18 / 58

2人の出会い(2)

祀られていた龍神は、よく天候の願いを叶えてくれた。 お陰でその村一帯は、洪水も干ばつもなく、農作物は山のように採れ、村人達は満ち足りた生活を送っていた。 ところが、人間というのは欲深いもので、満たされると『もっと、もっと』といういやらしい考えを起こすものである。 その村人達も御多分に漏れず、そういう輩が出てきた。 『お供物を増やせば、もっと収穫ができるはず』 『龍神は人を喰らうらしいぞ。』 『人身御供を差し出せば、今度は財宝が降ってくるやもしれぬ』 何処からかまことしやかに流布していた噂に乗せられて、残念なことにその先頭に立ったのが、冷静な判断を下すべき立場の、その村の(おさ)であった。 村人のことは家族構成から付き合いの強弱まで全て把握している。 何処かの家の若い娘を生贄に差し出すのは、流石に長い付き合いの中では忍びなかった。 誰かを選んだ後、どんな批判を浴びるのか…それを考えただけで身震いする。 誰か、身寄りのない人間はいなかったか… そこで思い出したのが、捨て子の千早だった。 元々、龍神を祀る神社の者だ。 『神さんの預かりもの』だと育ってきたから、その神さんにお返しするだけだ。 そうだ、それがいい。 男だけれど、身体も小さく女のようだ。 どうせ食われてしまうのならどちらでも良いではないか。 白無垢を着せてしまえば分からぬ。 『神さんのところへ行くんだぞ』 と言いくるめればいいだけだ。 神社には相応の金銭を渡せばいい。厄介者が居なくなって、神社も清々するはずだ。 何とも身勝手な思い込みと理由で、千早を生贄に出すことが決まってしまった。

ともだちにシェアしよう!