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都会編 4

翌朝。 明彦は眠れるはずもなく、白々と夜が明けたころからリビングにいた。 とうとう言ってしまったという後悔と、もうせいせいしたという気持ち。 単純に友情としてのまま好きになればよかったのに、とため息をつく。 喧嘩ばかりして、たまに飲んで、神楽談義をして。 どうして恋愛感情が入り込んでしまったのだろう。 そんな事を考えていた。 暫くしてバタン、物音が聞こえた。大和が起きたのだろう。明彦はなるべく平常心を心がけながら大きく深呼吸した。 リビングの引き戸を開けて、大和が入ってくる。 「おはよ」 声をかけたのは明彦だ。リビング横のキッチンに移動して準備していた朝食を配膳する。 簡単なものしかないけど、と出された和風の朝食に大和はいただきます、と手を合わす。 黙々と朝食を取る二人。端の音だけがリビングに聞こえた。 大和も明彦も、お互いに顔を見ずに。 気まずい朝食は何の味もしなかった。ごちそうさま、と大和は言うと部屋を出て身支度を進めている。 (まあ仕方ないよな) 食器を片付けながらため息をつく。やはり、会わなければ良かったと。 「明彦」 身支度を終えた大和に話しかけられ、明彦が振り向くと一枚の紙を渡された。 そのチラシには神楽奉納の案内が書かれている。一週間後に開催されるアンテナショップのイベントの件だった。 「絶対に観にこいよ」 それだけ言うと玄関に向かい、そのまま家を出ていく。あとに残った明彦はそのチラシをじっと見つめていた。 一週間後。結局明彦は松浦を連れて神楽奉納を観に来た。ショップから少し離れた公園に舞台が組まれている。残業が重なってしまい、演目は既に進んでいて途中からの観覧となってしまった。 舞台いっぱいに広がる神楽団の懐かしい横断幕が目に入り、胸がチクリとした。 「結構お客さんいるんだなあ」 舞台の前に置かれた椅子には既にお客さんが座っていて立ち見の客もいる。 明彦たちは舞台の正面後方で立ち見をしている。 笛の音と太鼓の音が耳をくすぐる。 演目は都会の人でもわかりやすいように、とチョイスされた「八岐大蛇(マヤタノオロチ)」だ。以前、明彦が会合の時に提案したことがあった。それを採用したのだ。 大蛇が出てきて火を放つと、おお、声が上がった。以前と違うのは大人の声ばかりだったこと。向こうでは子供が奇声を上げて喜んでいたのに。 ふと、音楽を担当しているメンバーを見る。立川や山根の顔が見れて懐かしくて嬉しくなった。 みんな頑張ってる。 「あの人たちも知ってる人なの?」 松浦が聞いてきたので、明彦は頷く。 「笛の人は林業してるし、太鼓の人は型枠大工だよ」 へー、と松浦は感心しついる。 暫くすると素戔嗚尊(スサノオノミコト)が出てきた。背が高く、凛とした雰囲気の彼は紛れもなく大和だ。 初めて観た時のように、輝いて見える。 煌びやかな衣装を身に(まと)いながら、舞う姿はキラキラしていてあの時の星空のようだ。 (先週、家にいた時はあんなに近かったのに。もうこんなに遠くて、もう逢えないなんて) 明彦は大和を食い入るように見つめていた。 大蛇を倒し、その首を高らかに持ち上げる。 誇らしげに素戔嗚尊は勝利の舞を神様に捧げる。 その時、大和と明彦の目が合う。少し距離があるはずなのに確かに目が合った。そして。 素戔嗚尊が、大和が笑顔を見せた。 神楽で笑顔をみせるなんてないことだ。ただ、観客はそれを知らないから気にもとめていない。 その笑顔は、明らかに明彦に向けたものだった。 (〜ッ…!) 明彦の瞳から涙が溢れる。そんな明彦の様子を見て、松浦がハンカチを手渡す。 「お前の悪い癖だぜ。よく分かんないけどまた溜め込んでることがあるんだろ。吐き出せよ」 同僚として、友人として心配する松浦は明彦にそう言う。明彦はゆっくりと頷いた。 (大和に謝ろう) そう、心に決めた。

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