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戦いの記憶(3)
一体何をしているのか。
そんなところにいたら殺されてしまう!
千早、千早っ!
暁は必死に、動かぬ身体に力を込め助けにいこうとするが自由にならない。
唯一動く霞む目を凝らし、その姿を追っていた。
…しゃらん、しゃらん…りりりりり…しゃらん
あーーめーぇーつーちーぃーのーー
かなーたーのーーうるわーしーきー
しゃらん、しゃらん、しゃらん…しゃらら…
そこには、鈴を鳴らし歌いながらゆったりと舞う、千早の姿があった。
千早の周りだけ、時が止まっているように見えた。
鈴の音が、歌声が…どこからか吹き出した風に乗り、遠くまで運ばれていく。
すると、あちこちで上がっていた黒い煙が、掻き消すように消えていった。
真っ赤な火の手が上がっていた場所には、集中して真っ黒い雨雲が湧き出し、やがて雨を降らせ鎮火していく。
一方、戦いを挑んでいた敵達の動きは鈍くなってきていた。
中には涙する者まで出てきて、戦意を消失させているようだった。
一匹、また一匹…次々と地に伏していく彼らの群れは真っ黒に地を埋め尽くしていった。
勢いを取り戻した味方の神々は、今が勝機と一斉に奮起し、敵衆を蹴散らしていく。
その様子を見ていた敵将は、その原因が千早にあると気付き、まっしぐらに千早目掛けて突進してきた。それは禍々しい気を纏った黒龍であった。
「千早ーーーっ!!!」
千早の歌声で取り戻した、残る一分の力を振り絞って、雄叫びを上げながら暁が動いた。
間に合うか!?
千早に向かってくる黒龍に、命を掛けて体当たりをするつもりだった。
その時、
千早の身体が五色に輝き始めた。
きらきら光るそれらは、千早から抜け出るとくるくると回りだし、ひとつずつぽんぽんと弾けて地面に落ちた。
そして、それらは段々と人型を取り…それぞれが美丈夫な男の姿に変わっていった。
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