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招かれざる者(4)

驚き過ぎて声も出ない。 千早は、ただ胸の玉を握りしめていた。 主様が龍体化する時は、神々しくて美しくて、燦々と降る光を感じて泣きそうなくらいに有難く愛おしく感じるのに、その時、この龍神からは恐怖や揶揄いしか伝わってこなかった。 おまけにあろうことか、渦巻く黒雲から一体、また一体と、同じ気を放つ龍が降りてくる。 千早は総毛立った。 壱流と名乗った龍神様の仲間なのだろうか。 きっとそうなんだろう。 捕まえられて食べられるのか、引き裂かれて空から捨てられるのか。 恐怖に苛まれて、千早はガタガタと震えていた。 すると、両手で包み込んだ玉から、優しい温もりを感じ始めた。 千早は不意に、ここにいれば大丈夫だ、と言われたことを思い出した。 そうだ、何を言われても何かされそうになっても、ここから動かなければいい。 万が一の時はこの玉を壊せとも言われた。 だが、主様を感じるこんな美しい玉を壊すなんて考えは千早にはなかった。 あの優しく逞しい主様を思い心落ち着いた千早は、ギュッと目を瞑り玉を握る両手に力を込めた。 その時だった。 握り込んだ両手の隙間から、(まばゆ)い光が放たれ、その光の一本一本が小さな金色の龍に変わり、まるで千早を守るようにその周りを取り囲んだ。 そして、懐かしくも愛おしい主様の声が聞こえてきた。 「壱流、我が嫁に何の用だ?」 せせら笑った壱流は 「何の用? はははっ。お前の嫁を見に来ただけだ。」 「私がいない隙を狙って来るとは…もう十分だろう。帰ってくれ。」 「『帰れ』だと? お前がいなくて退屈だろうから、代わりに我らが遊んでやろうと申しておるのだ。」 「いらぬ。余計なお世話だ。 もう一度言う。『帰れ』」

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