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戦いの記憶(6)

千早は口を(つぐ)んだ。 暁の言う事は正論で、この先、万が一この黒龍が蘇りでもしたら大変なことになる。 それは、千早も十分理解していた。 でも、この黒龍の瞳が気になってならない。 何処かで見た、懐かしい瞳の輝きは… あ…まさか、そんな事が…でも… 「…白香(びゃっこう)様?」 震える声で懐かしい育ての親の名前を呼んだ。 黒龍はびくりと身体を震わせた。 弱々しく光のなかった瞳が大きく開かれ、千早を見つめてきた。 「…昔…そのような名で呼ばれたような気がする…何故お前がその名を知っているのか?」 千早は暁の手をそっと外すと微笑み、動けぬ黒龍に駆け寄った。 「白香様!千早です!千早にございます! …白香様…あなたは主様の神社に仕えていた神職でした。 捨て子だった私を我が子のようにかわいがって育てて下さった…そのあなたがどうしてこのような姿に? まさか、まさか私が人身御供に選ばれたことが発端? 白香様、私は今、この主様の元で暮らして、とても幸せな日々を送っています。 本当に、とてもとても大切にされています。 人身御供として選ばれなかったら、この、今の幸せはなかったでしょう。 どうか、どうか元のお優しい白香様に戻って下さいませ! あなたが(あや)めた沢山の命は戻ってはきませんが、その償いを…どうか、どうか…」 「…ちは…や…千早? …千早…千早…何と…生きておったのか…そうか…そうか… なる程、以前にも増して元気な様子…そうか、大切にされているのか… 恨み辛みで鬼と化した私は、その念が強過ぎて悪龍となってしまったのだ… この魂はもう、元には戻らぬ。 どうせもう助からぬ。このままひと思いに…」 そう言って黒龍は、ごぼりと血の塊を吐いた。 半身から流れる血も止まることはない。

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