94 / 100

第94話 邀撃 IN魔界①

炎帝はこっそりと会場から抜け出した 転輪聖王が炎帝を待ち構えていた 「本当に誘き出されてやるのか?」 「でねぇと……還れねぇだろ? 所で……ヴォルグの魂……回収してくれた?」 炎帝は消えて逝ったヴォルグの魂を回収して…… 冥府に送り返してやるつもりだった ヴォルグの大好きな皇帝閻魔の元へ…… 還してやりたかったのだ…… 転輪聖王は苦しげに眉根を寄せて……言葉にした 「…………ヴォルグの魂は消滅して……どこにもなかった……」 「…………跡形もなく………?」 転輪聖王は頷いた 「………そっか……可哀想なことをしたな…… こんな事なら……冥府に還してやれば良かった……」 「………冥府に還れぬから……此処にいたのであろうて……」 「………どうせ消滅するなら……大好きな皇帝閻魔の元で消滅させてやりたかった…… あんなに親父殿処へ逝きたがっていたんだ…… 還してやれば良かった……」 「…………炎帝……泣くな……… お主が泣くと……どうしていいか解らぬ……」 「………ヴォルグに靴をやったんだよ…… 職人に誂えて作らせた靴を……大切に履いてくれていた…… 一人にさせるなら……連れて逝けば良かった」 今更言ってもせんのない事だが……… 炎帝は自分を責めた 小さき命を繋ぎ止めたのは自分なのだから…… 「………淋しかったろうな……」 「………炎帝………」 「総て終わったら……… ヴォルグを想って過ごす……」 「………総て終われば……好きにするとよい それより………伴侶殿を置いて来て……よいのか?」 「置いて来ねぇと……… オレは還れねぇじゃねぇか……」 還る為に置いて逝くと炎帝は言った 青龍のお酒に薬を混ぜた ついでに、赤龍と黒龍と金龍のお酒にも混ぜた 炎帝は転輪聖王だけ道連れにして…… 逝くつもりだった 「逝くぜ!弥勒!」 「あぁ!康太、絶対に還ろうな!」 敢えて康太と呼んだ 二人は……… 悪魔貴族の待ち構える場所へと向かった 青龍……怒るかな…… 幾ら怒られてもいい…… 青龍が生きていてくれたら…… 生きて逝けるのだから…… だから……絶対に還る! 炎帝は転輪聖王と共に……… 消えた 宴会場を後にして水神の泉に着くと……… 赤龍が立っていた 「こっそり逝くんじゃねぇ!」と炎帝の肩に手を掛けた 「…………赤龍………何故?」 「おめぇなら……一人で逝くと思ってた……」 赤龍は笑顔で答えた 黒龍も炎帝の肩に手を掛けると 「転輪聖王だけ連れて逝くなんて…… 青龍が妬くだろ? おめぇの亭主だろ? ちゃんと連れて逝けよ!」 そう言い笑っていた 黒龍の横には青龍も立っていた 「僕に盛るなんて……還ったらお仕置きですね 何時何時(いつなんどき)何があろうと傍を離れないと言ったのは嘘ですか?」 「………青龍……嘘じゃねぇ…… でも……お前を危険な所に連れて逝きたくねぇ… お前は……オレの還る場所だから……… なくしたら……生きて逝けねぇ……」 「死ぬ時は一緒です! さぁ、来なさい!」 青龍はそう言い両手を開いた 炎帝は青龍の胸に飛び込んだ 青龍のぬくもりが炎帝に伝わる…… 炎帝は青龍の胸に縋り着いた 転輪聖王は青龍に 「………許してやれ……愛故だ……」と言った 「解ってます! ですが、大人しく留守番してて良いのは親父殿達年寄りだけで十分です!」 黒龍は「………言ってやるな…」と取り成した 朱雀と白虎と玄武が飛んでやって来た 朱雀は「逝くのか?」と尋ねた 「あんで……解った?」 「八仙が予知した」 朱雀はニカッと笑って答えた 「…………朱雀……逝くのか?」 「あたりめぇじゃねぇか! 逝く時は一緒だと言ったじゃねぇか?」 そう言い一歩も引く気はなさそうだった 玄武と白虎は「「我らは金龍達を見張ってようぞ!」」と言い留守番する気満々だった 「玄武、白虎……留守番で逆上する金龍を頼むな……」 玄武は「案ずるでない」と炎帝の肩を叩いた 白虎も「何も気にせず逝くがよい!」と背中を押した 「なら頼むな……逝ってくるかんな!」 炎帝はそう言い背を向けた そして青龍を見上げた 青龍は優しい顔で微笑んでいた 愛する男だ…… 命よりも大切な男だ…… 傷つけたくなんかない…… 炎帝は覚悟の瞳をすると天を仰いだ 「滅しろと言うならオレを…… オレ等を連れて逝け!」 “愛しき子よ……逝くのか……” 「オレはおめぇの愛しき子じゃねぇ!」 “愛しき子よ……” 「………そう言って……おめぇはオレに…… 無理難題吹きかけるんだよな……」 “無理難題ではない…… お主なら出来る事しか言ってはおらぬ” 「殲滅で………良いんだな?」 “それしか………なかろうて…… 神に成り代わりたいならくれてやってもよいがな…… それだと……この世が混乱する…… それはさせてはならぬからな…… だとしたら不穏分子は断たねばならぬ…” 「オレに謂わせたら遅えんだよ! もっと早く殲滅すべきだった! そしたら………逝かなくても良い命もあった! 苦しまなくてもいい……人生も……救えた! 総てはあんたが遅かったからだ! 償えよ……翻弄され狂った人生をやり直しさせてやれ…… それが条件だ!」 “誰の人生のやり直しを望むのじゃ?” 「中村竜吾!」 “…………人の世の……お主の弟を襲った奴の人生を? やり直させろと申すのか?” 「そうだ!約束しねぇならオレは人の世に還る!」 “なぜじゃ……憎くはないのか? お主は今……人として生きているのではないのか?” 「憎しみに囚われてはならぬ! 親父殿の口癖だ! オレは皇帝閻魔の息子! 親父殿はオレにとって絶対的な存在! だから………オレは憎しみに囚われねぇと決めたんだ!」 “………皇帝閻魔……… …………そうか………愛しき我が子よ…… お主を………皇帝閻魔から離したのは我だ…… 今も……憎んでおるか?” 「オレの中に憎しみなんてねぇ! 憎しみなんてケルベロスにでも食わしとけ!」 “誠……お主は変わらぬな……    さぁ逝くが良い……    総て滅して来るが良い!” 「殲滅あるのみ! さぁ、出せよ! オレの使ってた剣を!」 “今……お前に始祖の剣 御劔(みつるぎ)を託そうぞ……” 炎帝の手に……真っ赤な深紅の焔を放つ剣を渡した “逝くがよい” 「ならオレ達を天でもない!地でもない! 人の世でもない地に下ろせ!」 “我の想いを継ぐ者よ    想いのまま逝くがよい” そう言うと時空が歪んだ 歪んだ時空は…… 地でもなく   天でもなく       人の世でもない            世界に下ろした 空気が違う 闇を斬る暗闇は……果てを映さなかった 「逝こうぜ!」 この先…… 何があろうとも共に…… その想いを胸に……     炎帝達は踏み出した 地でもなく 天でもない 人の世でもない世界 そこは……ワインレッド色の闇に包まれていた 青龍は「……不思議な空間ですね……」と辺りを見渡した 「此処は日の光も加護の光も入らぬ闇の中だ 人工的に……アイツ等は紅い石で照らしてるだけだ……」 炎帝は忌々しそうに呟いた 「………此処は……何所なのですか?」 「魔族のいる地よりも人の世よりも上にあり 天界よりは下にある異空間だ……」 「………人の世よりも上にあるのなら……」 何故……日の光が差さない? 青龍は不思議がった 「元々は何もない所に空間を作った そこで、そいつ等は神に成り代わる時を虎視眈々と狙っている…… 神は……知っていて……放っておいた その代わり……日の光も加護の光も差し込まぬ様に……全てを断った……」 「………神に成り代わりたいのですか…… 笑止!愚か者の考えは解りかねます」 青龍は言い捨てた 青龍や炎帝達の前に…… 闇から湧き出る様に正装に身を包む悪魔が立っていた 「炎帝様で御座いますか?」 男は炎帝に問い掛けた 「そうだ!ご招待を受けたからな出向いてやった!」 「では、お連れいたします 此方へ!馬車に乗って戴きます」 「それは御免だ! お連れ致します……と言いつつ…… 馬車ごと闇に葬り去られたくねぇかんな」 「………その様な事は……」 致しません……と言う言葉を男は飲み込んだ 「案内不要だ!」 「…………この地に……来られた事がなく…… どうやってたどり着くと仰るのか?」 「オレは導かれし者だからな! 案内されなくても逝く道は視えるんだよ!」 炎帝はそう言いニャッと嗤った 「水神の魂を盾に……誘き出そうとする奴にホイホイ着いてく莫迦はいねぇんだよ!」 「なれば!勝手にお越し下さい!」 そう言い馬車は走り出した 炎帝は動く事なく馬車を見送った 暫く走ると……… 馬車は炎上していた 「熱すぎて乗れるかよ!」 炎帝はそう言い嗤った 「蝿のせこさなんて……嫌と言う程に見てきた事だかんな! ………ベルゼブブは……天魔戦争の時…… ルシファーの側近だった男だ…… 魔界の王サタンに仕える元……熾天使だ」 「………熾天使……だったのですか?」 「創造神が集めし十二熾天使の中に…… ルシファーとベルゼブブ……そしてガブリエルもいた…… 神への忠誠も熱い熾天使として天界にいた ルシファーが天魔戦争で魔界に下りて散った後……ベルゼブブは消えた ベルゼブブが率いていた蝿騎士団も……跡形もなく消えた…… 天界に不満のある……貴族と…… 魔界に不満のある悪魔貴族が……集結した 神に成り代わる日を夢見て…… サタンを復活させると決めた…… サタンは復活する事を約束して……魔界を去ったからな…… ……アイツ等は……サタン強いては冥王ハデスを復活させたかったんだよ オリンポスの神々は手始めで…… その血をサタンやハデスに捧げる為だけに……… 復活させるつもりだったんだよ……」 言葉もなかった 魔王サタン…… 冥王ハデス 言い伝え位しか耳にした事はない…… 「………魔王サタンは……本当に実在したのですね……」 「………実在しなきゃ……蘇らせようなんて思わねぇだろ?…」 「………君は……サタンを知っているのですか ?」 「それは……誰に言ってる? 皇帝炎帝か?ただの炎帝か?」 「………僕の炎帝に言ってます」 青龍の炎帝は一人しかいないから…… 「まぁ知らねぇと謂っておいた方が後々、巻き込まれねぇ不戦となるってもんだ だから知らねぇよ!と謂っておこう」 知ってます!と言ってるようなものですよ‥‥と青龍は想ったが口に出すのは止めた 「………そうですか…… サタンの復活は……あり得るのですか?」 「それはオレはオレの知らぬ所で良い… だが光があれば影がある 影は闇を生み出す…… 闇が……影を飲み込み…… 光を消す……絶対にあってはならぬ構図だ だが今……まさに……あってはならぬ構図が描かれようとしているんだよ……」 「…………人を操り……陥れ……狂わせた報いはします!」 青龍は言い捨てた 「八仙、水神はどこにいる?」 『………ベルゼブブの……屋敷……』 「それはどうやったら逝けるよ?」 『お主なら……解らぬ事はなかろう?』 「オレは皇帝閻魔じゃねぇかんな!」 『………そう言う事にしておくか…… その道を真っ直ぐに逝くがよい!』 「なら真っ直ぐに逝くとするか!」 康太はそう言い歩き出した 青龍は不安を感じていた 炎帝が何処か……遠くに行きそうに感じていた 「………早く……屋敷に還りてぇな…… 子供達に逢いてぇ……」 「ええ……我が子に逢いたいですね……」 「サクサク片付けるとする! お前ら、オレの前に絶対に出るな!」 炎帝はそう言い歩き出した 真っ直ぐ歩いて逝くと、お城のような洋館が姿を現した 真っ赤な宵闇に染まる洋館は不気味な程に…… 妖炎を垂れ流して、そこに存在していた 炎帝が門に近づくと…… 自動で門が開いた 炎帝はフンッと鼻で嗤った 「小賢しい蝿のやりそうな事だな…」 門 同様、玄関に近づくと、玄関のドアも開いた 炎帝はスタスタ中へと入って行った 炎帝は小さな声で呪文を唱えた 『להרוס החושך הוא האור 光は闇を滅ぼし כדאי שאלך כהה 闇はあるべき所へ還る באופן טבעי אור צללים אפלים בראשית 光 闇 影 創世記に還れ』 と唱えた 漆黒の燕尾服に身を包んだ…… 外人みたいな男が家の奥から姿を現した 「これはこれは……ハデス様……」 と男は皮肉って炎帝に言った 「さてな……誰のことやら? 長年生きしてボケたか?ベルゼブブ?」 「まぁ宜しい! そう言う事にしておきましょう」 「随分と小賢しい真似してくれたな…」 「そのお言葉、そっくりそのまま貴方様にお返し致します! ソロモン72柱を冥府の門を開き……飲み込んだ…… あと少しだったのに……」 「あんなもんこの世に出したら…… お前も……飲み込まれるぜ?」 「その様な事は元より承知…… この眠くなる退屈な世界を変えられるなら……多少の犠牲は仕方がないではないか」 ベルゼブブはそう言い嗤った 「お前の退屈しのぎなど知った事ではない! それよりも水神を還せよ!」 「あの者の魂が欲しいか?」 「大人しく還す気がねぇのは承知……だがな」 炎帝は小馬鹿にした様に嗤った 「退屈なんだよ…… 遊びましょうか?炎帝?」 「良いぜ!今度は殲滅しかねぇぜ? それで良いなら遊んでやんよ!」 「………炎帝………サタン様が姿を消されて…… 気が遠くなる月日を送った…… 何故……我が主は姿を現されない?」 「知らねぇよ……」 「お前はガブリエルに言ったな? 力は継承されている……って…… 分散されて力が継承されているのなら…… サタン様の力は?何処へ逝った?」 「知らねぇよ……オレが出来る前の話なんて知るかよ……」 「お前は……神が愛した子だと…… 神は申した……… お前は……創造神が愛した存在なのだろ? なれば……知っておろう……」 「オレは神の愛した申し子じゃねぇ…… 創造神がこよなく愛した申し子は…… ……オレじゃねぇ………のは確かだ!」 「…………なれば……お主は知らぬと申すのか?」 「知らねぇな」 炎帝は言い切った 「冥府に逝けよベルゼブブ……」 「………それだけは……御免だ! 冥府に入った瞬間……消滅するしかないではないか…」 「消滅しねぇようにオレが連れて行ってやろうか?」 「…………断る……」 「ならオレを誘き出した用件を聞かせろよ! 水神の魂を盾にして誘き出した用件が有るんだろ?」 ベルゼブブは使用人を呼び寄せた 「何で御座いましょうベルゼブブ様」 「水神の魂を持って来なさい」 「畏まりました!」 使用人は姿を消すと、水神の魂を持って現れた ベルゼブブは水神の魂を炎帝に渡した 「こんなに簡単に渡して良いのかよ?」 「お前を視れたから……もうよい お前はルシファーに護られておる その銀色のオーラは……主を想い、主の為に発動する…… ルシファーは主を護る為に…… 常に意識をシンクロして…… 今 この時も……共に在る 誠……羨ましい限りだ……」 「…………お前は何がしたかったんだ? ソロモン72柱を解き放つ算段をしてまで……何がしたかったんだ?」 「………我等の……いられる場所だ…… 天界の片隅にいるしかなかった…… そこも追われて……今在る空間に来た…… 我等は……然るべき所に還りたかった…… だが……それが出来ぬからな…… アスモデウスが躍起になって我等の所在を問うただけだ……」 「アシュメダイ (אַשְׁמְדַאי )か……」 「……真名を……言われますか?」 「言っとかねぇと束縛出来ねぇだろ?」 「………?………何故束縛?」 「おめぇも……捨て駒の一つだという事だ……」 「……やはりそうですか……」 「お前ら堕天使と悪魔では根本的な悪意が違うからな…… ベルゼブブ、おめぇは悪になりきれねぇ……堕天使だろ? アシュメダイ (אַשְׁמְדַאי )は産まれながらの悪魔だという事だ」 「……炎帝……我は生きるのに疲れております……」 「謂うな…… お前よりも永く生き長らえてるオレはどうするよ?」 「………炎帝……あの方も共にいらしたのでしょ? 気配が致します…… なれば……あの方に……私を殲滅する様に謂ってください…」 「ベルゼブブ……終の住処を……手に入れろよ…… 誰にも介入されずに……静かに住むのがお前達には似合ってる」 「………叶わないので……此処にいるのです」 「お前達の終の住処……やろうか?」 「………世迷い言を言われのはお辞め下さい」 「世迷い言じゃなくさ…… オレを殺す気……ねぇだろ?お前…… 悪魔に謂いように使われる気もねぇんだろ? なれば……何故…オレを呼んだ?」 「………貴方に少しの恨み言を申したかったのと…… 炎帝……貴方が視たかったのです…… 遠目からではなく……近くで……貴方を… 貴方の中に………… 確かめたかったのです……」 「………確かめられたのか?」 「………多分……ですので殲滅されたとしても悔いなどありません」 「………殺してくれと自殺したがってるのを……オレに殺せと言われてもな……」 「お気になさらずに……一息で!」 「………なぁ……青龍……お前……殺れるか?」 炎帝は青龍に問い掛けた 「………死にたがりを殺しても喜ばれるだけです……」 「だろ?………生きて償わせるか…… それが償いとなる…… 殲滅しても得にもならねぇかんな……」 「………それがよいでしょう!」 「って事で良いか? ったく……こうなるの解ってて……オレを逝かせたんだろ?」 “申すな…… 選択は総てお前に委ねたのだ” ベルゼブブは遙か昔に聞いた声に…… 驚愕の瞳を向けた…… 「………神に………在らせますか?」 “あの時……お前を救えなかった…… せめての憐情じゃ……” 「エデンの園を与えてやれよ」 “総てはお前の判断に委ねたと言わなかったか?” 「なら、楽園は……ベルゼブブ達にくれてやる そこを終の住処として過ごせ! そして二度と違えるな! 次はねぇかんな!」 ベルゼブブは信じられない瞳で炎帝を見て 「…炎帝……世迷い言ではなく?」と呟いた 「創造神が創世記に創ったとされる楽園… そこに住めば良い……」 「………エデンの園に……? 住めと仰るのですか?」 「誰も使わぬ空間なら住めば良いんじゃねぇか?」 「………ですが……今は……何処に在るかも解りかねる……筈では?」 「在るんだよ!確かにな今も在るんだよ 地図には載ってねぇ…… 遙か昔に海底に沈んだとされる楽園だがな…… エデンの園が存在していた、7万年前~1万2000年前の、最終氷期には海面はもっと低かったからな、現在は海の底となっている だが……空間は今も……在って……楽園は住人を待っている」 今は跡形もない場所になっている筈なのに…… ベルゼブブは唖然として呟いた 「………我を試される為に……楽園を?」 「アダムとイブが食ったリンゴなんてねぇよ! 花と緑に包まれた楽園が在るだけだ…… そこの空間は……創造神のお気に入りだそうだからな…… 時々……お茶でもすれば良い…… 一年中花の香りに包まれた楽園ってぇのはオレには性には合わねぇけどな!」 炎帝はそう言い笑った ベルゼブブは覚悟を決めた瞳を炎帝に向けた 「………水神は……」 「お前が手を下した訳じゃねぇ!違うか?」 「………ですが……死なせてしまいました……」 「魔界を叩く機会だった……と言うだけだ! 今頃……魔界に攻め入ってるんだろ? 多分……返り討ちにあってるさ! 叔父貴が燃えてたかんな…… 天魔戦争の覇者は……今も健在だと言う事だ 父者も……頑張って魔界を護ってる 魔界は一つになり…… 先を繋げた……一枚の鉄壁は中々崩せねぇぜ!」 「………知っておいででしたか……」 「だからな、悪魔が出向いてる今…… お前達は楽園に逝け!」 「………え?……」 「もう利用されるんじゃねぇぞ……」 「………炎帝……」 炎帝はベルゼブブの頭をわしわし掻き回した 「生きるのに疲れる暇に笑って過ごせ 時々ならお茶を飲んでやっても良いぜ!」 「………ではお待ちしております……」 「逝け!そして二度と振り返るな! 我等は振り返る為にいるのではない」 逝け! 決して振り返るな! 我等は振り返る為にいるのではない! その言葉にベルゼブブは涙した 瞳の先に………確かな……存在を感じていた 「………では逝きます!」 「道案内はスワンにさせる! スワン、楽園まで連れて行け!」 炎帝が言うとスワンが姿を現した 炎帝に深々と頭を下げるとベルゼブブの方を視た 共に闘った仲間だった 魔界まで墜ちてくれた……仲間だった ベルゼブブはスワンを見ていた スワンもベルゼブブを見ていた そして何も言わず……消えた 炎帝は空を仰ぐと 「この空間はどうするよ?」と尋ねた ”お前の好きにするがよい“ 「なら封印して遺しておくとする! 人の世もまた混迷期に入るかんな 何かに使えるだろうて! どの道オレの放った呪文が誰も入れさせはしねぇだろ?」 “魔界に還るか?” 「あぁ……金龍や叔父貴だけじゃ荷が重いだろうからな!」 ”では魔界に送ろう“ 「魔界の状況はどうよ?」 “あまり芳しくないのは確かじゃな……” 「それを早く言えよ!」 “お前は聞かなかったではないか……” 「………んとに昔から屁理屈多すぎるぜ!」 “気にするでない お前にしか屁理屈は言わぬ” 「………余計タチ悪りぃじゃねぇかよ! それよりも早く魔界に還せ! んで、おめぇはベルゼブブ達を見に行けよ!」 “忙しない奴だな……” 時空が歪むと………魔界の見慣れた景色が現れた 朱雀は「お!魔界に還って来たな!」と確認した 「司命、何処にいるか導け!」 炎帝はそう言い司命を呼んだ すると目の前に金糸がキラキラ光って揺れた 炎帝は天馬を呼んだ すると天馬は風馬と共に天空を駆けてきた 転輪聖王は朱雀に乗り込み 黒龍は龍になった 青龍と炎帝は馬に乗り天空を駆けて逝った 辿り着くと司命が炎帝を待っていた 「炎帝!今、金龍や素戔嗚尊、魔獣が闘ってくれてますが…… 悪魔に押され気味です」 炎帝はスタスタ前へと進んで逝った 素戔嗚尊の所まで来ると声をかけた 「叔父貴、押され気味だって?」 「我が鈍ったのではない! 数が多すぎるぜのじゃ!」 「なら少し焼くしかねぇか?」 「何でもよい!早くするのじゃ!」 炎帝は青龍に「龍になれよ!」と言った 青龍が龍に姿を変えると 「火を噴いて消してくれ」と頼んだ 龍の顔が炎帝に近付くと……紅い舌が炎帝を舐めた 「そんなに可愛く強請られたら頑張るしかありませんね!」 と言い………火を噴いた 悪魔に向かって青龍は火を噴き続けた その火を朱雀が煽って立ち上らせる 業火に焼かれて……悪魔は半分になった 焦げ臭い匂いが辺りを包んだ アモデウスがその光景を見て…後ろの方で嗤っていた アモデウスは何時もそうだ 自分は逃げ道を確保して、捨て駒を使う 炎帝はアモデウスに「アシュメダイ (אַשְׁמְדַאי )と真名呼んだ 「………その名を………何故知っておる!」 アモデウスは怒りに打ち震えた…… 真名を呼ばれた事により呪縛に合っていた どれだけ優位に立とうとも真名を呼ばれた瞬間…… 本来の力は発揮出来なくなる…… だがアモデウスは嗤っていた 今更…… 魔界を落とすのは時間の問題だった 魔界を……今いる奴ら皆殺しにして…… 我等が住処にする…… 居場所を失って彷徨う悪魔達の終の住処にする! 本来、魔界は悪魔族のモノだった…… 皇帝閻魔が……悪魔達を魔界から追い出して…… 古来の神々を呼び出した…… 四龍や大陸の神々を受け入れて…… 魔界は変わった 魔界を追われた悪魔達は終の住処を失った そんな還れないモノ達が同盟を組み…… 炎帝をぶっ潰す計画を立てた 人の世に墜ちた炎帝など、赤子の手をひねる位チョロいと想った …………だが炎帝は何処まで行っても炎帝だった 「お前の子飼いの魔獣は、オレの放った魔獣に食い殺されてる頃だぜ?」 「お前の放った魔獣なら………少し前に総て始末した!」 「あれは影だぜ? 本体はもっと強ぇに決まってるじゃねぇかよ? 冥府から連れてきたんだからな!」 「…………お前は………皇帝炎帝……だったな…… 魔界に呼ばれて来た時に殺めておくべきだった………」 「殺しておけば……良かったな…… あの頃のオレなら……… 喜んでお前の手に掛かってやったぜ?」 何も持たぬ空っぽの器だったから…… 死ぬ事なんて怖くもなかった…… 日々生きているのが辛かった 消されるなら……… ベルゼブブみたいに喜んで手に掛かったろう…… この世から消し去ってくれるなら…… 何でも良かった でも今は違う! 今は死なねぇ! ぜってぇに死なねぇ! だって青龍の傍を離れる気は皆無だから…… 炎帝に愛を教えたのは青龍だから…… 青龍の傍を離れないと決めた 失ったら堪えきれない…… だから……共に逝くと決めた 青龍のいない所では生きられない! だから殺されてやるのは嫌だし…… 消されてやる気もない! ぜってぇに負けねぇ! 炎帝は心からそう思った 「我は貴様如きには負けぬ!」 アモデウスはそう言い捨てると炎帝に切りつけに掛かった 炎帝は始祖の御劔を出して応戦していた アモデウスは炎帝の剣を見て……… 距離を取った 「小賢しい事をやるのが好きな様だな……」 「小賢しいのはお前だろ? 蝿を捨て駒にしやがって!」 アモデウスは嗤って 「所詮はそれだけの器にしか非ず! と言う事だ そしてお前ら魔族も………魔界にいる器ではない 力のある者が実権を握らねば存在する資格など無い……」言い捨てた 「力でもって制圧すれば簡単だろうけどな 統制は取れねぇぜ?」 「統制など必要ない 逆らう者は消す!」 「…………おめぇって……んとに可哀想な奴だな 憐れすぎて……何も言う気おこらねぇ……」 「お前と問答を繰り返す気など無い! これで終わりにしようぜ!」 アモデウスの瞳が光った アモデウスは炎帝に向けて刃を放った その刃は……… 炎帝に突き刺さる前に素戔嗚尊が叩き斬った 「炎帝……人の世は安泰と想ったか? お前の伴侶の両親……… 今頃……亡き者になってる筈だ 我等に逆らった報いだ!」 「………お前……心底……腐ってるな……」 「悪魔だからな! 我等悪魔は安住の地を手に入れる! それにはお前達魔族は邪魔だ そんなに力も無い癖に………」 「箇々の力は無くてもな オレらは団結という言葉を知っている 一本だと直ぐ切れてしまうかも知れねぇが 束になれば、ちょっとやそっとじゃ切れねぇんだよ! オレらを甘く見るな! 痛ぇ目に遭うぜ!」 素戔嗚尊はアモデウスの配下の者と闘っていた 他の者も命を懸けて闘っていた 炎帝は始祖の御劔を握り締めた そしてアモデウスに斬りつけ掛かった アモデウスとの剣の攻防戦が続いた 青龍も龍になり悪魔を蹴散らしていた アモデウスは青龍に破滅の剣を放った 青龍の前に地龍が飛び出し……… 破滅の剣を……体躯で受け止めた 地龍は崩れて落ちて行った それを青龍と黒龍が飛んでいき…… 拾い上げた 赤龍も地龍の方へと飛んでいった 炎帝は怒り狂っていた 「殲滅しかねぇな……」 メラメラ怒り狂って……紅蓮の炎を撒き散らしていた 真っ赤な髪に真っ赤な瞳で……… アモデウスを睨み付けていた 「これはこれは……皇帝炎帝では御座いませんか? 魔界に堕ちてやったというのは本当だったのだな」 アモデウスは炎帝を揶揄した 「הרס הרס ייאוש ליוזם  הבית  滅び 破壊 絶望 始祖へ 還れ」 その呪文を聞きアモデウスの顔色は変わった 「我が滅びようとも……悪魔は滅びはしない 後から続く者が……お前達を滅ぼしに来る!」 「来れば良いさ その都度滅ぼしてやるからよぉ! この世の理に背く奴は消す それが秩序と規律を護る事となる 果ては絶対に歪ませない!」 「…………我等が求めた終の住処を…… 手に入れて何故……責められる?」 「お前達のやってる事は割り込みだ…… 魔界が欲しいなら何故皇帝閻魔が去った時に魔界に来なかった? あの時なれば絶対の支配者はいなかった お前が魔界の支配者になろうとも力で制圧すれば良かったんじゃねぇのかよ? それを今更魔界が欲しいと言われても、はいそうですか……とは言えねぇんだよ!」 炎帝は掌に焔の玉を出すとアモデウスに飛ばした アモデウスは焔の玉を避けてみせた 炎帝は呪文を唱えると始祖の御劔をアモデウスに投げ付けた 薙ぎ払おうとするアモデウスの腕を貫き…… 御劔はアモデウスの心臓を一突きにした 「この剣は創造神がこの地球(ほし)を作った時に生み出した始祖の御劔だ 始祖に還れアモデウス!」 「我等は……終の住処が欲しかっただけだ……」 「なら次は……間違うな!」 炎帝はそう言うと辺りを強い焔で焼き尽くした 朱雀が焔を煽り……焔を立ち上がらせた 風に煽られ焔は……総てを焼き尽くさんばかりに燃え上がった 炎帝は地龍の傍へと駆け寄った 「地龍!」 青龍は地龍の傷口を押さえていた 刃は………刺さったままだった 「………刃に触る事も出来ません……」 青龍は炎帝にそう伝えた 炎帝は破滅の刃を手にすると… 引き抜いた 「八仙!地龍を逝かせるな!」 そう叫ぶと……八人の仙人が姿を現した 「破滅の刃……で、御座いますな……」 「この剣は……冥府にあった筈だ…… オレが魔界に呼ばれるまで……冥府にあった なのに……何故アモデウスが持っていた?」 「冥府にあったモノが盗まれる事件がありました……」 「オレは聞いてねぇぜ?」 「………皇帝閻魔が……炎帝には知らせるなと仰った……なので伝えてはおらぬ……」 「………犯人は?」 「………解りませぬ…… その時……冥府の結界は……破られ…… 皇帝閻魔は瀕死の重傷を負いました」 「何故……その時に言わなかった? そしたら……此処まで大事になる事はなかったかも知れねぇ……」 「…………皇帝閻魔は……言う時ではないと…… 申され黙っておいでだった…… 多分……皇帝閻魔の瞳には……この日の光景が見えておいでだったのかも知れませぬな…」 「……総て……無に返すまで……黙っていたのか…… 親父殿……地龍が死んだら……許す気はねぇかんな!」 朱雀が焔を煽って焼き尽くすのを確認して、地龍の処へ下り立った 朱雀も慌てていた 「四龍の一人が死ねば…魔界のバランスは狂うぜ? 次代の地龍じゃ……まだ役にも立たねぇ!」 「解ってんよ! ………クソ!よりによって……破滅の刃だなんて……」 「あんだよ?破滅の刃ってのは? そいつは……んなに厄介なのかよ?」 朱雀は炎帝に問い掛けた 「この刃は……檻の中に人を入れて苦しみの限りを味わせ…… 憎しみ恨みの限りを吸い込ませて作ってあるんだよ 火炎地獄で溶かして百十夜(ひゃくとうや)叩き続けさせて鋼にした 破滅に向かう為だけに…作られた刃なんだよ この刃に……刺されれば……待ってるのは破滅のみ……」 「何とかならねぇのか?」 「………ない訳じゃない……なぁ八仙……」 「………下手をしたら……死にますぞ?」 「………だよな……」 朱雀は炎帝と八仙の言葉の先が見えて来ずに……苛立っていた 「方法を教えやがれ!」 朱雀は怒っていた 「………地龍が刺されたのが……破滅の刃だ オレが……手にしてるのが始祖の御劔…… この剣は……破滅の刃の対極にある剣だ 総てを……始祖に還らせる…… 打ち消せる可能性がない訳じゃねぇが…… 二度刺せば……下手したらトドメを刺すようなモノだ……」 「………可能性が残ってるなら……… それに賭ける! それが炎帝じゃねぇのかよ?」 「………そうは言うがな…… 本当に下手したら……死ぬ……」 「こうしてても、死ぬしかねぇならやれよ!」 朱雀は叫んでいた 炎帝の手から始祖の御劔を奪い取ると…… 地龍の胸に突き刺した 「流石朱雀」 破滅の刃を抜いた後に始祖の御劔を突き刺していた 「八仙、止血の薬湯を飲ませろ!」 八仙は地龍の口を開けると薬湯を流し込んだ 地龍が薬湯を飲み込み…… ゴクッと喉が鳴った…… 炎帝は地龍の胸に突き刺さった刃を引き抜いた 八仙が手にしている薬草で傷口を押さえて、包帯を巻いた 「黒龍……赤龍……オレの傍から離れろ」 炎帝はそう言うと…… 地龍を寝かしている周りに結界を張った 紅蓮の炎で張られた結界の真ん中に地龍は寝かせられていた 「八仙、何かいい方法ねぇのかよ?」 「暫し待て……破滅は相殺された…… 後は傷が塞がれば良いがな……」 「………傷か……縫うしかねぇか? そしたら医者がいるじゃねぇかよ?」 「………魔界にはオペの出来る医師などおりませぬ……」 八仙が言うと炎帝は 「久遠を連れて来るか…… 地龍を人の世に連れて逝くのは負担が大きすぎる……」 と思案した 朱雀が「なら俺が連れて来るわ」と申し出てくれた 「朱雀…人を連れて魔界に来るのは大変だぜ?」 「……だな…俺一人なら楽勝だけど…… 人を連れて来るのは結構大変か……」 「オレも逝く!……」 「なら逝くとするぜ!」 「青龍、オレを乗せて人の世に逝けよ! オレが久遠と話してる間に榊原の両親に電話しろ……」 「解りました!では君を連れて逝きます」 青龍は龍に姿を変えた 「黒いのと赤いの……地龍を頼む…… 赤いの、お前は結界の中へ入ってろ!」 炎帝が言うと赤龍は結界の中へ入った 燃え盛る焔に……触れても赤龍は傷一つ付いていなかった 炎帝と青龍と朱雀は人の世に急いで向かった 炎帝達を見送り赤龍は地龍に触れた 「………あんで……刃の前に飛び出すんだよ……」 自分が傍にいたなら…… 同じ事をしただろうけど…… ついつい言葉になった 青龍を亡くせば炎帝は生きてはいないだろう…… 地龍を心配する赤龍の前に…… 漆黒の衣装を身に着け…… 長い漆黒の髪を伸ばした男が立っていた 赤龍は「………皇帝閻魔……」と呟いた 「炎帝は何処へ逝った?」 「人の世に医者を連れに……」 「そうか……この者を逝かせたら息子に恨まれるからな……参った……」 八仙は皇帝閻魔に平伏していた 皇帝閻魔は地龍の傍に近付いた 「破滅は相殺されておるな…… でも傷が深すぎる……」 赤龍は「この傷を縫う技術は魔界にはないので……人の世の医者を連れに逝きました」と告げた 「縫うのも手だな…… では縫った後に……手を打つしかあるいて……」 皇帝閻魔は八仙を見た 「この傷は……呪詛による傷…… 幾ら薬草を使おうとも…… 回復の呪文を唱えようとも……弾かれる」 「………ですな……」 「人の世の技術で縫うのなら傷は塞がる その後蘇生の儀を行うしか……術はない 我が魔界に張り巡らせた結界も…… 効力をなくしてしまったのだな……」 皇帝閻魔は呟いた 八仙は皇帝閻魔に 「貴方が遺して逝った…… ヴォルグが……前日……消滅致しました…」と伝えた 「………知っておる…… もっと早く……消滅しても良いから迎えに来てやれば良かった……」 「………炎帝は悔いております……」 「………我も……悔いておる…… 冥府に逝く時に連れて逝けば良かった 我に仕えてくれた存在だった……」 『皇帝閻魔、オイラは貴方に死ぬまでお仕えします!』 それが口癖の小さな子だった 皇帝閻魔の家に棲み着き…… 共に過ごした 『お前、名は?』 『………ない……親も知らないし‥‥誰も呼ばないからない……』 そう言った子に名をあげた 『なればお前は今日からヴォルグと名乗るとよい!』 『ヴォルグ……ですか?』 『気に入らぬか?』 『いいえ……嬉しいです』 ヴォルグと名前をもらって、少しだけ名乗る時、胸を張る姿が可愛らしかった 冥府に渡ると告げた時…… 『オイラも‥‥連れて逝っておくれよ!』 そう……頼み込んで来た 我が儘など一度も言わなかった子が…… 初めて我が儘を言った 本当は連れて逝ってやりたかった だが……家に棲み着いたヴォルグを…… 冥府に連れて逝けば……消滅するしかなかった…… 『ヴォルグ……お前を連れては逝けない……』 『………なぜ?』 『………お前は冥府に逝けば……消滅してしまうしかない…… 我はお前を消滅させたくないのだ……』 『消滅しても良いから……』 『ヴォルグ……頼む…… 生きていて欲しいのだ……』 『えんまの嘘つき!』 ヴォルグは泣いて……魔界を去る日まで離れなかった 一緒にいられる日は限られているのに‥‥‥ そんな事を忘れたかの様に共にいた小さき妖精 冥府に旅立つ日…… ヴォルグは姿を現さなかった…… きっと泣いていたのだろう あの日…消滅しても良いから…… と言ったヴォルグの姿が…… 脳裏から消えない 生きて欲しかったのだ…… 可愛い…… 小さき魂を消し去るのは忍びなかった…… だが今は……後悔しか遺らない…… あんな風に…哀しく逝かせるなら…… 連れて逝けば良かった…… 皇帝閻魔は悔いていた ヴォルグ…… 最期に……炎帝の子と出逢えて良かったな…… それだけが……救いだった 消えてしまった…小さき魂を…… 皇帝閻魔は何時までも想った……

ともだちにシェアしよう!