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第105話 だきしめる

 聖先輩は観念したように、部屋のドアを閉め、ベッドに再度座り直した。  ぼくの髪を優しく梳いてくれている。 「最初はな、お前がそうやって歩太に媚を売るみたいに笑顔を振りまいて挨拶してるのを見て、イライラしたんだ」 「えっ! さっき、いつの間にか歩太先輩が羨ましくなってたって言ってましたけど?!」 「うん、それも本当だけど、まだお前をよく知らない頃は嫌悪してた。今まで俺の後を追って来てた女子たちを彷彿とさせたんだろうな。毎日毎日、歩太に気に入られたいが為によくやるよなって。でもお前が、赤信号で止まってるのを見て少し変わったんだ。こいつは案外、いい奴なのかもなって」  やっぱりマナーを守るというのは聖先輩にとってはポイント高めらしい。  当人は学校でエロい事をしちゃったり、人を殴ろうとしたりしてましたけど。 「そこからどんどん、気になってきて。お前を初めて間近で見た時、ヤバイと思ったんだ。言っちゃ悪いが……可愛いって……」  聖先輩は、男に可愛いは禁句だという概念なので、とても躊躇しながらそう言った。  これはやばい。  今ぼく、聖先輩が可愛くてたまらない。  言うと怒るだろうから、言わないけどね。 「ぼくは、聖先輩を初めて見た時、すごく格好いいなって思いました。背も高くって脚も長いし……ただ、もう少し愛想よくすればいいのになって」  聖先輩はちらっとぼくの方を見る。 「悪かったな、目つき悪くて」 「いえいえ、でもぼくは、そんな聖先輩が大好きですよ」  笑いかけると、先輩の顔が降りて来たので自然と目蓋を落とした。  下唇を吸われるだけの優しいキス。さっきみたいな熱烈なキスとは種類が違うけど、こっちもこっちでいい。なんだか、改めて「好きだ」って言われているみたいで、嬉しかった。 「ん……」  しばらく唇の表面にちゅ、ちゅっと拭うようなキスをされたあと、濡れた舌先が唇を割って中に侵入してきた。またいやらしい音が部屋いっぱいに響く。  ぼくは手を伸ばして、愛しい人の腰のあたりを掴んだ。  細いけどちゃんとがっしりとした、先輩の体。 「……小峰のこと、抱きしめたい」 「えっ! ……は、はい、どうぞ」  『抱きたい』じゃないのかと少し拍子抜けしながらも、先輩のスペースを確保するためにベッドの隅に寄って、タオルケットをめくった。  先輩の方に体を横に向けると、聖先輩も潜り込んできてこちらに横向きになる。そして右腕をぼくの首の下に滑り込ませた。  腕枕をされながら、ぎゅーっと思い切り抱きしめられた。 (わぁぁーー、こんな風にされる日が来るなんて……)  先輩の胸に鼻を押し付けて、ぼくもぎゅっと抱きしめ返す。その行為だけで、体に火種がぽつぽつと出来ていく。  ドクンドクンと、聖先輩の心臓が早鐘を打っているのに気付いて、心の底から嬉しくなる。  早くも体の中心に血が集まり始めた。    もぞもぞと足を動かすと、聖先輩に太腿のあたりをスッと撫でられた。 「あっ……」 「……本当に今日やばいから、無理だと思ったらちゃんと言えよ」  何度もこくこくと頷くと、聖先輩はほんの少し笑って、ぼくの着ているジャージの中に手を入れた。

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