6 / 58

見えないはずのモノ(4)

千早は何が何だか分からず、その場で固まっていた。 だが、にこにこ笑うばかりで一向に祓おうとしない志津の態度に『この子は害を加えない』と悟った。 「ちょっ、待って…子供がそんなことしないで…ねぇ、ちゃんと顔を上げて… その“千早様”って言うのも止めて。 あかばね…くん?何でそんな格好してるの? 俺の側にずっといたのは…君?」 「千早様…こんな姿(なり)ではございますが子供ではございません。赤羽は嬉しゅうございます。 やっと、やっとお目にかかることができました… 志津様、ありがとうございました。」 ぽろぽろと大粒の涙を流しながら、赤羽と名乗る男の子は、志津にも頭を下げていた。 暫くフリーズしていた千早は、はっと我に返ると 「おばあちゃん、一体どういうこと? この子は俺の何?(あやかし)? 俺を守るってどういうこと?」 矢継ぎ早の質問に、志津はころころと鈴が鳴るような声で笑った後 「赤羽、ほらご覧。千早が驚いて混乱してるじゃないの。 …まぁ、いいわ。赤羽が姿を見せた、ということは、他の者達も目覚めてくるでしょうから。 時期がきた、ということなのね。 千早、赤羽に手を差し出して。」 戸惑う千早に、早くしなさいと言わんばかりに、志津は鋭い眼光で見遣った。 赤羽は、期待するような目で千早を見つめている。 ええい。どうにでもなれっ! 千早は、戸惑いながらも右手を赤羽の目の前に突き出した。 赤羽は両手で(うやうや)しくその手を捧げ持つと、自分の眉間に押し当て何か呟いた。 その途端に、二人は赤い炎に包まれた。 声すらも出ない。 焼け死ぬ!? いや…熱くない。それどころか柔らかくて暖かな炎は心地良くて、この感覚は何処かで触れたことがある気がした。

ともだちにシェアしよう!