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第71話 やっぱりぼくは馬鹿です。

 少し火照った体を意識しながら、聖先輩の背中について行く。キスマークが付けられた箇所を服の上から触って、さっきの先輩の扇情的な行為を思い出していると恥ずかしくて顔から火が出そうだ。  本当に自宅の目の前まで送ってくれた先輩は、何事もなかったみたいに「じゃあ」と片手を上げた。 「明後日、お前の試合見に行くから」 「あ……はい、ありがとうございます」  なんだか素直に喜べなかった。  ぼくは一体どういう行いをすれば、誰も傷つかずに済むんだろうか。  もう自分で気付いていた。  ぼく、聖先輩のこと嫌いじゃない。初めて喋った時は無愛想で目つき悪くて不親切なただのイケメンって思ってたけど。  今は、急にエッチな事されるのは心臓がもたなくてやめて欲しいって思う時もあるけど、先輩といると楽しくてドキドキするし……好きか嫌いかで言ったら……好きかもしれない。 「俺と歩太のも、時間が合えば見に来てほしい。あいつも小峰に見に来て欲しいって言ってたから」 「あっ……そうですか。はい、絶対見に行きます! 先輩、優勝目指して頑張ってくださいね」  聖先輩はふっと笑ってからぼくに背を向け、来た道を戻って行った。  途中で振り向くかなとずっと見ていたけど、先輩は振り返る事なく消えていった。  部屋へ入り、自室のベッドへダイブする。  うつ伏せになって、ぐちゃぐちゃの頭の中を整理しようと試みた。  最近は、聖先輩からのお誘いを断っていた。家にお邪魔したら絶対にエッチな事をしてしまうから、流されやすい自分に鞭打って適当に理由を付けて断ってきたのに。  ベッドから這い上がり、スタンドミラーの前で部屋着に着替えている最中に気付いた。  ……なんかさっきよりも濃くなってる気がするんですけど。 「あぁーー」  今度はベッドに仰向けになる。  なんでキスマークなんか付けてるんだよ、聖先輩。マーキングって、牽制してるみたいじゃん。それってさ、誰に向けて?   じたばたと手足を動かしても、ゴロゴロと転がっても正解が分からなかった。  ぼく、歩太先輩も、聖先輩も好きでいちゃダメ? 「ダメに決まってんだろぉぉ! ぼくの馬鹿ッ!」  一人ツッコミをしながら、ぼくはもう一度うつ伏せになり、現実から逃れるためにふて寝をすることに決めた。  もう何も考えない。  明後日のぼくに全てを託そう。

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