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2人の出会い(4)

千早は白香の元に跪き、その手をそっと握ると 「白香様、生まれたばかりの私を拾って下さって本当にありがとうございました。 必ず、この命を賭してこの神社をこの村を守りますから。」 その言葉に白香は、千早を抱きしめ大粒の涙を流し大声で泣き出した。 「…すまぬ、すまぬ、千早…守ってやれず、すまぬ…すまぬ…」 「…私は大丈夫です。どうかお身体大切に…」 親と慕った人との最後の別れであった。 それから千早は、(みそぎ)と称して精進潔斎のために、ひとり奥の拝殿に籠った。 口にするのは、清らかな湧き水と、少しの粥のみ。 そして朝昼晩と日に三度、湧き出る湯に浸かり、身を清める。 日毎に、不思議と心は澄み落ち着いていった。 全ての執着を捨て、腹が決まるとこんな境地になるのだろうか。 せめて痛くないように、ひと思いに食われてしまいたいものだ。 それだけは龍神様にお願いしてみよう。 そんな事を考えながら、一日、一日、日を過ごし、とうとう祭の当日になった。 少し痩せた千早は、美しく化粧を施され白打掛を羽織ると、本当に美しい花嫁となった。 花嫁という名の生贄である。 「皆々様、どうぞお健やかに。」 膝を折り会釈をして別れの挨拶を済ませると、籠に揺られて山の頂きの少し広い場所に着いた。 籠を担いできた村人は、ひと言も発する事なく、逃げるようにして去って行ってしまった。少しばかりは良心の呵責があったのだろう。 いつも供物を飾る祭壇はなく、千早はその場にひとり残された。 この世に未練がない、と言うと、それは嘘になる。 「もう少し生きていたかったな…」 何気なく呟くと、あれ程晴れていた空が次第に黒い雲に覆われてきた。

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