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戦いの記憶(4)
流石の黒龍も、突然現れた見たこともない異形の者達に戸惑いを感じたのか、その動きを空中で止めた。
皆、固唾を飲んで見守っている。
5人は、まるで千早を守るかのようにその前に片膝をつき居並んで、空に浮かぶ黒龍を睨みつけていた。
髪の色と同じ水干を纏った彼らからは、千早の歌声と同じ澄み切った空気が流れていた。
千早は、側に降り立った暁の血塗れの首に抱きついた。
「暁様!あぁ、こんなに傷付いて…あの、この者達は…」
「私にも分からぬ。でも、千早の身体から生まれた光の者達だ。
きっと、我らを守ってくれるはず。」
その時、我に返った黒龍が、再び千早目掛けて突っ込んできた。
暁は瞬時にその背中に千早を隠し身構えた。
それより早く、5人が疾風 のごとく空へ舞い上がった。
見る間に、赤髪の男は炎に包まれ、黒龍へ突っ込んで行く。
白髪の男が胸に印を組むと、水晶の石柱のような物が現れた。そして、それらは尖った先を黒龍に向けて赤の男を追い抜いた。
黒髪の男が空に向かって手をかざし、緑の髪の男が大地に両手をついた。
清らかな雨が大地を潤し、真っ黒焦げの大地から、数え切れない数の木々や蔓草が一斉に黒龍に伸びていく。
金髪の男が大地に向かって手招きをすると、石つぶてが黒龍に向かって飛び立った。
暁も千早も、彼らの動きを見つめることしかできない。
木の枝や蔓草は黒龍の尻尾や胴体に纏わり付きその動きを封じ、石は強固な岩となりその頭部にへばり付いて表面を覆い、視界を遮断した。
それを引きちぎり振り払おうと、狂ったように暴れ回る黒龍の身体に、水晶の柱が突き刺さる。
ギャアーーーーーッ!!!
凄まじい咆哮に、大地が揺れる。
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