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堕天使=大天使

「いったい、どこまでついてくるんだよ?」 「藤村君の行くところなら、どこでも」 「ついてくんなよっ!」 「だって、君が僕の面倒を見てくれるんだろう? 先生がおっしゃってた」  ああ、そうさ。確かに言われたけどな。 「そんなの1週間も前の話だろうが!」 「そうだっけ?」 「学校に慣れるまでだって、先生は言った」 「初めて訪れた見知らぬ国に来た編入生が、たった1週間で慣れると思う?」 「だからって……俺にわざわざくっついてくる必要ねーじゃねーか」 「そんなコトはないよ。僕は人見知りする方だからね。藤村君がそばにいてくれないと不安なんだ」  人見知り? ウソつけっ!  俺は背後を金魚のフンのようにくっついてくる男を睨みつける。  いや──金魚のフンなんて比喩表現は、コイツにはあまりにも相応しくない。  肩にかかる長さの、依りたての絹糸のような見事な銀髪。南国の海のような鮮やかなエメラルドグリーンの瞳。それらに相応しいノーブルな顔立ち。そして、その美しい容貌に似合った長身に長い手足。そのうえ、イヤミかというくらい完璧な立ち居振る舞い。  ともすれば威圧的な印象を与えがちだが、人当たりのいい笑顔と完璧で丁寧な日本語での語り口調がそれを和らげている。  編入早々、彼、エリンバート・ミカル・フレデリック──長ったらしい名前だから、以降はミカルと呼んでやる──はクラスのみならず、学校中の人気者になった。  わざわざクラス委員の俺、藤村優理(ふじむらまさみち)が案内しなくても、他の奴らが懇切丁寧に教えようとしてくる。  イギリスに本校があるこの学校は、所謂男子校だ。ご多分にもれず、男もOKな連中や男じゃないとダメだという連中が比較的多い。そんなヤツらからすれば、ミカルは恰好のターゲットだ。一度はお相手したいといったところだろう。  だが、親切半分下心半分の申し出を、ミカルはすべて(ことごと)く断った。 「ごめんね。それは藤村君に聞いてみるから」 「藤村君に案内してもらうから」  そう言って、にっこりと大天使の微笑みを惜しまず披露してやんわりと拒否する。断られた連中はそれを目の当たりにして、ほうっと溜め息を漏らし彼の拒絶をうっとりしながら許していた。  ていうかさぁ……。  断るために、いちいち俺をダシにすんのはやめろよなっ!  おかげで、俺は謂われのない嫉妬と羨望の鋭い視線を毎日浴びることになり、なんとも居心地が悪い。  どんなにこっちが拒否反応を示してあれこれ言っても、ミカルはさっきみたいにのらりくらりとそれをかわして、俺の後をどこまでもついてくる。おかげで、俺のストレスは溜まっていく一方だ。  まったく本当に──疲れる。 「どうしたの? ため息なんかついて。どこか具合でも悪いの?」  無邪気な風情でミカルが聞いてくる。俺はチラッと横目でヤツを見て、無意識にまたため息を吐いた。  俺は知っている。  無邪気な表情は、あくまで学校生活を潤滑に問題なく過ごすための装ったものだということを。人当たりのいい笑顔も、柔らかい物腰もすべて巧妙な作りものだということを。  今だって、表情そのものは言葉通りに俺の具合を心配しているが、瞳だけはそうじゃない。 「大丈夫?」と言いながら、ミカルは俺の肩を抱いて強引に引き寄せる。耳許に形のいい唇が近づいてきた。 『そんな悩ましいため息を吐くんじゃない。学校だということを忘れるだろう……それとも、誘っているのか?』  低い囁き。発音のきれいなクイーンズイングリッシュ。どこか傲慢な物言い。  それを聞いた俺の心臓が、ドクンと激しく高鳴る。  あの、たった一度の夜が蘇ってきたようで、俺の意志とは関係なく身体が勝手に熱を帯びはじめる。  俺は振り返って、ミカルを見た。そこに浮かぶ微笑は天使ではない、悪魔のそれ。 『離してくれないか』  ヤツが英語で話しかけてきたから、俺も英語で返す。  俺は諸般の事情というやつで、一応英語が話せる。  だけど、今の俺にとってそんなに必要じゃない言語だから、年々その語学力は落ちている。でも、リスニングはしっかり身についていて、会話には困らない。日本語で話すよりかは、ちょっと素っ気ない喋り方にはなるのだが。  ミカルは悪魔の微笑のまま、さらに抱きしめようとしてきた。俺は慌てて腕を突っ張ってヤツを引き離そうとする。だけど、悲しいかな体格の差がありすぎてうまくいかない。 『離してくれ』 『嫌だ。せっかくユーリに触れたのに』  ミカルがその名を出してきたから、俺はそこでプチンとキレた。 「──離せっつってんだろうが!?」  ……。  …………。  ……………。  ……はっ! しまった。  休み時間でざわついていた廊下が、妙な静けさに包まれる。気がつけば、そこらにいた生徒たちが全員俺たちに注目していた。  マズい。  学校では、穏やかな委員長というキャラで通していたのに。  羞恥で顔が熱くなり、俺は唇を噛んで俯いた。  そんな俺にかまうことなく、衆人観衆の前で、ミカルは俺におぶさるような恰好で抱きついていた。なんとか抜け出そうともがくが、びくともしない。それどころか、余裕綽々でその態勢のまま、ヤツはその場を立ち去ろうとする。  いつの間にか、ミカルの微笑は天使モードに変換され、遠巻きで見ている奴らに「何でもないですよー」とにこやかに言いながら、俺のことをズルズルと引きずりながら廊下を進んでいく。 「ちょっ……」 『なるだけ、人気のない場所に移るぞ。お前のせいで目立ちすぎた』  はあ!? 元はといえば、自分のせいだろが!  キレてなおも抵抗する俺を、ミカルは『これ以上暴れるなら、肩に担いで廊下を歩くぞ』という一言でおとなしくさせた。 「なんなんだよ……ったく」  ミカルに連れてこられたのは、特別教室のある校舎。そこの一角である視聴覚室に入って、ヤツから漸く解放される。 「優理が話を聞いてくれないからでしょう?」  穏やかな口調で答える大天使様を、俺は思いきり睨み返す。 「てか、その話し方やめてくんねー? キモい」 「キモい?」  ミカルが眉をひそめる。 「あー……気持ち悪いのスラング」 「ああ、なるほど。……で? 僕の話し方のどこが気持ち悪いわけ?」 「自分でわかんねーの?」  ミカルは首を横に振る。 「本校(むこう)では、特に注意されたことないなぁ……」 「あっ、そう」  そりゃあそうだな。  コイツの日本語は、発音もアクセントも言葉選びも完璧だ。外国語をこれだけ話せれば大したものだと思う。ただ、俺自身が違和感を抱くだけだ。  出会った時のコイツの印象と、今のコイツとのそれがあまりにもかけ離れてしまうからだ。 「ねえ」  ミカルが話しかける。 「マサミチって、やっぱり呼びにくいから、ユーリって呼んだらダメかな?」 「ダメ」  俺は即答する。 「なぜ?」 「……」  答える言葉を捜して、つい黙りこむ。  『ユーリ』は、俺が夜遊びする時に使っている名前だ。もちろん、仲のいい慎司や裕樹を除いて、学校の連中は誰一人そのことを知らない。逆に夜遊びでつるむ仲間も、当然だが俺の本名を知らない。  それでいいんだ。昼間の『優理』と夜の『ユーリ』は違うのだから。  だけど、コイツに呼ばれるのはそういった意味だけで拒否したんじゃない。  ただ、なんとなく嫌だった。  あの夜。名前を呼ばれた時に感じた、例えようのない気持ちが蘇ってしまうから。 『ユーリ……』  項に息がかかり、はっと我に返る。気が付いたら、ミカルがまた背後から抱きしめてきた。さっきと違って、広い胸板と長い両腕全部で俺を包み込むようにして、さらにきつく項を吸われる。  このヤロー……。痕ついちまうじゃねーか! 『やめろよ』  なんとかして腕を振り解こうとしてもがきながら言っているのに、ミカルはしれっとした態度で『どうして?』と聞いてくる。その唇は、項に懐いたままだ。 『何をやめるんだ?』 『抱きついてくるのをやめてくれ』 『駄目だ』 『じゃあ、項にキスするのをやめてくれ』 『嫌だ』 『ユーリって呼ぶのもやめろ』 『やめない』  あのなあ……と、ため息がまた出てしまう。  やっぱ、英語じゃあ怒っているのが伝わりにくいのか?  だったら……。 「テメー、さっきから『NO』ばっかじゃねぇかよっ!!」  振り返って、目一杯怒りを込めて大声で言い放った。しかし、目の前の麗しい大天使は眉一つ動かさない。それどころか、俺の反応を楽しんでいる風にも見える。 『面白いヤツだ』  クツクツと、喉で笑う声が背中に響く。 『英語で話す時はクールなくせに、日本語だとまるで野良猫だ』 『な……っ!?』  言い返そうとした途端、顎をつかまれ唇を塞がれてしまった。  ヤバい。こういう展開は非常にヤバくてマズい。  なぜなら、俺は一度コイツのキスに思いきり酔わされたことがある。  あるパーティーで出会った堕天使を名乗った男のキスに捕まって、魅入られて、一晩中求め合った。  けれど、あれは一晩だけのコトだったはずだ。 「……ふっ……んぅ」  口角に力を入れて、頑なに閉じていた俺の唇を、ミカルは舌先だけで簡単にこじ開けてくる。するりと柔らかいそれが入ってしまったら、陥落するのは呆気ないほど早い。  角度を変えさらに奥へと重なるキスは、身体がぐずぐずになってしまうほどの力がある。唇を重ねてわずか20秒で、ミカルは俺の抵抗を阻止した。 「…んっ……はぁ」  漸く解放された唇は、舌から顎からじんじんと痺れて、喘ぐことしかできないほど役立たずな状態になっている。離れようと突っ張っていた腕は軟体動物みたいにくたりとなって、いつの間にかミカルのそれに縋りついていた。  なんか……。  ものすごーく不本意だけど。  たかがキスでこうなるなんて、チョロくね? 俺。 『やっと俺の天使が戻ってきた……』  親指ですっと俺の唇をなでたミカルが、満足気に呟く。 『はなして……くれ』  それでも俺は尚も抵抗する。身体がいうこときかないなら、せめて言葉だけでも。  ミカルはおや、というように眉を上げて顔を再び近づけてきた。  またキスをされたらかなわない。俺は、顔を横に向けて必死にそらす。 『なぜ拒む……?』  明らかに不機嫌な口調になって、ミカルは俺の顎を捉えて仰のかせる。それでも、俺はその拘束を解こうとするものだから、ヤツの機嫌がますます下降したらしい。美麗な眉をきゅっと中央に寄せた。 『あれは……あの夜だけの、出来事だ』  不自由な顎関節を動かして、それだけは言えた。ミカルの眉間のシワが一層深くなる。 『俺はそんなつもりはない。あの日の朝、目が覚めて傍らにお前がいなかった時の喪失感がどんなものだったか、お前は考えなかったのか?』  腹に響くくらいの超低音で、ミカルがゆるゆると囁く。  言葉だけ聞けば、かなり熱烈な口説き文句だ。だけど、囁く声音と口調の傲慢さにムクムクと反抗心が芽生える。 『そんなもの知らない。俺は、一晩だけのつもりだった』 『それはないな。あの晩から、お前は俺のものになったはずだ』 『俺は……誰のものでもない』  腰に長い腕がまわり抱き寄せられそうになるのを、両腕でカルの肩に突っ張って阻止としたその時だ。  ミカルのエメラルドグリーンの双眸が凶悪に光るのを、俺はしっかりと確認してしまった。  ゾクッと背中に悪寒が走り、身体が硬直して動けなくなっていく。  それは、本能的な恐怖。  今の俺はさしずめ、蛇に睨まれた蛙といったところだろうか。 『学校(ここ)で再び出逢えたのは運命だと思っていたのは、俺だけか……?』  すうっと目を細めて、ミカルが俺を見つめる。  逸らさなければ。  脳みそはそう命令しているのに、俺の身体はぴくりとも動かない──いや、動けない。 『少しずつ、お前との距離を縮めて深めていこうと思ったのは、間違いなのか?』  さらに重ねられる問いに、俺は答えられない。 『それならば、わからせてやろう──お前が誰のものなのか。じっくりと』  囁く低音は、気がついたら耳許でダイレクトに響いていた。耳朶を軽く噛まれ、その跡を舌がなぞっていく。じん、とした痺れがそこから全身に快感の信号を送っていった。 『いいな? ユーリ……』  迂闊。  一言でいえば、そんな感じだろうか。  それとも、前後不覚?  これも、あながち的外れじゃないかも──いや、そうじゃなくて。  何を冷静に──いや、ノンキにそんなこと考えてんだよ!! 身の危険が迫ってんのに!!  いや、だって……。  そんなことでも考えていないと──イきそうになってしまう。 「んぁ……あっ、あっ……」  ミカルが足の指を1本1本丁寧にしゃぶっている。特に指と指の間の付け根は、吸われるとたまんない気持ちになる。  ピンと張られていたキングサイズのベッドシーツは、俺の動きに合わせてクシャクシャとはしたないシワができてしまった。 「やっ、あっ……ミカ…ル……もう……」 『まだだ』  ミカルの熱い舌が足の指から甲へと移動する。踝を甘噛みされて、ゾクゾクとしてあられもない声が出る。意外な場所に快感を導き出すポイントがあって、内股がピクピクと震えてしまう。さらにその最奥の蕾は、もっとひくついてた。  あの後──。  唇と舌を存分に駆使した見事なテクニックで俺の足腰と脳味噌をヘロヘロにさせた大天使は、やおら俺を肩に担ぐと、軽い足取りで学校を抜け出した。裏門にはすでにアイツが呼んだ車が待機していて、俺とミカルを乗せると速やかに走り出した。 「どこに連れて行くんだ?」という質問さえ、狭くはない後部座席で色々イタされたことで封じ込められてしまった。目的地に到着した時には、抵抗の『て』の字も出てこない状態になっていたんだ。  連れてこられたのは、忘れもしないミカル──いや、あの晩はルシフェルと名乗っていたんだっけ──と一晩過ごしたホテルのスイートルームだった。  部屋に入ると、迷わず主寝室へと連れて行かれ、ベッドに投げ出された俺は「どういうつもりだ?」と、目線だけで問いただした。  ミカルはニッと、魔性の微笑みを浮かべて言った。 『どうやら、忘れてしまっているようだからな。まずは、あの晩のことから思い出させてやるとしよう』  思い出させるって──いや、むしろあんまり思い出したくないんですが!?  そんな俺の文句なんか軽くスルーして、ミカルは鮮やかな手つきで俺の服を剥いでベッドに横たわらせてしまった。  それで、今に至るわけなんだけど……。  俺の躰はすっかりミカルの支配下にあって、思い通りにならず翻弄されている。  あの日もそうだった。  コイツはその形のいい指先で、唇で、舌先で、それはもう丁寧に丹念に俺の躰を溶かしていったんだった。 「ん……はぁ…」  ミカルの唇と指先がだんだん上へと移動してきた。そして内股をきつく吸われて、俺の背中は弓なりに反ってしまう。そうなると、自然にミカルの目前に先走りで濡れそぼった俺自身とひくつく蕾を晒してしまう形になる。  ふっと、ミカルが笑う気配がした。その息がかかって、浅ましい俺の後庭はさらに疼きを増していく。 『待ち遠しかったのか?』  静かな問いかけに、俺は何も答えられない。ミカルも答えを期待してはいなかったらしい。そのまま両方の親指で、俺の尻の肉を左右に広げた。  ピチャ、と淫靡な水音と生暖かい感触がしたと思ったら、いきなりぐっと中に侵入してきた。 「ひっ……! ああっ!」 『準備のいいことだ。お前のいやらしい蜜が、舐めなくてもココを潤している』 『しゃ……べる、な、……ひぁっ!!』  喘ぎ声が一際高くなるのを抑えられない。  ミカルの舌はぐいぐいと俺の中に入っていき、内側を縦横無尽に蠢き始めた。長い指で俺自身の根元をやんわりと握りしめつつ、先っぽをスルリと撫でる。 「あ、あ、あっ……やっ……」  唾液を送り込まれ、入り口を舐められては、ときおり気まぐれに中へと侵入された。さざ波のようにやってくる快感に、内股が小刻みに震える。もっと奥へと誘うように、腰が揺らめく。 「あっ……! ああっ!」  時々、陰嚢を口に含まれて舌先でコロコロ転がされる。  ……たまらない。  俺の中心が欲望を吐き出したくて、張りつめて膨らんでいく。  散々嬲られた後、唾液をたくさん送り込まれた蕾にいきなり指を2本突き入れられた。 「あっ…あああっ!」  いきなりの刺激に、たまらず白濁を撒き散らす。それを見たミカルは、俺の腹の上に散った精液を指で掬い取り、楽しげに言った。 『随分と堪え性のない身体だ』 「なっ……!?」  言い返そうと体を起こした俺は、目の前の光景に目眩を起こして倒れこむ。  だって……。だってさ~。  指についた俺の精液を、この大天使様がうまそうに舐めてんだもん。  まるで見せびらかしているみたいに1本1本舐めとっていく様は、凄まじく……エロい。  さっき出したばかりなはずなのに、その光景を見て興奮した俺のペニスに再び熱が集まっていくのがわかる。 『なんだ……?』  強烈な流し目を送り、ミカルが問いかけた。 『あんた……やらしいな』  かろうじて息を整えてそう答えると、ミカルはふっと鼻で笑って、俺に顔を近づける。 『それは、誉め言葉として受け取っていいんだな?』 『勝手に解釈すれば……っ…あっ…』  生意気な口を黙らせるためか、ぐりっとミカルの指が内側を深く抉ってきた。それに合わせて俺の躰はびくびくと跳ね上がって、ヤツを余計に喜ばせる。 『そろそろ、欲しいのだろう?』 『な…にが? んぁっ……』 『意地を張らずに欲しがったらどうだ?』 『あっ…ゃあっ……』  深く浅く、指を抜き差しされ、内壁をぐるりと擦られる。あとちょっとのところでイイところに届くのに、わざとポイントをずらした突き方をする。  だめだ。もう、だめ……どうにかして。  イったばっかりだというのに、俺のペニスはもう硬く反りたっていて、先走りの蜜をこぼして快感に震えていた。だけど、感覚的にはつらい。  ()すぎてつらいって、あるんだな……。 『ユーリ』  俺を呼ぶ、聞き心地のいい深みのある美声。俺は快感のあまり涙で滲む目で、目の前の美しい男を捉える。  初めてコイツを見たとき、なんて造形の美しい男だろうと、しばらく見とれてしまった。  だって、そうだろう?  シミどころかニキビひとつない、きれいな白色人種独特の肌。長身に見合った程よく筋肉のついた長い手足。どこか高貴な雰囲気を醸し出す、整った目鼻立ち。絹の生糸のような、光沢さえある見事な銀髪。宝石さえ負けんじゃないのってくらい、綺麗なエメラルドグリーンの瞳。  俺なんか相手にしなくても、よりどりみどりだろうに。何をムキになって、こうして俺を追いつめるんだろう。 『俺が欲しいか?』  問いかける傲慢な口調。完璧な発音のクイーンズイングリッシュ。それを聞いただけで、コイツが上流階級の出身だとわかる。  こんなに、完璧にそろってるのに。『欲しいか?』と聞いてくるコイツの方が、俺を欲しがっているようにみえるのは、錯覚だろうか? 「んっ…! ぁっ……はぁ……」 『欲しいなら、ちゃんと言うんだ』  ミカルの指が容赦ない動きに変わった。俺の内壁は、もうトロトロという表現がぴったりなほど、ほぐれてとろけている。  もう、こうなると指だけじゃ物足りない。もっと硬く、確かな存在(もの)を欲しがってしまう。 「ぁっ…はぁ……ゃあっ…」 『俺が欲しいのだろう? 言うんだ、ユーリ』  唇に、頬に、こめかみにキスが降りてくる。  堕天使を名乗ったくせに。魔王の名をかたったくせに。どこまでも強引に傲慢に、ここまできたくせに。なに、必死になってんの?  わかったよ。堕ちてやるよ。  本当に欲しいのは、お前の方だろう? 俺だって、欲しいよ。  だって──お前と寝てから、誰にも興味がわかなくなってしまったのは、まぎれもない事実なんだから。  俺は、ミカルの首に思いきりしがみついた。 『ユーリ……』 『……ぁっ……しい』 『なんだ?』 『欲しい…よ。ミ…カル……ぁっ…お前…が…』  ミカルが空いている方の腕で、俺の背中を包みこむようにして抱きしめる。そして、耳朶を軽く噛みながら、 『もう、俺のものだ』 と、低く唸るように囁いた。俺はそれにこくこく頷く。  俺の内に埋めていた指を引き抜くと、間髪入れずにミカルは俺の中へと挿入ってきた。得がたい充足感と、こみ上げてくる強烈な快感が俺をますます狂喜させる。 『あぁっ…! ミカル……ミカル!』 『ユーリ…俺の……天使』 『あ、あ、ぁっ…! ダメ……イくっ…イくっ!』  躰が繋がれば、どちらも夢中で互いを求めて腰を激しく動かしていた。  荒い息遣いも、はしたなくこぼれる喘ぎ声も、肌がぶつかる音も、すべてが何かわからない熱い感情を連れてくる。2人を包む空気が、濃密に甘く溶けていく。  あの日の夜のように──いや、それ以上に俺たちはいつまでも、いつまでも疲れ果てて眠ってしまうまで互いを激しく求めていた。  後日、この堕天使の手に堕ちてしまったことを激しく後悔するとは知らずに。  俺は、狂ったように求めていた。  俺の──大天使を。 end. Copyright Notice(C)葛城えりゅ 2006 初稿:2006.09.07 改稿:2007.05.04 第三稿:2009.08.14 第四稿:2016.10.12

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