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招かれざる者(3)

その男は生垣から決して入って来ようとはしなかった。 いや、できなかったのである。 「私はここの龍神の知り合いで『壱流(いちる)』という。 嫁を(めと)ったと聞いたので見にきたのだが… ほほぅ…これは…何と愛らしい…アイツが俺達から遠ざけるのは無理もない。 ん?その首にかかっているのは……まさか“分御霊(わけみたま)”!?…ほぅ…本気か…」 “嫁を娶った”!? 最後の方はひとり言のようで、聞き取れなかった。 何かこの玉のことを言っているような… その意味は分からないけれど、この玉を見られたくなくて、千早は両手でそれを隠すように胸に押し当て、ギュッと握りしめた。 “知り合い”と言うけれど、主様は『誰が来ても入れるな』『生垣から決して出るな』と仰っていた… それに、この男からは揶揄いの空気しか流れてこない。 千早は恐怖のあまりどうすればいいのか分からず、その場を動けずにいた。 「あははっ…そう警戒せずとも、何もしない。 アイツが結界なんぞ張るせいで、そなたの側で話をすることもできぬ。 さぁ、こちらに出てきてゆっくりと話をしようではないか。」 「…せっかくお越し下さったのに申し訳ございませんが…ここの(あるじ)が留守ですので、私が勝手な真似をするわけには参りません。 どうぞご容赦下さい。 よろしければ主がいる時にお越し下さいませ。」 そう一気に言い終えると、頭を深々と下げた。 「俺がこんなに頼んでいるのに言うことを聞けぬと言うのか?」 「いえ、ですから主がいる時に」 「顔に似合わず頑固な嫁よのう。 少しくらいから出てきたってアイツには分かりはしない。 早く出ておいで。」 「申し訳ございません。それは致しかねます。」 その言葉に苛立ちを募らせた壱流が、その正体を現し始めた。 人型から龍体に。 着物はあっという間に粉々に引き千切れ、ぴきぴきと音を立てて鱗が身体を覆っていく。 真っ黒な身体がうねり、とぐろを巻いていった。

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