えぐえぐと嗚咽を漏らしていると、聖先輩はまた種類の分からない溜息を吐いた。 「んな事言われても、もう決まった事だから」 「それは分かってますけど……っ、耐えられないです！　遠距離でもいいです！　ぼくともう一度、お付き合いしてください！」 「は？」 「電話だってメールだって、毎日します。日本食が恋しくなったら地域の名産品をセレクトして空輸します。なんならぼくの恥ずかしい写真や動画も惜しみなく」 「いや、小峰、ストップ。お前は何を言ってるんだ？」 　口に手を当てられ、強制的に黙らされた。 　けれど今、ぼくの素直な気持ちを言わないと、また後悔してしまう。 　聖先輩の手を払って、ぼくは構わず続けた。 「だから、ぼくはそれくらい聖先輩を好きになったっていう事です。聖先輩だって初めに言ってくれたじゃないですか。『ぼくとだったら、恋愛できそうな気がする』って」 「いや、そうじゃなくて、お前は俺が海外にどのくらい行くと思ってるんだ」 「……明日からずっとですよね？　もう会えなくなるんですよね？」 「四日で帰ってくるけど」 「よっか？！」 　はっや！　と驚きのあまりに、出ていた涙も引っ込んだ。 「う、嘘ですよ！　さっきぼく、引越し業者のトラックとそこですれ違って」 「こんなに人が住んでんだから、今日引越しって所もあるだろ」 　あのトラックは、たまたまだったの？ 　だって歩太先輩は確かに『聖とはもう会えなくなるのかもしれない』って…… 　そこでようやくやってきた羞恥心。ボボボッと顔から耳にかけて火をつけられたように熱くなる。 　これは、歩太先輩の思惑にまんまと乗せられたようだ。 「父親が、いい人を見つけたみたいで。紹介したいって言われたんだ。夏休み入る前だったらまだ混雑もマシだからって」 「あぁ、なるほど……」 　いやいや、なるほどじゃない。 　ぼくはさっき、今生の別れのごとく、この人に愛の告白をしてしまった。気まずい。ぼくは咄嗟に俯いて、聖先輩と目を合わせないようにしたけど、頭上から痛い程に視線がチクチク刺さってくる。 「で、お前は、俺の事をどんな風に思ってるんだ？　もう一度詳しく教えてもらえるか」 　聖先輩の笑みを含んだ意地悪な声が降ってきて、完全に萎縮したぼくは、さっきの威勢はどこへやら、すぐにでもここから逃げ出したい気持ちになっていた。 「で、ですから……」 「お前は、本当にどうしようもないな。歩太の方が百倍いいに決まってるのに」 　途端に真面目な口調になった聖先輩は、伏し目になって見下ろしながら、ぼくの頬に流れた涙の痕を拭ってくれた。