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見えないはずのモノ(1)

水上千早(みずかみ ちはや)は今年大学卒業を控えた22才。 友人達はあっさりと条件の良い都内の企業へと就職を決めたが、千早はどうしても志津をひとりにしておくことに気が咎めて、“ど”がつく超田舎のへのUターンを決めた。 両親は、千早が小学生の時に交通事故で亡くなり、志津に引き取られ厳しくも愛情込めて育てられた。 残された保険金や賠償金等で金銭的な不自由は全くなかったが、志津に負担を掛けることのないように生活費は自分で工面しようと決め、千早は学生時代はバイトに明け暮れていた。 それでも見目の良い彼にアタックする女性もいて押されるように何人かと付き合ったが、すぐに何故か振られた。 『水上君といても面白くない』 『何考えてるのか分からない』 『他に好きな人がいるんでしょ?』 そう言われて弁解する隙も与えられずサヨナラ。 面倒になって、女性との付き合いもご無沙汰だった。 だから、このまま都会で暮らすことに何の未練もなく、帰郷を決めたのだ。 幸いなことに役場の空きがあり、一応公務員として採用された。 自分と同じ世代の若者はこの土地を嫌がり、みんな都会へと出て行ってしまい、華やかなはずの成人式も、今年は遂にゼロだったそうだ。 そんな中へ若い千早が戻ってきたことで、町をあげての歓迎ムードが漂い、あれこれと世話を焼く近所の人達に辟易しながらも、一足早く帰省して新生活のスタートを切ったのだった。 夢を見始めたのは、引っ越しが終わった翌日からだった。 夢だけではない、いつも何かの気配を感じる。 ただ、それは嫌なモノではなく、自分を守ってくれる守護霊のような存在に感じていたため、敢えて志津に相談することもなかった。

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