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2人の出会い(1)

その頃…結界の中では… お互いから視線を離さず、服を脱がせ合う暁と千早がいた。 手元が十分に見えない分、その動きは覚束ないが、それがかえって熱を煽る元になる。 千早の心臓は、今にも飛び出しそうなくらいに音を立て跳ねていた。その音は、熱い眼差しで千早を見つめる暁にも十分届いていた。 いや、その暁も自分の鼓動を押さえきれずに、大きく息を吐いていた。 (ふっ…神と呼ばれるこの身でありながら、愛おしい者の前では、ただの男に成り下がるのだな…) 「千早…」 愛おし過ぎて、その名を呼ぶことすら憚られたが、我慢できずに愛し子の名を呼んだ。 目を潤ませ、ありったけの思いを込めて暁を見つめていた千早は、もう堪え切れない、という風に、切ない声で返す。 「暁様…」 まるで吸い寄せられるように、生まれたままの姿の2人は抱きしめ合った。 この匂い、この感触、この肌の温もり…熱い吐息に包まれて、千早の意識が遠のきそうになった。 忘れてはいない。過去世に愛し合った日々が鮮やかに蘇ってくる。 昼となく夜となく、褥は勿論のこと、花の咲き乱れる草原でも水辺の小屋の中でも… そうすることが当たり前のように愛し合っていた。 遡る記憶が鮮明になるにつれ、千早はこの上なく愛おしい伴侶との肌の触れ合いに酔いしれていった。 思いが溢れ過ぎて大粒の涙をこぼし、熱く優しい温もりを全身に感じながら、千早は初めて暁と出会った時の事を思い出していた。 そう、出会いは… 千早は龍神を祀る神社の出仕(しゅっし)であった。出仕とは簡単に言えば“見習い”のことである。 生まれ月も間もない頃、鳥居の下に捨てられていた千早は、白香(びゃっこう)という名の禰宜(ねぎ)に拾われた。 親も知らぬ兄弟も知らぬ、身寄りのない子供は『千早』と名付けられ『神さんの預かりもの』と白香の元で育てられた。

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