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見えないはずのモノ(6)

千早は固まっていた。 “あかばね”は『火』を操っていた。“おうぎゅう”は『土』だと言っている。 まさかとは思うが、まだ他に出てくるんじゃないだろうな? 火、土、とくれば、後は… 流石、伊達に志津の側で暮らしてはいない。 両親の事故後、二人で暮らすようになってから、彼女の目を盗んでは、志津が大切にしていた書斎の陰陽道や呪術関係の本を読み漁っていた。 自分に祖母のような力がないことは分かってはいたが、何か手助けができることがあれば、という思いでそうしていたのだった。 もし千早の勘が当たっているなら、『水』『金』『木』が何処かにいるはずだ。 いわゆる『五行』。自然界のバランスを調整する元素。 でも、それがどうして俺を守るんだ? 俺を守ってどうするつもりなんだ? 志津に尋ねようとしたその時、庭の木々がざわめき出した。 来た!『木』だっ! ゴーゴーと唸り声を上げ、幹や枝を絡ませながら天へ伸びていく。 その木々の中に一際目立つ緑色の何かが真っ直ぐに立っている。 あれか… そして土中から、白金色の何かが出てくるのが分かった。 『金』だ…残るは…『水』… バスルームからドアに水が大量に当たる音が聞こえてきた。 とうとう『水』までも… 「あらあら、みんな覚醒してきちゃったのね… とにかく、大人しくして頂戴!」 よく通る志津の声に、風も水の音も段々と小さくなっていった。 五行が揃った…今から一体、何が起こるというんだ? 千早は気が気でなかった。 これらのモノが、自分に何の関係があると言うのだろう。 祖母みたいな力の持ち主ならいざ知らず、自分のような何の能力のない、ただの人間が守られる理由って一体? どれだけ考えても分からない。 千早は、凛として横に立つ志津の顔を見つめるだけだった。

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