる
多分……傀儡は指示をなくせば……唯の人形にしかならねぇ……
自分達の目的の為に……
中身を殺したんだよ……
閉じ込めた使用人は………可哀相だが死ぬしかねぇ……
中身がねぇからな……」
炎帝が言うと白虎は驚愕の瞳を炎帝に向けて……
「………閻魔の邸宅は………冥府に渡った皇帝閻魔が……
結界を張ったのではないのですか?」と尋ねた
「この屋敷の中は魔界一安全だ
だが……外に出た使用人が中身を入れ替えられたとしたら?
少しずつ本来の業務にも支障は出るし……
歪んで逝くしかねぇよな?
今……暴動を起こしてる輩も同じ事が言えるだろ?
中身をすげ替えられたとしたら?
平穏な魔界に一石を投じる為に……動かされてると言っても良いだろう」
白虎は「………中身を……どれだけの魔族が……入れ替えられてと言うんだ!」と怒りをあらわにして立ち上がった
「………こんな事が出来るのは悪魔貴族と言われし堕天使……それしかねぇと想ってる
天界に住処をなくせば魔界に来るのは解っていた……
お前達……ソロモン72柱を知ってるか?」
炎帝は問い掛けた
すると白虎が「ソロモン王が封印したと言う72体の悪魔の事ですか?」と思い起こしていた
玄武は「………それは……本当に存在するのですか?」と質問した
「ソロモン72柱は本当に存在した
そしてそれを解き放とうと目論む奴もいた
オレは人の世の命を賭してでもそれを阻止するつもりだった
魔界に湯治に来てるのは……その時の傷が中々治らないからだ……」
炎帝の説明に……玄武と白虎は言葉をなくした
玄武は白いヒゲをさすりながら……
「炎帝に問おう
ソロモン72柱は今は……どうなったのですか?」
その問いには朱雀が口を開いた
「ソロモン72柱はもう誰も利用出来ぬ所へ逝った
としか言えねぇな
もう、何人たりともソロモン72柱には触れる事は無理だ」
朱雀の言葉に玄武は問い掛けた
「お主はそれを見届けた…と言う事か?」
「そうだ!」
白虎も「そうか……ここ数年……オリンポスの神の復活が囁かれてる……
それも無関係ではない……と言う事か?」
と問い掛けた
「そうだ!悪魔貴族と呼ばれし輩はオリンポスの12神の復活を試みた
だが……オリンポスの神々は……消滅する事を選んだ…
その力もろとも……彼等は消滅する事を望んだ
だが神は消滅しても力は遺る……
だからオリンポスの神々は力を分散化させて……飛ばした
粉々に力を分散化させて飛ばしたんだよ
人の世で能力を持って生まれたりする子はそう言う何らかの恩恵を受けていると言う事だ!」
「なればオリンポスの神々の力を探して手に入れると言う事は不可能と言う事か…」
「そう言う事になる…」
「で、どうするよ?」白虎はニカッと笑って問い掛けた
「反撃に出ねぇと男が廃るんじゃねぇのかよ?」と玄武が炎帝にウィングを飛ばした
「出るぜ!反撃に出ねぇでどうするよ?
蠅を誘き寄せる罠も張っておいたしな
後は、悪魔貴族と呼ばれし堕天使が引っかかれば潰せるな!
今回は潰しても構わねぇと言われてるしな
まずは追い詰めて……反撃のフラグを打ち立てる」
「「乗った!やろうぜ!炎帝」」
白虎と玄武はメラメラとやる気に満ちていた
「で!どうすれば良い?」
と玄武が尋ねると白虎も
「俺達はどうでも動ける」
と負けねぇぞと呟いた
炎帝は「お前らは少し大人しくしてろ!」と一蹴した
白虎は「えぇぇ………大人しく……」とガクッとなり
玄武は「……しておけだなんて…」と項垂れた
「動く時は魔族は総力で挑む
それまでは英気を養っとけと言う事だ!」
玄武と白虎は立ち上がると「承知した!」と言い応接間を出て行った
朱雀は「どう出るんだよ?」と問い掛けた
「ん?オレか?当分は新婚生活を送る!」
そう言い嗤った
「………腑抜けになっとけ!
俺らも手伝うぜ!」
朱雀はそう言い嗤った
「取り敢えず、オレは青龍の家に逝く
朱雀、赤龍、お前らはオレの家で過ごせ
黒龍、金龍、銀龍、お前らは閻魔の邸宅で過ごせ!
何かあれば転輪聖王が出て来る……」
炎帝が言うと閻魔は
「……子供たちは?どうされます?」
「子供たちは青龍の家に連れて行く」
「解りました……どうかご無事で……」
閻魔は立ち上がると深々と頭を下げた
「兄者、庭には出るなよ
庭にいる狐は……水神の所へ放っておいた」
「解りました……」
「では逝くとするするか」
炎帝と青龍は手を繋ぎ、閻魔の邸宅を後にした
慎一が後を追った
「俺もご一緒しましょうか?」
「……なら後ろに乗れ!」
炎帝は慎一を伴って厩舎へと向かった
「天馬、逝くぜ!」
『炎帝、何処までもお供させて下さい!』
そう言い背中を差し出した
炎帝は天馬に跨ぐと慎一の手を引っ張った
炎帝の後ろに乗る事になった
炎帝の前には流生と翔が乗っていた
炎帝は音弥を慎一に抱っこさせた
青龍は太陽と大空を抱き抱えて風馬に乗っていた
炎帝は走り出した
『炎帝、その子達は……?
紹介して下さい』
天馬は炎帝に問い掛けた
「この五人の子達はオレの子供だ!」
『人の世の炎帝は子持ちなのですか?』
「そう言う事になる」
『可愛いです』
「お前達も子育てしてぇってか?
少し待ってろ!お前達に子育てさせてやっからよぉ!」
『………炎帝……オレは産むのは無理……』
「誰がお前が産めって言ったよ?」
『………なら風馬以外と契れと言うのか?
それは嫌だ……風馬じゃなきゃ嫌だ……』
天馬は鼻水を垂らしながら泣いた
「……そうじゃねぇ!沢山生まれた所から貰い受けてやるって言ってるんだよ!」
『………そうか……早とちりした……』
天馬は空を駆けて青龍の家へと飛んでいった
風馬も風に乗り空を駆けて後を追った
青龍の家に到着すると、馬から下りた
青龍は呪文を唱えてドアを開けた
慎一は初めて目にする青龍の家だった
家に入ると湖に面して大きな部屋があった
応接間………と言うにはソファーもなく……
部屋の真ん中にピアノがドデンと置いてあった
青龍は「家具はありません……」と恐縮した
「……人の世に逝ったので処分したのですか?」
「違います……元々こんなんです
青龍はこの家で結婚した妻と住む予定だったのですが……
不便だわ家具はないわ……相手を愛してくれてもしないわ……と言う事で妻となった女は一度もこの家に住む事なく……別れました
私は不便ではないのですが……
あの人達には不便だったのですかね?」
そう言い青龍は笑った
隣の部屋には大きなベッドがあった
「他の部屋はどうなってますか?」
「知りません!」
「………え?……知らないのですか?」
青龍の家だというのに?
「青龍と言う男は……酔って寝るかピアノを弾いてるか……しかしなかったので……
部屋は……此処だけで足りたのです……」
どうみても……この家には他の部屋もありそうなのだけど……
慎一は「………俺や子ども達は何処で寝れば?」と問い掛けた
青龍は困った顔をした
炎帝は「オレもこの家は知らねぇんだよ!
何時も湖の向こう側でしか見てねぇからな……」と言い他の部屋を探しに行くつもりでいた
「ほら、探検だぞ!」
子供達に言い、他の部屋を探しに行った
青龍は大きな一枚窓から……湖を見ていた
そしてピアノの前に座ると…
炎帝に贈っていた曲を弾き始めた
「慎一!二階に部屋がある!」
と炎帝は声を掛けた
慎一は二階へ行く階段を上がって行った
二階には部屋が3部屋あった
「ベッドも布団もあるからな
寝れると想う
この屋敷の管理は黒龍がしてる
だから掃除はされてると想う」
「良かったです」
「子ども達は床に布団を敷くしかないな
クローゼットの中に予備の布団があるからな
それを敷いて寝かせれば良いと想う」
「康太は……二階に来た事がないのですか?」
「オレは青龍の家に入ったのは……
この前……魔界に来た時が初めてだ
オレは青龍の屋敷の向かい側に湖があるだろ?
そこから……青龍の家を見ているだけだった
青龍は何時も……ピアノを弾いていた……
オレが湖の前に立つと何時も青龍の家からはピアノが聞こえていた……」
魔界では恋人同士ではなかったと……康太は言った
こうして聞いてみれば……
そうなのだと……納得できた
子ども達を連れて1階に戻ると青龍はピアノを弾く手を止めた
「布団はありましたか?」
「あったぜ!今夜は此処に泊まろうぜ!」
炎帝が言うと青龍は立ち上がり炎帝を抱き締めた
「食事は……どうしましょう?」
慎一が尋ねると青龍は
「兄達が持って来ると想います」と言い笑った
ピアノが置いてある床に子ども達は寝そべって湖を見ていた
すると真っ白な白鳥が湖に下り立って優雅に泳いでいた
天馬と風馬が湖の岸に立ち
「「スワン!」」と声を掛けた
天馬と風馬とスワンは仲良しだった
子ども達はそんな風景を眠そうに見ていた
棚にはお酒しか……なかった
慎一は一体……どんな生活を送っていたのか……
と心配になった
青龍は炎帝を背後から抱き締めて……
湖を見ていた
「あれはスワンですか?」
「そう。魔界に下り立った」
「そうですか……」
「青龍、また湯殿で洗ってやるからな」
「本当ですか?それは嬉しいです」
「総てが片付けば……還るまでに少しの時間は取れるだろうからな……」
「総て……殲滅されるのですか?」
「殲滅してぇけどな……バランスと言うモノがあると……言われてるからな……
二度と出ねぇように杭を打たねぇとな…」
「……バランス?……どんなバランスなのですか?」
「光には影が付き物だ
光と影……そして闇
闇に生きるのは悪魔だけではない
ヴァンパイアも狼男も……その他の魔族も……
バランスを崩してしまっている
今は闇の方が強くて……影を消してしまってる
そのバランスの悪さは人の世にも影響を及ぼしてるそうだ
例えば狩る者と狩られる者との供給バランス
ヴァンパイアとヴァンパイアを狩るダンピール……
彼等は今まで共存しあって来た
暴走するヴァンパイアはダンピールに狩られる
その宿命だったのに………最近は均衡を無視して無益に殲滅を繰り返してるそうだ……
このままでは……ヴァンパイアは地上から消えるのも時間の問題……
そんな具合に影響を及ぼしてるのは多々とある
総てを殲滅すれば、確かに人の世は良くなるかも知れねぇが…
バランスはなくなる……
光溢れた世界に……影は濃くなる……
濃くなった影はやがて光を飲み込む……
バランスと均衡が崩れつつあると言ってる……
まずは、魔界を正さねぇとな…」
「……君の想いのままに…
僕は何があって君のサポートに徹します!」
「…………人の世が影響受けて……狂い始めてる……急がねぇとな……」
「動きがあると…連絡が入ってるのですか?」
「そうだ……オレ達が住んでる横浜も血で染められるのも時間の問題だ
最近……無差別殺人が……多いと想わないか?
その中には俳優や歌手まで入ってたりする
家族にも遺体すら見せずに密葬で送る……
そんなニュース何度も見てねぇか?」
「言われてみれば……多いですね……」
「殲滅されてんだよ……
堂々と討伐の旗を掲げて……殲滅してんだよ
………このままでは……バランスが取れねぇのと……罪も犯してないのに殲滅されるのは……納得がいかねぇからな……動き出してるんだよ……」
「そうでしたか……
では人の世に還ったら僕も動きます」
「………あぁ……その前に魔界だ……
オレは……お前がいる魔界が好きだ……
青龍の正装に身を包むお前を……ずっと見て来た……
お前をずっと見て来た魔界を……穢す事など絶対にさせねぇって決めてんだよ」
「炎帝……愛してます」
「オレも愛してるかんな!」
青龍は炎帝を強く抱き締めた
スワンと天馬と風馬が仲良く遊ぶ様を見つめながら……
二人は何時までも抱き合っていた
日が傾く頃、黒龍が青龍の家のドアを叩いた
慎一がドアを開けると黒龍は
「最中か?」と問い掛けた
「二人は子ども達と昼寝して、まだ起きてません」
「そうか…なら良かった」
そう言い後ろを見ると「大丈夫だ!」と合図した
ドアを全開にすると黒龍は料理を運び込んだ
赤龍や朱雀、司命も手伝って料理を運び込んだ
その中に悠太もいた
炎帝は良い臭いに誘われて目を醒ました
「腹減った……」
炎帝が言うと流生も「おにゃかちゅいた」とお腹を叩いた
他の子も起きると朱雀に飛び付いた
「ひょーろーきゅん」音弥も朱雀に抱き着いていた
黒龍が「青龍の家はお前達が還るまでに改装しねぇとな……飯を作る所もないからな……」と呟いた
赤龍は「この家に住んでた時って何食べてたのよ?」疑問を問い掛けた
「役務を終えた後、食堂で食べて還ってましたから……この家ではお酒を飲んで飲み潰れて寝てました……」
と刹那い話をサラッと言った
青龍の家は寒すぎた……
家具もなく……
あるのはピアノとベッドのみ………
この家で青龍は炎帝を想いピアノを弾いていたと言うのか……
炎帝は食べ物に食らい付いていた
黒龍は炎帝に
「この先もこの屋敷に滞在するのか?」と問い掛けた
「明日には還る
そして湯治場の近くの宿に泊まり過ごす
魔界にいるうちに……青龍の家に来たかったんだよ……
ずっと湖の向こう側から見て来た家だからな……青龍と一緒に還りたかったんだよ」
黒龍は外を眺めて
「スワン……来たのですね」と問い掛けた
「スワンだけじゃねぇぜ
魔界に……放った聖獣の本体が来ている
影じゃねぇかんな……簡単には倒せねぇ!
また生きてねぇからな……倒したとしても奴等は何度でも生き返る……」
炎帝はそう言い唇の端を吊り上げて皮肉に嗤った
「始まるぜ!
此処を片づけたら人の世の粛正に入る
総ては繋がる理だからな……連鎖は何処までも人の世に影響を及ぼしてるんだよ」
朱雀は「なら、デケぇ花火を上げねぇとな!人の世も照らして逃げ道なんてなくなる花火上げねぇとな!」と嗤った
赤龍も「蠅だけじゃねぇんだろ?なら強力な殺虫剤投入しねぇとな!
俺等は負けねぇぜ!
俺の傍にお前がいる限り、俺は負けねぇ!」と言い切った
黒龍は「今宵は泊まる!青龍の棚の酒を総て飲み干そうぜ!」と笑った
「んな事したら兄者も父者も来るじゃねぇかよ?
………青龍の家がぶっ壊れる……」
黒龍は「壊れたらお前達が還る前に建て直しといてやるよ!」と笑った
言ってる矢先にドアがノックされた
黒龍が開けに行くと案の定……
閻魔と健御雷神と金龍達が立っていた
手には酒とつまみを持参していた
金龍は青龍の家に入ると………
あまりにも閑散としたモノのなさに唖然とした……
「………この家は……」と言いかけて黒龍が
「青龍が魔界にいた時のままにしてあります」
どこも手を加えてはおらぬと言った
「………我は……息子の家を一度も目にしてはおらなかった………」
金龍は……あまりにも寒い部屋に泣きそうになった……
湖側に一面のガラス窓は曇り一つなく湖を映し出していた
「…………青龍……炎帝と住む気ならば……
迎え入れる家にせねばならぬぞ!
こんな寒い家に……炎帝を迎え入れてはならぬ……」
金龍は泣いていた
こんな家では妻は逃げ出すに決まっている
青龍の妻は一度も……この家に住まずに別居に入った
この様な寒々しい家では……逃げていくのは当たり前だと想った
龍は成人を持って独立する
独立した龍は我が家を持って妻を娶る
青龍は成人した年に湖の前に家を建てて移り住んだ
誰よりも誇らしい青龍ならば……
その家も完璧だと思い込んでいた
こんな何もない……
応接間になるべき場所に……カーペットもソファーもない
ど真ん中にピアノがあるだけ……
そして応接間の隣に……寝るだけの簡素なベッド……
どんな想いで青龍は生活していたというのか……
部屋には生活感は感じられない
ぬくもりのない部屋
棚には酒しかない
酔い潰れるまで飲んで……寝たというのか……
炎帝を想ってピアノを弾いて……
酔い潰れて寝ていたと言うのか……
金龍は胸が痛くなった
不器用な男の……
此処まで不器用な想いが痛かった
「………我は……青龍なれば……完璧な家を作って……過ごしているのだと想った……」
金龍は呟いた
黒龍は金龍を抱き締めて……
「俺も青龍の家に初めて入った時は驚いた
この地は炎帝の呪文で誰も住めぬ土地になったからな近付けなかった
呪文が解かれ青龍に如意宝珠を渡した時に
家の管理を頼まれて初めて入った時……
俺は目を疑った
あの青龍の家にしては…
家具はなく……寒すぎる……
結婚を考えた男の家ではなかった
それで想ったんだ
青龍は結婚する気なんてなかったんじゃないかって……
結婚を意識した家ではない……
今でこそ掃除をして少しは見られる様にはしたが……初めて入った時は酒の瓶が散乱していた
酔い潰れるまで飲んで……役務に着いていたのか……と想うと……やり切れなかった」
黒龍も涙して当時を思い起こしていた
とうの青龍はガツガツ食べる妻の世話を焼いていた
「もっとちゃんと噛まなきゃ……」
そう言いキスで口の横に着いたおかずを食べた
「青龍も食え!」
「僕は君を食べるので大丈夫です」
「んな事を言ってたら勝てるもんも勝てなくなるだろ!」
炎帝はそう言い青龍の口に無理矢理食べ物を突っ込んだ
金龍は二人を見て
「お似合いだな……青龍があんなにメロメロだ…
我は何故青龍を連れて行ったんだと……訳が解らず……怒った時もあった
一族の期待だったからな……青龍は……
だが……こんな寒い部屋に住ませて……期待ばかり掛けていたら……
何時か青龍は壊れたろうな……
青龍が自分を保てているなら……炎帝と駆け落ちして良かったと想う……」
「………親父殿……」
「黒龍、お前も……好きな道を逝けば良い……」
「俺は青龍みたいに……堅物ではないので……
好きにさせて貰って満足してます」
「黒龍…」
「何ですか?」
「お前の家はもう少しモノが少なくても良いと想う……
青龍の家程に少なくしろとは言わんがな……
お主の家は……少し掃除した方が良い」
金龍はそう言い笑った
黒龍、赤龍、地龍
どの子の家も見に行ったのに……
青龍の家だけは……立ち寄らなかった……
青龍だから……と安心していたからか……
何故……もっと煩い位に……
見なかったのか……悔やまれる
金龍は心に決めた
「青龍!」
「何ですか?父さん」
「お前達が還るまでに……
この家は立て直す事に決めた」
「………え?父さん……何故……」
「お前が気に入ってるこの窓と応接間のピアノは同じにしてやるが、この家では炎帝と新婚生活は無理だ……
炎ちゃんを…こんな寂しい部屋に置くのか?」
「………父さん……」
「お前と炎ちゃんの家を造らねばな」
「………父さん……お願いします」
「青龍、お前は誰よりも確りとしていると想って我等は関与せずにいた
お主なれば大丈夫
一族の希望……一族の期待……寸分違わず逝くお主が違う筈などないと思い込んでいた……
この様な家では……炎ちゃんは住まわせられない……」
「………炎帝に捧げるピアノと酒と寝る場所があれば……私は生きて逝けましたから……」
青龍は魔界にいた時の顔で笑うと……そう言った
「………魔界にいた時から炎帝しか愛してなかった………君は結婚した相手を此処に住ませる気もなかったのですね……」
「なかったですね……
もし仮に住んだとしても……無視して出てくのを待ったかも知れません……
僕は炎帝しか見てませんでしたから……」
青龍はそう言い炎帝の唇にキスを落とした
「僕は君しか愛せません」
青龍の膝の上に乗せて愛の囁きをする
炎帝はうっとりとして青龍を見ていた
黒龍が炎帝を膝から下ろすと
「二人きりの時にやれ!」とボヤいた
炎帝と青龍は笑っていた
食事を皆で取り二階で雑魚寝した
金龍は喉が渇き1階に下りて水を飲もうとしたら炎帝が待ち構えていた
「起こしてすまない」
「………え?」
「用がある」
青龍は幸せそうな顔して寝ていた
金龍は畏まると「なんなりと!」と従った
「一族を集めてくれ!
その時、迦楼羅を連れて行く
多分……異議を唱える奴は出て来る
お前は聞き流しておけば良い
総てはオレが昇華して正すしかねぇと想ってる
昇華すれば……中身が変わってる奴は……死ぬしかない……
たが……そいつ等は中身が抜かれて死んでると想ってくれ……」
「解りました!」
「青龍は魔界にいる間に……法王に即位させる!
魔界に還って来たら……法皇となる!
青龍の立場は不動だ!」
「解りました」
「青龍が法皇になったら……お前は一族の長を黒龍に譲れ!」
「はい!貴方の意のままに……」
「金龍、次代の金龍が育つまで一万年は掛かる……
それまでは逝くのは許さない!
お前は龍族に絶対的な存在になると天龍に誓ったのであろう?
なれば一族を従え、時には制圧出来ねば統制など取れぬぞ!
黒龍に絶対的な龍族の長を見せ付けてやれ」
「………炎帝……天龍との言葉を何処で……」
「オレが天龍の力となる核《コア》を持っていたからな
天龍の心残りは、遺して逝かねばならぬ弟の金龍の事ばかり‥‥‥」
金龍は目頭を押さえて涙していた
「お前達が魔界に送り出した天龍は総てを受け継いだと言うか……
あの時の天龍のまま……魔界に生まれ落ちた
今後見て逝けば……紛う事なき天龍だと解る」
「炎帝……」
「お前の兄の天龍の為にも……魔界にとっての龍族の確立は悲願であろうて……
だからお前が天龍に渡すまで護って逝かねぇとな!」
「はい……はい!」
金龍は泣いていた……
兄の悲願は……魔界での龍族の絶対的な地位
迫害されてた訳ではない
だが……渡ってきた龍族は……古来の神達からしたら新参者だった
魔界での絶対的な地位を手にする
その為だけに天龍は動いていた
そして志半ばで……冥府に渡る天龍は弟に悲願を託した
託された金龍は日々……
龍族が魔界で絶対的な地位を手に入れる為だけに動いていた
そして……八仙は予言した
『お主達の間に産まれし青龍が法皇に収まる星の下に在る』……と。
悲願の達成……
それを夢見て……青龍を結婚させた
だが……青龍の婚姻は失敗だった
望みは断たれたと想ったら……
青龍は閻魔の弟と言う絶対的な存在の妻を手にした
ずっと愛していた…
青龍は言った
炎帝と結ばれないのなら……
他の誰も同じです
そうして青龍は心は炎帝を求め……
一族の希望の星になろうとした
悔やまれてならない……
「金龍…」
「はい……」
「悔やむな……お前が悔やめば青龍も悔やむ」
「炎ちゃん……」
「不器用な男だからな……許してやってくれ…」
「……炎ちゃん……青龍を愛してくれて……ありがとう……
青龍がこんな寂しい所にいなくて良かった……」
「………金龍……」
「炎ちゃん……我は……本当に良かったと想います」
「金龍、魔界はまだまだ安定期には入れねぇ……今回片付けたとしても、まだまだ何かあるだろう……
何度もふるいに掛けられて魔界は変わって逝くしかねぇんだよ……」
「眠くなる様な安定期に突入などせぬともよい!
我等は闘って来たのだからな!
その為に我等は団結せねばならぬ!
より強固な一族の信頼を結ばねばならぬ!
良い機会であった
時期なんだと想う!
だったら我等は逝くしかない!
炎ちゃん、我は何処までもお供いたします」
「そうか……ありがとう金龍
夜が明けたら……一族を集めてくれ」
「御意!」
金龍は一礼をするとその場を去った
ベッドに潜り込むと青龍は炎帝を抱き締めた
何も言わず黙って炎帝を抱き締めていた
炎帝は青龍の胸に顔を埋めた
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