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第96話 還る①

炎帝は消えていった小さき魂を偲んでいた 今回……ヴォルグが身を賭してくれたから…… 音弥は人の世に還れるようにはなった だが……次……力を爆発させたら? どれだけの被害が出るか……想像は付かない 此処は魔界で 皇帝閻魔の結界の中でなくば…… 家は吹き飛んでいただろう どれだけの被害が出たか解らない そんな音弥を人の世に連れて逝けるのか? 今回は本当に奇跡的な偶然が起こった だが次は………ない 音弥を見た 修行が遅かったという言うのか? 小さな我が子に…… 自分と同じ想いをさせなけば……ならなかったのか? 毎日毎日……血反吐を吐く鍛錬をせねばならかったのか? 音弥の力を、封印したからと…… 過小評価していたのはある まさか……あそこで音弥が力を爆発させるとは想ってもいなかった 優しい子だ 人を思いやれる子になった だが……修行が遅かったのか? もっと早くコントロール出来る力を身につけさせる必要があったというのか? 炎帝は自分を責めていた…… どうしたら良い…… どうしたら…… 炎帝は決断を下せずにいた 流生達を先に人の世に還せば…… 何故自分は還れないのか……と音弥は考えるだろう その時……なんと伝えれば良い? お前は力を使ったから還れないんだ…… とは言えない…… どの子も……飛鳥井康太の子だった どの子も同じように愛しているのだ…… 手放したくなんかない だけど……今回は自分のミスだった 炎帝は顔を覆った 早く結論を出して…… 久遠達を人の世に還さねばならないのに…… その時、流生達も連れて還らねばならないのに…… 青龍達は……声も掛けられなかった 何か言えば…… 非情な決断を下さねばならなくなるから…… 動けずにいた その時……静まり返った部屋に声が響き渡った 『炎帝よ……この石を音弥に持たせろ』 声がして顔を上げると…… 九曜神が炎帝の前の姿を現した 「……海路……」 『この石をネックレスにして常に肌身離さず音弥に持たせろ!』 九曜神はそう言い炎帝に石を差し出した 綺麗なエメラルドグリーン色した石を炎帝は受け取った 「これは?海路……」 炎帝は九曜神に問い掛けた 『この石は音弥の暴走を防ぐ石だ 音弥の力を石が吸収する…… 総て石が吸収するのであれば…… 人の世にいたとしても安全だ』 「………海路……悪かった…… オレがもっと早く修行させれば良かったんだ…… オレは音弥の力を過小評価してた訳じゃねぇが……大丈夫だと想っていたんだ……」 『炎帝……自分を責めるな……… お前は誰よりも辛い修行を子供の頃から受けてきた 我が子に……人の優しさもぬくもりも知らぬうちに修行をさせなくなかったのであろう…… 誰よりも人の優しさやぬくもりを…… 知らずに育ったお前だから…… お前は立派な母親だ……』 「………人の世に還っても良いのか?」 『その石を持たせておけば……な』 「………海路……この石を作る為に…… どれだけの寿命を削ったんだよ?」 『親らしい事など……してやれなかった償いだ 四季の子になり……神楽を継ぐ者を…… なくせは出来ぬ……』 「………海路……」 『康太……四季と晟雅と隼人を頼む…… そして音弥を……育ててくれ……』 「解ってる……お前との約束だかんな!」 九曜神は微笑むと……姿を消した 愛してやれなかった息子の四季と、孫の晟雅と隼人の行く末を案じ…… やがて神楽を継ぐ音弥を案じて……九曜神は何かをせねばと……自分の寿命を削って…… 制御させる為に石を作ってきた 海路…… 親として、祖父として…… 生きていた時に出来なかった想いを悔やみ……先へと繋げる 炎帝は石を大切に胸に抱くと……音弥を抱き締めた そして慎一に石を手渡した 「慎一、この石を音弥に持たせてくれ! ネックレスにして首に下げさせてくれ…… 蒼兄に頼めば宙夢が作ってくれる…」 慎一は「解りました、蒼太さんに頼んで作らせます」と言い石を受け取った 「慎一、先に子ども達と還ってくれ オレも用事を終わらせたら直ぐに還る」 「待っております……ですから…… どうかご無事で……」 「オレにはまだ人の世でやる事がある!」 慎一は康太に深々と頭を下げた 炎帝は久遠の処へ向かった 「これより人の世に送る! オレはまだ還れぬが……頼めるか?」 「坊主、還ったら病院に来るなら頼まれてやる! あんまり無茶するな……解ってるな?」 久遠はそう言い炎帝の頭を撫でた 「久遠……今回は本当に助かった……」 「俺はお前に返しきれない愛を貰った それに俺は医者だ! 患者がいれば助けるのは医者の務めだ!」 だから気にするなと久遠は康太の頭を撫でた 「久遠、庭に出てくれ……」 「解った!なら病人を連れて来い!」 久遠は清四朗を立たせると肩に担いだ 慎一は毘沙門天を支えて 一生は地龍を支え、聡一郎は悠太を支えた 悠太は何とか松葉杖を使って歩いていた 真矢は康太を抱き締め……青龍の頬に手を当てた 「私は一足先に還って待ってます」 「母さん……」 真矢は息子を抱き締めた そして断ち切るように清四朗の元へ行った 微笑む顔は…天照大神に似ていた 母というのは何処までも強く……優しいのだと……炎帝は想った 「康太……還ったら顔を見せてね……」 「真矢さん……いいえ……義母さん…… オレは必ず……顔を見せます!」 義母さん……と言われ……真矢は涙ぐんだ 「今後は義母さんと義父さんと呼びます……」 「康太……嬉しい……本当に?」 「オレは……貴方達の息子になりたい……」 「もう……息子よ……康太は私の息子よ!」 真矢は泣きながら言った 炎帝は真矢の頬に口吻けを落とすと…… 離れた 真矢は康太の身長が……伊織位あるのに…… 今更ながらに気が付いた 真矢は炎帝を抱き締めた 清四朗は何も言わず……その光景を見ていた 炎帝は清四朗に「義父さん無理は禁物です」と釘を刺しておいた 真矢はクスっと笑って清四朗を見上げた 炎帝は二人から離れると足元に円陣を出した 一度に大人数を人の世に送るのは…… 結構力を使うから…… 呪文を唱えようとすると肩を叩かれた 振り向くと閻魔が炎帝の横に立っていた 「お前は力を使わなくともよい!」 そう言うと閻魔は前に出た 「なるべく重なって抱き合っておれ!」 閻魔が言うと久遠達は身を寄せた 閻魔は呪文を唱えた すると円陣が光り……時空が歪んだ めまいに襲われ立っていられなくなり目を瞑った そして地に足が着いてる感覚がして目を開けると…… 飛鳥井記念病院の中だった 久遠の瞳に現実が映り出される 慌ただしく看護師が動き回り、患者が行き来していた 「久遠先生、患者さんですか?」 久遠は声を掛けられて驚き……看護師を見た 人の世に還って来たのだと……久遠は気付いた 久遠は看護師に 「個室を二つ用意しろ! 一つは完全の個室 もう一つは二人部屋の個室を今すぐに用意しろ!」 そう指示を出した すると看護師は急いで事務局に向かった そして部屋を用意すると久遠の元に知らせた 部屋番を聞き久遠は患者を病室まで連れて行く 看護師は車椅子を用意すると清四朗を車椅子に乗せた そして毘沙門天と地龍も車椅子に乗せて病室へと連れて行った 真矢は清四朗を病室へと連れていくと、笙に連絡を入れた 電話を取った笙は『母さん!』と電話に飛びついて出た 「笙、清四朗の入院の用意をして来て下さい」 『母さん、父さんは?』 「康太が連れて逝ったのです…… 快方に向かっていなくてどうするのですか!」 真矢の言葉に笙は胸をなで下ろした 『直ぐに逝きます!』 そう告げる笙に真矢は 「病院に来るのなら、瑛太位の体格した男性の寝間着を二組、取り敢えず買ってきて下さい」 『……え?……父さんだけじゃないの?』 「怪我をしているのです! 此処には頼れる人などいない筈です! 私達が看病せねば、康太に顔向けできません!」 真矢にそう言われれば……聞くしかない 『解りました! 取り敢えず下着や寝間着、入院に必要なモノは買って向かいます! 二人分ですね!』 笙はそう言い電話を切った 清四朗はベッドの上で笑っていた 最近……そんな穏やかな顔をした清四朗を見ていなかったから…… 真矢は清四朗に抱き着いた 「どうしたんだい?真矢」 「………最近……そんな優しい穏やかな顔をした……貴方を見ていなかった……」 ずっとベッドの上で苦しんで…… 役者として生きれるか解らない絶望感に……伏せっていた 清四朗は真矢の背中を撫でて…… 「すまなかったね真矢…… でも……もう大丈夫だ 康太が私を役者として生きられる様に軌道修正してくれたからね……」 康太の果てへ逝く 榊原伊織の書き下ろす脚本で映画を撮る その映画が、榊 清四朗の代表作になると康太は言った なれば……その果てへ逝くだけと想っていた 役者として生きられないかも…… と言う事実に直面した時…… 絶望が清四朗を襲った 自分は演じるしか何もないと……気付いた 清四朗は真矢に 「私は演じるしか出来ない…… 何もかもなくせば…… それはもう……私でなくなってしまう……」 本音を吐露した 真矢は清四朗の手を握り締めて泣いた 「貴方は役者馬鹿でしたからね…… 榊 清四朗……以外にはなれないのですよ…」 役者馬鹿と言われて清四朗は笑った 「………貴方は……康太に生かされているのです だから……榊 清四朗以外にならなくても良いのです」 「真矢……」 「私は貴方が生きててくれば…… 役者でなくても良い…… だけどそれだと……貴方は萎れて枯れてしまうのでしょ? 貴方が役者を辞めれば…… 私だけ演じる訳にもいかなくなる 演じる私は……貴方の傍にいられなくなる…… 私達は……演じるしか生きられないのですからね……」 「………真矢……演じられなくなる自分など…… 想像もしなかった だけど……足を座席に挟まれて……切るしかないと言われた時…… 私は……切るなら殺してくれ……と訴えていたよ 榊 清四朗として生きられない自分は…… 死んだも同然だと……想っていた お前の事を考えなかった訳じゃない…… でも……私は役者以外になる自分を…… 受け入れたくはなかった……」 真矢は清四朗に縋り付いて泣いた そして顔を上げると女優の顔をして 「……貴方……きっと私も同じ事を想います 女優として生きられなくなったとしたら…… それは死ぬより辛い現実ですものね…… 貴方の妻として生きていたい思いもあります でも……私は女優として死にたいのです……」 想いは一緒だと真矢はそう言い、清四朗を抱き締めた 一緒に生きてくれた妻であり、盟友であり同志だった…… 施設で一緒に辛い時代を堪えて過ごした 役者になり……自然と結婚した 何時しか演じる事しか頭になくなって…… 哀しませた時もある だが今……こうして生きて共に過ごせる事が嬉しかった…… 抱き合ってると……咳払いされた 「………僕を呼び出して……お二人はラブラブって…… 僕が来た事すら解らないのですからね……」 やってやれない!と、両手一杯の荷物をドサッと下ろした 真矢はニコッと微笑み立ち上がった 「笙……着替え持ってきてくれましたか?」 「はい!持って来ました 誰ですか?入院してるのは?」 「……毘沙門天さんと地龍さんと言われる方よ」 「……では寝間着を持って行きます! 病室は?解りますか?」 「………久遠先生に聞いて持って行ってね!」 真矢はニコッと微笑み、無言でやれ!と言っていた 笙は病室を後にすると久遠の処へ向かった 「久遠先生」 「お!笙、胃の調子はどうだ? また定期検診にちゃんと来いよ!」 「あの、毘沙門天と地龍の病室を教えてくれませんか?」 笙は小声で問い掛けた 毘沙門天と地龍がどんな名前で病室に入ってるのかは……少し不安だったが、真矢に言われた以上は……行かない訳にはいかなかった 「清四朗さんの隣の二人用の個室に入ってる」 「あの下着と寝間着を持って来ました あの入院に必要な洗面用具とか買ってきました!」 「助かる!着替えさせて構わないからな! 寝間着着せといてくれよ!」 「……あの…酷いのですか?」 「毘沙門天は清四朗さんを助けるために身を乗り込ませたらしくてな…… あばらも……ボキボキだった 地龍とか言うのは…剣に刺されて心臓の数ミリ側を貫かれていた…… どの道二人も重体だ!」 「…そうですか……」 神だろから……自分の傷も直ぐに治せるのかと想っていた 「この二人は飛鳥井格と助と名前を出してあるからすぐ解る!」 物凄いネーミングで笙は苦笑した… 笙は久遠に深々と頭を下げると、側を離れた そして清四朗の病室の隣の個室をノックしてドアを開けた 病室のドアの横の名前のプレートには…本当に… 『飛鳥井 助』『飛鳥井 格』と張り出してあった 差し詰め光圀は康太だろうな……と想い笙は病室に入っていった 毘沙門天は「……誰?」と問い掛けた 地龍はジーッと笙を見て…… 「あぁ、青龍兄さんの人の世の兄さんですよね?」と尋ねた 「榊原 笙と言います」 笙は自己紹介した 入院中はお世話しますと告げて、寝間着に着替えさせた そして洗面用具とかの使い方を教えた 毘沙門天は人に紛れて生きてる時もあるらしく、使い勝手は解っていた 地龍は……初めて目にするモノばかりで戸惑っていた 笙は毘沙門天に深々と頭を下げた 「父を…救って下さって…… 本当にありがとうございました」 「笙…謝らなくてもよい 我は炎帝に頼まれていた…… だが……向こうのでる方が早かった…… 気付いた時には…遅かった 本当なら無傷で護ると約束していた 本当にすまなかった! 謝るのは俺の方だ…」 毘沙門天は傷付いた体躯で起き上がって詫びを入れようとした 笙はそれを止めた 「無理したら治りませんよ?」 「……すまない……」 毘沙門天は体躯を休めた 「しかし笙、点滴というのは痛いモノだな」 毘沙門天は少しだけ愚痴を言った 笙は笑って 「これは僕も嫌いなのです」と本音を教えてやった 地龍も点滴を打っていた 「地龍は大人しいね……」 「……口を開くと……泣きそうですから……」 地龍はそう言った 「……え?……何で?」 「………痛すぎる……何なんですか……コレ…」 本当に泣きそうになり地龍は訴えた 毘沙門天は「地龍は魔界から離れる事ないからな……知らねぇんだよ」と教えた 笙は「そうなんですか……」と地龍を撫でた 「悠太位の年しか見えないな……」 笙がそう呟くと 「龍の年は成人してますから大人です」と声が聞こえた 振り向くと聡一郎が立っていた 聡一郎は笙に深々と頭を下げた 「笙さんが用意して下さったのですか? 本当にありがとうございました」 「母さんから頼まれたからね」 笙は真矢の計らいなのだと教えた 「地龍はこう見えても奥さんがいるのですよ」 聡一郎は笙に教えてやった 「……え?この顔で妻持ち……」 笙は唖然となった 毘沙門天が「女神だったからな、美人の妻を!……娶ったんだよな!」と少しだけ僻みも入って答えた 聡一郎は「赤龍の娘を娶ったんですよ」と笑った 笙は「………赤龍って?」と問い掛けると 「一生です!」とあっさり教えた 「……一生……妻……いたの?」 「……妻はいませんが、子はいました 今世の一生もそうでしょ? 妻はいないが……子はいる……」 笙は言葉もなかった 「この子はね笙さん、四龍の四兄弟の一番下なんですよ」 と教えた 「………伊織に……何処か似てるね……」 笙は答えた それには答えず、聡一郎は 「二人とも大人しく寝てなさい! でないと久遠先生の怒りに触れますよ!」 と釘を刺しておいた 笙は「………神なのに……満身創痍だね……」と毘沙門天を見て言った 毘沙門天は「あぁぁ!言っちゃいけねぇ事を………」と笙を睨み付けた 聡一郎が笙に 「神だと言っても不死ではありません 人より長く生きるだけで総てが万能と言う訳ではないのです…… 神と言うのは人の想像の中でしかない…… 実際に人の目に映る事はない…… だけど……神だって消滅する時はあります 死ではないかも知れませんが…… 消滅してしまうのです…… 跡形もなく消えてなくなる……それだけの違いです」 聡一郎が言うと毘沙門天が「………司命……」と名を呼んだ 「毘沙門天、貴方は飛鳥井 格で 地龍、貴方は飛鳥井 助です! カクさんとスケさんと呼ばれたら、ちゃんとお返事なさいよ!」 と聡一郎は釘を刺した 毘沙門天は「………何で俺が格よ?」と文句を言った 「知りません!このネーミングセンスは久遠先生なので……計りかねます」 笙はクスクス笑っていた 毘沙門天は「………こんな大変な時に……炎帝の為に動けねぇなんて……」とボヤいた 聡一郎は「大人しく寝てなさい!僕は追い込みに行きます!」と言い、病室を後にした 毘沙門天は聡一郎を見送り…… 「………アイツ……無茶しねぇかな?」と思案して 梵天を呼んだ 「梵天……司命を見張れ! 司命に何かあったら炎帝に顔向け出来ねぇだろうが!」 そう言うと梵天が姿を現した 「………我が司命を追おう! お前は寝ておれ……なくば消滅するしかないぞ?」 梵天は皮肉に嗤うと……姿を消した 毘沙門天は身を起こすと 「十二天に告ぐ! 司命を護れ! 自らの命を賭して司命を護れ!」 叫んで……意識を手放した 笙は毘沙門天を寝かせて、地龍に 「良い子して寝てるんだよ!」と釘を刺して病室を出た 何か起こっているのは……肌で感じていた だが自分達が何が出来る? ならば見守るしかない……と笙は父親の病室に向かった 真矢は笙に 「飛鳥井の方々は変わりない?」と尋ねた 「康太がいませんからね…… 家族は皆……元気がありません」 真矢は「そう……」と呟いた 康太…… 必ず還って来るのですよ 貴方がいないと死にそうな家族が…… 待っているのですからね…… 真矢は両手を握り締めると……胸に抱いた 康太の無事を祈る様に…… 真矢は瞳を瞑っていた…… 魔界に残った炎帝は崑崙山や魔界の出入口に結界を張って歩いた 四神と炎帝と転輪聖王とで緻密な結界を張り巡らした 簡単に出入り出来ない様に…… 幾十にも結界は張り巡らされた そして水神を送る為に…… 崑崙山の麓にある睡蓮の泉へ足を伸ばした 水神を抱くのは朱雀だった 炎帝は雑いから炎帝に変わり、水神を大切に胸に抱き飛んだ 四神は偏屈な水神とは話した事もなかった 水神と仲の良い者などいないと想っていた その水神が炎帝の頼みで泉の管理人になった 何処で知り合ったのかさえ…… 想像も付かなかった 睡蓮の泉へ来ると、朱雀は水神の魂を炎帝に渡した 炎帝はその魂を胸に抱くと…… 口吻けを落とした 「………水神……すまなかった……」 炎帝はそう詫びて……魂の球体を湖の中に沈めた すると……透き通った泉に波紋が出来ると…… 水神が姿を現した 『炎帝、我はお前の力になれずに逝くのは不本意だ……… たが我の寿命は尽きた……お別れだ炎帝……』 「水神……ごめん」 炎帝は泣きながら水神に謝った 水神は炎帝を抱き締めた…… 実態のない水神の姿は透き通っていた 抱き締めた炎帝が透けて見えていた それを見れば水神は既に…… 生きてないのは解る 『謝るでない炎帝……』 「オレが……お前を呼んだから……お前を逝かせる事になった…… お前を幸せにしてやれなくて………ごめん…」 『炎帝……我はお主の役に立ちたかった 志半ばで逝かねばならぬ我を許してくれ……』 「水神………こんなに早く逝かせるつもりじゃなかった……」 まさか……悪魔に殺されるとは…… 視えてなかった 水神の先が視えてたら……… 絶対に据えなかった 『炎帝、我は先に冥府で待っておる……』 「皇帝閻魔に扱き使われて来いよ……」 『それは嫌なので……ひっそりと隠れて暮らしておる……』 水神はそう言い笑った 『我の人生は……炎帝、お主と出会って退屈を忘れられた…… ずっと眠くなる世界で惰眠を貪っておった…… 例え短くとも……我はお主の役に立てた………来てよかったと想う……』 「………水神……幸せにしてやりたかった……」 『幸せだったから……大丈夫じゃ!』 「せめてオレが還るまで……」 『お前を待ちたかったが……待っててやれずに済まない…… 我はせっかちな性格故に……許せ……』 「………水神……ありがとう……」 水神は炎帝を抱き締めた 『お主をずっと見ておる…… お主をずっと待っておるから……』 そう言い水神は………消えて逝った 炎帝は天を仰いだ…… 水神……少しだけ眠れ…… そしたら……起こしてやるから…… 炎帝は水神を見送った 『………逝ったのですか?水神は?』 その時……優しい癒やしの声が響き渡ったった 炎帝は声の方に振り向くと…… 釈迦が立っていた 炎帝は釈迦は見ずに……頷いた 「貴方がこの泉にいる訳は…… 水神を送るためだけではないのでしょ?」 「次代の女神を据える為もある」 「この泉にいる女神はお婆様の処へ召されました 魔界の者が戦って命を賭している最中に、一人護られて寝ていたから…… 修行のやり直しをさせました」 「………それは視えてた 此処にいれば、お前が現れてお前の配下の女神をくれると出てたからな……」 「………なんとも……ちゃっかりした処…… 伴侶を得ても直ってはおらぬのか……」 釈迦は呟いた すると転輪聖王が爆笑した 「お転婆だわ、やんちゃだわ……炎帝は何一つ変わってはいない……… 唯……伴侶を得て甘えまくっている分…… 憎らしい程に愛して止まなくなった……」 転輪聖王の愚痴に釈迦は笑った 「………聖王……お主だけ炎帝の傍へ逝きおって! 我が悟りから醒めたら……置いてきぼりにされた!腹が立つ!」 「釈迦、そんな事より姿を現した要件を言えよ! 文句言う為に出て来た訳じゃないだろ?」 「たった今、司命の死を……夢で見ました 炎帝は今魔界にいると鏡が映しましたので出て参りました!」 釈迦が言うと炎帝は瞳を見開き……驚愕の顔をした そして気を取り直して釈迦に向き直った 「その夢は何日後……起こる?」 「三夜後……」 「と言う事は人の世では?」 炎帝は転輪聖王を見た 「今夜だな!」 「今から還れば間に合う?」 「間に合わねば俺の寿命を削って戻ればいい! お前のいない人の世に生きる気はねぇからな……削って丁度だろ?」 転輪聖王はそう言い笑った 「釈迦、オレは還るわ! まだ司命が還るのは早い 果てを歪ませる訳にはいかねぇかんな!」 「なれば、女神の泉の女神は我が用意しよう!」 「頼めるか?」 「お主のご母堂が妹の子を、女神の泉の女神に据えます! 名を凛と申す女神に御座います」 「そんないい子を……大丈夫なのか?」 「女神の泉に女神の配置をせねばならないのは、解っておりました 閻魔に申して凛を……と申し上げたのですが…… あの方は炎帝がいるうちは炎帝がやる!……と申されてたので……手が出せませんでした」 「兄者はオレが魔界にいるうちにすべて配置して還る事は解ってたかんな…… なれば釈迦……女神の配置を頼めるか?」 「御意!総て貴方の想いのままに……」 釈迦は炎帝の前に跪くと、炎帝の手を取り…… 手の甲に口吻けを落とした キザな仕草がよく似合う男だった…… そして立ち上がると 「炎帝、今後魔界に来る時は必ず女神の泉を通して参れ! なくば時空が歪み……元通りにならぬ時空の隙間から魔が入る!」 「解った!今後は青龍の気流に乗って女神の泉から出るようにする!」 「それでよい!」 釈迦はそう言い、改めて青龍に向き直った 「炎帝の父の釈迦と申す 今後お見知りおきを!」 釈迦は青龍にご挨拶した 青龍は「………え?……炎帝の父???」と混乱していた 炎帝は青龍を抱き締めて…… 「………釈迦……お前がそれを言うのか?」 「炎帝の伴侶殿には、ちゃんと自己紹介せねばらなぬので! 我等、炎帝を魔界に呼び出した神々は……炎帝の父と……想って見守っておる……」 青龍は釈迦に深々と頭を下げると 「青龍に御座います!」と挨拶した 釈迦は青龍を真っ直ぐ見て 「よき伴侶を得たな炎帝……」とにこやかに笑った 「釈迦、オレは還るかんな! 早く還らねぇと……司命が大変だ!」 「まぁ、我の話も聞くがよい お主を狙っていた男は愛染明王の加護を得た者であった お主にも視えておったであろう…… だからお主は踏み込んで潰そうとはせなんだ ……違うか?」 「愛染明王はオレに言った 加護は契約! 違えるならお前であろうと排除する……と。 だが契約を違える者は加護はせぬ あと少し待つがよい…… そしたら此奴は三度目の契約違反をやるであろう………と。 そしたら潰しに来るがよい……と言われたかんな、そろそろ頃合いだと想って仕掛けに出た」 「そんな事であろうと想っておった 今回は我も逝く! 愛染明王を迎えに……我はついて行く」 「なら女神の泉で待ってろよ! オレは兄者に別れを告げたら泉に向かう」 「では、女神を配置して待っておる!」 釈迦はそう言うと……姿を消した 炎帝は転輪聖王に 「釈迦が来るの知ってたろ?」と問い掛けた 「………司命の死の夢が……消えぬ……と姿を現した……」 「少し前から視てたと言うのか?」 「……あぁ……そうだ……」 「………そうか……踏み込んじゃいけねぇ領域に聡一郎は入ってしまったか……… オレの為ならば……聡一郎はやるかんな!」 ………康太の為だけに生きる命だ…… 康太の為なれば……と、聡一郎は深追いして……破滅へと向かう 知っていて……今回は音弥や魔界の事があり…… 追い詰めさせてしまった 逝かねば……炎帝は想っていた 黙り込んだ炎帝に朱雀は 「お前は考えるんじゃねぇ! 考えるより体躯で動く方が似合ってる! 考えはお前の旦那が得意だ だからお前は何も考えるな!」と吐き捨てた 本能で嗅ぎ分けて康太は間違いのない選択をする だから兵藤はその言葉を贈った 「だな!取り敢えず閻魔に別れを告げたら女神の泉に行き、還るとするか!」 炎帝がそう言うと青龍は龍に姿を変え、炎帝に向け頭を下げた 炎帝は青龍の頭の上に乗ると、青龍は天高く昇り気流に乗った 朱雀は玄武と白虎に「またな!」と別れを告げて火の鳥の姿になり飛んでも逝った それを見送り玄武は 「慌ただしい奴よのぉ~」と白い髭を触った 白虎も「誠、せわしない奴等だ!」と豪快に笑った だが、彼等がいない魔界は…… 結構寂しい…… 早く還って来て欲しい想いと…… 悔いのない日々を送って欲しい想いと…… 入り乱れて複雑だった なんにせよ、炎帝だから…… 玄武と白虎は顔を見合わせて 「今のうちに静かな日々を堪能せねばな」 と玄武が呟いた 「炎帝が還ればせわしない日々が来る! 奴は嵐を背負ってやって来るからな!」 と白虎が豪快に笑った 「飲むか?白虎?」 「飲もうぞ!玄武!我が友よ!」 「我が盟友を想い、飲もうぞ白虎!」 「我が命……炎帝を想い呑むのも一献」 二人は駆けて逝き…… 想いを飛ばした 無事で…… 魔界へ還れ! 皆の思いは一緒だった

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