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第102話 聖先輩がいい

 聖先輩は笑っていなかったけど、分かった。  照れている。  視線を横に外しながら、バツが悪そうにポツポツと言葉を紡いでいる。 「せっかく、お前を歩太の所へ返そうって思って連絡先も消したっていうのに。お前のそんな顔見て、そんな事言われて、また変な気を起こしそうになる」  先輩の告白に、ぼくは腰の力が抜けて、ずるずると体が床に沈み込みそうになる。  けれど先輩の両腕にしっかりとしがみついた。 「知り合うずっと前から、お前を見てた。毎朝屈託のない笑みを浮かべたお前に挨拶されてる歩太を見て、いつの間にか羨ましくなってたんだ。俺も小峰と、いつかは話してみたいってずっと思ってた」  ぼくの事を前から知っていたという聖先輩は、遠慮がちにそう告げた。 「小峰と初めて会話したその場に歩太もいたから、わざと冷たい態度を取ったんだ。分かってはいたけど、小峰は歩太が好きなんだってその時確信した。だからもう関わらないようにしようって、そう思ってた。それなのにお前は、馬鹿みたいな声出して告白してくるから……」  聖先輩は唇をぎゅっと噛む。  先輩の言いたいことはなんとなく理解した。ぼくが間違いを指摘してこないだろうと見込んで、自分に告白をされたのだと勘違いしているフリをしたのだ。案の定ぼくは指摘することなく、聖先輩との甘い関係に酔いしれるようになった。 「この関係はいつまでも続かないだろうっていうのは予感してた。お前は歩太の事を何度も話題に出すし、いつも俺に振り回されてるって顔してるし、辛かった。だから今回、歩太にキスマークの事を指摘されて、いい機会なんだって思った。お前の事はもう、忘れようって」  そう聞いて、生徒会室で言われたこと――暇つぶしだとか、からかっていたとか嘘を吐いた――それらは全部聖先輩なりの決別の仕方だったのだろうと察した。  やっぱり聖先輩は、優しい。自分だけが酷い奴だとぼくに擦り込ませて、自ら手を引いたのだから。  聖先輩はぼくの顎をぐっと持ち上げてから、ぼくの唇を指でギュッと摘んで叫ぶように胸の内を吐露した。 「歩太とお前がうまくいけばいいだなんてなぁ、本当は一度も思った事はないんだよ。俺は最低な奴だからな」 「しぇんぱい、いひゃいれす」 「信じてもいいのか? あんなによく出来た俺の親友よりも、お前はこんな男でいいんだって思ってくれたって事。俺は自惚れてもいいのか」  それは違う、とぼくは先輩の目を真っ直ぐに見つめて、首を横に振った。 「聖先輩でいい、じゃないんです。聖先輩がいいんです! お願いだからもう一度、ぼくとお付き合いしてください! ぼくとちゃんと、恋愛してください!」  聖先輩は、ぼくを掻き抱いた。  聖先輩の胸は、なんだか甘ったるい、お日様のようないい匂いがした。  汗でベトベトになっているぼくの背中にしっかりと手を回して、息する暇もないくらいに口腔を貪られる。何日かぶりのキスだ。  ぼくは蹂躙する舌にただただ翻弄されながら、その動きを追っていくので精一杯だった。

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