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序章――千尋
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息が苦しい。胸が焼けるように熱いし、吸っても吸っても酸素が入らないような感覚
喉の奥から聞こえるひゅー、ひゅー、という音。
時々詰まって咳き込み、少しも楽にはならない。
いよいよ、終わりの時が近い。
医者から、延命を望まないのなら、眠るように穏やかに終わりを迎えられる処置ができると言われた。その選択を提示されたのは、昨日。
説明を受けたが、1日待ってほしいとお願いした。
まだ、すべき事が残っている。そのために、僕はある人物を待っていた。
「起きてる?」
声をかけられて目を開けると、弘輝が心配そうな眼差しでこちらを覗き込んでいた。
「ん……」
「ああ、しゃべんなくていいよ。キツイんだろ?」
胸から音がする、と弘輝が言う。
でも、今日はそんな彼に甘えるわけにはいかない。
「弘輝」
「なに?」
「お前に頼みたいことがある」
そう言って、僕は弘輝にあることを依頼した。話の内容に、彼の表情がみるみる歪む。
ごめんね。優しいお前がこの話を聞いて、そんな顔をするのはわかっていた。
「そんなこと、言うなよ……」
そう言った彼の声には、明らかに涙が混じっている。でも、僅かな時間しか残されていない僕は必死だった。
「お願いだ……弘輝」
最期の力を振り絞って、彼の腕を掴んだ。
「お前にしか、頼めない」
彼がわずかにうなずくのを見て、心底安堵する。
大丈夫。彼は、きっと約束を叶えてくれる。
「ナースコールを押してくれ」
もう少し。
待ってて――いや。待つのは、僕の方だろうか。
でも、彼にもう一度会えるのは間違いないことだ。
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