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第100話 涙ながらの告白1
聖先輩。
好きです。好きなんです。
この胸の痛みが、紛れもない真実なんです。聖先輩が好きだと全身で叫んでいるんです。
無我夢中で電車に乗り、緑ヶ丘駅で降りてからまた夢中で階段を降りた。必死の形相に周りの人たちも何事かとドン引き。けれどそんなことどうだっていい!
先輩の家の屋根が見えてきたのと同時に、引越し業者のトラックとすれ違ってしまったので焦った。トラックにはそこのマスコットキャラクターの動物がでっかく載っていて、いつもは和むその笑顔も今は忌々しく感じられる。
もう、荷物をすべて乗せ終えてしまったのだろうか。
ぼくは汗を拭いながらますます駆け足で、聖先輩の家へ急いだ。
お願いだから、ぼくを置いて行かないで。
ようやく聖先輩の家に着いたぼくは、何か考えるよりも先にインターホンを連打していた。
(出て! お願いだから!)
願いが通じたようで、しばらく押していたら急に玄関の鍵が開く音がして、少しだけドアが動いた。
ぼくはすかさずドアノブを引っ張り、ドアを全開にした。目を丸くさせた聖先輩がそこに立っていた。
「聖先輩!」
「な……小峰……」
「ぼく、聖先輩のことが、大好きです!!」
そのまま、ぼくはとんでも無く大声で愛の告白をし、深々と頭を下げた。
そのはずみで瞳に溜まっていた涙がコンクリートの上にポロポロと落ちた。先輩の足元が見えるけど、微動だにしない。きっと呆気にとられているのだろう。
顔を上げ、聖先輩を見るとやはり訝しんだ表情をしている。
しかしもう、落ち着いて話せるような心情じゃなかった。ぼくは決壊したダムのように気持ちを爆発させていた。
「ぼくは元々、歩太先輩が好きでした。けど聖先輩と過ごすようになって、冷たく見えて意外と照れ屋なんだってところとか、少し強引で格好いいところとか、その顔で甘い物が好きなところとか、毎日聖先輩の新しい一面を知っていくうちに嬉しくなって、ぼくの心の中は聖先輩でいっぱいになっていきました。加倉井先輩に襲われそうになった時、ずっと聖先輩に助けを求めていたんです。信じてもらえないかもしれないけど、本当にずっと聖先輩の事を呼んでたんです」
「……小峰」
「エッチなことだってそうです。この家で初めて股間に触れられてイっちゃった時、羞恥でいっぱいになったけどずっとその時の情景が消えなくて。学校でも道端でも、聖先輩にいやらしく体に触れられたこと、いつまでも頭から消えてくれませんでした」
「おい、ちょっと静かにしろ。今通り過ぎてった老人が変な目で俺を見てただろうが」
「聖先輩はずるいです! 酷いです! ぼくに散々優しくしておきながら、自分は勝手にいなくなろうとするだなんて!」
いつの間にか、振り回されてしまった苛立ちを聖先輩にぶつけていた。振り回されたって被害者ぶってはいるが、勝手に気持ちが揺らいだぼくが悪いのに、目の前のこの人に気持ちをぶつけるしかなかった。
聖先輩はどういう種類のものかわからない溜息を吐いて、ぼくの手を引っ張り家の中に入れた。ドアをきっちりと閉められ、そのまま背中を押されて見下ろされる。
「優しくなんかしてない。お前のこと、暇つぶしに適当に扱ってたって言っただろ」
「そんなの嘘です。だって先輩、あの時ちゃんと加減しながらぼくを机に押し倒した。もっと荒くしようと思えばいくらでも出来たのに、ぼくをちゃんと気遣ってた。最後に……ぼくの名前を呼んで……」
聖先輩は口の端をぎゅっと結んだまま、ぼくを真っ直ぐに見つめていた。困ったようにも怒ったようにも見える。というかはっきりと認識できない。水の底から聖先輩を見ているから。
聖先輩のことになると、ぼくは滅法弱い。どうしてこんなに悩まなくちゃならないんだろう。それはきっと、この人を大事に思っているからだ。
「……お願いだからっ、ぼくを置いて行かないでくださいっ……」
ぼくはしゃくり上げながら、先輩の両腕にしがみついた。
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