16 / 58

“主様”復活(3)

主は穏やかな目で志津を見ると、千早のこめかみに唇を寄せて言った。 「案ずるな。何があってもこの世を必ず守ってみせる。 千早も、志津殿も、五気(ごき)達も。 なぁ、千早。我らが揃えば怖いものなどないな?」 名を呼ばれた千早は、顔を上げふんわりと微笑んだ。 そしてまた、主の胸元に顔を埋めてしまった。 その様子を蕩けそうな顔をして眺めていた主は、ふと顔を上げると 「緑春!庭の木々を元通りに頼む。」 「はっ!」 「黒泉!黄牛!汚れたガラス窓と家の周囲を綺麗に。」 「「はっ!」」 「私は…暫し千早との逢瀬を楽しむとしよう。 志津殿、私が呼ぶまでは…」 「はい、承知しております。ごゆるりと。」 「みな、頼むぞ。」 そう言い残し、千早を抱いたまま2階へと消えていった。 間もなく2人の気配が消えた。恐らく主が結界を張ったのだろう。 いくら皆がその仲を承知しているとはいえ、千早は睦事(むつみごと)を聞かれたくはないはず。 ましてや長い間、主は生死の間を彷徨い、千早は記憶をなくして何度も転生を繰り返し、やっとこの時代に巡り会えたのだ。その思いが、その行為が、激しくならないわけがない。 2人の気持ちが落ち着くまで、好きにさせてあげよう。 志津は安堵のため息をつくと、部屋に残っていた赤羽と白響に呼び掛けた。 「この時代にはとても美味しいものが沢山あるのよ。 今から作るから手伝ってくれるかしら?」 声を掛けられて、2人は元の幼い姿に戻ると、尻尾をぴっと立てて志津の元に飛んできた。 戦闘態勢ではないからこの姿の方が負担がないのだ。 「志津様、『美味しいもの』って何ですか? 甘いの?塩っぱいの?」 「ふふっ、どちらもよ。みんな喜ぶと思うわ。」 期待に目を輝かせた2人を助手に、志津は腕まくりをして微笑んだ。

ともだちにシェアしよう!