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第93話 粛正 IN魔界②

翌朝 早くから金龍は起きて、他の者も起こしに掛かった 「黒龍 起きるのじゃ!」 蹴り入れられ……黒龍は起き上がった 「………親父殿……もう少し優しく起こしてくれても良くない?」 「急いでおるのじゃ! 我は先に龍族の本部に向かう お前は炎帝を連れて本部に来い! 赤龍、起きやがれ! お前は伝令で動いて貰う! さぁ着いてこい!」 赤龍も蹴られて飛び起きた 太陽石はまだ上っていない…… なのに金龍は動くという 赤龍は「炎帝は知ってるのかよ?」と問い掛けた 「早くしろ!赤龍! ゆっくりしている時間などないのだ!」 言われて赤龍は支度した そして一階に下りて行った 青龍と炎帝は起きていた 炎帝は金龍を見ると「逝くか?金龍」と問い掛けた 金龍は「はい!貴方はどうされますか?」と尋ねた 「オレはこれより閻魔の邸宅に子供達を連れて戻る その後、準備が整ったなら……… お前が用意した舞台に上がろう」 「御意!それでは支度して参ります!」 そう言い金龍は赤龍を連れて家を出て行った 黒龍は慎一や子ども達と共に一階に下りて来た 「慎一、子ども達を閻魔の邸宅に連れ帰る お前は……子ども達を見ててくれないか?」 「はい!解りました!」 「司命と悠太を使って面倒見てくれ!」 「はい!」 炎帝は黒龍を見ると 「黒龍、子ども達を乗せて閻魔の邸宅に向かってくれ……」と頼んだ 「お前は?どうするんだ?」 「オレか?オレはこれより崑崙山の裾のに行って……迦楼羅を連れて行く」 「………崑崙山の裾の……あんな誰も寄り付かぬ所に……迦楼羅は住んでいると言うのか? なれば……俺も逝く……子ども達を閻魔の邸宅に連れて逝くのを付き合ってからにしろ!」 「そう言うと思った……」 炎帝はそう言い笑った 青龍の家を後にすると、子ども達を馬に乗せて、閻魔の邸宅へと向かった 閻魔の邸宅の前に着くと、炎帝は子ども達を馬から下ろした 流生が「……かぁちゃ……とぅちゃ……」と泣きそうな顔で呼んだ 炎帝は流生の頭を撫でて 「少し用事がある 還ってくるまで大人しくお留守番しててくれ」 「あい!」 流生は泣くのを堪えて……手を上げて返事した 音弥も泣きそうだった 「音弥、慎一や悠太、聡一郎とお留守番しててくれるな?」 音弥も手を上げて「あい!」と返事した 翔は音弥を抱き締めた 「翔……少し行って来るな……」 「やら……いちゃにゃいで……」 翔は珍しく我が儘を言った 炎帝は翔を強く抱き締めた 「翔……かぁちゃとぅちゃはやる事があるんだ もう引けねぇ……逝くしかねぇんだ……」 「じぇったい……きゃえっちぇくりゅ?」 「絶対に!還ってくるから待っててくれ…」 炎帝が言うと翔は頷いた 太陽と大空は泣いていた 「「まっちぇる!」」 そう言った 炎帝は五人の子供を抱き締めて…… 振り切る様に離した 「ならな!行って来るかんな!」 そう言い天馬に乗った 天馬は空へと駆けて行った 風馬も黒龍の貫太郎も……空を駆けて行き…… 子供達の視界から消えた 慎一は子ども達の背を押して閻魔の邸宅まで連れて行った 応接室に入ると司命と悠太がいた 司命は「………康太は逝きましたか?」と問い掛けた 司命は金髪を足首まで伸ばし、白の役務服に身を包んでいた 「はい……逝きました……」 「……そうですか……ならば次は人の世ですね… 慎一、僕は少し出ます 悠太がいれば大丈夫ですね!」 「はい!大丈夫です」 司命は応接室に呪文を唱えると金色の糸を張り巡らせた 「何かあったら来ます」 そう言い残し司命は出て行った 慎一と悠太は子ども達をソファーに座らせた そして……待つことにした どうか……ご無事で…… 想いは主の元へ 主の無事だけを願う 弥勒も朱雀も……多分動き回っているのだろう 何も出来ないのがもどかしかった だが……自分は……子ども達を守らねばならない そんな使命で慎一は自分を奮い立たせていた 炎帝と青龍と黒龍は、誰も寄り付かぬ崑崙山の裾のに向かった 裾のとは名ばかりの……岩と痩せた土地には何もない 黒龍は「こんな所に……住める訳がねぇ……」とボヤいた 崑崙山は気流が読めない 天気も変わりやすく足場が悪かった そんな山を歩いて登るのは危険だった だが炎帝は躊躇する事なく、足場の悪い道を歩いて上って行った 暫く歩くと家が見えて来た 黒龍は……そんな家……上から飛んでる時一度も見なかったじゃねぇか……と思った 家の前に立ちドアをノックすると迦楼羅が出迎えた 「迦楼羅、逝こうぜ 一族が集まる場所へ!」 迦楼羅は驚いた瞳を炎帝に向けた 「………本当に……我に参加させよと?」 「社交辞令は言った覚えはねぇけど? この先の龍族に必要だから言っている」 「………我が逝く事によって……荒れると解っていても……逝けと仰われるのですか?」 「そうだ!」 炎帝は断言した 迦楼羅はそこまで言われて……迷いが吹っ切れた 「支度をして参る 少し待っててくれ!」 そう言い迦楼羅は家の奥へと消えた 炎帝は黒龍に「迦楼羅の家を用意しろ!」と告げた 「………魔界にか?」 「そうだ!」 「迦楼羅の住んでた所は……素戔嗚尊が管理している お前の叔父に言え……」 「なら後で叔父貴の家に逝くとするか…」 暫くすると正装した迦楼羅が姿を現した 「お待たせした」 「なら逝くか?迦楼羅?」 炎帝が言うと迦楼羅は頷いた 炎帝はそう言い岩ばかりの坂道を下りて行った そして平地に出ると 「青龍、龍になれよ!その方が早く着けるかんな!」と言った 青龍は龍になり、炎帝の前に頭を差し出した 炎帝は青龍の頭に乗り鬣を掴んだ 「黒龍、迦楼羅、お前達も本来の姿になれ 一っ飛びで集会場まで逝こうぜ!」 炎帝の言葉に黒龍と迦楼羅は本来の姿になった 炎帝は天馬と風馬と貫太郎に「家に帰ってろ!」と告げた 青龍は龍族の集う集会場へと向かう為に気流に乗った 気流に乗ってしまえば龍族の所までは、あっという間に到達した 炎帝達を出迎えたのは龍族の長 金龍だった 「皆 集まっております」 「兄者はいる?」 「はい!閻魔大魔王は壇上でお待ちになっておられます」 「金龍、用意してある?」 「はい!貴方の想いのまま総て御用意致しました」 「なら着替えて壇上に上がる 迦楼羅、おめぇは先に壇上に上がってろ!」 「………え?……」 「黒龍頼む…」 黒龍は炎帝に頼まれると、迦楼羅の腕を掴んで会場へと連れて行った 「………黒龍……」 「何だ?」 「…………炎帝を待たなくてもよいのか?」 「壇上に上げる様に頼まれたんだよ!」 「………そうなのか……」 迦楼羅は黒龍に連れられるままに壇上へ上がった 壇上には閻魔大魔王と素戔嗚尊が待ち構えていた 素戔嗚尊は迦楼羅を見て近寄ってきた 「炎帝が使者を飛ばした お主が魔界に帰って来ると聞き……此処まで来た お主の屋敷は我が管理しておったからな……」 「……私の家……素戔嗚様が?」 「我が一番魔界で適任だと健御雷神が申したからな……」 「………ご迷惑をお掛け致しました」 「魔界に還るのであろう?」 「はい!魔界に還り龍族の明日を見届けようと想います……」 「そうか……お主は見届けるが役目が残っておったか…… 総べては……決められし理であったな」 「………え?……」 「お主も我も……魔界の……駒だと言う事だ… 我等は適材適所配置されて生かされておる それを忘れなければ…… 明日へと魔界を続けられる……」 「………素戔嗚様……」 素戔嗚尊と話をしていると炎帝が魔界の正装で壇上に上がってきた 横にいる青龍は……… 法皇の衣装を身に着けていた ローマ法王が観衆の前に姿を現す時に着ている様な神々しい出で立ちの衣装に身を包み 肩から羽織るマントは衣装よりも長く、深い蒼だった 炎帝はうっとりと青龍を見ていた 「似合うな……凄く格好いい……」 「………何だか重いです衣装が……」 青龍は肩の凝りそうな衣装に眉根を寄せた 蒼い法衣に銀糸をふんだん使った刺繍を施し マントはシルクサテンの輝きを放っていた 会場から戻った黒龍が、青龍にマントを羽織らせた 右手に正義の杖を持たせ 左手には秩序の書を手渡した 黒龍は感極まっていた 涙ぐみながら…… 最後に法皇の王冠を被せた 「………青龍……」 兄は弟の名を呼んだ 弟は兄を静かに見つめていた 赤龍が「閻魔大魔王がお待ちだ!」と呼びに来た 呼びに来た赤龍も青龍の正装に目を止めた 「………すげぇな……遠くへ行っちまうみてぇだ……」 赤龍は不安を口にした 「大丈夫です! 僕は炎帝の傍から離れませんから!」 その口ぶりは変わる事なく青龍だった 支度が調うと、壇上へと向かった 「青龍……何だか……遠くに行きそうで怖い…」 清廉な法衣に身を包む青龍は遠い存在に想えた 青龍は笑って秩序の書を小脇に挟んで、炎帝を引き寄せ 「僕は君の傍でしか生きられません 遠くへなど逝かないので安心して下さい」 と、炎帝を安心させた 手を伸ばし……互いの手を握り締めた 黒龍が炎帝の傍まで寄って 「青龍、炎帝、壇上へ上がれ!」と言って来た 金龍はニコニコと微笑んでいた 「一族の者よ!青龍は法皇になられた! 魔界に還って来られた時には、盛大な結婚式を挙げる事となる!」 金龍は声高らかに叫んだ 青龍は炎帝と共に壇上の中央に立った 閻魔は笑っていた 「我が弟、炎帝よ! お主の夫は、今日この日より法皇をとなる 閻魔の弟の婿に相応しいポジションだと想おう! 今宵は龍族の皆と共に法皇誕生を祝おうと想う!」 閻魔が言うと一族の者は歓声を上げた 青龍は何も言わずに立っていた 金龍は一族の中から魔界最高位の法皇を出せる感激に打ち震えていた …………だが………喜び勇む者ばかりではなかった 「人の世に還る奴が法皇かよ……」 と言う不満も……会場の中で響いていた 感激を打ち消す位の威力はあった…… 金龍は「不満だというのか?」も会場へ向けて言葉を放った 一族の中でも厳つい輩が前へと歩み寄った 「青龍殿はまだ人の世に還られるのでは?」 「何が言いたい!」 金龍は怒気を孕ませて男を睨んだ 「今法皇になられても…… 魔界におられないのであれば意味を成さない……… なれば……この茶番は何のために行われるのか………」 男が吐き捨てると炎帝は「笑止!」と嗤い飛ばした 「茶番だと言うお前が一番の茶番劇をしているじゃねぇか!」 「なっ……出しゃばるな傀儡の癖に!」 男は……苦し紛れに炎帝を詰った 「青龍が何時法皇になろうとも一族の悲願なのには変わりねぇじゃねぇかよ?」 「なれば!魔界におれば良い! 我はそれを言っておるのだ! 何故人の世にいて法皇など名乗るのじゃ! そんな奴に法皇など相応しくない!」 「なら……誰なら相応しいんだよ? お前か? それとも一族に反旗を掲げてる奴等がなるべきだと言うのか?」 「………なっ!……」 男は顔色を変えた 「龍族は魔界での揺るぎない地位を手に入れた! それが龍族の悲願なんじゃねぇのかよ? それとも……龍族は新しい道を歩み始めたとも言うのか? 悪魔貴族に唆され…… 魔界を閻魔の手から奪い自分達で手にする絵図でも見せられたか?」 炎帝は皮肉に笑った 「ソロモン72柱を消滅するだけじゃ足らなかったか?」 その会場にいる者が…… 背筋が寒くなる程の嗤いをした 「悪魔貴族に体躯を乗っ取られ…… 傀儡にされてるのは、どっちだよ? オレの焔で焼き尽くせば、おめぇらは消滅すんぜ? なんたって中身がねぇからな!」 莫迦にして揶揄する 青龍は炎帝の横に立つと口を開いた 「何時から龍族はバラバラになってしまったんですか? 龍族の血の結束はどうしたんですか? 我等は不遇されて来た訳ではないが…… 絶対的な存在が欲しいと望んで来たのは貴方方なのではないのですか? 僕は炎帝と一緒にいられるのであれば…… 法皇などという面倒臭いのには、ならなくても良いと思っています 我が妻、炎帝と共に在れるのであれば…… 僕はそれだけで良いのです ですので皆に宣言しておきます 一族の者が我が妻炎帝を亡き者にするのなら……僕は黙ってはおりません!」 蒼い妖炎を立ち上げて青龍は嗤っていた 「奥さん、僕が昇華をしてあげます!」 そう言い青龍は龍になると口から火を噴いた 金龍は「バカッお前は……火なんて噴くな!」と慌てた 赤龍は「おい!落ち着け!」と青龍を止めた 「兄さん僕は落ち着いてます」 黒龍が青龍をポコンッと叩いた 「お前は悪役には向かない……止めとけ」 「そうですか?」 青龍は人の姿に変わって笑っていた 「炎帝……お前も夫を止めやがれ」 「青龍がやりてぇ事をすれば良い 焼き尽くしてぇならオレも手伝うかんな!」 黒龍が呆れてると、天空高くから笑い声が響いた 「………お前等夫婦は……本当に目が離せねぇな……」 見上げると朱雀と白虎と玄武がいた 「よぉ!朱雀、白虎、玄武!」 炎帝が呑気に挨拶してると、朱雀達は壇上に下り立った 「悪魔貴族の気配を追って出入り口を突き止めたぜ!」 朱雀はそう言いニカッと笑った 「ご苦労だったな朱雀」 「…………崑崙山からのルートかと思ったら違った……… アイツら……水神を殺めた……」 「………え……水神を?……許さねぇ…… 水神の魂は何処へ……逝ったんだよ?」 「………解らねぇ……探ったが……骸しかなかった」 炎帝は閻魔を見た 閻魔は首をふって 「………我は……知らぬ」と炎帝に告げた 「水神はオレが呼んだんだ…… 呼ばなきゃ……殺められる事もなかった…… だから……最期まで面倒見なきゃいけねぇんだ」 炎帝が言うと玄武が 「なら崑崙山の八仙を使って突き止めて来るしかなかろうて!」と言い天空高く駆け上がり走って逝った 「水神は玄武に任せて……まずは龍族だな 金龍、昇華する!」 金龍は瞳を瞑り覚悟を決めた 「………はい……」 「虹龍、来い!次代の四龍も顔を出せ」 炎帝が天空高く叫ぶと虹色の龍が気流に乗って現れた 後ろに小さな三匹の龍もいた 炎帝の頭上を旋回すると……姿を変えて炎帝の横に立った 「お呼びですか?炎帝」 「虹龍、同族を正すのはどうしたら良いと想 う?」 炎帝は虹龍に問い掛けた 「力……でしょうか?」 「それだと……絆は築けねぇな……」 「でもより強い力で制圧すれば…… 殆どは黙ります」 「黙らせても……奥に燻ってる火種までは消せねぇぜ?」 「…………なれば……何をやっても無駄なのでは?」 「虹龍、この世に無駄なもんなんて一つもねぇんだよ! お前は……それを知らねぇ……… 人の上に立つ存在のお前が…… それだと下にいる奴は常に戦々恐々としてねぇと駄目じゃねぇかよ……」 「…………難しい……です僕には……」 「絶対の信頼が必要なんだよ! それに勝るモノなんてねぇ! 命を捨てられる存在がいるか? だろ? てめぇらは誰の為に命を懸けるんだ? 知らずに戦えねぇだろ?」 「…………信頼……目に見えないモノは…… 計る術がないじゃないですか……」 虹龍は……訳が解らなかった 何故……炎帝が呼んだのか? 何故……炎帝が訳の解らない問答をするのか…… 炎帝は髪を靡かせ会場を見渡していた 「金龍、このひょっ子に一族の絆 見せてやれよ! 団結と絆は魔族一だと誇ってるんだろ?」 炎帝が言うと金龍は豪快に笑った 「我の言葉は過大評価ではない! 我等は魔族一の絆で結ばれておる! 違うか?一族の者よ!」 金龍が叫ぶと、会場は【おおおおお!】と叫び声が響き渡った 「我等龍属は一丸となろうぞ!」 【おおおおおおお!】 地響きがする 気落とされた輩が会場から抜け出そうとした すると、待ち構えていた黒龍に捕まえられた 炎帝は「黒龍、動くなよ!」と声をかけた 炎帝は焔を立ち上らせた 朱雀は「青龍、おめぇは大人しくしてろ!」と言い鳳凰に姿を変えた 「逝くぜ!朱雀!」 「お!何時でも来い! お前の焔を掻き回してやる!」 炎帝は焔を放った 朱雀はその焔を受けて掻き回した 会場が焔に包み込まれた 黒龍が手にしてた輩が力なく崩れ落ちた 炎帝は果てを見ていた 赤龍は炎帝に声をかけた 「どうしたよ?」 「…………水神は捕まってる……」 「………え?……それはどう言う事よ?」 赤龍は‥‥不安げに問い掛けた 「オレを誘き出す為に龍族は使われた……」 「あんで解るんだよ!」 「………消えゆく……魂に細工がしてあった…… オレがこの場で昇華するのは想定内だったんだよ……」 「………どうするんだよ?」 「逝くしかねぇ……」 「…………逝けば……」 「ただではすまねぇだろうな……」 炎帝は呟いた それきっきり炎帝は黙った 朱雀は何も言えなかった 止める術など持ち合わせてないから…… 炎帝は空を仰いで 「………あ…………」 声を漏らした…… 「…どうしたんだよ?」 「……………駆け付けて逝けねぇ時に……」 炎帝は呟いた 消えゆく小さな魂を感じていた 炎帝は果てを見て…… 「………逝くのか………」 聞こえるか聞こえないかの……呟きを漏らした 『願わくば……お前の魂が……     光り輝ける先に逝けます様に…』 炎帝は祈った 「…………まだ大丈夫って思ってたのにな……」 「何がだよ?」 炎帝は首をふった 「……炎帝……お前が逝くなら俺も逝く!」 「本当にお前は厄介な奴だな……」 そう言い炎帝は瞳を瞑った 青龍は炎帝を引き寄せて…… 強く抱き締めた 「……何かありましたか?」 「………総て終わらねぇと…… 魂を悼む事も出来ねぇかんな……」 「総て終わらせたら……水神も……小さき魂も……弔ってやりましょう……」 「………あぁ……」 炎帝は胸を押さえた 自分の命の灯火が消えそうになった弊害がこんなところに出てこようとは……… 炎帝は前を見据えた 「金龍、傀儡は倒れた 中身のない操られし存在は消えた この会場にいる者は誇り高き龍族の者達ばかりだ! 虹龍に絆を教えてやれよ! 龍族は強い絆で結ばれし存在だって教えてやれよ! 強い絆は物凄い力を生み出す それが団結という力だと見せつけてやれ!」 「承知しました!」 金龍は会場に向けて大声を張り上げた 「龍族は悲願の達成をした! 我が一族から法皇を送り出す事が出来た! 何よりの誇りぞ! 何よりの喜びを共に分かち合おうぞ!一族の者達よ!」 金龍が吼えると一族の者は盛り上がった さっきの事が嘘のように盛り上がっていた 金龍は炎帝の前に立った 「炎帝殿、我が息子青龍の妻よ! 傀儡にされた者も我が一族の者だった筈! 許してはおけぬ! 我等も共に逝く! 炎帝殿、我等は誇り高き龍族の誇りに懸けて… 断じて許しはしない!」 金龍は言い切った 炎帝は金龍に「一緒に逝くか?」と声をかけた 「是非とも!」 「では魔界の為に…… 一緒に逝こうとしよう!」 会場から歓声が上がった 虹龍は炎帝を見ていた 炎帝は迦楼羅を見ていた 「迦楼羅、前に出ろよ!」 「………え?なぜに?……」 迦楼羅の手を掴むと炎帝は前へと出させた 「迦楼羅は龍族に戻る事になった! この難局を乗り切る為に迦楼羅に願った 迦楼羅は快諾してくれ、一族に戻る事にしてくれた! そうだよな?金龍?」 そこで、我にフルのか……… 金龍は恨みがましい瞳を炎帝に送った 「龍族の果てを見届ける者として、迦楼羅は龍族に還ると約束してくれた! わだかまりも遺恨も一切遺さず! 迦楼羅を迎えると一族は決めた! よいな!皆の者!」 割れんばかりの盛大な拍手が贈られた 金龍は何処で迦楼羅を出すのかとヒヤヒヤした 遺恨を遺せば…… この先に……痼り(しこり)となるのは目に見えていた 一族を纏めて絆を見せ付けた後に…… 迦楼羅を持って来れば…… 誰も何も言わない…… 全く……憎い演出をしてくれるわい!と金龍は想っていた 夜更けまで……盛大に宴は開かれ一族は喜び勇んでいた 青龍も珍しく飲んでいた 腕には妻が顔を埋めて眠っていた…… 青龍は妻を抱き締め…… 幸せそうな顔をしていた 魔界で見た事のない顔だった…… 黄龍は金龍に「妻に惚れまくりだな青龍は……」と揶揄した 金龍は「………アレが一番我に似てると……子ども達が言いよる……」とボヤいた 黄龍は爆笑した 「言われてみれば……お主そのものではないか!」 「………我は……おんなにベタベタではない!」 「ベタベタだって……青龍はお主に似ておったのか」 黄龍の笑い声が響いた 黒龍は赤龍とやってられるか……と飲みまくっていた 朱雀は「飲み過ぎるなよ」と二人を止めた 夜が明けるまで宴は続けられ…… 龍族は団結に燃えていた

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