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序章――千尋

***  息が苦しい。胸が焼けるように熱いし、吸っても吸っても酸素が入らないような感覚  喉の奥から聞こえるひゅー、ひゅー、という音。  時々詰まって咳き込み、少しも楽にはならない。  いよいよ、終わりの時が近い。  医者から、延命を望まないのなら、眠るように穏やかに終わりを迎えられる処置ができると言われた。その選択を提示されたのは、昨日。  説明を受けたが、1日待ってほしいとお願いした。  まだ、すべき事が残っている。そのために、僕はある人物を待っていた。 「起きてる?」  声をかけられて目を開けると、弘輝が心配そうな眼差しでこちらを覗き込んでいた。 「ん……」 「ああ、しゃべんなくていいよ。キツイんだろ?」  胸から音がする、と弘輝が言う。  でも、今日はそんな彼に甘えるわけにはいかない。 「弘輝」 「なに?」 「お前に頼みたいことがある」  そう言って、僕は弘輝にあることを依頼した。話の内容に、彼の表情がみるみる歪む。  ごめんね。優しいお前がこの話を聞いて、そんな顔をするのはわかっていた。 「そんなこと、言うなよ……」  そう言った彼の声には、明らかに涙が混じっている。でも、僅かな時間しか残されていない僕は必死だった。 「お願いだ……弘輝」  最期の力を振り絞って、彼の腕を掴んだ。 「お前にしか、頼めない」  彼がわずかにうなずくのを見て、心底安堵する。  大丈夫。彼は、きっと約束を叶えてくれる。 「ナースコールを押してくれ」  もう少し。  待ってて――いや。待つのは、僕の方だろうか。  でも、彼にもう一度会えるのは間違いないことだ。

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