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桂樹が『彩』家を名乗れなかった理由と、国の歴史と-2
黒亮公は重い溜息を二度吐いてから、自身に視線を向ける諸侯たちに視線を向けた。
結った艶のある漆黒の髪が僅かに揺れる。
「・・・・・・・・・」
ピンと尖った獣の耳、意志の強さを感じさせる紅の瞳に射抜かれた諸侯たちは、一斉に息を飲んだ。
ざわついていた室内が一斉に静まり返るその部屋にて、黒亮公は落ち着いた様子で
「何を申される。私が他の諸侯や王族方と比べて冷遇されておったのは他でもない。私の実力不足であったまでの事。そのことを悔やみ、憤怒した所で一体何の得があろうというのか」
と告げたのだ。だが、その言葉に諸侯たちが次々と噛みついたのは言うまでも無く、たちまち室内に喧々囂々と火の手が上がった。
「口ではどうとでも言える。だが、お主には崩御された王を一番に憎む理由があるではないか。難民ばかりを受け入れ国庫は火の車。純血ではない者達を集め、何を企んでおるのか」
「そうだ。皆の者、油断めされるな。異なる血ほどいつ何時、寝首を掻かれるか分かったものではない」
「獣と同じよ」
彩公が放ったその一言に彼の眼が見開いた。
獣の血が人と混ざり異形へと変化する。それが何だと言うのだろうか。
確かに国は貧しい。だが、長い年月の果てに南側に位置するという地の利を生かして果実を多く生産し、漁業に力を入れることで何とか生き抜こうとしている。
争いとは無縁な我が国の民に向かって何たる侮辱。
脳が荒く沸騰する。もともと短気で荒い、その気質をふうふうと彼は飲み込み、抑えながら
「容姿を見ただけでは誰もその者の真価を問うことは出来ぬ。大事なのは、その者自身の心根とまた情である。地が肥えねば作物は育たぬ。雨が降らねば葉は枯れる。民もまた同じである。民が潤ってこその土地であり、国であると我は考える。民を見てみよ。土地を見てみよ。風を知り、水を知り、己を見るがいい。共に歩き地を耕すことの大事さを、誰よりも知らぬ者達に国を治める権利なぞ、はなから無いわ!これ以上の問答は不要。失礼する」
と言い放ち、もともと治めていたこの土地を自分のものとして宣言し、同行してきた部下と共に早々とその場を立ち去って行ってしまった。
その日を境に黒亮公が治める西部地方は、獣、妖、人を含めた様々な容姿の民が穏やかに暮らす土地として現在に至っている。
国ごとの小競り合いは多々あれど、けして他国を侵さない。
王族同士の婚姻を持ってそれを暗黙の了解とし、現在に至っている。
だが、この国にはそう言った獣人とは異なる異形の民が存在することを忘れてはならない。
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