21 / 58
2人の出会い(5)
龍神様だ…
千早は未だかつて龍神を見たことがない。
白香も、宮司すらも。ましてや村人の誰もがその姿を見た者はいない。
感じるのは雷鳴と風雨、それに供物がかき消されたようになくなる、という事実のみ。
遠くに轟いていた雷鳴と稲光が、次第に近付いてくる。
ゴロゴロゴロ ドォーーン
ピカッ
ドドーーーン
流石に千早も恐ろしくなってきた。
まさかあの雷に打たれて黒焦げになったところを…嫌だ。そんな命の無くなり方は嫌だ。
千早はガタガタと震えながら、それでも気丈に光る稲妻を見つめていた。
段々と音も光も大きくなり、もうダメだと目を瞑って頭を抱えたその時…
一際大きな音と、瞼を閉じていても眩しいと感じる光に包まれた。
そして、穏やかな声が聞こえた。
「お前は誰だ?何故ここにいる?
いつもの供物はどうしたのだ?」
恐る恐る顔を上げ目を開くと、そこには腰まで伸びた金色の髪の毛の、着物姿の美丈夫が立っていた。
目鼻立ちははっきりとしており、今までこんな美しい人にはお目にかかったことがなかった。
龍神様?こんなに美しいお方だったなんて。
声を出そうにも気だけが急いて、はくはくと息を吐くばかりで言葉にならない。
そんな千早の様子を見ていたその人は
「まさかとは思うが…お前は私に生贄として差し出されたのか?」
こくこくと頷くと、その人は大きなため息をついた。
「何故人間を供えるのだ?私はひとを食べない。
勘違いも甚だしいっ!」
苛立ちを含んだ声音に、千早は焦った。
龍神様を怒らせたら神社を村を守っていただけなくなる。
千早は必死だった。
やっとの思いで声を振り絞った。
ともだちにシェアしよう!