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〈第4章〉ぼくの運命が変わる日 球技大会スタート1
そして球技大会当日。天気は晴れ。
さすがに今日は忙しいらしく、歩太先輩はいつもの挨拶運動はしていなかった。
教室に入り、自分の席でグリーン色の体操着に着替える。
もちろん、鎖骨の下をうっかり晒さないように注意しながら。
「雫ー、着替えたなら体育館行こう」
着替え終わった乙葉と体育館へ続く渡り廊下を歩きながら、自然とため息が漏れてしまった。
「雫、元気無いね。もしかして緊張してんの? 大丈夫だよ、絶対シュート打てるって。リング下にいてもらえれば、俺もすぐに雫にパス出すようにするから」
元バスケ部の乙葉と同じチームで本当に心強いが、シュートを打てるかどうかの心配よりも、もし点を取れたらぼくは本当に聖先輩にお願いできるのかどうかの心配の方が強かった。
なにも言わないぼくを元気付けようと乙葉はいつも以上に明るく声を発する。
「雫がシュート打てるだなんて、きっと誰も思ってないよ。敵も雫は戦力外だって思ってるから、雫がボール持ったとしても無視すると思うよ」
「なんかそれはそれで虚しくなるよ……」
「でもチャンスだよ。練習で一度入ったんだろ? 落ち着いてやれば出来るって」
乙葉は、ぼくが聖先輩とお別れするためにゴールを必ず決めたいと思ってるのだと信じて疑っていないようだ。
ぼくは体操服の上からキスマークがついているあたりをギュッと掴む。
全ては今日の試合にかかっている。気を持ち直して、ぼくは力強く体育館の中に足を踏み入れた。
今日は整列はせずに、皆好きな場所に立っていいことになっている。
開会式が始まった。
「球技大会はスポーツの楽しさや喜びを味わうのはもちろん、クラスの連帯を強め、より良い人間関係を築くことを目的としています。正々堂々と戦って、各クラスぜひ優勝を目標にしながら競技を楽しんでください。あ、くれぐれも怪我のないように」
壇上の歩太先輩も学校指定のジャージを着て、いつもよりもフランクな喋り方で会長挨拶をした。
そういえば歩太先輩を見たのは久しぶりだった。
最近は専ら聖先輩とばかり一緒にいて練習していた。歩太先輩は今日の準備に追われていて朝の挨拶運動はしていなかったから、スイーツバイキングに行った日以来喋っていない。
(だからかも……。聖先輩とばかり一緒にいるから、気持ちが揺らいで来ちゃったのかもしれない)
こうやって下から歩太先輩を見つめると格好良くて笑顔が最高に爽やかで好きって思ってしまうぼくは、なんて優柔不断なのだろうと胸が痛くなって落ち込んでいたその時、横に立つ乙葉に腕をつつかれた。
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