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戦いの記憶(2)

頼みの綱の暁達も、自己治癒では治せない命に関わるような酷い怪我を負っていた。 最早、自力では動くことのできない暁は、胸を引き裂かんばかりの忸怩(じくじ)たる思いを抱え、自分の無力さを呪っていた。 数少ない戦える神々が防戦一方の戦いを強いられていた。 誰もが敗戦とこの世の終わりを覚悟していた。 諦めのすすり泣きがこだまする中、敵の軍勢が間近に迫ってこようとする正にその時、千早が突然、最前線に躍り出た。 「千早っ!何をするっ!戻ってこいっ!」 掠れ声で必死に叫ぶ暁に、くるりと一度振り向いた千早は、満面の笑顔を残すと、あっという間に見えなくなった。手に何か持っているのか、それが一瞬きらりと光った。 「千早ぁーーーっ!!!」 千早を止めようと、我が身を必死で動かそうとするのに、その意思は伝わらず爪先ひとつも動かせない。 「千早ーーーーーっ!!!」 叫ぶ喉は切れ、ごぼりと血痰を吐き、目からは血の涙が流れ落ちる。 「誰か、誰かっ!千早を千早を止めてくれっ! 頼む、誰か、早くっ!!!」 そこにいる者達はなす術もなく、千早の行った先を見つめるばかり。 暁の声にならぬ声が響くのみ。 戦いの咆哮が轟く中、微かに何かの音が聞こえてきた。 …りん……しゃりん………しゃら… 次第にそれは大きくなってくる。 …りん、りりん…しゃらん、りりりりり…りん 「鈴の()だ…」 鈴の音の合間に、何か歌声のようなものも聞こえてくる。 その声は清らかに澄み、不思議なことにひと声耳にしただけで勇気が満ち、身体に力が漲ってくる。 鈴の音と歌声がはっきりと聞こえてくるのと真逆に、戦いの凄まじい咆哮が小さくなってきた。 大嵐と巻き上がる砂埃が治まっていくと、段々とその真ん中に薄ぼんやりと千早らしき姿が見えてきた。

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