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拉致(3)
「えっ……?」
「遅効性の媚薬だ。パーティーが始まる頃に効いてくるようになっている」
「そんな……っ」
いつの間にか男達の拘束の手も外されていて、僕は慌てて双丘へ手を置く。
「やだ、取ってくださいっ」
「私がその願いを聞くと思うかい。取りたければ自分で取るといい」
「……くっ……」
意を決して秘蕾に人差し指を入れる僕。
初めて触れる其処は、すごく熱かった。
それに反して冷たい僕の指が、僕の中で異物を探して蠢く。
「ん、うっ……」
「精々、頑張って取り出すといい。後で迎えに来るよ」
と、言い残して去って行く白龍。
「……どうしよう。取れない」
一旦は錠剤に指先が触れたのに。
取れると思った時、触れた指先が錠剤を更に奥に押しやってしまった。
どうすればいいのか、途方に暮れている僕の耳に控え目なノック音が届く。
「水月」
扉の向こうから聞こえてきたのは紅龍の声。
「紅龍!?」
「大丈夫か、水月」
「うん。それより、紅龍の方こそ大丈夫? 僕を逃がした罰を受けたって」
「ああ。大したことはないよ」
(良かった)
紅龍の声を聞けて僕は安心する。
「あ、ねぇ、此処に来て。助けて欲しいんだ」
紅龍なら僕の中から媚薬を取り出せるかもしれないと思った僕は、彼に部屋に入って来てと頼んだ。
でも、紅龍の返事はそんな希望を打ち砕く。
「すまない…。この部屋は鍵が掛けられていて、その鍵は兄さんが持っているんだ」
「そんな……」
助けて……、彰史さん。
届かぬ願いを胸に抱いたまま、時間だけが無情に過ぎていった。
◆◇◆◇◆
夜になり、時計が午後9時を回った頃。白龍が僕を迎えに来た。
「……っ、は……」
媚薬で乱れる呼吸を必死に抑え、白龍を睨む僕。
「そうやって欲情に流されまいと健気に耐えているお前の姿は、どんな美女よりも綺麗だよ」
薄い微笑みを浮かべて、白龍が僕の頬を撫でる。
その些細な仕種にさえ快感を得てしまい
「……ぁ、ふ……」
僕はぴくんと躰を震わせる。
「さぁ、行こうか、姫君」
恭 しく差し出された白龍の左手を払い退け
「貴方の手は借りない!」
僕はふらつきそうになりながらも、白龍の横を歩いて行った。
◆◇◆◇◆
白龍が僕を連れて来たのは、屋敷にあるダンスホールではなく地下のさほど大きくはない一室だった。
四方の壁にスクリーンが張られた其処には二十人程の仮面を付けた男達がいて、愉しげに雑談している。
(こんなところでパーティーなんて……。それに、女性が一人もいない……?)
「お前は此方だよ、水月」
と、白龍は僕を部屋の奥に設けられたステージの袖に導く。
数段、階段を上り、僕は手招かれるまま白龍の許へと向かった。途端に椅子に座らせられ、両手は左右の手摺に、両足は左右の椅子の脚に固定された。
「やっ……、何を……するんですか……!?」
「今夜の商品であるお前を、ゲストの方々にしっかり見てもらわなくてはいけないからね」
いつの間にか仮面を付けていた白龍が静かに言う。
「商品?」
嫌な予感がした。
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