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過去世の恋(1)

壱流達が去り、息をすることすら忘れていた千早はやっと大きく息を吐いた。 冷静になると、途端に胸がドキドキし始めた。顔が火照る。 嫁…よめ…ヨメ…その言葉の響きに戸惑っていた。 一体どういう意味なんだろう。 主様がお戻りになったら聞いてもいいのだろうか。 単に花嫁衣装を着ていたから、そう呼ぶのか。 それとも… ぐるぐる巡る思考は、千早の動きを止めてしまった。 ぼんやりと部屋に座ったままの千早は、外が薄暗くなっても部屋の明かりをつけることすら気付かなかった。 びゅう、と一陣の風が吹き、慌てたような主の声が近付いてくる。 「千早、千早っ!何処だ!?」 真っ暗な部屋の真ん中でぽつんと座り込んでいる千早に気付いた主は、明かりを灯し、慌てて千早の元に飛んできた。 そして千早をその胸に掻き抱くと 「千早、大丈夫か?千早、しっかりしろっ!」 身体を揺さぶられて、やっと正気に戻った千早は 「 あ…主様…お帰りなさいませ…あの…私は…」 「あぁ、済まない…お前をひとりにしてしまって…どんなにか心細かっただろう…もう大丈夫だ。 私が必ずお前を守るから…」 お日様と甘い花の匂いのする狩衣は、上等な絹織物に似ていたが、地上で暮らしていた千早の知っている布地ではなかった。何か特別な生糸でも使っているのだろうか。 薄ぼんやりと、取り留めのないことを考えながら、千早は逞しい胸に抱かれ、そっと目を閉じた。 早鐘のような心臓の鼓動は、千早のものか、それとも主のものか。 千早がくったりと身体を預けている。 主は千早の髪を掻き上げながら尋ねた。 「何もされなかったか?」 「…はい。『話をしよう、生垣の外へ出てこい』と何度も誘われましたが…主様が守って下さったので…大丈夫でした。 ありがとうございました。」 「…今後は誰か側に付けることにする。 千早にも私の仕事を手伝ってもらわねばならぬから、人外との繋がりも必要であろう。」

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