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招かれざる者(5)

住まいを取り囲む龍達の笑い声が響いた。 空気が震え、庭木がざわざわと大きな音を立てて靡いている。 それを気にする風もなく、主の低い声が聞こえた。 「壱流、もう一度だけ言う… 『帰れっ!!!』」 その声はびりびりと空を震わせ、取り巻きの龍達は恐れをなしたのか、一斉に空へと駆け上っていった。 その場に、たったひとり残された壱流は、身体を震わせながら、それでも精一杯の虚勢を張って言った。 「しっ、仕方ないから今日は引き上げてやる。 また来るからなっ!」 風を巻き上げ砂塵を撒き散らせ、壱流は仲間を追い掛けて去って行った。 息を潜めて成り行きを見守っていた千早は、壱流が去って行ったのを確認すると、ホッと大きく息を吐いた。全身の力が抜けて、その場にへなへなと座り込んでしまった。 指が硬直して、ガラス玉をしっかりと握ったままだった。 すると、小さな龍達が集まっていき、一瞬輝いた後、ぼんやりと人型の主が現れた。 「主様…」 「怖い思いをさせて済まなかった。 もう、大丈夫だから。」 こくこくと頷くと 「今からすぐに帰るから待っていてくれ。 よいか、絶対に生垣から外へ出るでないぞ。」 「はい!お待ちしております。」 主の身体は、花火が散るように金色の小さな粒となり弾けて消えた。 守ってくれた。 こんなちっぽけな人間の自分のことを。 心がふんわりと温かくなって、先程の恐怖も何処かへ消えて無くなってしまった。 握りしめていた両手をゆっくりと解くと、ガラス玉は受け取った時と同じく美しい光を放っていた。 不思議なことに、心に灯った慕わしい気持ちを『憧れ』とか『尊敬』という言葉で片付けたくなかった。 それに主様は自分のことを『我が嫁』と呼んだ。壱流達も『嫁』と… 嫁、って…のこと…?

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