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見えないはずのモノ(3)
“見える”志津と2人で暮らしてきたから、少々の怪奇現象には驚いたりしなくなっていた。
そういうモノがいて当たり前だ、という受け止め方をしてきたのだ。
それでも千早には志津のような力はない。
それらは、そこかしこにいるけれども、できるだけ関わり合いたくない、と過ごしてきた。
千早はため息をつきながら志津に言われた通りに、何処にいるか分からない相手に対して左右に視線を遣りながら「ありがとう」と呟いた。
すると、右側にほわほわと優しい光を放つ赤く丸い玉が見えてきた。
ええっ!?
流石の千早も、驚き過ぎて声もなくソレを凝視していた。
ソレは次第に光を増していき…千早は恐ろしくなって思わず叫んだ。
「おばあちゃんっ!」
その瞬間、スパークする光に目が眩み、目を瞑ってしまった。
一体何が起こったのか、声を掛けたことで相手を怒らせてしまったのか。
祖母はどうしているのかとか、早く祓ってもらわなきゃとか、頭の中を瞬時にぐるぐると思考が巡っていた。
「…千早、大丈夫よ。」
優しい志津の声と肩に置かれた温もりに、がっくりと全身の力が抜けた。
そっと目を開くと、目の前に赤色の髪の毛をした緋色の水干姿の男の子が立っていた。
今にも涙が零れ落ちそうな潤んだ目で、千早をじっと見つめている。
不思議なことに懐かしいという気持ちが湧き出てくる。
「え…この子は?君は誰?何処から来たの?その格好、何?」
とんでもない展開に、千早の頭はパンクしそうだった。頼りになる志津が側にいたのが何よりの幸運だった。これがひとりの時なら完全にパニックに陥っていただろう。
ぴょこぴょこ、と赤いトカゲの尻尾のような何かが男の子の背中で揺れている。
あれ…何だ?まさか…尻尾!?
「千早に声を掛けてもらえて嬉し過ぎて、我慢できなくてとうとう姿を見せちゃったのね…この子は」
「千早様っ!赤羽 でございますっ!
お会いしとうございましたっ!」
志津の言葉を制し、その場に手をつき頭を擦り付けんばかりに伏した男の子は、そう名乗った。
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