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地下牢にて-4

「・・・あ・・」 不意に男が熱の籠ったような瞳で桂樹を見つめると、彼は湧き上がってくる震えをそのままに、自ら乞うかの如く男の唇に吸い付いていった。 抗いたいのに、抗う事が出来ない。 屈服しているわけではないのに、何故かそうせずにはいられない。 そんな不思議な感情が渦を巻くように桂樹の心を締め付けては離そうとしなかった。 「・・ふっ・・うぅん・・」 男の逃げる舌を追いかけるように桂樹が顔を動かすと、男がそれに呼応するように舌先を彼の舌に絡ませ、同時に甘い吐息が零れては砂糖のように溶けていく。 互いの舌がねっとりと絡み合う度に生まれる快楽。 それはジワジワと桂樹の脳内を刺激し、やがて身を任せるように堕としていった。 「・・きもひ・・いぃ・・」 「う・・ん・・?」 「・・・うぅ・・ん・・」 男が舌を絡ませるたびに唇から吐息が零れ、その吐息を耳にする度に桂樹の腰が疼き、男が舌を離せば、桂樹が強請るように唇を寄せている。 その二名のやりとりを息を飲むように見つめる観衆の視線を遮るように、男が桂樹の唇に吸い付くと、桂樹がそれに答えるような仕草で顎を自ら動かしながら腰を揺らしていった。 桂樹の身体から浮き出る水泡は艶を増し、フワフワと浮かんでは弾けるように割れていく。 その艶めかしくもある裸体に吸い寄せられるように、凝視したまま年若い青年達が喉を鳴らすその音を耳にしながら、壁に凭れかかったままの男達が呆れたように二名のやりとりをジッと眺めている。 「・・・んんっ・・」 瞳を閉じたまま、男が与える快楽に身を任せていると、急に男が絡ませていた唇を離し、桂樹を見た。 「・・・・っ・・」 迷いの無い青い瞳。その視線が射抜くように桂樹を捉えている。 その瞳に見つめられるだけで、彼の心の臓がズクンと高鳴り、息が出来なくなるほどの苦しさが生じ、逸らしたいはずなのにそうすることが出来ないままだ。 「・・っ・・」 苦しいはずなのに、どこか気恥ずかしさを含んだ、けれど妙な安心感が彼を包み込む。 桂樹の頬は僅かに桃色に染まっており、半開きになった唇からは一滴の蜜が顎へと落ちた。何処か心地良さそうなその表情を見下ろしながら、クッと嘲笑うように男の口角が僅かに上がる。 「・・お姫さんはお前さんが大層お気に召したみてぇだなぁ」 「ああ。唇を吸っただけで砕けてやがる」 フンと鼻で笑う男の背に向かって観衆が「俺らにも見えるようにやってくれよ」と囃し立てると、それに応えるように「ああ。そうしてやるよ」と話しながら纏っていた衣を脱ぎ捨てた。 途端に均整の取れた胸板がロウソクの灯りの前にさらけ出され、その肉体を前にして桂樹の目が不安気なものへと変わっていく。 「あーあーあー。またですか」 「悪ふざけが過ぎるぞ」 「アッハハ。いいねえ。楽しそうじゃーん」 その様子に呆れた表情を隠さないまま、壁に凭れた男が二名、肩をすくめながら眺めるその隣では、もう一匹の男が取り出した椅子の背に凭れ掛かるようにケラケラと笑っている。 それを気にする様子もないまま、褐色の肌をした男が再度、桂樹の背後に回ると彼の耳をぴちゃぴちゃと舐め始めた。 「・・あっ・・」 わざと音が聞こえるように舐めているせいで、息遣いと熱さの残る舌の感触を強く受けながら桂樹の唇が僅かに震え、パクパクと動いている。 頬を染めたまま零れる声は甘く、快楽に満ちていった。

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