95 / 100
第95話 邀撃 IN魔界②
人の世に還った炎帝と青龍と朱雀は、久遠のいる病院へと急いだ
名指しで呼び出され久遠は胸騒ぎを覚えた
「体調はどうだ?坊主?」
久遠は院長室に入るなり炎帝に声をかけた
「久遠……頼みがあるんだ」
その神妙な顔付きに久遠は何かを感じた
「聞ける頼みなら……」
「オレと魔界に来て欲しい……」
「理由を聞かせろ!
その理由で、決める!」
炎帝は魔界に今いる事を告げた
その魔界で青龍の弟の地龍が刃に突き刺されて………
死にそうだと……伝えた
「………傷を……縫って欲しいんだ……」
「深いのか?」
「結構幅のある刃が突き刺さっていた……」
「兵藤の倅!着いてこい!」
久遠は朱雀を連れて逝くと………
結構大きな荷物を朱雀に持たせて、自分は鞄を持っていた
「サクサク連れて逝け!」
久遠が言うと炎帝が時空を切り裂こうとした
すると『お前は力を使わなくてもよい!』と言う声が聞こえた
「………親父殿……魔界にいるのか?」
『お主に恨まれるのは御免だからな……
それと……ヴォルグ……あれの魂を探しに来た』
「………親父殿……」
『さぁ還るがよい!』
皇帝閻魔が叫ぶと………
目の前の時空が歪んだ
一歩踏み出すと……
地龍が寝そべっていた
炎帝は焔の結界を沈めた
久遠は怪我人の傍へと駆け寄った
そして傷の様子を見た
久遠は朱雀に「イソジン!」と叫んだ
朱雀は大荷物の中からイソジンを取り出して久遠に渡した
「兵藤の倅、この傷口に吹きかけろ!」
言われて朱雀は傷口にイソジンを吹きかけた
「…ぅ……うぅぅ……」と地龍が呻いた
久遠は注射器を取り出すと肩を消毒して麻酔の注射をぶっ刺した
そして注射の中身を総て打った
「縫うからな何人か助手につけ!」
そう言うと八仙が久遠の助手に着いた
炎帝は「八仙……お前らがやるのか?」と問い掛けた
気難しい八仙が自ら……
動くという事は珍しかった
八仙の一人は笑って
「この男……人の世を終えたらスカウト致す!」と本気で言っていた
久遠は脇目も振らず地龍の手当にかかっていた
八仙はそこら辺の看護婦よりも手際よく、久遠に協力していた
久遠は「この者の血縁者はいるか?」と問い掛けた
すると青龍、黒龍、赤龍が久遠の前に立った
赤龍が「我等は四龍の四兄弟!」と名乗った
金龍と銀龍も駆け付けて
「我と妻は四龍の両親です!」と名乗った
久遠は「これだけ血縁者がいれば輸血には困らねぇか!」と呟いた
「この患者に血をくれる奴は誰よ?」
銀龍が一歩前に出た
「私が!私が産んだ子供ですから!」と名乗り上げた
「なら母上が血をやってくれ!
かなりの血が流れ出たみてぇだからな ……
龍だろうが人だろうが……
流血すれば死ぬんだろ?」
「はい!それは人と何も変わらぬ
我等は永遠の命など持ってはおらぬ……
ただ人より……長く生きられるだけだ……」
「本当は血液型を調べてからやりてぇが……
そんなに時間は掛けてられねぇだろ?」
久遠が言うと炎帝が「あぁ……その通りだ」と時間がない事を告げた
久遠は輸血用のパックを用意すると銀龍の血を採った
「おい!誰かこのパックを吊す様にしろ!
」
言われて黒龍は家から外套を掛けるコートスタンド似たモノを持って来た
フックに血液のパックを吊すと……
久遠はオペを始めた
その手際の良さに八仙はみとれていた
「ほほう……凄いのぉ……
この者が人の世で生を終えた後、迎え入れとう御座います
我等……八仙も永久の命ではない……
我はこの者にこの地位を譲り渡す」
「………すげぇな……そこまで言うのか?」
想わず炎帝は呟いた
手際よく処置され、オペが終わると
「んな所に寝かせておくな!」
と久遠は怒鳴った
金龍は台車を取りに行き、地龍を台車に乗せると……
閻魔の邸宅に運び込んだ
炎帝は皇帝閻魔を見た
「親父殿……ヴォルグの魂を迎えに来たのか?」
「………そうだ……可哀想な事をした……
消滅しても……連れて逝けば良かった……」
「オレも……消滅しても冥府に送ってやれば良かったと後悔した……
あんなに逢いたがっていたのに……
一人で逝かせてしまった……」
「名もなきモノだった……
ヴォルグに名をやったのは我だ……」
「………オレはヴォルグに靴をやった……
消えたがっていたのを……
オレの命と繫いだ……
こんな事になるなら……冥府に……
親父殿の処へ連れて逝けば良かった…」
皇帝閻魔は我が子を抱き締めた……
皇帝閻魔は炎帝を離すと……
「地龍の命は繋がった……」
と言い炎帝の頭を撫でた
「もうよいな」
炎帝は頷いた
「人の世で青龍殿の両親を狙った奴は……
毘沙門天が殲滅した……
だが……間に合わずに……怪我を負わせた……」
「酷ぇのか?」
「命に関わる事はない……
だが……役者としては……どうか……」
「なんとかならねぇのか?」
「なれば……久遠もいる今此処に連れて八仙に診させろ……
そうすれば……役者としての明日は繫がるかもや知れぬ……」
炎帝は振り返り青龍を見た
「青龍……清四郎さんを連れて来るかんな!」
青龍は頷いた
皇帝閻魔は我が子に口吻けた
「お前の果てが歪むことなく…
逝けます様に………」
皇帝閻魔は口吻けを落とすと……消えた
炎帝は閻魔の邸宅に逝くと朱雀に
「オレは人の世に逝くわ……」と告げた
「あにがあったんだよ?」
「清四郎さんの身に……何かあったからな……
魔界に連れて来る!」
「………あぁ……アモデウスが言ってたな…
人の世の青龍の両親を……って……俺も逝くわ!」
「毘沙門天を向かわせたが……間に合わなかったみてぇだ……
毘沙門天もどんな状態か解らねぇからな……
一度人の世に逝かねぇとな!」
「………おめぇ……体調はどうなんだよ?
何度も魔界と人の世を行き来出来る程の体力ねぇだろ?」
「大丈夫だ朱雀……
オレの果てを狂わす訳にはいかねぇかんな!」
「………だったらサクサク逝こうぜ!」
炎帝は久遠を見た
「……久遠……人の世に還るか?」
「病人が来るんだろ?
なら俺は待ってるから連れて来い!
良く見れば怪我をしてるのがうようよいやがるし、そいつ等の手当てもしといてやる!」
久遠は医者だった
患者を目の前にして……放ってはおけなかった
悪魔との戦いで傷付いた者達の治療にも余念がなかった
炎帝は龍になった青龍の背に乗り時空を超えた
真壁のビルの上で人の姿に戻ると、榊原は携帯を取りだした
父 清四朗へと電話をかけた
電話に出たのは笙だった
『伊織?何処にいるんだ?
父さんが怪我をした……』
「何処に入院してますか?」
「飛鳥井の病院に転医したけど、久遠先生がいないんだ……
義恭さんが診てくれている……」
康太は携帯を掴むと
「これから逝く!」と言い電話を切った
「視えた……早くしねぇと……」
康太はそう言い走った
病室は知らせてないのに……
康太は清四朗の病院のドアをノックした
笙はドアを開けて……
康太に抱き着いた
真矢も「康太……」と言い……抱き着いた
炎帝は笙と真矢に
「久遠は今魔界に来て貰ってるんだ
で、清四朗さんが今魔界に来れば……
役者として……明日を繋げると言うからな迎えに来た……」
と告げた
真矢は炎帝に
「役者として生きられるのなら何処へでも逝きます!」と答えた
笙は病院に事情を話して転院というカタチにした
真矢は炎帝に「私も連れて行って下さい」と申し入れた
「あぁ……真矢……一緒に来い!」
炎帝は了承した
笙は真矢に「僕は……帰りを待ってます」と告げた
真矢は微笑んだ
青龍が清四朗を背負うと、炎帝が時空を切り裂いた
かなり顔色が悪くなった炎帝に朱雀は
「力を使うな!」と怒った
「逝くぜ!笙、後は頼むな!」
炎帝達はそう言い時空の彼方に消えて……
病室は静けさを取り戻した
笙は荷物をまとめると病院から帰っていった
閻魔の邸宅の庭に出ると、朱雀は久遠を呼びに行った
久遠が姿を現すと
「何処か寝かせられる部屋はないか?」
と言われた
炎帝は青龍に「オレの家に連れて行け!」と告げた
青龍は久遠に「此方へ」と言い炎帝の邸宅へと連れて行った
出迎えに出た雪に炎帝は
「この家で一番静かで日当たりのいい部屋は?」と尋ねた
「応接間の横の部屋は庭が一望出来て炎帝の部屋より広くて光が入ります」と言った
炎帝は応接間の隣の部屋のドアを開けた
青龍は部屋に入るとベッドに寝かせた
真矢は「………この家は?」と尋ねた
「オレの家だ……」と炎帝は答えた
「康太の家なの?」
「そう……」
家にある家具や調度品を見ても……
見るからに高価な品々だった
久遠は真矢に事情を聞いた
「清四朗さんは何故こんな状態に?」
「清四朗は今歌舞伎座の公演の最中なのです
今日も歌舞伎座に何時もの様に向かってました……
居眠り運転のトラックが清四朗のマネージャーの車に突っ込んで来て……
清四朗のマネージャーは即死でした……
清四朗も瀕死の重体……でした……
本人のたっての希望で……飛鳥井の病院に転院した所でした……
事故からしたら……生きてるのが奇跡だと言われました……
康太が何かしたのでしょ?」
「毘沙門天を飛ばしたが間に合わなかったか……弥勒……毘沙門天はどうなった?」
『……清四朗の受ける筈の衝撃を自ら受けて回避した
それで……満身創痍だ……
飛鳥井の病院に入院して久遠が見ていた……」
「………八仙……死なねぇよな?」
『毘沙門天はお主と繋いでおろうて……
お主の心臓が止まれば解らぬが……
お主が生きておるのに逝かぬわ!』
「なら……安心だな……」
『……炎帝……そのおなご……寝かせるがよい
でなくば倒れて……悪夢に囚われる』
「………八仙、寝かせる薬寄越せよ」
『伴侶殿に取りに来させるがよい』
炎帝は青龍を見た
青龍は何も言わず部屋を出て行った
青龍と入れ違えに天照大神が部屋に入って来た
真矢は神々しい見姿に……唖然となった
「お主が人の世の青龍の母御か?」
「………青龍?伊織……ですか?」
「そうじゃ……心配せずともよい!
お主の夫は死んだりはせぬ!
我が息子炎帝の果ては歪む事はない!」
天照大神は優しく菩薩の様に微笑むと……
真矢を抱き締めた
真矢は堪えていた箍が外れて……
天照大神の胸で泣いた
優しく真矢の頭を撫でる天照大神の優しさに……
真矢は体躯の力が抜けた
そして……眠りに落ちた
青龍が部屋に戻って来ると……真矢は寝ていた
天照大神は青龍を見て
「安心させてやるのが一番じゃ
薬で眠らせても起きてしまうであろう」
「………天照大神が?」
「我はおなごの味方故……放ってはおけぬのじゃ」
天照大神はそう言い真矢に自分の羽織っている羽衣をかけてやった
天照大神は青龍の頭を撫でて
「心配せずともよい
いざとなったら我の寿命を削ればよい」
「………そんな事は……」
「………我は……長く生きすぎた……
炎帝が魔界を雷帝と共に統治する……
それさえ見届けたら……悔いなどない」
「天照大神……」
天照大神は炎帝の部屋を出て行った
久遠は清四朗の治療に当たっていた
八仙は付きっ切りで手伝っていた
久遠は「少し前に毘沙門天とか言うのが来た」と炎帝に伝えた
「どうだった?」
「満身創痍だな……あっちこっちボキボキだ
此処では治療は難しい……清四朗さんの治療をした後人間界に連れて行く!」
「………悪かったな久遠……」
「戦争してたのか?」
「………え?……」
「野戦病院で治療してた時なみの怪我人だった……」
「………此処は魔界だ……」
「んなのは聞いちゃいねぇ!
怪我人に種族は関係ねぇ!」
「お前らしいな……
魔界は乱世の真っ只中だ踏ん張らねぇと人の世に悪影響を及ぼすかんな‥闘ってる最中た」
「怪我人の治療はしておいてやった」
「ありがとう
それより清四朗さん……どう?」
「八仙とか言う奴の薬は……人の世にない技術を持ってる
的確な薬を出してくるからな!
それを飲んで処置すれば治る!」
「役者として生きられるのか?」
「でなきゃ毘沙門天が死にそうになった甲斐がないじゃねぇかよ!
神なんだろ?毘沙門天って………
なのに何であんなにもガラが悪くて……怪我してるんだよ……
神なら治らねぇのかよ?」
「オレら天使じゃねぇかんな……ルーンの呪文で治る訳じゃねぇ……
薬草と薬湯と……湯治しかねぇんだよ……」
「………いつの世の世界だよ……」
久遠はぶつくさ言いながら治療していた
「………この世界ってテレビも電気もねぇのかよ?」
「必要ないからな……
神の加護を受けているから光だけは差し込む!
この光を受けていれば我等は生きて逝けると言うわけだ」
「………何もなさ過ぎて……驚きだわ……
魔界ってもっとすげぇかと思ったのに……」
久遠は実直な感想を述べた
炎帝は笑った
雪が久遠に手拭きと飲み物を持って来た
久遠は雪をじっと見た
炎帝は「………雪は北斗の分身だ……」と教えた
「………だろうな……こんなに似てるのがいるからビックリした……」
「雪は……父親から生まれる前から呪詛を吐かれて殺されかけたんだ
生まれて直ぐに雪は喋った
真っ赤な髪に鬼の角が出ている子を人の世で生きさせる訳にはいかなかった
だから……雪と北斗を切り離した」
「元は一つだったのか………」
「そう……」
久遠は雪の真っ赤な頭を撫でた
そして炎帝に向き直ると
「人間の世に還って治療をしねぇと駄目なのが毘沙門天と清四朗だな……
此処では限界がある……」
「なら人の世に還って……治療をしてくれ」
「お前は?まだ還らないのか?」
「オレはまだ遣り残した事があるかんな…
子ども達と慎一、聡一郎達を人の世に戻す
それでオレの不在はなんとかなるだろ?」
「………お前は何故戻らない?」
「オレは……閻魔大魔王の弟だからな……
兄をサポートしてやらねぇといけねぇ時なんだよ!
悪魔との闘いで皆傷付いてる……
そんな時だからこそ団結しねぇと……
不安の中に残したままにはしておけねぇんだよ!
オレは魔界の象徴だかんな……
兄の横に立ってねぇとな……」
炎帝がそう久遠に話していると閻魔が尋ねて来た
「炎帝、群衆の前に現れよ!
お前なくして皆を沈められはせぬ」
閻魔は久遠を見た
久遠も閻魔を見ていた
飛鳥井瑛太位の年格好で深紅の衣装に大綬勲章を付けていた
ぱっと見何処かの王族と言われても納得する出で立ちだった
「兄者、青龍は?」
「お主の伴侶であろう
共におらねば……ならぬだろ?」
「少し待て兄者……
着替えて来る……」
炎帝はそう言い自分達の部屋へと戻った
雪が走って支度に向かった……
閻魔は久遠に「我が弟を連れて行く」と告げた
「それは構わねぇが、早くしねぇと治るもんも治らねぇってのだけ覚えとけ!」と言い捨てた
「………手当を受けた者が……鬼と申しておった……本当に手厳しいな……
お主は本物の鬼をも怖がらせた……」
閻魔はそう言いクスッと笑った
治療を受けた鬼が久遠に怪我を縫われた時にあまりの痛さに悲鳴をあげると……
久遠は「柱に縛り付けろ!」と言い……治療した……
あまりの痛さに……鬼は泣いた
周りの皆は荒くれの鬼を泣かす……
本物の鬼が現れたと戦々恐々だった
「お主は八仙の跡を継ぐ者か?」
「知らねぇよ!んな事はな!」
閻魔は笑っていた
その間も久遠の手は休む事がない
炎帝と青龍が正装で現れると八仙は深々と頭を下げた
「兄者逝くとしようぞ!
久遠、少し待っててくれ!
人の世に還る前にしねぇとならねぇ事がある」
「あぁ、いいぞ!
待っててやるから逝ってこい!」
久遠が言うと炎帝は背を向けた
久遠は……康太を見ていた……
物凄く……遠い存在に想えた
前世は神だったと言った……
言われた事は嘘だとは想ってはいなかった
……が、こうして……正装に身を包む姿を見てると……違和感がない
榊原と前世からの恋人同士だと言われてる通り……
対の存在に想えた
閻魔の正装と酷似した炎帝の正装を見れば解る様に……
魔界での絶対的な存在なのだろう……
閻魔大魔王……
あまり見たい存在ではなかった
人を裁き、人の罪の分だけ命で償わせる
地獄の番人は…
もっと厳つい鬼を想像していた
そう…血を出して倒れていた四鬼の様に……
閻魔の手下には四鬼(よんき)という鬼がいた
金鬼(きんき)、風鬼(ふうき)、水鬼(すいき)、隠形鬼(おんぎょうき)の4匹だ
その四鬼は悪魔に打ちのめされ……
久遠に手当てされていた
あまりの痛さに逃げ出そうとする鬼の首根っこを捕まえて……
柱に縛り付けた
鬼に「オニ!悪魔!人でなし!」と叫ばれた
それでも久遠は気にすることなく治療をした
泣きながら四鬼は久遠に「あ″じがどう゛」と礼を言った
魔界では「鬼を泣かす最強の鬼が出現した」と有名になっていた
炎帝は青龍と共に歩きクスッと笑った
「どうしたのですか?」
「鬼が久遠の事をオニ悪魔!人でなし!と言ったそうだ……」
炎帝は笑いながら言った
「鬼、とはどの鬼を指してます?」
「四鬼だ」
「………閻魔の使い鬼……がですか?」
「魔族は痛みに弱いからな……」
「………多くの命を失いましたね……」
「………だな……」
青龍は前を見据えて言った
「魔界は我等のモノです!
悪魔如きに渡しはしません!」
「………悪魔は……行き場をなくしたんだよ……
サタンの復活が総てだったからな……
サタンが復活すれば世界は自分達のモノになる……
そう思って生きて来た……
絶対的な存在に縋り付き……生きていたいのは誰しもある事だ……」
「………炎帝………」
「一つかけ間違うと…総て…狂って逝くんだよ
悪魔はアモデウスが狂わせた……
着いて逝くしか出来なかった者は憐れだな……」
「君は……何時もそうやって許すのですね
自分を殺そうと入った暴漢ですら……
君は許した………
悠太を襲った者の人生もやり直させた
そうやって……君は許していくのですね……」
「………おかしいか?」
「おかしい……とかではなく……
時々……何故許せるのか……解らないのです
許せない……存在ですら君は許して……
その先へと送り出してやる……」
「だがオレだって許せねぇ時だってあるぜ
目の前でお前が傷付けられた時……
焼き殺そうとしたオレを止めたのは……
お前だろ?青龍……
お前も何時だってオレを止めるじゃねぇか…
オレには真似出来ねぇ……
青龍……オレが許すのは…お前の愛だろ?」
「僕の愛が……君のストッパーになっているのですか?」
「あぁ…お前が止めるのなら……
憎くくて殺したい奴だって……止めてやる」
「ならば…僕が君の傍にいる甲斐がありますね?」
青龍はそう言い笑った
「オレに愛を教えたのはお前だ
オレに……痛みを教えたのはお前だ
オレの総ての感情は……お前が教えてくれたんだ……」
炎帝は青龍を見てニコッと笑った
親しい者にしか向けない笑顔だった
「僕は君さえ生きていてくれたら生きて逝けます」
「オレもお前が生きてくれるなら生きて逝ける……」
瞳が『共に…』と言っていた
炎帝と青龍は閻魔と共に広場中央へと向かった
炎帝は壇上にあがると
「怪我した者はいねぇか?」と声を掛けた
「怪我した奴はオレの家に人の世から連れて来た医者がいる!診て貰え!」
炎帝が言うと集まった者の中から
「嫌です!殺されます!」と言う声が掛かった
「………久遠は人間だ……殺しはしねぇから大丈夫だ」
「四鬼を泣かせた人間なんて……人間じゃない!」
悲鳴に似た言葉に炎帝は爆笑した
広間は緊張感が一気に取れた
「あの医者はオレの命を何度も救ってくれた医者だ!
人間は魔界になんて来たくねぇだろうに来てくれたんだ!
そして手当てをしてくれた
怪我してる者に種族など関係ねぇ!と言ってくれたんだ……
凄い医者だろ?」
「………炎帝、御免なさい」
「謝らなくても良い
皆 怪我してねぇか?」
「手当を受けました!」
広間からはそんな声も聞こえた
「今回は悪魔の襲撃があった……」
炎帝は捉えられた悪魔を見た
「悪魔達は終の住処がない……
住む場所が欲しいからと魔界を襲って良い訳じゃねぇ…
だが……居場所のねぇ辛さは……解るだろ?」
広間に集まった民衆は……黙った
炎帝は壇上を下りると悪魔に近付いた
「アモデウスは殲滅した……
もう復活する事すら叶わぬ……
何故なら本体と共に冥府の門の向こうに封印したからだ!」
悪魔達は何も言わず炎帝を見ていた
絶望した瞳をしていた
自分達は魔界に奇襲を掛けて領地を狙わんとしたのだ……
捕らえられたら最後……
殺されるしかないのだ……
なのに……怪我の手当をされた……
檻の中に集められてはいるが……
手荒な事はされてはいなかった
悪魔の一人が炎帝に
「我等はこの先どうなるのですか?」と問い掛けた
「お前、名前は?」
「………名前……ですか?」
「通り名じゃねぇぜ?真名を言えよ」
「アマイモン(maimao)……です」
「だな!」
そう言い炎帝はアマイモンを射抜いた
総てお見通しだったのだ……
その上で試されたのだ……
「四大悪魔の王子が何故……アモデウスに荷担した?」
「力で制圧されれば……従うしかなかった……
オリエンス、パイモン、アリトンと共に、四方を司る四大悪魔と言えど……
大軍で来られたら一溜まりもなかった…」
「アマイモン、お前ら四大悪魔が正しい道に逝けるのなら……
東西南北を司る……古来の悪魔の地を…
お前達に渡そうと想う」
「………殲滅……せぬのか?」
「お前らを殲滅して誰が得をする?
オレは適材適所配置するが役目
悪魔であるお前らは闇を増幅させぬように、この世を見守る義務がある筈だ
強靱な闇は総てを飲み込むしかない
かと言って闇がなければ良いのか?
………と言えばそうではない
天には光を司り
魔族はバランスを司る
悪魔は闇を司る
古来より我等はそうやって共存して来たんじゃねぇのかよ?」
「…………我等の本来の役目……はそうです
何時から……狂ってしまったのか?」
「なれば、在るべき処へ還れ!
近いうちに天界と魔界と悪魔界で平和調印式を行う事にしよう!
我等は与えられた持ち場を護る為に日々心血を注ぐ!
その為に在ると言う事を忘れてはならぬ!」
アマイモンは炎帝に跪いた
「………皇帝炎帝……お久しぶりに御座います…貴方に最期に逢った日を……
忘れてしまっておりました……」
「アマイモン、導いてやろう!
だから本来の処へ還れ!」
炎帝は始祖の御劔を手に出すと朱雀に渡した
「この剣を掲げ、東に飛んで逝け
そしたら創造神の声がお前を導いてくれる筈だ……」
「俺に逝けと言う訳?」
「オレは飛べねぇ……」
朱雀は火の鳥の姿になると嘴で始祖の御劔を咥えた
そして空中を旋回した
炎帝は「悪魔を解き放て」と指示した
閻魔の使いの者が悪魔の檻のドアを開けた
炎帝はアマイモンに「逝け!」と言った
「総ては決められし理なり!
お前達は聖地に還り闇を護れ!
それが創造神の判断だ
裏切るなら……次はない」
「なれば、在るべき姿になりたいと想います
我等は……在るべき処へ還りたかった……」
アマイモン達は炎帝に深々と頭を下げると、朱雀と共に…
彼方へ飛んでいった
炎帝は空を仰ぐと
「アマイモンや四大悪魔が遺っててくれて良かったな」と声を掛けた
“殲滅……せずともよいのか?”
「……てめぇ……こうなるのを見越してオレを遣いやがって………」
と炎帝は地を這う様な声で怒った
声は……笑っていた
「今回オレを使ったんだからな……
竜吾の人生のやり直しと、青龍の人の世の父親を……役者として生きながらえさせてくれるならチャラにしてやる!」
“心してお前の我が儘を聞いてやる事にした”
「当然の働き料だろ?」
“そう言う事にしておこうか……
ならば……元気で過ごすのだぞ炎帝
我は……何時もお前を見ておる……
お前の幸せを誰よりも祈っておる……”
炎帝は何も言わず……笑った
創造神の気配は消えた
炎帝は「魔界も在るべき道を逝かねばならぬ」と告げた
目の前で創造神の声を聞いた
魔族は疑う余地もない程に見せられて……
団結を強くするしかなかった
道を外れてならない
皆 心に刻んだ
閻魔は弟を見ていた
炎帝の逝く魔界は……
活気に満ちて……
団結を始めていた
炎帝……
お主の不在だった日々は……
魔界をバラバラにした
だが……こうして一つに纏まり集まった
閻魔は前に出ると
「皆の者、青龍殿はこの度法皇となられた!」と皆の者に知らしめた
集会場から歓声が上がった……
「魔界は法皇を得てこれよりも先へ続く
炎帝が指し示す先を歪ませてはならぬ!」
閻魔の声に歓声が上がって一族は団結した
「炎帝、青龍、言葉を!」
閻魔は炎帝と青龍に話せと促した
「我が夫 青龍は法皇になった
オレが魔界に還った時は盛大な婚礼を挙げる
その時は皆祝ってくれよ!」
炎帝がいうと「おめでとうございます!」と声がかかった
青龍は妻の唇にキスを落とすと……
「僕の妻は未来永劫、炎帝唯一人!」と宣言した
盛り上がっていると……
「青龍様は結婚しておいでではなかったのですか?
お子様もいるというのに………」
と言う声が聞こえた
青龍は笑い飛ばして
「遥か昔に……新婚旅行から還っても、新居に寄りつかぬ妻はいました……
処女だと申したのに……
自分の性器を開いて見せて男を誘う……娼婦の様な行為に……一度も妻は抱いてはおらぬ
それで、子供が出来る筈などない!
我が父金龍が婚姻自体を無効にした
その事を言っておいでか?
僕の子なれば青龍を継いで生まれる筈
次代の青龍は兄 黒龍の子としてこの世に誕生した……
僕の子の筈などない……」
青龍の言葉に……
青龍の子供だと言い張ってた……人物が嘘をついているのを知った……
魔族は法皇 青龍を歓迎し
炎帝との婚姻を喜んだ
そうして宴会へと突入した
炎帝と青龍は宴会を早々に引き上げて還って行った
炎帝の邸宅に還ると朱雀が戻っていた
かなり疲れた顔をしていた
「朱雀、お疲れ!」
「悪魔達は導かれるままに逝った」
朱雀はそう言い始祖の御劔を炎帝に渡した
「………朱雀……ヴォルグと言う……
小さき魂を……救って欲しいんだ……」
炎帝は魂の輪廻を司る朱雀にそう頼んだ
「ヴォルグって言うのは……お前の足首までもない身長の奴か?」
「………何故解る……」
「お前と魂を結んでたんだろ?
お前の傍で気配があった……」
「………消滅して……消えちまった……」
「転生させれば良いのか?」
炎帝は首をふった
「親父殿の所へ……還してやりてぇんだ……
ヴォルグはずっと還りたがっていた……」
「………豆粒位の……球体なら……集められるかな……」
朱雀は呟いた
「…………哀しい思いばかりさせたからな……
還してやりてぇんだよ……親父殿の傍へ……」
「待ってろ……お前の傍で……残像でも拾えれれば……球体の中へ閉じ込めれる……」
朱雀は火の鳥に姿を変えると……
炎帝へと再生の炎で包んだ
キィーッと甲高い声で鳴くと……
朱雀は……炎帝の家を透り抜けて……
家の上を旋回した
そして透り抜けて家の中へ入って来ると……
人の姿に変わった
「炎帝、立ってみろよ……」
言われた通りに立ってみると……
コロンっとビー玉位の透き通った玉が転がり落ちた
青龍はその球体を拾い上げると…
炎帝の掌の上に乗せた
炎帝はその球体を優しく握り締めると……
「………ヴォルグ……」と呟いた
「………ごめんな……最期の時にいてやれなくて……」
炎帝は涙して……謝った
何時も素足で寒そうだったから……
靴屋に言って靴を作らせた
その靴を凄く喜んで大切にしてくれた
人の世に堕ちる時……
お別れも言わずに……
堕ちてしまった
以来……誰にも見えず……一人で生きて来たのだろう……
どんなに寂しかったか…
ヴォルグを想えば……涙が出て来た
『炎帝……何時か…えんまの所へ還る時……
オイラも連れて逝って欲しいんだ……』
ヴォルグの口癖だった……
炎帝が泣いていると……
慎一がヴォルグの靴を持ってやって来た
「………慎一………その靴……」
慎一は炎帝の前にヴォルグの靴を置いた
「ヴォルグが……くれた靴です……」
「そっか……その靴……お前に……渡したのか……
その靴はな慎一……オレがヴォルグに作ってやった靴なんだ……」
「………ヴォルグは音弥の中に入って……総ての力を使い果たして消えました……」
「………そうか……音弥を助けてくれたのか?」
あのままでは……人の世に還れなかった……
「慎一………その靴……持っててやっくれ……
ヴォルグが……託したって事は……
忘れないで欲しかったんだ……」
「……はい!忘れたりはしません
最期の一時だけでしたが……
俺も……子供達も……ヴォルグと一緒にいられて良かったです」
「…………慎一………ありがとう……」
炎帝はそう言い………球体を胸に抱き……泣いた
「雪……」
炎帝は雪を呼んだ
雪は炎帝の傍へと駆け寄った
「何ですか?炎帝」
「雪……オレのクローゼットの奥の方に箱がある
白い箱だ……持ってきてくれねぇか?」
雪は炎帝の部屋へと走った
暫くして小さな白い箱を手にしてやって来た
「これで御座いますか?炎帝」
「そう……その箱……」
炎帝は箱を手にすると……
蓋を開いた
「この靴は……人の世に堕ちる前にヴォルグにやろうと作らせた新しい靴だ……
ヴォルグにやる事なく……人の世に堕ちたからな……」
炎帝は小さな欠片を靴の中に入れて……
蓋をした
「八仙……この靴を……親父殿の所へ届けてくれねぇか?」
炎帝が言うと八仙の一人が現れた
「………解り申した…直ぐに……」
八仙は靴の箱を持つと……消えていった
「………今暫く………小さき魂を想う……」
炎帝はそう言い瞳を瞑った
ヴォルグ……
親父殿の所へ……やっと逝けるな……
ごめんな……
もっと早く……冥府に連れて逝ってやれば良かったな……
『炎帝 オイラ 凄く嬉しい』
新品の靴を履いて踊っていた……
誰の目にも止まらず……
皇帝閻魔を見送ってから過ごした……
そして人の世に堕ちて……
また一人にさせた……
ヴォルグ……
お前を想うと…悔やんでばかりだ……
もっと幸せにしてやりたかった……
ごめんな………ヴォルグ……
炎帝は小さき魂を想った……
ともだちにシェアしよう!