7 / 58

見えないはずのモノ(5)

あれ程燃え盛っていた赤い炎は次第に小さくなり、やがて何事もなかったかのように、ふっ、と消えた。 赤羽は千早の手を握ったまま、感無量といった感じで千早を熱く見つめるばかり。 千早もその手を振り解くこともなく、どことなく懐かしく感じるその目を見つめ返していた。 突然、赤羽が手を離したと思うと、後ろに飛び下がり、またひれ伏した。 尻尾がくるりと丸まっている。 「もっ、申し訳ございませんっ! 千早様のお手を…失礼いたしましたっ!」 その素早さに目をぱちぱちとさせながら 「だから…その“千早様”っていうの止めてくれないかな… おばあちゃん、笑ってないで説明してくれない? 俺、夢でも見てるの?」 その時何処からか、ごぼりごぼりという不思議な音が聞こえてきた。 「え?何の音?…庭?庭に何かいる!」 ごぼーーーっ! 一際大きな音と共に、庭に面した窓ガラスが真っ暗闇に包まれた。 もう、驚くどころではない。 今度は何だ? ところが志津も赤羽も平然としている。 ということは…狙われているのではない。 窓ガラスにへばり付いた泥が、ぼとりぼとりと落ちていく。いつもピカピカに磨かれているガラスが、見るも無残に泥だらけになっていた。 志津の声が響き渡った。 「もう!誰がここを掃除すると思ってるの?土塊(つちくれ)の中から、小さな頭がひょこっと現れた。 「黄牛(おうぎゅう)っ!」 のそのそと這い出してきたのは、金髪で黄色い水干の男の子。 申し訳なさそうに上目遣いで、ちろんと志津を見つめている。 「…おばあちゃん…今度は、何?」 はあっ、とため息をついた志津は 「あれは土を操る“黄牛”。赤羽の覚醒につられて出てきちゃったのね。 …黄牛、こちらにいらっしゃい。」

ともだちにシェアしよう!