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2人の出会い(6)

千早は地面にひれ伏すと 「申し訳ございませんっ!大変なご無礼をお許し下さいませっ! 私は神社の出仕の千早でございますっ。 龍神様はひとをお好みだと聞き及び、私が選ばれました。 何卒、何卒、お怒りをお鎮め下さいますように、お願い申し上げます!」 「…だから、ひとは食わぬと申しておろうが… 村へ帰るが良い。」 「…でも…」 「帰れぬ理由でもあるのか? お前…女子(おなご)でないのか。男が何故そのような格好をしているのか。」 「私が村に帰ってしまうと、龍神様を怒らせ帰されたと…神社の皆に迷惑が掛かってしまいます。 今更帰るなんてできません! … 今以上に、村を豊かにしていただこうと…生贄を思い付いたのでございます。 私は幼い頃に神社に捨てられ、『神さんの預かり物』と育てられてきたので、『神さんにお返しする』と、このような格好に…村の若い娘を選ぶと後々に遺憾が残ります故…私は身寄りのない捨て子でございましたから。」 「事情は分かった。 だが、何度も言うが、私に生贄はいらぬ。 今まで通りに村の守護はしてやるから、お前は村に帰るがいい。」 「え…そんな…」 「帰ると不都合でも?」 「私の言うことは信じてもらえません! 命が惜しくて逃げてきたんだろう、と言われてしまいます! 何でもいたしますから、どうぞお側に置いて下さいませ!」 龍神は大きなため息をつくと呟いた。 「愚かよのう…頼むから村へ帰り『今後一切生贄はいらぬ』と伝えてはくれまいか。」 そして改めて千早の顔をじっと見つめた。 千早はどうしていいか分からず、戸惑いの表情を浮かべている。 初めて見た時から愛くるしいとは思っていたが、この者は何と見目麗しく、私の心を掴んで離さない。

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